『星天の兄弟』


122 大人の役割をまっとうする

 本を夢中になって読むのはいい時間を過ごしている事。
 本を読むのも体力気力が必要なので、加齢に伴い以前より夢中になることが少なくなってきているので、読んでいる間中ドキドキして展開に胸躍らせる時間は心からいいものでした。

『星天の兄弟』 菅野雪虫 東京創元社

 書き下ろしの長篇ファンタジー作品。
 2005年に『ソニンと燕になった王子』で第46回講談社児童文学新人賞を受賞、翌年に『天山の巫女ソニン1 黄金の燕』と改題して刊行。それ以来、ずっと注目している作家の新作です。

 アジアを思わせるある王国の小さな村に、学者家族が住んでいました。父親は大変高潔な人物で、権力からも距離をもつことを意識し、慎ましく生活を送っていました。最初に結婚した妻は病気で早くに亡くなり、息子と2人で暮らしていたのですが、いい縁があり、再婚した妻との間にも男の子が生まれ、2人の息子と4人で暮らしていました。
 ところが、気をつけていたにも関わらず、政治のいざこざに否応なく巻き込まれてしまい、無実の罪で父親は牢に繋がれてしまいます。小さな村ゆえ、本当はどうだったのかという事実よりも、罪人になったということが大きなこととなり、罪人の家族となった子どもたちは、ずっと後ろ指をさされることになります。

 2人の息子、海石(ヘソク)と海蓮(ヘリョン)は6歳違い。賢く華のある2人はとても仲の良い兄弟でしたが、父親が罪人となってしまってから、その関係性が変わっていきます。

 一行一行で物語がぐいぐい動き、ヘソクとヘリョンが魅力的に成長していく
まぶしさと共に、父親はどうなるのだろうという不穏が並行し、先の展開に、
目を離せません。

 学者だった父親は塾を開いていて、たくさんの子弟が訪れ賑やかにすごしていたのですが、牢に入ってしまうと、それまで仲よくしていた近所の人たちが手のひらを返すような態度をとる様は、読んでいて辛くなります。

 兄のヘソクは当時十二歳。弟や母を助けていこうと必死です。

 誰かひとりだけが背負ってしまうのは重すぎても、家族の中で長男という立場のヘソクは、自分にできることを強く意識します。けれど、その重圧は十二歳の子どもが耐え続けるのは難しすぎました。

 ヤングケアラーという言葉を思い出しました。名称がつくことで、ここ最近新聞などでもとりあげられるようになり、本来は大人がする仕事や家事を、担う大人が不在故、子どもが背負っている現状です。ヘソクもそうなっていました。

 心をやられないためには、家族から離れることも大事。賢いヘソクがどこまで見越していたのか、彼のとる行動は後になればなるほど納得できます。

 そしてヘリョン。
 ヘリョンはヘソク以上に人間力を感じます。もちろん比較する必要はないのですが、2人だけの兄弟が6歳違いという年齢差で、それぞれの見えるものが違うということろも、作者は細かく描きます。

 兄は家に降ってきた厄災を受け止め母親と弟を支え、後に様々な尽力で家に戻ることができた父親も受け止めます。けれど、ヘリョンは父親を丸ごと受け止めることはできませんでした。知的で周りに慕われていた時の父親を、ヘリョンは知らないからです。厳しい牢での生活ですっかり老いてしまい、心も疲れさせた父親に、昔の面影はありません。

 兄弟2人とも、親思いで賢く見目麗しい。けれど、無理な我慢はし続けなか
った。ある意味それは清々しく、それぞれに自分の進む道を切り開いていくと
ころは、読んでいるものの気持ちも鼓舞させます。

 苦しい展開になっても向日性を失わないのが2人の強さ。

 辛く苦しいことを理由に闇に向かわせない
 人間のもつ屈託のなさを丁寧に描きます。

 うーん、それにしても1冊でまとめるにはもったいない話です。
 本当は3人きょうだいにしたかったけれど、ページ数の関係で2人にしたと菅野さんがSNSで書かれていましたが、3人の話も読んでみたかった。

 あとこの物語の魅力は大人がかっこいいこと。(嫌な大人もいますが)
 私の推しは愛嬌(エギョン)。父親の教え子で成功した商人である斗靖(ドジョン)の家の使用人だったエギョンは、父親を助けて欲しいと願いに来た、ヘソクとヘリョンに好感をもち、後に、ドギョン家を出て、ヘソクたちの家に家政婦としてやってくるのです。それ以来、エギョンは2人をずっと支え続けます。

 ヘリョンがあることを成し遂げるために、危険な戦いに関わることになった時もエギョンは側で支えてくれます。いよいよ厳しい時を迎えるとき、ヘリョンはエギョンに感謝の気持ちを伝えると、エギョンの返す言葉がこれです。

「そんなの、大人が子どもにする当たり前のことですよ。当たり前のことに、
お礼はいりません」

 そしてエギョンは自分の意志で戦いのある危険な場所に来たのだと、誰かに命令されたわけでないのだといいます。

(自分で生きる場所も死ぬ場所も選べるなんて幸せな女、そういませんよ)

 そう心でいうエギョン。

 自分ではどうすることもない運命を引き受けて生きるヘソクとヘリョンと共にエギョン他、かっこいい大人が何人も出てくるファンタジー。

 たくさんの人に読まれる物語になりますように!

 続編も希望します。

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(林さかな)
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『寺田寅彦と物理学』他


■「いろんなひとに届けたい こどもの本」

121 人生

 立秋を過ぎました。
 まだまだ暑いですが、すこしだけ過ごしやすく感じる時も出てきました。
 とはいえ、先日打ち合わせで1時間半くらい水分をとらないでいたら、頭痛 がしてきて、急いでたっぷり水分をとり、痛みが和らぎました。
 水分補給の大事さをあらためて感じた次第です。

 さて今回最初にご紹介するのは、伝記です。

 『寺田寅彦と物理学』 池内 了 著  玉川大学出版部

 日本の伝記 知のパイオニアシリーズ第2回配本本。
 (ちなみに一冊目は『岡倉天心と思想』(大久保喬樹著)です。)

 本書のおもしろいところは、故人となっている寺田寅彦氏になりかわって、著者の池内氏が語るところです。なので主語は「わたし」。

 物理学のパイオニアと知られていますが、「物理学」のみならず、関東大震災が起きたときは、その後の被害状況を詳しく調べ、人災に関連する問題点が多かったことを指摘するなど、人々の実際の生活に有益なことを調べ上げる仕事もされています。

 また文学に造形が深いばかりでなく、音楽(バイオリンやチェロを弾く)や、油絵を描くなど、とにかく多才な人物です。

 いったいどのような人生をおくられたのか、大人の方が興味をもつかもしれませんが、うれしいことに本書は小学高学年から中学生向けを想定して書かれているので送り仮名もつけられ、読者層を広くしています。

 大人目線で読んで興味をもったのは「厄年」です。
 神社に行くと、大きく書かれている「厄年」の年齢。大人のみならず、子どもにもあてはまる年代があります。

 一般的にいいつたえられてきた「厄年」は人生の青年期、中年期、老年期の3つの時期にありますが、科学的根拠はないので、たんなる迷信といえば迷信かもとしつつ、生物の成長になぞらえ、老年期については若者から中年への人間の変態の時期という可能性があり、そのころにいだく精神的疲労と結びついているのではと推測しています。
 たしかに、人間の成長期それぞれの年回りに「厄年」をおいて「人びとの生きざまにたいする警告をあたえている」のかもしれません。

「関東大震災」のくだりは、ぜひ読んでほしいところです。
「天災は忘れた頃にやってくる」というのは、「経験の記憶」が弱くなると、人間は同じことを繰り返してしまう。それは「広い意味での”学問”が足りないため」、あるいは「その日暮らしの料簡で、それを気に掛けないため」ではないかと問いかけます。
 
 子どもの本棚に伝記本があるのはいいものです。人生の先輩について書かれたものを読むと、直接会っていなくても本をとおして得られるものがあるはずです。

 寺田寅彦氏に興味をもった大人の方には雑誌「窮理」をおすすめします。
 https://kyuurisha.com/about_kyuuri/

 物理系の科学者が中心になって書いた随筆や評論、歴史譚などを集めた、読 み物を主とした雑誌(年間不定期刊行)で、Kindleでも読むことができます。 (Kindle Unlimited対象本 2021年8月現在)

 さぁ、次は愉快な本です
 『森の王さま キング・クー』
          アダム・ストーワー 作 宮坂宏美訳 小峰書店

 イラストたっぷりの読み物で、途中すこしマンガ形式の箇所もあり、手にとると一気読みするおもしろさ満載です。

 翻訳された宮坂さんは、児童書におけるイラストたっぷり本の第一人者といっても過言ではありません。宮坂さんが訳された小峰書店さんから出ているジュディ・モードとなかまたちシリーズも、ストーリーの骨格がしっかりしていて、イラストがキュート!春夏秋冬、季節を問わずおすすめです。

 と、キング・クーに話を戻します。

 表紙を飾っているのが主人公のキング・クーなのですが、男の子にみえませんか? ところが女の子なんです。それもひげもじゃの。
 ひげもじゃの女の子がキングの名前で活躍するってそれだけでおもしろそうです。

 いじめられっ子のベンが、ある日偶然に森の中にさまよいこみ、キング・クーに出会います。ふたりは協力していじめっ子に立ち向かうのですが、臭い匂いのするものを中心に、派手なたちまわりに目が離せません。とにかく匂ってきそうな攻撃力は、小さい子どもたちが好きそうです。

 小学校低学年から楽しめる、心がすかっとする読み物、ぜひぜひ。

 宇宙に民間人もお金さえあれば行けるようになってきていますが、この絵本は、お金はない宇宙好きなボーイ・ミーツ・ガール絵本です。

 『おなじ星をみあげて』
 ジャック・ゴールドステイン 作・絵 辻仁成 訳 
                      発行 山烋・春陽堂書店

 3人の妹がいるヤコブは、毎日妹たちを公園につれていき、自分は好きな本読みに熱中しています。食料品店を営む父親は、ヤコブに店を継いでもらいたいと願っていますが、ヤコブの夢は宇宙飛行士。母親はヤコブの幸せを何より願っていますが、妹たちの世話をしている時は月の上にいるみたいにぼうっとして欲しくないと思っています。

 いつものように妹たちと公園にいたヤコブは、赤いサンダルをはいたきれいな足の女の子に出会うのです。

 ふたりは同じ本を公園で読んでいました、そう、宇宙の本です。

 好きなものが同じということもあり、すぐさま仲よくなるふたり。
 さて、彼らの未来は……。

 繊細なペン画にのびやかな色合いの水彩がとてもきれいです。
 ヤコブの宇宙に対するふかーい愛情、赤いサンダルのアイシャに惹かれていくところもニヤニヤしてしまいます。

 空は世界につながっていて、夜空の星もそう。
 近くにいない大事な人も同じ空の下にいるって考えるのは、なんだかうれしいことですね。

 次ご紹介するのも絵本です。

 『ねえ、きいてみて みんなそれぞれちがうから』
 ソニア・ソトマイヨール 文
 ラファエル・ロペス 絵
 すぎもとえみ 訳

 世の中は少しずつ変わっていきます。
 悪いことも、良くあろうと変化していきます。

 生きている時間が短い小さい人にとっては、世界もその分小さく、知らないことだらけです。そんな小さい人たちに「ねえ、きいてみて」とこの絵本は語りかけてくれます。

 ソニアは友だちらと庭をつくろうとしています。
 いろんな植物をうえながら、人もそれぞれ違うことを伝えます。

 ソニアは糖尿病で、一日に数回、血糖値を自分で計り、自分でインスリンを注射しなくてはいけません。
 ぜんそくのラファエルは、息が苦しくなると吸入器で薬を吸います。
 
 自分でそうしようと思っているわけではないのに、体がかってに動いたり、声が出たりする、トゥレット症候群なのはジュリア。

 いろんな人が、それぞれの違いを薬などに助けてもらい暮らしています。
 初めて会う人が、たとえば自分で注射するなどしていると、その姿に不思議に思うことがあるかもしれません。自分のことを説明するのがいやな人もいるでしょう。

 でもこの絵本は、知ることが大事ではと伝えています。
 そこで「ねえ、きいてみて」なのです。

 まずは知ることが理解の一歩。

 長くなってきたのでここからは駆け足に紹介していきます。

 『ねえ、きいてみて』の絵本を翻訳された杉本さんは、あかね書房から刊行されているシロクマシリーズも訳されています。最新作であり最終刊『シロクマが嵐をこえてきた!』(マリア・ファラー作 ダニエル・リエリー絵)は夏休みのできごと。今回のミスターP(シロクマ)は誰と出会うでしょう。どのお話でもミスターPの存在は子どもを守ってつよくしてくれます。

 『サヨナラの前に、ギズモにさせてあげたい9のこと』(ベン・デイヴィス
作 杉田七重訳 小学館)は、13歳のジョージが愛犬の高齢ギズモ(犬年齢14
歳、人間でいえば78歳)にサヨナラする前に、最高の一生を送らせてあげたい
とリストをつくります。リストにのせたことを実現させるために、ジョージは
できることを精一杯します。両親の離婚、親友が自分から離れていったことな
ど、ジョージのまわりは、ギズモ以外でもいろいろ問題がおきています。けれ
ど大好きなギズモのために動くジョージのすてきなこと! 登場人物みんな深
く描かれていて、どの人のことも心に残ります。

 岩波書店の新刊『くしゃみおじさん』(オルガ・カブラル作 小宮由訳 山
村浩二訳)は絵本と物語の中間くらいの本。本の形状的には物語ですが、ユー
モラスな絵が全ページたっぷり入っているので小学校低学年くらいから楽しめ
ます。
 物語はくしゃみおじさんが、特大のくしゃみをして出会う動物ばかりか人間
の子どもたちにも迷惑なことを起こすというもの。くしゃみおじさんのくしゃ
み、どんな力があるのでしょう。

 最後はグラフィック・ノベル『THIS ONE SUMMER』(マリコ・タマキ作 ジ
リアン・タマキ絵 三辺律子訳 岩波書店)です。
 夏休みにローズは毎年両親と湖岸の別荘地で過ごします。両親の仲はあることでぎくしゃくしていますが、別荘地で毎年一緒に夏を過ごす、一歳半年下のウィンディと過ごすことで、なんとかいつもの楽しさが戻ってきます。
 思春期に入ったローズの繊細な気持ちが、映画をみているかのようなカットで語られていき、ひきこまれました。
 最初にご紹介した寺田寅彦氏の本の中で、生物の成長になぞらえて、人間の生涯にも昆虫の変態のような不連続的な生理的変化があるのではと書かれています。まさにローズも少女から大人になる独特な時間の中にいます。
 寺田氏は漫画についても「漫画は科学と同じく「真」をえがく、あるいは漫画には科学と同じく「普遍的要素」が見いだせなければならないといっています。グラフィック・ノベルもまた「真」を描き出しているからこそ、注目されてきているのかもしれません。
 思春期の説明しにくい、なにもかもがごった煮でめんどくさいような気持ちが視覚化されています。ご一読ください。

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ガラスの犬

『ガラスの犬』他


■「いろんなひとに届けたい こどもの本」

120 楽しみの深掘り

 土石流による被害で亡くなられた方に心から哀悼の意を表します。
 そして、避難されている方がすこしでも早く心おちつく生活に戻れることを祈ります。

 最初にご紹介するのは、心が軽やかになるとってもおもしろい短編集です。
「オズの魔法使い」シリーズを書いたフランク・ボームが書いたもので、本国ではオズに次ぐ人気本なのもうなずけます。
 あまりのおもしろさに、何度も声に出して笑ってしまったほど。
 
『ガラスの犬』
 フランク・ボーム 作 津森優子訳 坂口友佳子 絵 岩波少年文庫

 8つの短編がおさめまれ、そのどれもに、オズのように想像もつかない突拍子もない設定がまぎこれみ、奇想天外な展開のあとはもっともらしい教訓でしめくくられるのですが、この教訓がまた笑いを誘います。

 私のお気に入りは表題作。
 腕ききの魔術師が隣に住むガラス職人に、とある理由から桃色のガラスの犬を発注します。お金のない魔術師は物々交換として魔法の薬で支払いました。
 ガラス職人はその魔法の薬を条件に、町一番のお嬢様に結婚を申込みます。
魔法の薬で重い病気をなおしてもらったお嬢様ですが、ガラス職人の見た目が気に入らず、あることを要求し……。

 短い話ですが、最後の展開には唖然。
 嫌みのない毒気に笑ってしまい、クセになりそうです。
 ガラス職人とお嬢様については読んだ人と感想を語り合いたい。
 ぜひ。

 次は自然科学の恰好の入門写真絵本。
 生物専門書、自然科学書を出版している文一総合出版から初の児童書。
 出版社の特色が活かされた「森の小さな生きもの紀行シリーズ」です。

 『あなたのあしもと コケの森』
 鵜沢美穂子 文 荒井文彦 写真 (森の小さな生きもの紀行(3))

 最近、湿原や少し標高のあるところを歩いているので、コケをあちらこちらで見かけます。わが家の日陰にもあるくらい、身近なコケ。それだけよくみるものなのでどんなものなのか知りたくなります。

 見開きからたくさんの情報が書かれ、コケの体のつくりと名前がイラストでわかりやすく整理されています。

 コケと名前のついているものでも、コケではないものがあるということも、わかります。
 コケは1)陸上植物、2)胞子で増える、3)維管束をもたないという3つの条件でそうでない生きものと分けられます。

 約4億年前に地球に生まれたコケ。
 現在では世界に約2万種、日本に約1,900種が知られているそうです。

 豊富な写真を眺めていると、コケワールドの奥深さにハマっていきます。

 子どもから大人までコケについて知る入門書にはぴったりな本書、巻末には索引もつけられ、レファレンスとして使いやすいつくりになっています。

 シリーズはこの他に、きのこ、粘菌と全部で3冊刊行されています。
『森の小さな生きもの紀行シリーズ』に登場する生きものは、花をつけずに胞子で増えていくものです。
 トレッキングする大人にもおすすめのシリーズです。

 月刊たくさんのふしぎ(福音館書店)の7月号もおもしろかったです。

 「釣って食べて調べる深海魚」
 平坂 寛 文 キッチンミノル 写真 長嶋祐成 絵

 海面から200メートルより深い海、それが深海。
 太陽の光が届かない深海に生きている魚について調べたのが本書です。

 日本は世界で一番「深海に近い国」だということをご存知でしょうか。
 深海まで数日かかる国もあるなかで、岸から数十分ほど船を走らせれば深海にたどりつけるのが日本なのです。
 
 読んでいくと知らないことばかり。

 ノドグロは美味しい魚で私も好きなのですが、この魚は名前のとおり、ノドの奥が真っ黒だということは初めて知りました。
 ノドグロらのエサとなる深海生物にはホタルイカやサクラエビは光をはなつものが多いが、これだと光で自分らの存在を他に知らしめてしまう。大きな魚に食べられないよう、ノドやお腹の内側を黒ぬりにすることで、光をさえぎり自分の身を守っているのだという。なるほど。

 深海魚はおどろおどろしい顔をしているものも多いけれど、こうやって生態を知っていくと、特徴的な顔つきの理由もわかりおもしろいです。

 月刊誌は書店で1冊から注文することも可能です。
 ぜひ手にとってみてください。

 最後にご紹介するのも絵本です。

 『ビアトリクス・ポターの物語 
  キノコの研究からピーターラビットの世界へ』西村書店
 リンゼイ・H・メトカーフ 文 ジュニ・ウー 絵 長友恵子 訳

 今年2021年はビアトリクス・ポター生誕155周年。
 ピーター・ラビットの絵本はもちろんのこと、作者であるポターについても絵本や伝記などでその生い立ちは知られるようになってきています。

 本書では、キノコにも魅せられというところに光をあてて描かれています。

 するどい観察眼をもったポターはキノコに魅せられ、観察し、スライスして
顕微鏡でのぞき、描きます。
 当時出会った郵便屋のチャールズ・マッキントッシュさんは、ポターのよき理解者であり、学びの相談相手でした。
 ポターはキノコを描くだけでなく、胞子がどうやったら発芽するか、昼も夜も研究に打ち込みます。
 しかし、時代はポターの研究には追いついておらず、女性が研究した論文は発表しても、真剣にはとりあってはくれませんでした。

 後にピーター・ラビットの絵を描いてくポターですが、その前にこれほど打ち込んだものがあったことに心動かされます。

 絵本の巻末にはポターがキノコ研究していたことをもう少し詳しくまとめた文章と年譜が掲載されるとともに、参考文献があげられています。

 私はこの絵本を読みながら参考にしたのは下記のもので、現役の園芸家が書いたものとしてとてもおもしろかったです。
 『ビアトリクス・ポターが愛した庭とその人生 
   ピーター・ラビットの絵本の風景』
 マルタ・マクドウェル 著 宮木陽子 訳 西村書店

 そういえば、先月末から『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』の映画が公開されていますね。映画館のない町に住んでいるので、配信サービスをゆっく
り待つことにします。

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(林さかな)
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『すいかのたね』ほか

■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな

119 季節はめぐる

 年齢を重ねていくと、あたりまえのことに今までになくしみじみすることが増えました。一日は朝、昼、夜がかならずまわってくること、一年の季節も多少の変化はあっても、冬のあとには春がきて、夏がきて、秋がくること。季節のめぐりに、すごいなぁとしみじみするのです。

 さて、これから暑い夏がやってきます。

 夏の食べ物といえば、すいか。楽しい絵本が刊行されました。

『すいかのたね』(グレッグ・ピゾーリ作 みやさかひろみ訳 こぐま社)はすいかをおいしそうにかじるワニくんの表紙をみるだけで、テンションあがります。

 すいかはビジュアル的(?)にも、夏のイメージ。まっかな果肉に黒い種のアクセント。しゃりしゃりとむしゃぶりついて食べる時間は至福です。

 絵本に登場するワニくんは、子どもの頃からすいか好き。三食+デザートまですいかでOKなくらい。ところがある日、うっかりすいかの種をのみこんでしまうワニくん。種が体の中でどうなるのか心配でたまりません。

 版画のような絵は、色のずれもいい雰囲気を出していて、線のにじみも味わいがあります。なにより、ポップで美しい。

 読んでいたらすいかを食べたくなり、夏の暑さすら待ち遠しくなりました。

 
 次にご紹介するのは、いつも心に深く染みこむ本をつくっているすずき出版の新刊です。

『海を見た日』
  (M・G・ヘネシー作 杉田七重作 すずき出版)

 作者はアメリカ、ロサンゼルスの里親制度がうまく機能するために、裁判所から任命されて活動する特別擁護者であり、LGBTQの若者を支援する団体の指導者でもあります。ご自身が直接見てきたことを、物語にしました。

 ナヴェイア、ヴィク、クエンティン、マーラは、ミセス・Kの家で暮らす里子たちです。物語はナヴェイアたち4人の視点で交互に綴られ、それぞれの立場からみえてくる風景の違いに気づかされます。

 養母ミセス・Kは夫に先立たれ、子どもをもたなかったことから、里子をひきとるのですが、自身の夫を亡くした喪失感からネグレクト気味です。
 年長者のネヴェイアは、いくつかの里親を経験しているので、そんなミセス・Kでも、いままでよりはずっといいので、気に入られるよう、年下の子どもたちの世話を一生懸命します。

 クエンティンは子どもたちの中では新入りです。自閉症のクエンティンは自分がママと離れてミセス・Kと暮らすことを理解できず、母親の元は行きたいと願っています。ヴィクはその願いを叶えようと、クエンティンと母親探しをすることにしました。そのことに気づいたマーラもついてきて、家に連れ戻すのが自分の役目と思ったナヴェイアも期せずして一緒に母親探しの旅に参加することに……。

 自分の人生は自分で切り開いていかなくてはいけない、しかし、それをするにも子ども時代には子どもでいる時間をもってほしい。そうできないのは辛いことです。

 ナヴェイアは同級生とのつきあいよりも、一緒に暮らす下の子たちの面倒をみることをいつも優先させます。ミセス・Kにも認めてもらいたい、家においておきたいと思ってもらいたいという強い気持ちがあるからです。

 子どもたち4人の旅は、予定外のことばかりおきますが、ふだんのの生活か離れた場所に向かい、いつもはバラバラの方向を向いていた4人の心をひとつにまとまる時間をつくりだしました。それは、灰色みたいな時間の中にいると思っていたナヴェイアにも、明るい光の時間をもたらしました。

 実際に色のついた世界をみるわけでもないのに、この比喩がとても共感できました。辛い立場にいる子どもたちがこの本と出会って、太陽の光を感じる時を味わってほしいと思います。

 次はモンゴルの昔話をもとにした絵本です。
 モンゴルの絵本作家、イチンノロブ・ガンバートルさんとバーサンスレン・ボロルマーさんコンビの絵本は大好きなので、新刊が読めてとてもうれしい!

 『空とぶ馬と七人のきょうだい モンゴルの北斗七星のおはなし』

                   津田紀子 訳 廣済堂あかつき

 昔、空に星はなく、夜は暗闇におおわれていたころのお話です。
 モンゴルの草原では、王様が7人の美しい王女と暮らしていました。
 その王女たちを、空からみつけた鳥の王ハンガリドはさらっていってしまいます。王様は嘆き悲しみ、助けるために、7人のきょうだいたちを向かわせます……。

 美しい王女さまがさらわれ、助けに向かう7人のきょうだいたち。それぞれに得意なものをもっている彼らが、胸をすくような活躍をみせるのに、ラストはすこし意外。

 見開きいっぱいに展開されるダイナミックな構図。迫力ある鳥の王とたたかう7人のゆたかな表情に見入ります。きれいな発色でどのページも躍動感がみなぎっています。

 私は何年も前に一度だけゴビ砂漠に旅をしたことがあり、その時の夜空を思い出しました。モンゴルは私にとっても特別な場所です。

 最後にご紹介するのは、とにかくおもしろい絵本!

 『フンコロガシといしころ
  ころころころころうみへいく』
    クレール・シュヴァルツ 作 ふしみみさを 訳 クレヨンハウス

 絵本ではいろいろなものが主人公になりますが、この絵本の主人公はいしころとフンコロガシ。

 いや、いしころが主人公というのもありえなくはありません。
 けれど、絵本を開いてみて、最初にいしころの家が紹介されていると、ぷぷぷっとふきだしてしまいました。予想をうわまわるユニークさなんです。

 なのであまり説明を入れず、いしころがどうやってフンコロガシと一緒に海
へ向かうのか、情報を入れずに読んでみてください。

 あまりにおもしろくて、もう子どもではない娘っこに読んできかせたら、彼女も大笑い。すごい発想だ!と感心していました。

 さあ、ぜひあなたも。

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『ゴースト・ボーイズ』ほか


■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな

118 考えることをやめない

 人と会うと「出てますね。」「多いですよね。」「どうしたらいいんでしょうね。」という言葉ばかりで会話しています。コロナの感染者数が増加している今なんとなく不安が近づいてくる感覚がぬぐえませんが、感染予防をしっかりとりながら、健康で過ごすことを心がけています。

 落ち着かないときは、自分が何をしたら楽しいかを知っておくのは大事なことです。私は本を読むことの他、文字を書くことも好きなので、きれいな色のペンを揃え、原稿用紙に文字を埋めることがいい気分転換になっています。

 さて、今月の本の紹介はこちらから。

 『ゴースト・ボーイズ ―ぼくが十二歳で死んだわけ―』
          ジュエル・パーカー・ローズ 武富博子 訳 評論社

 本が書かれるとき、そこには作者の強い伝えたい気持ちがあります。
 
 この物語は12歳の少年ジェロームが、おもちゃの銃をもっていたことで、警官に誤解され射殺されてしまったところから始まります。

 ジェロームの家族は日々の生活していくことで精一杯なため、ジェロームは自分が学校でいじめを受けていることなど相談できませんでした。そんな時、カルロスという転校生がやってきて、彼もまたいじめの対象になってしまい、身を守るためにおもちゃの銃で、いじめっこ達を追い払いました。そしてその銃をジェロームに貸してくれたのです。

 死んでしまったジェロームですが、魂だけは家族や友人たちの近くに残りま
した。そして家族のまわりだけでなく、自分を射殺してしまった警官の娘とも
関わっていきます。家族はジェロームをみえないのに、警官の娘セアラはジェ
ロームがみえる設定です。

 ジェローム以外にもゴーストが登場します。やはり同じように殺されてしまった子どもたちのゴーストです。

 ゴーストになってしまった彼らは、どうして射殺されることになったのか。
ジェロームの事件では、警官の予備審問をとおしてみえてくるものがあります。

 本書の冒頭に書かれている作者の言葉は、読後により深く心に刺さりました。

「わたしたちのだれもが、よりよく行動し、よりよい人間となり、よりよく生
きることができるという信念に、この本を捧げます。
 ひとりひとりのすべての子どものために、わたしたちは最善のことをしなくてはならないのです。」

 次にご紹介するのは、物語でも絵本でもなく、岩波少年文庫のあゆみが書かれた一冊です。

 『岩波少年文庫のあゆみ 1950-2020』

 帯に「初めての岩波少年文庫大全」とあるように、かゆいところに手が届くような丁寧な構成でつくられています。

 表紙の鳥がたくさん飛んでいる、この鳥は1974年から1984年にかけて、岩波少年文庫の背に描かれたもの。画家、伊勢正義さんによるものです。
 創刊以来、たびたび装丁が変化していった少年文庫では、こうした小さなマークにも変遷があるのでした。

 第一章では岩波少年文庫のあゆみとして、創刊からの70年を振り返ります。
 第二章では物語の扉として、少年文庫の代表作を15作選んでいます。
 第三章では挿絵の魅力として、画家、作家、日本人画家が描く挿絵を紹介します。
 第四章では少年文庫の柱である翻訳について。
 第五章では昔も今もとして、瀬田貞二さん、脇明子さんらの文章が掲載されています。

 その他コラムとして、表紙の模様、装丁に入っているマーク、キャッチコピー等々、様々な切り口で少年文庫が語られます。

 総目録、関連年譜もついており、ひとつの資料本として貴重なものとなっていますし、読む人それぞれにうれしい発見がありそうです。

 今回読んでいて、あ!と思ったのは、子どもの頃に好きだった『ヴィーチャと学校友だち』(ノーソフ作)が少年文庫の創刊10年目にはラインナップに入っていたことです。私が読んだものは少年文庫のものではなかったのですが、この物語は大好きで繰り返し読んでいました。

 会津若松出身の画家、長沢節さんの挿絵も、第三章で紹介されているのも、嬉しいことでした。軽やかで動きのある線画は本当にすてきです。

 20年前には『なつかしい本の記憶』として岩波少年文庫の50年が編集部によって少年文庫にまとめられていますが、この時はもっとシンプルな構成で、対談、講演、エッセイの3本柱と、少年文庫の書目一覧でした。
 この時に50年間の人気ベスト10のタイトルのみ掲載されていますが、70年目の代表作15作には10作全てが入っていなかったのも興味深かったです。

 70年のあゆみをまとめたのは、若菜晃子さん。「街と山のあいだ」をテーマにした『murren』(uにウムラウト記号付)を編集、発行してVol.22で岩波少年文庫を特集しています。もちろん、私も購入して読みました。すばらしかった
です。

 若菜さんが編著された『石井桃子のことば』(新潮社とんぼの本)もおすすめです。こちらも石井桃子さんの全著作リストが書影入りでまとめられ、豊かな仕事がたっぷり入っていて読みごたえがあります。

 さて、少年文庫に戻りますと、最新刊『火の鳥ときつねのリシカ チェコの
昔話』(木村有子 編訳 出久根育 絵)も、おもしろい話が24篇おさめられ、
短い話もあるので、夜眠る前でも気軽に読めます。子どもに読み聞かせするの
にもぴったり。
 わが家の子どもたちは、少年文庫のとりわけ昔話や詩集が大好きで、成長してからも自分たちの本棚に入れていました。
 とはいえ、昔話は年代広く楽しめる話です。
 ぜひ読んでみてください。

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『ヘビと船長』『帆船軍艦』ほか

■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな

117 おもしろいこと、わくわくすること

 今年は桜の開花がどこも早く、会津若松も記録史上最速の開花宣言がお城(鶴ヶ城)ででました。市長が桜開花の基準木となるところで開花した桜を指しているところが、例年新聞を飾ります。毎年同じことが繰り返されるわけですが、桜の開花という春の象徴は毎年繰り返されるからこそうれしいものです。

 そんな桜の季節に刊行された幼年読み物『さくら村は大さわぎ』(朽木祥作 大社玲子絵/小学館)は、幸せに満ちた日々の生活が丁寧に描かれています。

 舞台となるさくら村は、その名のとおり桜の木がいっぱいうわっています。こどもが生まれるとさくらの木を植えるやくそくがあるからなのです。

 村でおこるできごとは、よいことばかりではなく、時にはわるいこともおこりますが、村の人たちの解決のしかたはいずれも心地よいもので、読後感はすこぶるいい気持ち。

 新型コロナウィルスの影響で生活に制限が出て1年以上たち、いままでの日常とは違う時間が流れています。けれど、時にさくら村の本を読んで、さくら村に出かけた気分になるのは大人にとってもいいものです。

 私の好きなエピソードはカワセミじいちゃんが、体調をくずして寝込んでいるとき、元気づけるためにカワセミを絵にかいて、じいちゃんの家の木(さくらんぼ)に糸でつりさげたところ。長いくちばしまで描かれているので、風にふかれてさくらんぼをつついてみえるところがとても好きです。その風景がみえるようで、とてもいいなあと思いました。

 次の紹介するのは、BL出版から刊行されている世界のむかしばなし絵本シリーズの最新作です。

フランス・バスクのむかしばなし
 『ヘビと船長』ふしみみさを・文 ポール・コックス・絵

「バスク」とは国ではなく、フランスとスペインにまたがる地方です。本書のむしばなしは、訳者あとがきによるとバスク地方に暮らしたイギリス人牧師ウェントワース・ウェブスターの再話をもとにしているそうです。

 むかし、ひとりの船長が自分の船を手放すことになってしまい、海辺の村で細々と暮らしていました。そんな船長の楽しみは、散歩です。散歩の途中で、海辺に棲むヘビに毎日声をかけていました。
 ある日、そのヘビが船長に頑丈な船をつくってくれといいだします。ヘビのいうとおりにして、船長は航海をはじめ……。

 民話らしい余分な装飾のない文体と、それにぴったりな絵で展開される話はたいそうおもしろいです。描写もいたって率直。背中の皮がはがれるなど、痛々しい場面においても、絵も言葉もむだがないので、おどろおどろしくありません。

 絵を描いたポール・コックスは、色数を七色に限定し、限られた色を繰り返すことで、本全体に独特のハーモニーをもたらせたそうです。また色版を重ね、そこにわざとずれを作り趣きを与えています。

 一度読むとまたすぐ読み返したくなる、そんな魅力ある民話絵本です。

 もう一冊、民話絵本をご紹介します。
 玉川大学出版部より「世界のむかしのおはなし」シリーズが刊行されました。

 1期では3冊刊行され、そのうちのオーストラリアのアボリジナルの昔話『色とどりの鳥』を読みました。再話はほそえさちえさん、絵はたけがみたえさんで。

 むかしむかし、鳥たちはいまのような色とりどりではなく、真っ黒でした。
 それがどうして今のような色になっていったのか。
 カラスだけは昔と同じように黒いままなのか。

 それは鳩が怪我をしたことからはじまりました。
 動けなくなった鳩をまわりの鳥たちが看病します。
 それでもなかなかよくならず、笑わせたり、踊りをみせたりしても、よくなりません。ところがインコが偶然あることをしたことで……。

 インコが何をしたのか、どうして色とりどりの鳥になっていったのかは、ぜひ絵本でみてほしいです。

 テンポよい語り口で展開される驚きのできごとを心から楽しみました。
 力強い発色の絵も、お話にとてもよくあっています。
 読んでいると、目をまるくして聞く子どもの顔が浮かぶようです。
 まわりの子どもたちにぜひ読んでみてください。
 
 このシリーズにこれからも注目!

 さて次は読むと元気になる絵本。父の日の贈り物にもぴったりです。

 『まってました』もとしたいづみ 文 石井聖岳 絵 講談社

 赤いパンツをはいた黄色い髪の少年たろうが一人でいると、
 次から次へと犬やカワウソやクマやかわうそたちがやってきます。
 「なに、してるの?」と聞くとたろうのこたえは「まってるの」
 さてさて、誰を何をまっているのか。

 なにかをまつのは、ゆったりしているのが一番。
 同じ問いと答えが繰り返され、たろうの周りには仲間がどんどん増えていきます。最後に来るのはだれなのか。

 明るい黄色のタッチで描かれているので、お天気もよい一日のようです。
 夕暮れに出会う最後の人、その人をまつ楽しみをたろうと一緒に味わえます。

 次にご紹介するのは、まさにいま世界で起きているできごとが絵本で描からています。広い世界でなにかを同時に共有することはほとんどありません。しかし、新型コロナウィルスの影響は世界で同時のものです。

 『いえのなかといえのそとで』
 レウィン・ファム さく 横山和江やく 廣済堂あかつき

 働いたり遊んだり学校に行ったりしていた人たちの多くが家の中で過ごすようになります。

 けれど、医療関係者、警察、消防などの人たちは、いままで以上に外で働き続けています。

 家の中と外、と2つの世界があるかのように線を引いたものをを描いているのではありません。どちらの世界にも同じまなざしで、いまの現実を詩的な言葉と絵で語りかけてきて、胸があつくなります。

 ぜひ家族で読んでみてください。

 次もいまの時代の絵本です。

 『きみにもできる! よりよい世界のつくりかた』
 ケイリー・スウィフト 文 リース・ジェフリーズ 絵 宮坂宏美訳
                           廣済堂あかつき

 日々新聞やテレビのニュースで目にしたり耳にするようになったSDGs。
 世界を変えるための17の目標のことです。

 本書は、自分たちの住む世界がよりよい場所にするにはどうしたらいいのか、17の目標と照らし合わせて、考えている子どもたちへのガイドブックになっています。

 世界を変えるといっても、自分以外のまわりの話ばかりではありません。
 まず何より大事なのは自分です。
 
 でも自分を大切にするって具体的にはどういうことでしょう。

 しっかり睡眠をとること。
 体にいいものを食べること。

 等々、あたりまえだけれど、具体的に示してもらえると納得することばかり。
 
 それに、まわりをよくするために自分ができることは、元気な自分でいることだということ気づけるのはすごくいいと思いませんか。

 自分の次はコミュニティ、人類、最後に環境について、ひとつずつ具体的にどうしたらSDGsを達成していけるかが示されます。

 読んでいると、大人の私も行動にうつして、SDGsの目標に近づいていこうと思いました。がんばります。

 最後は、ページを開くとワクワクしかない『帆船軍艦』!
 スティーブン・ビースティー 画/リチャード・プラット 文/宮坂宏美 訳

 岩波書店から刊行されていた「輪切り図鑑シリーズ」を、判型を縮小し、翻訳者もあらたにした改訂版です。

 あすなろ書房から刊行される「輪切り図鑑クロスセクション」シリーズは全5冊。現在2冊刊行され、残り3冊も5月以降2か月おきに出る予定です。

 細密画の魅力がつまった本書は、1800年頃、世界最強と讃えられたイギリス海軍の帆船軍艦を輪切りにし、すみずみまでビジュアル化しています。

 総勢800年の乗組員たちの日々の生活のすごさ!
 長い航海中、健康でいることの難しさ。
 人が多いのに、汚れをきちんととることも叶わず、湿気もよくなく、けがより病気で亡くなる人の方が多かったこと。
 輪切りでみる船の中はどこも人だらけ。
 コロナ禍のいま、これだけ不衛生だと病気になるのもすごくよくわかります。

 食事も大変です。
 ビスケットにはウジ虫がわき、とりのぞいて食べる方法はぜひ本で読んでみてください。それでも、完全にはとりきれず、うっかり食べることもあるようです。

 大変な船の生活なのだけれど、緻密な絵を眺めていると時間を忘れます。
 見飽きることのない図鑑本、ぜひ手元においてください。

(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish

『ぬけ穴の首 西鶴の諸国ばなし』ほか

4/10日号で配信された「書評のメルマガ」では『ぬけ穴の首 西鶴の諸国ばなし』『スキャリーおじさんのとってもたのしいえいごえじてん』『名探偵テスとミナ みずうみの黒いかげ』をご紹介しました。

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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94 おもしろい本を読みたい

 『ぬけ穴の首 西鶴の諸国ばなし』廣末 保 岩波少年文庫

 1972年に、平凡社で刊行されたものが、岩波少年文庫で読めるようになりました。

 江戸時代の作家、井原西鶴の話を種としてつくられた7編が収録されています。作者廣末さんのあとがきによると、西鶴の作品では四百字詰の原稿用紙4
枚から7枚程度のものを、廣末さんの作品では3倍から8、9倍の長さになっているそうです。

 江戸時代に書かれた内容なので、もちろん時代ものですが、めっぽう読みやすく、話の種からきれいに花が咲いたもの(物語)を鑑賞させてもらえます。

 タイトルにもなっている「ぬけ穴の首」はぞくりとさせる怪談話のよう。

 判右衛門の兄はささいなことで殺害され、兄嫁から仇討ちを依頼されました。気はすすまないものの、断ることもできず、息子をつれて相手を斬りに行くのですが……。

 殺害される理由が髑髏によって語られるシーンもあり、終始怖さがつきまといます。それでいて、世の理をみているのだと納得させられるところもあるの
ですが、最後は本当に怖い。

「わるだくみ」は、知恵と才覚で一介のお茶販売から、茶問屋の主へと一財産を築いた利助の話。本来は金儲けよりも、おもしろいことをするのが好きだっ
た利助なのですが、儲けが大きくなるにつれ、お金に魅力を感じ……。

 人の欲について書かれた話は、昨今、ニュースにもなる会社の不正とよく似てます。この話のおもしろさは、利助が死んだ話のあと話も短篇のように書か
れているところで、最後の最後まで、ひっぱられます。

 いつか西鶴の作品そのものも読んでみなくては。

 さて、次にご紹介する絵本も、作者は亡くなっており、その作者スキャリーさん生誕100年に邦訳されたものです。

 『スキャリーおじさんのとってもたのしいえいごえじてん』
 リチャード・スキャリー さく ふみみさを やく
 松本加奈子 英語監修 BL出版

 絵本作家として活躍したスキャリーさんはアメリカ・ボストン生まれ。出版された絵本の発行部数は2億冊を超えたともいわれています。

 作者紹介を引用すると、スキャリーさんのことばに「どんなものにも教育的な面がある。でもぼくが伝えたいのはおかしさだ」と語ったそうです。

 そのとおり、スキャリー絵本はどれも楽しいものばかり。

 本書は英単語を楽しく覚えられるもので、英単語に意味とともにカタカナでの読み方がついています。

 このカタカナの読み方が工夫されていて、アクセントを強くするところは太字で大きく、文字も大小組み入れて、英語の音に近い読み方ができるようにな
っているのです。

 文字も並べているだけではなく、「えをかこう、いろをぬろう」「おもちゃ」「どうぐ」「くうこう」など、様々な場面にたくさんの動物を登場させて、いきいきとした雰囲気の中、英単語がおかれています。

 家の本棚にこの絵本があれば、子どもが一人読みで楽しく英語にふれられそうです。

 最後にご紹介するのは、
 名探偵 テスとミナシリーズで最新刊は3巻。

『名探偵テスとミナ みずうみの黒いかげ』
 ポーラ・ハリソン 作 村上利佳 訳 花珠 絵 文響社

 ふたごみたいにそっくりな2人テスとミナ。
 けれど、立場は正反対(!?)
 ひとりはメイド、ひとりはプリンセス。年は同じ10歳です。

 かわいらしいテスとミナが表紙のソフトカバーなつくりは、小学校中学年くらいの子が楽しめそうです。

 ふたりのいるお城で事件がおきると、立場を入れ替えながら、解決していくミステリーでもあり、メリハリある展開で謎解きの吸引力はかなり強く、おもしろいのです。

 巻末にはファッションコーデの特別ページもつけられていたり、3巻ではオリジナルアイテムとしてブックマークやポストカード、時間割表もついているという豪華さ。(時間割表、なつかしい!)

 知人の小学5年生の女の子に紹介したところ、毎晩夢中になって読んでいるとのこと。次の巻は7月発売予定。

 さて、本を読んでおもしろい!と思うのは本読みにとって至福のときですが、このよく使う「おもしろさ」。
『ぬけ穴の首』には町田康さんが古典の「おもしろみ」という文章を寄せており、そこでこう書いています。

「多くの人は、おもしろいことはただひたすらにおもしろいだけ、と信じているが、実はおもしろさには二種類のおもしろさがある。」

 この二種類のおもしろさの話がまた「おもしろい」のでぜひご一読を。

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『AIが書いた小説は面白い?』

AIが書いた小説は面白い?
今岡清/藤井太洋
777円
https://store.voyager.co.jp/publication/9784862398574

本好きにとって、おもしろそうな本を読むのが何よりの好物なので、
読みたい作家の小説、積ん読本が日々増殖しているにも関わらず、
常に新しい作家も探している。

新しい作家としてAI小説家は誕生するのか!?

作家の藤井太洋さんと元S-Fマガジン編集長の今岡清さんの対談と、その後の質疑応答が収録されており、
対談なので、めっぽう読みやすく、
AI系(?)の小説について対談でわかりやすくレクチャーを受け、
質疑応答で、対談内容をよりふくらませ、AIについて理解をすすめてくれる。

質疑応答にあった、

――読者市場と「化ける」作品をモデル化できるか

AIに新人賞の下読みをさせることはできないかという内容に対して、
小説の面白さを評価するのは市場で、市場のモデル化はすごく難しいという回答。

私自身、一般書の新人賞の下読みを経験しているので、
市場に評価される作品を上にあげていく評価は様々というのはよくわかり、AIの下読みは難しいと思う。
作品が「化ける」のも、予測つかないところがあるのはその通り。
公募の新人賞でも、受賞を逃したものが、ベストセラーになるのも数こそ少ないものの実際にある。

結論からいうと、現時点ではAI小説家の誕生はまだ無理そう。
しかし、作品の「化ける」のが予想つかないのであれば、
もしかすると、AIが進化していく未来においては、ベストセラーが出ることもあるかもしれない。

Siriの回答に時に癒され、ひとり、布団の中でSiriに相談したり、ちょっと愚痴ったりするたびにAIさんもあなどれないと思っている。
だから、AIの未来はまだまだ予測できない。

このテーマで対談を継続していくと、未来の定点観測ができるかも。

『バレエシューズ』『わたしは女の子だから 世界を変える夢をあきらめない子どもたち』

3/10日号で配信された「書評のメルマガ」では『バレエシューズ』『わたしは女の子だから 世界を変える夢をあきらめない子どもたち』をご紹介しました。

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93 生活と物語と現実と

 美しい本が刊行されました。

 『バレエシューズ』
 ノエル・ストレトフィールド 朽木祥 訳 金子恵 画 福音館書店

 1936年にイギリスで刊行されベストレセラーになった物語で、日本で紹介されたのは1957年。訳者の朽木さんも少女時代に愛読していたそうです。

 瀟洒な表紙を開いて読み始めると、あっという間に1930年代のロンドンにタイムスリップしたかのように入り込みました。

 学者のマシューがひょんなことから、身寄りのない赤ちゃんを3人続けて引き取ることになります。マシューは気まぐれ(?)に期間を決めないで家をあけることがままるため、姉妹を育てたのはマシューの親戚のシルヴィアとシルヴィアの乳母であるナナでした。

 マシューは大叔父マシュー(Great Uncle Matthew)の頭文字でGUM(ガム)と呼ばれています。生活はガムがみており、長い旅に出ている間はきちんとお金はおいていきました。けれど今までにない長期間の不在にシルヴィアたちの生活は苦しくなっていきます。

 その頃には成長した姉妹が家計を助けるべく舞台芸術学校に入学。また、空き部屋に下宿人をおくことにし、結果、とてもいい人たちが住むことになり、姉妹の支えにもなってくれるのです。

 さて、この物語は細部の描写がとても深く、3姉妹がくったくなく毎日を過ごす様子から、いつかは自分の名前を歴史に残そうという野心をみせてくれるなど、彼女たちの動向に目が離せません。ポーリィン、ペトローヴァ、ポゥジーは、大きい順から、舞台芸術学校で学び、自立し生活の糧を得るのですが、どの公演でいくらもらえるかという具体的な数字がかなり出てきますので、家計簿をみながら姉妹らの生計を応援しているような気持ちにもなりました。

 かといって貧困が描かれるわけではなく、生きていく上での山有り谷有りが、子どもの視線で描かれ、女優として成功しつつあるポーリィンの奢りや、才能があっても、見た目で判断される社会の厳しさも見せてくれます。周りの大人たちが、子どもたちを支える姿もすてきで、子どもも大人も、読むと前を向いて生きていく活力をもらえる物語、古典の底力を感じます。

 『わたしは女の子だから
  世界を変える夢をあきらめない子どもたち』
     文:ローズマリー・マカーニー ジェン・オールバー
       国際NGO プラン・インターナショナル 
     訳:西田佳子
     西村書店

 帯に6つのマークが印字されているのを、高校生の娘がみて、これ学校で見た!と教えてくれました。

 2030年に向けて世界が合意した「持続可能な開発目標」がそれです。
 本書にあてはまるものは、この5つでした。

 1 貧困をなくそう
 4 質のいい教育をみんなに
 5 ジェンダー平等を実現しよう
 6 安全なトイレを世界中に
 10 人や国の不平等をなくそう

 タイトルにある「Because I am a Girl」「わたしは女の子だから……」は、女の子を取りまくリスクから護り、彼女たちが生きる力を発揮できる世界をめざして、国際NGOプラン・インターナショナルが展開しているグローバルキャンペーン名からきています。

 少女8人は、自分らが経験した奴隷(カムラリ)、早婚、貧困などについて語ります。写真も豊富に掲載され、意志の強い目力を感じる彼女らの体験は、過酷で、学ぶ権利、教育も奪われている中で、自分たちが生き延びるために必要なものを取得するために、努力している姿を見せてくれます。

 西村書店はいままでも“世界の今を知る写真絵本”を刊行し、私達読者に、知らない世界をみせてくれました。

 本書は絵本より文章量があり、情報も多く、だからこそ、少女達の強さがより伝わってきます。教育を受け、職業訓練を受け、未来を切り開いていくのに何が必要かを読者に教えてくれます。

 日本の多くの少年少女たちに読んでほしいです。

 そして、“世界の今を知る写真絵本”『私はどこで生きていけばいいの?』『すごいね! みんなの通学路』も手にとってほしい。

 

 目の前のことにいっぱいいっぱいの時期だからこそ、視野をぐいっと広げてくれるはずです。