『寺田寅彦と物理学』他


■「いろんなひとに届けたい こどもの本」

121 人生

 立秋を過ぎました。
 まだまだ暑いですが、すこしだけ過ごしやすく感じる時も出てきました。
 とはいえ、先日打ち合わせで1時間半くらい水分をとらないでいたら、頭痛 がしてきて、急いでたっぷり水分をとり、痛みが和らぎました。
 水分補給の大事さをあらためて感じた次第です。

 さて今回最初にご紹介するのは、伝記です。

 『寺田寅彦と物理学』 池内 了 著  玉川大学出版部

 日本の伝記 知のパイオニアシリーズ第2回配本本。
 (ちなみに一冊目は『岡倉天心と思想』(大久保喬樹著)です。)

 本書のおもしろいところは、故人となっている寺田寅彦氏になりかわって、著者の池内氏が語るところです。なので主語は「わたし」。

 物理学のパイオニアと知られていますが、「物理学」のみならず、関東大震災が起きたときは、その後の被害状況を詳しく調べ、人災に関連する問題点が多かったことを指摘するなど、人々の実際の生活に有益なことを調べ上げる仕事もされています。

 また文学に造形が深いばかりでなく、音楽(バイオリンやチェロを弾く)や、油絵を描くなど、とにかく多才な人物です。

 いったいどのような人生をおくられたのか、大人の方が興味をもつかもしれませんが、うれしいことに本書は小学高学年から中学生向けを想定して書かれているので送り仮名もつけられ、読者層を広くしています。

 大人目線で読んで興味をもったのは「厄年」です。
 神社に行くと、大きく書かれている「厄年」の年齢。大人のみならず、子どもにもあてはまる年代があります。

 一般的にいいつたえられてきた「厄年」は人生の青年期、中年期、老年期の3つの時期にありますが、科学的根拠はないので、たんなる迷信といえば迷信かもとしつつ、生物の成長になぞらえ、老年期については若者から中年への人間の変態の時期という可能性があり、そのころにいだく精神的疲労と結びついているのではと推測しています。
 たしかに、人間の成長期それぞれの年回りに「厄年」をおいて「人びとの生きざまにたいする警告をあたえている」のかもしれません。

「関東大震災」のくだりは、ぜひ読んでほしいところです。
「天災は忘れた頃にやってくる」というのは、「経験の記憶」が弱くなると、人間は同じことを繰り返してしまう。それは「広い意味での”学問”が足りないため」、あるいは「その日暮らしの料簡で、それを気に掛けないため」ではないかと問いかけます。
 
 子どもの本棚に伝記本があるのはいいものです。人生の先輩について書かれたものを読むと、直接会っていなくても本をとおして得られるものがあるはずです。

 寺田寅彦氏に興味をもった大人の方には雑誌「窮理」をおすすめします。
 https://kyuurisha.com/about_kyuuri/

 物理系の科学者が中心になって書いた随筆や評論、歴史譚などを集めた、読 み物を主とした雑誌(年間不定期刊行)で、Kindleでも読むことができます。 (Kindle Unlimited対象本 2021年8月現在)

 さぁ、次は愉快な本です
 『森の王さま キング・クー』
          アダム・ストーワー 作 宮坂宏美訳 小峰書店

 イラストたっぷりの読み物で、途中すこしマンガ形式の箇所もあり、手にとると一気読みするおもしろさ満載です。

 翻訳された宮坂さんは、児童書におけるイラストたっぷり本の第一人者といっても過言ではありません。宮坂さんが訳された小峰書店さんから出ているジュディ・モードとなかまたちシリーズも、ストーリーの骨格がしっかりしていて、イラストがキュート!春夏秋冬、季節を問わずおすすめです。

 と、キング・クーに話を戻します。

 表紙を飾っているのが主人公のキング・クーなのですが、男の子にみえませんか? ところが女の子なんです。それもひげもじゃの。
 ひげもじゃの女の子がキングの名前で活躍するってそれだけでおもしろそうです。

 いじめられっ子のベンが、ある日偶然に森の中にさまよいこみ、キング・クーに出会います。ふたりは協力していじめっ子に立ち向かうのですが、臭い匂いのするものを中心に、派手なたちまわりに目が離せません。とにかく匂ってきそうな攻撃力は、小さい子どもたちが好きそうです。

 小学校低学年から楽しめる、心がすかっとする読み物、ぜひぜひ。

 宇宙に民間人もお金さえあれば行けるようになってきていますが、この絵本は、お金はない宇宙好きなボーイ・ミーツ・ガール絵本です。

 『おなじ星をみあげて』
 ジャック・ゴールドステイン 作・絵 辻仁成 訳 
                      発行 山烋・春陽堂書店

 3人の妹がいるヤコブは、毎日妹たちを公園につれていき、自分は好きな本読みに熱中しています。食料品店を営む父親は、ヤコブに店を継いでもらいたいと願っていますが、ヤコブの夢は宇宙飛行士。母親はヤコブの幸せを何より願っていますが、妹たちの世話をしている時は月の上にいるみたいにぼうっとして欲しくないと思っています。

 いつものように妹たちと公園にいたヤコブは、赤いサンダルをはいたきれいな足の女の子に出会うのです。

 ふたりは同じ本を公園で読んでいました、そう、宇宙の本です。

 好きなものが同じということもあり、すぐさま仲よくなるふたり。
 さて、彼らの未来は……。

 繊細なペン画にのびやかな色合いの水彩がとてもきれいです。
 ヤコブの宇宙に対するふかーい愛情、赤いサンダルのアイシャに惹かれていくところもニヤニヤしてしまいます。

 空は世界につながっていて、夜空の星もそう。
 近くにいない大事な人も同じ空の下にいるって考えるのは、なんだかうれしいことですね。

 次ご紹介するのも絵本です。

 『ねえ、きいてみて みんなそれぞれちがうから』
 ソニア・ソトマイヨール 文
 ラファエル・ロペス 絵
 すぎもとえみ 訳

 世の中は少しずつ変わっていきます。
 悪いことも、良くあろうと変化していきます。

 生きている時間が短い小さい人にとっては、世界もその分小さく、知らないことだらけです。そんな小さい人たちに「ねえ、きいてみて」とこの絵本は語りかけてくれます。

 ソニアは友だちらと庭をつくろうとしています。
 いろんな植物をうえながら、人もそれぞれ違うことを伝えます。

 ソニアは糖尿病で、一日に数回、血糖値を自分で計り、自分でインスリンを注射しなくてはいけません。
 ぜんそくのラファエルは、息が苦しくなると吸入器で薬を吸います。
 
 自分でそうしようと思っているわけではないのに、体がかってに動いたり、声が出たりする、トゥレット症候群なのはジュリア。

 いろんな人が、それぞれの違いを薬などに助けてもらい暮らしています。
 初めて会う人が、たとえば自分で注射するなどしていると、その姿に不思議に思うことがあるかもしれません。自分のことを説明するのがいやな人もいるでしょう。

 でもこの絵本は、知ることが大事ではと伝えています。
 そこで「ねえ、きいてみて」なのです。

 まずは知ることが理解の一歩。

 長くなってきたのでここからは駆け足に紹介していきます。

 『ねえ、きいてみて』の絵本を翻訳された杉本さんは、あかね書房から刊行されているシロクマシリーズも訳されています。最新作であり最終刊『シロクマが嵐をこえてきた!』(マリア・ファラー作 ダニエル・リエリー絵)は夏休みのできごと。今回のミスターP(シロクマ)は誰と出会うでしょう。どのお話でもミスターPの存在は子どもを守ってつよくしてくれます。

 『サヨナラの前に、ギズモにさせてあげたい9のこと』(ベン・デイヴィス
作 杉田七重訳 小学館)は、13歳のジョージが愛犬の高齢ギズモ(犬年齢14
歳、人間でいえば78歳)にサヨナラする前に、最高の一生を送らせてあげたい
とリストをつくります。リストにのせたことを実現させるために、ジョージは
できることを精一杯します。両親の離婚、親友が自分から離れていったことな
ど、ジョージのまわりは、ギズモ以外でもいろいろ問題がおきています。けれ
ど大好きなギズモのために動くジョージのすてきなこと! 登場人物みんな深
く描かれていて、どの人のことも心に残ります。

 岩波書店の新刊『くしゃみおじさん』(オルガ・カブラル作 小宮由訳 山
村浩二訳)は絵本と物語の中間くらいの本。本の形状的には物語ですが、ユー
モラスな絵が全ページたっぷり入っているので小学校低学年くらいから楽しめ
ます。
 物語はくしゃみおじさんが、特大のくしゃみをして出会う動物ばかりか人間
の子どもたちにも迷惑なことを起こすというもの。くしゃみおじさんのくしゃ
み、どんな力があるのでしょう。

 最後はグラフィック・ノベル『THIS ONE SUMMER』(マリコ・タマキ作 ジ
リアン・タマキ絵 三辺律子訳 岩波書店)です。
 夏休みにローズは毎年両親と湖岸の別荘地で過ごします。両親の仲はあることでぎくしゃくしていますが、別荘地で毎年一緒に夏を過ごす、一歳半年下のウィンディと過ごすことで、なんとかいつもの楽しさが戻ってきます。
 思春期に入ったローズの繊細な気持ちが、映画をみているかのようなカットで語られていき、ひきこまれました。
 最初にご紹介した寺田寅彦氏の本の中で、生物の成長になぞらえて、人間の生涯にも昆虫の変態のような不連続的な生理的変化があるのではと書かれています。まさにローズも少女から大人になる独特な時間の中にいます。
 寺田氏は漫画についても「漫画は科学と同じく「真」をえがく、あるいは漫画には科学と同じく「普遍的要素」が見いだせなければならないといっています。グラフィック・ノベルもまた「真」を描き出しているからこそ、注目されてきているのかもしれません。
 思春期の説明しにくい、なにもかもがごった煮でめんどくさいような気持ちが視覚化されています。ご一読ください。

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(林さかな)
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