■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
118 考えることをやめない
人と会うと「出てますね。」「多いですよね。」「どうしたらいいんでしょうね。」という言葉ばかりで会話しています。コロナの感染者数が増加している今なんとなく不安が近づいてくる感覚がぬぐえませんが、感染予防をしっかりとりながら、健康で過ごすことを心がけています。
落ち着かないときは、自分が何をしたら楽しいかを知っておくのは大事なことです。私は本を読むことの他、文字を書くことも好きなので、きれいな色のペンを揃え、原稿用紙に文字を埋めることがいい気分転換になっています。
さて、今月の本の紹介はこちらから。
『ゴースト・ボーイズ ―ぼくが十二歳で死んだわけ―』
ジュエル・パーカー・ローズ 武富博子 訳 評論社
本が書かれるとき、そこには作者の強い伝えたい気持ちがあります。
この物語は12歳の少年ジェロームが、おもちゃの銃をもっていたことで、警官に誤解され射殺されてしまったところから始まります。
ジェロームの家族は日々の生活していくことで精一杯なため、ジェロームは自分が学校でいじめを受けていることなど相談できませんでした。そんな時、カルロスという転校生がやってきて、彼もまたいじめの対象になってしまい、身を守るためにおもちゃの銃で、いじめっこ達を追い払いました。そしてその銃をジェロームに貸してくれたのです。
死んでしまったジェロームですが、魂だけは家族や友人たちの近くに残りま
した。そして家族のまわりだけでなく、自分を射殺してしまった警官の娘とも
関わっていきます。家族はジェロームをみえないのに、警官の娘セアラはジェ
ロームがみえる設定です。
ジェローム以外にもゴーストが登場します。やはり同じように殺されてしまった子どもたちのゴーストです。
ゴーストになってしまった彼らは、どうして射殺されることになったのか。
ジェロームの事件では、警官の予備審問をとおしてみえてくるものがあります。
本書の冒頭に書かれている作者の言葉は、読後により深く心に刺さりました。
「わたしたちのだれもが、よりよく行動し、よりよい人間となり、よりよく生
きることができるという信念に、この本を捧げます。
ひとりひとりのすべての子どものために、わたしたちは最善のことをしなくてはならないのです。」
次にご紹介するのは、物語でも絵本でもなく、岩波少年文庫のあゆみが書かれた一冊です。
『岩波少年文庫のあゆみ 1950-2020』
帯に「初めての岩波少年文庫大全」とあるように、かゆいところに手が届くような丁寧な構成でつくられています。
表紙の鳥がたくさん飛んでいる、この鳥は1974年から1984年にかけて、岩波少年文庫の背に描かれたもの。画家、伊勢正義さんによるものです。
創刊以来、たびたび装丁が変化していった少年文庫では、こうした小さなマークにも変遷があるのでした。
第一章では岩波少年文庫のあゆみとして、創刊からの70年を振り返ります。
第二章では物語の扉として、少年文庫の代表作を15作選んでいます。
第三章では挿絵の魅力として、画家、作家、日本人画家が描く挿絵を紹介します。
第四章では少年文庫の柱である翻訳について。
第五章では昔も今もとして、瀬田貞二さん、脇明子さんらの文章が掲載されています。
その他コラムとして、表紙の模様、装丁に入っているマーク、キャッチコピー等々、様々な切り口で少年文庫が語られます。
総目録、関連年譜もついており、ひとつの資料本として貴重なものとなっていますし、読む人それぞれにうれしい発見がありそうです。
今回読んでいて、あ!と思ったのは、子どもの頃に好きだった『ヴィーチャと学校友だち』(ノーソフ作)が少年文庫の創刊10年目にはラインナップに入っていたことです。私が読んだものは少年文庫のものではなかったのですが、この物語は大好きで繰り返し読んでいました。
会津若松出身の画家、長沢節さんの挿絵も、第三章で紹介されているのも、嬉しいことでした。軽やかで動きのある線画は本当にすてきです。
20年前には『なつかしい本の記憶』として岩波少年文庫の50年が編集部によって少年文庫にまとめられていますが、この時はもっとシンプルな構成で、対談、講演、エッセイの3本柱と、少年文庫の書目一覧でした。
この時に50年間の人気ベスト10のタイトルのみ掲載されていますが、70年目の代表作15作には10作全てが入っていなかったのも興味深かったです。
70年のあゆみをまとめたのは、若菜晃子さん。「街と山のあいだ」をテーマにした『murren』(uにウムラウト記号付)を編集、発行してVol.22で岩波少年文庫を特集しています。もちろん、私も購入して読みました。すばらしかった
です。
若菜さんが編著された『石井桃子のことば』(新潮社とんぼの本)もおすすめです。こちらも石井桃子さんの全著作リストが書影入りでまとめられ、豊かな仕事がたっぷり入っていて読みごたえがあります。
さて、少年文庫に戻りますと、最新刊『火の鳥ときつねのリシカ チェコの
昔話』(木村有子 編訳 出久根育 絵)も、おもしろい話が24篇おさめられ、
短い話もあるので、夜眠る前でも気軽に読めます。子どもに読み聞かせするの
にもぴったり。
わが家の子どもたちは、少年文庫のとりわけ昔話や詩集が大好きで、成長してからも自分たちの本棚に入れていました。
とはいえ、昔話は年代広く楽しめる話です。
ぜひ読んでみてください。
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