• 『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ』『パンツ・プロジェクト』//書評のメルマガ

    4/10日号で配信された「書評のメルマガ」ではエマ・ゴンザレスさんのスピーチを聞いたことがきっかけで、声をあげることについての本2冊をご紹介しました。
    http://back.shohyoumaga.net/

    ———————————————————————-
    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
    ———————————————————————-
    82 声をあげること

     アメリカのフロリダ高校でまたも銃による悲しい事件がおき、
     当事者である高校生たちが声をあげ、大規模なデモ行進をしたことはネット動画でも多くとりあげられました。

     中でも、エマ・ゴンザレスさんの沈黙も含んだスピーチは、動画をみた多くの人の心を動かしたのは間違いないでしょう。
     私はこの動画を高校生の娘と一緒にみました。

     彼女はスピーチの英語を理解する前に、
     ゴンザレスさんの言葉のもつ力を受け取り、
     いつのまにか涙を流しながら聞いていました。
     そしてそれ以来、ツイッターでフォローし、銃規制の必要性を強く感じるようになっています。

     言葉が届くということを目の当たりにした後に読んだ、
     当事者が声をあげることについて、2冊の本をご紹介します。

     『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ』
     アンジー・トーマス作 服部理佳 訳 岩崎書店

     本書は昨年2017年アメリカで話題になった社会派YA。
     デビュー作にして、世界30か国で刊行されている作品です。

     主人公は治安が悪くギャングもはびこる街に暮らす、女子高校生スター。
     ある日、パーティから一緒に帰った幼なじみのカリルが、白人警官に呼びとめられ、スターの目の前で射殺されてしまいます。
     目撃者はスターただひとり。

     最初は事実はひとつなのだから、自分が証言しなくても警官は裁かれると思っていたスターでした。しかし、事実とは異なる報道が重なり、スターは、いまはもう口を開けないカリルの為に、無実を証言する決意をするのです。

     元ラッパーである作者は大学で創作を学び、在学中から本作を執筆したそうです。タイトルも伝説のラッパーであるトゥパックの言葉からとられており、彼も銃で命を落としています。

     ザ・ヘイト・ユー・ギヴについてカリルはスターにこう説明します。

    「The Hate U、UはアルファベットのU、Give Little Infants Fucks Everybody、
     頭文字を取って、T-H-U-G L-I-F-Eだよ。つまり、おれたちがガキのころ社会に植えつけられた憎しみが、やがて噴きだして、社会に復讐するって意味だ」

     その話を聞いた後、スターとカリルは警官に呼びとめられたのでした。

     スターは12歳のとき両親から、警官に呼びとめられたときにはどうすればいいかということについて教えられました。白人警官に対して黒人がとらなくてはいけない態度についてです。

     「いいか、スター。とにかく連中のいわれたとおりにするんだ。手は見えるところに出しておけ。いきなり動いたりするんじゃないぞ。むこうから話しかけられないかぎり、口は開くな」

     警察を怖がるよう教えるのではなく、うまくたちまわる術です。

     カリルはいきなり動いた為に撃たれました。ただカリルは撃たれるような事は何もしていません。

     事件後、カリルは撃たれて当然であるように報道され続けました。
     事実とは違う報道がされるには、複雑な背景もあります。
     カリルはヤクの売人をしていたこともあり、偏見にもさらされ、スターの証言もヤクにからんだギャングからの脅かしもありました。

     果敢に立ち向かい声をあげるスターはまだ16歳。両親、親戚(伯父は白人警官のひとりでもあります)そしてボーイフレンド、親しい友人はしっかりと支えます。

     作者のリアリティある描写は、社会を変えていこうとする若い世代の強さを伝えてきます。

     本作は白人と黒人という人種対立だけでなく、黒人どうしでもギャングの抗争で殺し合いが起こることも含め社会の複雑さを詳細に描き出しています。

     スターの両親の人間性も生々しく、ケンカをしたときに、ヤケをおこした、父親が浮気をしその結果、スターには異母兄がいることも、それを受け入れている母親も、なぜ父親を許し一緒にいるかを説得力をもって教えてくれます。

     ずっしりと重たい話ではあるのですが、嫌いな人とはどうつきあっていくかなど、人生のライフハックもさりげなくもりこまれていて、細部まで読みごたえがありました。

     映画化も決定されているそうですが、撮影が終わった後に、スターのボーイフレンドという重要な役柄の俳優が降板になり(その理由が過去に人種問題を助長させるようなジョークをYouTubeにあげていたのがわかり炎上した為)ようやく最近違う俳優で撮り直しが決まったようです。日本でも公開されたらぜひ見てみたいです。

     『パンツ・プロジェクト』
     キャット・クラーク作 三辺律子 訳 あすなろ書房

     こちらは、中学校に入学したリヴが服装規定によりスカートをはかなくてはいけないことに、強い違和感をもち、パンツでも通学できるように「パンツ・プロジェクト」を友人らと立ち上げる物語。

     そう、本書もまた自分の違和感を声に出し、学校を変えていこうとする話です。

     リヴは最初は簡単にできることだと思っていました。
     周りの中学ではパンツでもいいところはあるし、スカートにこだわる理由はないと思っていたからです。

     しかし、なぜパンツじゃなきゃいけないの?という声もあがりました。
     校長先生にも話をしましたが、将来的に考えるとして緊急の課題にはならないとすぐの検討はしてくれません。

     前回のメルマガでご紹介した『いろいろいろんなかぞくのほん』(メアリ・ホフマン文/ロス・アスクィス絵/杉本 詠美訳/少年新聞社)に出てきた家族のように、リヴにはお母さんが2人います。

     パンツをはきたいリヴは自分のセクシュアリティについても考えるところがあり、お母さんが2人いる家の子はパンツをはきたがるわけ?とはいわれたくないことと、母親のひとりが既に心配事を抱えていたこともあり、親には秘密でプロジェクトをすすめます。

     自分らしくいられる服装を自分で選ぶリヴの行動は、読んでいてすがすがしく、ごく当たり前の行動に思えました。けれど、声をあげるには自然体だけではなく、やはり勇気が必要です。

     いろいろな人がいることについて、100%理解しなくても、受け入れていく心の柔らかさを意識させられました。

     まずは気負わず読んで欲しい。
     フリーペーパー「BOOKMARK」の装丁もしているオザワミカさんが描いたシャープな装画は手に取りたくなるかっこよさがあります。
     

     さて、最後に、
     この2冊に登場した彼らの声が、彼らのゴールにたどりついたら、10代ならではの、ただ楽しむ時間もつくって欲しいと願います。

  • 「ミューレン 岩波少年文庫」『青い月の石』『ポケットの中の天使』『いろいろいろんなかぞくのほん』//書評のメルマガ

    3/10日号で配信された「書評のメルマガ」では初めて雑誌をとりあげ、それに関連した本、ファンタジー、多様性の絵本について書きました。
    http://back.shohyoumaga.net/

    ———————————————————————-
    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
    ———————————————————————-
    81 考える先にあるもの

     小冊子「ミューレン」をご存知ですか。

     小さい文字ぎっしりの記事とセンスある写真たっぷりの読みごたえある冊子です。

     最新号 vol.22 (2018 January)の特集は「岩波少年文庫」

     児童書好きにも話題になっています。

     編集人である若菜晃子さん選の岩波少年文庫10冊にはじまり、冒険の世界、百年前の暮らし、世界をまわろう、生きものの気持ちとカテゴリ分けも魅力的で、選ばれた本もディープ。
     私も手にしたことのないものも多く、読んでみたい本だらけです。

     石井桃子さんによる「『岩波少年文庫』創刊のころ」のインタビュー記事は、初出「図書」(1980年)のもので、『石井桃子のことば』(新潮社 とんぼの本)にも掲載されたもの。
     『石井桃子のことば』は編集人の若菜さんも執筆に関わっている本で、こちらも読みごたえあります。「ミューレン」にもぜひこの本を併せてご覧下さいとすすめていますので、ぜひぜひ。

     「岩波少年文庫の今」では、岩波書店児童書編集長の愛宕さんのインタビュー記事が掲載されています。
     現在の少年文庫の書目はどのような前提で選んでいるのか、新訳に変えていくことについて、装丁についてなど、「今」の少年文庫についてのお話はとても興味深いです。

     「ミューレン」サイト
     http://www.murren612.com/

     さて、愛宕さんがインタビューでおすすめの少年文庫の一冊にあげられていたのは、オランダの作家トンケ・ドラフト『王への手紙』(西村由美訳)です。

     ドラフトさんの作品を初めて読んだときは、そのおもしろさにびっくりしたものです。評価のかたまった作家作品が多い少年文庫の中で、初めて紹介される作家の名前は強烈にインプットされました。

     しかしそれもそのはず、訳者西村さんのあとがきを読めば納得でした。

     『王への手紙』の初版刊行は1962年。表紙絵も挿絵も作者自身が描き、翌年には、現在の「金の石筆賞」の前身にあたる賞に選ばれ、それ以来のロングセラー本、オランダのこどもたちに長く読まれていた本だったのです。

     そのドラフトさんの最新訳書、岩波少年文庫の『青い月の石』(西村由美訳)を今回ご紹介いたします。

     主人公ヨーストは森で魔法が使えるという噂があるおばあちゃんと2人暮らし。ひょんなことから、イアン王子と出会い、一緒に地下世界の王であるマホッヘルチェと対峙することになります。
     マホッツヘルチェの元に行くまでもが一筋縄ではいかず、たどりついたら、今度は難問をつきつけられ、クリアした後にも、更に難しい局面にたたされることになります。
     ヨーストと共に冒険するのは、現実世界ではヨーストをいじめていたヤン、どんなときもヨーストを支える幼なじみフリーチェです。

     それぞれの人物造形がしっかりしていて、どんな場所で困難なことに立ち向かうのかがテンポよく描かれ、物語に吸引力があります。対立、協力、葛藤、難しい相手との対峙など、どの場面にも心を動かされます。

     挿絵もドラフトさんが描いていて、物語をいっそう引き立てます。
     小学校中学年くらいから楽しめる冒険物語、こどもはもちろん、大人の方にもオススメです。

     さて次にご紹介するのは、イギリスの作家デイヴィッド・アーモンド『ポケットのなかの天使』(山田順子訳 東京創元社)です。

     カーネギー賞・ウィットブレッド賞を受賞した『肩胛骨は翼のなごり』の邦訳で知られるようになった作者アーモンドですが、今回の作品は心あたたまるファンタジー。

     バスの運転手をしているバートは、定年間近でその日を待ちわびながら仕事をしていました。ところがある日、バートのポケットに天使が入っていたのです。いったいこの天使は誰なんだろうと思いながら、バートは自宅に連れ
     帰り、妻のベティに紹介します。ベティも大喜びで、こどもには教育が必要と自分の勤務先である学校に、天使を連れて行きます。すぐさま生徒たちに受け入れられ、大人気になりますが、黒ずくめの男が若者が天使に目をつけ……。

     アンジェリーノと名付けられた天使の男の子がとてもかわいいのです。しょっちゅう、おならをするも愛嬌。黒ずくめの若者が何かしでかすのではないかとハラハラするのですが、物語に流れている優しさの心地よさがたまりま
     せん。日常におきるファンタジーにしっかりとリアリティをもたらせている作者の筆致はさすがの腕前。松本圭以子さんの装画・挿絵も素敵です。

     このメルマガ1月10日配信号で紹介したパディントンの作者マイケル・ボンドさんが書いたモルモットのお話、『オルガとボリスとなかまたち』にも出てきた料理「あなのなかのヒキガエル」。それが本書にも出てきています。
     イギリスで長く親しまれている料理だからですね。

     最後にご紹介するのは絵本です。

     『いろいろいろんなかぞくのほん』
     メアリ・ホフマン ぶん ロス・アスクィス え すぎもと えみ やく 少年新聞社

     家族の形は、お父さんとお母さん、そしてこどもたちという組み合わせがいわゆる普通といわれていますが、世の中にはいろいろな家族があること、少しずつ浸透していっていますよね。

     この絵本はそれをわかりやすく描いています。

     家族の形にはじまり、住むところ、学校、仕事、休みの日の過ごし方、食べ物など、様々なカテゴリで家族の姿をみせていきます。

     お父さんだけの家もあれば、
     お母さんだけの家もある、
     そのどちらもいなく、祖父母と暮らすこどももいれば、
     お母さんがふたりとこども、
     お父さんがふたりとこども、
     養子や里子と暮らす家族もいます。

     意識してみると、どんな家族にも個性があり、いろいろです。
     どのページもたっぷりの絵がそれを表現していて、素敵なのは、家族も流動的だということが書かれているところ。
     
     確かに、時間の経過と共に変わることもあります。
     その時それぞれの家族を、この絵本で読んでみませんか。

     いまの自分がみえてきます。

  • 『レモンの図書室』

    まぶしい檸檬の表紙に惹かれて読みました。

    カリプソのママは5年前ガンで急逝してしまいました。
    パパはそれ以来、カリプソにこういうようになります。
    おまえは強い心をもっているじゃないか、泣かずにすむよう強い心をもっているはずだと。

    10歳になったカリプソに、パパは変わらず同じことをいいます。
    「自分のいちばんの友だちは自分だ」
    「他人はいらない」
    つまり人にたよってはだめだと。

    カリプソは素直にそれを受け止めます。
    本を読むのが大好きで、
    ママの部屋だったところを自分の図書室にしてもらい、本に囲まれて過ごすのです。

    学校でも遊びにちっとものらないカリプソはいつもひとり。
    でもメイが転校してきて変わりました。
    メイも本好きなので、2人は意気投合。
    大好きな本の話をいつもできる相手がみつかったのです。
    メイの家に遊びに行くようにもなり、メイのお母さんにもかわいがってもらいます。

    ひとりじゃなくなった世界を知るようになったカリプソは、
    自分のパパをいままでと違った目でみることができるようになり……。

    カリプソが生き生きするようになるのと反対に、
    パパは押し込めていた妻を失った悲しみで、カリプソを世話することが難しくなっていき、
    代わりにカリプソがパパを支えようとします。

    10歳の子どもに大人が本来すべきことをしなくてはいけない状況を想像すると重たい気持ちになりながら読んでいきました。

    本書はイギリスの児童書ですが、
    カリプソの苦しみに気づいた大人が
    〈大人の世話する子どもの会〉にカリプソを連れていってくれます。

    そんな会があるのですね。
    訳者あとがきによると、
    「病気や障害を持つ家族の介護や看病をする子どもや若者が、ここ数年注目を浴びています」とのことで、若い人たちが介護することから「ヤングケアラー(若い介護者)」と呼ばれているそうです。

    子どもが子ども時代を得られず大人になることは、いつかどこかでひずみがくるように思います。
    そのひずみを小さくするには、こういう会は助けになるかもしれません。

    本は力になることはもちろんですが、
    生身の力も子どもには必要。

    大人も病気や障害をもつことはある、その状況はなくせないのだから、
    周りの大人にできることを意識したい。
    この本が必要な子どもに届きますように。

    重たいことばかりを書いてしまいましたが、
    カリプソとメイが心から楽しんで読書している描写は、とっても楽しいです。
    巻末には読書案内として、物語にでてきた本の一覧もあります。
    未訳の本はこれから日本語で読めるといいな。

  • 『クレヨンで描いたおいしい魚図鑑』『ネルソンせんせいがきえちゃった!』『ごちそうの木 タンザニアのむかしばなし』『マルコとパパ ダウン症にあるむすことぼくのスケッチブック』//書評のメルマガ

    2/10日号で配信された「書評のメルマガ」ではユーモアたっぷりの本について書きました。
    http://back.shohyoumaga.net/

    ———————————————————————-
    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
    ———————————————————————-
    80 カラフルな色の世界

     今年は各地で雪のニュースが続いています。
     日常生活が可能な限り早くもどりますように。
     早くもどすために尽力くださっている方々に感謝します。
     
     会津でも白い空、白い地面の世界が例年以上に長いです。気温も低くあまりとけないからでしょうか。色のある世界が恋しくなります。

     なので今回はカラフルな色を楽しむ絵本を中心にご紹介します。

     『クレヨンで描いたおいしい魚図鑑』
      加藤 休ミ 晶文社

     『きょうのごはん』『おさなかないちば』など、既においしい食べ物を描いた絵本をつくってきた加藤さんですが、今回は鮭の塩焼き、焼きたらこ、金目鯛の煮付けなどなど、料理となった魚たちの図鑑です。

     クレヨン、クレパスで描かれている魚たちの美味しそうなことったらありません。「シズル感」たっぷりです。小学校の図工で使っていたクレヨンでこれだけ美味しい絵が描けるなんてすごい。

     また図鑑なので魚の知識ももりこまれています。系統樹として魚料理の種類を「仲間」としているものでは、太陽と塩の時代、しょうゆ時代、冷蔵庫時代と、それぞれの時代の魚料理が分けられていて興味をひきます。

     およそ1800年前の邪馬台国では、なんと既に干物と塩焼き、汁ものがあったそうで、初めて知りました。いたみやすい魚を日持ちさせるための知恵はずいぶん前からあったのですね。

     描かれている魚料理は17種類。ししゃもの一夜干しは本当にリアルで、紙の上から何度もさわってしまいました。金目鯛の煮付けは、特においしい目の玉あたりをクローズアップしていて、食欲をそそります。

     親バカ(?)ですが、魚料理が大好きで魚の食べ方がものすごくきれい(つまりほとんど残さない)な高校生の娘も、この絵本をみて「おなかすくね、魚食べたくなるね、目の玉おいしいんだよね」とうっとり眺めていました。

     クレヨンでおいしく描かれた魚料理は一見の価値があります。ぜひ。

     『ネルソンせんせいがきえちゃった!』
      ハリー・アラード 文 ジェイムズ・マーシャル 絵
      もりうちすみこ訳 朔北社

     書影をネットでみた瞬間、「これはおもしろい絵本!」とアンテナにひっかかりました。
     もちろんその時はまだ中身をまったく知りません。
     ただ表紙に描かれた子ども達の教室の雰囲気にひかれたのです。

     ネルソン先生の生徒たちは、いつもしゃべったり、動いたり、うるさくしてばかり。先生の注意など聞く耳を持ちません。とうとう先生は学校に来なくなりました。それでも生徒たちは、これ幸いとばかりに遊ぼうとするのですが、代わりにきたスワンプ先生の怖さに震えます。そこでネルソン先生にもどってきてもらおうと策を練りはじめるのですが……。

     子どもたちの表情は小悪魔のようだったり、天使のようだったり、どちらもかわいく、気持ちが素直に表情にでているのが楽しめます。

     子どもたちに読み聞かせすれば、やさしいネルソン先生ときびしいスワンプ先生の対応を楽しんでくれるに違いありません。

     本書は1977年にアメリカで刊行され、いまもロングセラーを続けているそうです。ユーモアな文章と洒落た雰囲気の絵は飽きのこない何度も読みたくなる魅力があります。 

     『ごちそうの木 タンザニアのむかしばなし』
       ジョン・キラカ 作 さくま ゆみこ 訳 西村書店

     タンザニアの南西に住むフィパという人たちに伝わる昔話を、画家のキラカさんが語り部を見つけて聞き取りをしたものです。

     昔々、日照りが長く続き作物がとれない時期がありました。動物たちは腹ぺこです。乾いた大地に不思議な木が一本生えていました。その木はおいしそうな実がいっぱいなっています。しかし、ゆすってもたたいても実はとれません。どうやったら実がとれるのか、からだの大きなゾウとスイギュウが賢いカメに相談に行くと……。

     訳者さくまさんのあとがきによると、アフリカにはまだ農業が天気に左右されているため、日照りで飢える人もでる地域があるそうです。この昔話にでてくる「ごちそうの木」は日照りの時にあってほしい願いのようなものなのでしょうか。

     キラカさんの絵は、濃くはっきりした色調が鮮やかなポップアート。白い雪の日が続いているときに、この絵本を開くと、うれしい気持ちになれます。

     実をとるための動物たちの試行錯誤も愉快で、おいしい実の味を想像しながら読みました。

     訳者のさくまさんは「アフリカ子どもの本プロジェクト」の活動をされており、この絵本もそのプロジェクトが関わっています。

     サイトはこちら http://africa-kodomo.com/

     このプロジェクトは3つの目的があり、

    1)アフリカに設立したドリーム・ライブラリー(現在2館)を継続的に支える。
    2)識字や楽しみのための本を必要としているアフリカの子どもたちがいれば、そこに本を届ける。
    3)日本の子どもたちに、アフリカの文化やアフリカの子どもたちのことを伝える。

     『ごちそうの木』の作者キラカさんが昨年来日したときも、このプロジェクトで講演会やワークショップを開催されました。

     それでは最後にご紹介する本も目をひく表紙です。

     『マルコとパパ ダウン症にあるむすことぼくのスケッチブック』
       グスティ 作 宇野和美 訳 偕成社

     作者グスティはアルゼンチン出身のイラストレーター。ダウン症のある息子マルコとの日々をスケッチしたものが本書です。

     グスティはマルコが生まれてきたとき、最初はダウン症であることを、「こんなのうけいれられない」と率直に表明し、その時の困惑ぶりを描きます。母親のアンヌはなんのこだわりもなく受け入れたことも、女性から学ぶことがたくさんあると、アンヌとのやりとりを細かく書いています。

     「いいんだ! この子はこのままで!」

     マルコをマルコのまま受け入れたグスティの描く絵は、子どもへの愛しさがたっぷりです。ペンでざっくり描いたもの、水彩で色をのせたもの、詳細に描写されたもの、家族の生活が目の前で繰り広げられ、読んでいるとどんどんマルコが身近にいるように感じられてきます。

     マルコにはテオというお兄さんもいるのですが、テオもマルコを「せかいいちのおとうと」とかわいがります。父親のグスティはテオから学んだことも多いのです。

     遊びや学校生活、日常生活をしやするための手術も描かれ、それらは障害のある子どもとの暮らし――「受け入れる」とはを見せてくれます。

     さて、様々な本には最後に作者による謝辞が書かれています。
     この本には「ありがとう」というページにたくさんの人がでてきます。
     私はたいてい謝辞は読み飛ばすことが多いのですが、「ありがとう」は熟読し、何度も読み返しもしました。
     グスティの声が聞こえてくるようだったからです。

     今月、来月と刊行記念トークイベントも開催されるので、お近くの方は足を運ばれてはいかがでしょう。

     ★刊行記念トークイベント開催予定★

     ○2月27日(火)19:30~BOOKS 青いカバ(駒込)
     「日本語版『マルコとパパ』ができるまで~翻訳とデザインと」
      宇野和美さん(翻訳家)x 鳥井和昌さん(デザイナー)
     https://www.kaiseisha.co.jp/news/24156

     ○3月20日(火)18:30~ブックハウスカフェ(神保町)
     世界ダウン症の日記念トークイベント
     宇野和美さん(翻訳家) x 関口英子さん(翻訳家)
     https://goo.gl/xuF86A

  • 『シロクマが家にやってきた!』

    『シロクマが家にやってきた!』
    マリア・ファラー 作
    ダニエル・リエリー 絵
    杉本 詠実 訳
    白水 あかね 装丁
    あかね書房

    海外文学のおもしろさを伝えてくれる「BOOKMARK」という小冊子をご存知でしょうか。
    2018年1月現在、最新号は10号ですが、その前の9号の特集が装丁でした。「顔が好き♡」というタイトルも秀逸で、確かに装丁は本の「顔」ですね。

    ご紹介する本書『シロクマが家にやってきた!』も「顔」がすてきです。
    人柄(いや、クマ柄でしょうか)のよさそうな顔と、クマを見上げる少年のいい感じが伝わってくる表紙。
    そして、周りにはさかながいっぱい。
    なにせ、わたくしのハンドル名がさかななものですから、特にさかなが描かれているものは無条件に惹かれます。
    とはいえ、ここに描かれているさかなは、かわいがられる対象ではないのですが、それはさておき。

    主人公アーサーには障害のあるリアムという弟がいます。
    両親は毎日の生活の中でリアムを優先にことをすすめるので、アーサーは不満がつのりリアムを邪険にしてしまいます。
    アーサーがテレビでサッカーゲームを見たかった日、リアムがパニックをおこした為テレビはおあずけ。アーサーはつもっていた不満を爆発させ家を飛び出そうとするのですが、家の前になんとシロクマが……。

    シロクマの名前はミスターP。

    ミスターPは言葉を発しませんが、アーサーやリアムと身振りや手振り、アイコンタクトなどで交流していきます。
    なにもいわずぎゅっとされるのは、とても気持ちがいいものです。
    ミスターPが家族の一員のようになり、リアムともいい関係をつくり、
    リアムが落ち着くことで、自然とアーサーとも波風たたくなっていきました。

    家族の間がうまくいっていないとき、
    誰か第三者が介入することで、風通しがよくなることがあります。
    何かつまっていたものがとれると、
    そこから先はもう第三者がいなくても、風は通っていくのでしょう。

    挿絵もいっぱいある本書は、小学校中学年から楽しめます。

    読んでいて、マーク・ベロニカの絵本『ラチとらいおん』を思い出しました。

    1965年初版のこの絵本は、よわむしのラチがどこからかやってきが小さな赤いライオンと出会うことで、少しずつつよくなっていくお話。最高の友だちができるとどんなに力になれるか、勇気をもらえる絵本です。

    アーサーとミスターPの友情もすてきです。ぜひ読んでみてください。

  • 『モルモット オルガの物語』『オルガとボリスとなかまたち』『バイバイわたしのおうち』//書評のメルマガ

    1/10日号で配信された「書評のメルマガ」ではユーモアたっぷりの本について書きました。
    http://back.shohyoumaga.net/?eid=979078

    ———————————————————————-
    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
    ———————————————————————-
    79 共に生活する楽しみ

     2018年が始まりました。
     年末年始のハレの日が過ぎ、日常が戻っているころでしょうか。
     

     さて今年最初にご紹介するのはシリーズ2作。
    『モルモット オルガの物語』
    『オルガとボリスとなかまたち』

     マイケル・ボンド 作 おおつかのりこ 訳 いたやさとし 絵 PHP研究所

     

     作者は「くまのパディントン」シリーズを書かれたマイケル・ボンドさん。
    さみしいことに昨年亡くなられ、日本語に訳された本はみていただくことは叶わなかったそうです。

     本書は娘のカレンさんが飼っていたモルモットをモデルに、空想力ゆたかなオルガが愉快に動き回る物語。

     表紙のモルモットたちの愛らしさにまず惹かれ、
     一巻目の冒頭からこれはおもしろそうだとわかりました。
     
     ――オルガ・ダ・ポルがはまちがいなく、とくべつなモルモットです。

     とくべつなモルモットの話!

     オルガは自分の名前を飼い主のカレンにどのように伝えたか。
     ネコのノエルとはどのようにわかりあったか。
     空想が紡ぐめくるめくお話。
     などなど
     
     オルガの躍動感が読み手に伝わってきて、ワクワクというか、次は何をするのかなという楽しみが読んでいる間中続きます。

     おおつかさんの翻訳は言葉がやわらかく、詩的で、物語にとてもあっています。オルガやまわりの友だちの言葉は時に深淵で哲学的でもあり、大人が読んでも、はっとします。

     私の好きな言葉は、ハリネズミのファンジオによるもの。

     ファンジオはオルガに自分な好きな場所“天国が原”の話をし、オルガもその場所に行きたくなります。なんとか、囲いから抜け出し、ファンジオと出かけます。しかし、“天国が原”はオルガにとってはよくわからない場所でした。

     そんなオルガにファンジオはこういいます。

    「美は、みるものの目にやどる。おいらのまどからは、すてきな場所にしかみえないけどな」

     うんうん、ファンジオのいうこと、よくわかります。

     小学校低学年から楽しめる物語。
     周りのお子さんにすすめてみてください。
     動物好きだとなお喜ばれるでしょう。

     訳者おおつかさんによる、オルガのブログもぜひ。
     作中に出てくる料理、その名も”あなのなかのヒキガエル”もブログで紹介され、つくりたくなりました。
     

     「もっと もっと モルモット オルガ」
     https://olga-da-polga.muragon.com/

     もう一冊はうれしい復刊児童書

    『バイバイわたしのおうち』
     ジャクリーン・ウィルソン 作 ニック・シャラット 絵 小竹由美子 訳
     童話館出版

     本書は2000年に偕成社より刊行されていたものの復刊。翻訳は全面的に見直されています。

     刊行された当時読んでいたので、久しぶりの再読です。
     ジャクリーン・ウィルソンさんの作品は1995年に翻訳家の小竹さんが訳された『みそっかすなんていわせない』(偕成社)を皮切りに、日本でもファンが広がりました。イギリスで大人気の作家、ジャクリーン・ウィルソンは複雑な家庭環境下の子どもの気持ちをよくすいとっていて、なんでわかるの?と聞きたくなるほどリアルです。

     私自身、中学のときに両親の離婚を経験していますが、まわりの友だちには相談できず本にずいぶん救われました。

     ひこ・田中さんの『お引越』や今江祥智さんの『優しさごっこ』がそうでしたが、ウィルソンさんの本を初めて読んだときは、もっと早く読みたかった!とくやしく思ったほどです。

     さて、この物語のいちばんの魅力は語り口が湿っぽくないところです。
     親の離婚は子どもにとっては不幸なことが多いですが、だからって暗く重たく書く必要はなく、からりと悲しさやしんどさを語ってほしいのです。

     『バイバイわたしのおうち』はパパとママとアンディーの3人で桑の木のある一軒家で暮らしていたのが、両親の離婚によって、1週間事に双方の家を行ったり来たりする暮らしを強いられるようになった物語。

     両親の仲が破綻していても、子どもとの関係は破綻していないのだから、アンディーにとっては、どうにかやり直せないか、また一人っ子に戻りたいと願うのはとっても理解できます。

     双方ともに異母兄弟がいて、落ち着く場所がなく、ストレスをため続けるアンディー。そんなアンディーの親友はシルバニア・ファミリーのうさぎ人形、ラディッシュ。

     ラディッシュのおかげで、アンディーはもう一つの居場所も得ることができるので、そのあたりはぜひ本を手にとって読んでみてください。

     子どもの選択肢は少ないゆえに、逃げ場がなかなか見つからない。家、学校以外の居場所は大事です。

     アンディーにラディッシュがいてよかった。

     ニック・シャラットのイラストも物語にぴったり。子どもも大人も表情がいい、仕草がいい。みんな憎めない人物に描いています。

     ウィルソンさんの物語を必要とする子どもたちにこの本が届きますように。
     大人も読んで広めましょう!

     それでは、今年もよろしくお願いいたします。

  • 『口ひげが世界をすくう?!』『しずかにあみものさせとくれ-!』『テオのふしぎなクリスマス』//書評のメルマガ

    12/10日号で配信された「書評のメルマガ」ではユーモアたっぷりの本について書きました。
    http://back.shohyoumaga.net/?eid=979068
    ———————————————————————-
    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
    ———————————————————————-
    78 ユーモアは明日の活力

     12月になりました。
     今年も残りわずか。あと何冊読めるかなと思っているとき、最高におもしろい本を読みました!

     『口ひげが世界をすくう?!』
    ザラ・ミヒャエラ・オルロフスキー作
    ミヒャエル・ローハー絵 若松宣子訳
    岩波書店

     ヨーヨーの大好きなおばあちゃんが亡くなってしまいました。おじいちゃんはとても悲しみ、出かけることもなく、新聞ばかり読んでいます。しかし、ヨーヨーの心配をよそに、なんと、おじいちゃんは「ひげの世界チャンピオン」になる準備をはじめたのです。

     ヨーヨーはおじいちゃんを応援し、ひげコンテストのアシスタントとして、大会にも一緒に行き、おじいちゃんをしっかり支えます。

     イラストたっぷり、ルビつきなので、小学校低学年から楽しめます。

     世界ひげ大会に出るためにひげの手入れに必要な道具は見開きいっぱいに描かれ、興味をそそられました。各章にもひげがマークになっており、遊び心があちこちにちりばめられてます。

     さあ、どんなひげでおじいちゃんは大会に挑むのでしょうか!

     そのひげは、それはそれは素晴らしくキュート!
     とにかく見て!としか言えません。

     ひげが鍵となる物語なので、本書には複数種類の帯が用意されており、版元
    サイトで全種類みることができますので、ぜひ。

     https://www.iwanami.co.jp/book/b325123.html

     ユーモアいっぱいの本書は、年末の忙しさでつかれているときに心をほぐしてくれます。ぜひ手にとってください。

     『しずかにあみものさせとくれー!』
    ベラ・ブロスゴル さく おびか ゆうこ 訳 ほるぷ出版
     2017年コールデコット賞オナー作品。


     
     大勢の孫に囲まれてくらすおばあさん。冬がくるまえに編み物仕事をしたいにも関わらず、子どもたちがにぎやかで、集中させてもらえません。そこで、静かに編み物をできる場所を求めて家を出ることにしました――。

     あちこちさまよいながら、求めていた場所は意外なところ。そこで一仕事したおばあさんは次にどうするか。

     作者ベラ・ブロスゴルはロシアのモスクワ生まれ。5歳のときにアメリカに移住。2011年にコミック作家としてデビュー。本書は著者のはじめての絵本作品。

     コミカルにリズムよく、画面の空白づかいがとてもおもしろい作品。

     旅路の最後まで、どうぞお楽しみにください。

     それでは、今年最後にご紹介する絵本は、時季にちなんでクリスマス絵本。

    『テオのふしぎなクリスマス』
    キャサリン・ランデル 文 エミリー・サットン 絵
    越智典子 訳 ゴブリン書房

     テオはクリスマスをとても楽しみにしている男の子。でも、おとうさんもおかあさんも仕事でいそがしく、クリスマスイブでも、早く帰ってくるからねと言いつつ、後のことはベビーシッターさんまかせ。
     テオは願います。
     心臓のすみからすみまで、ぜんぶをこめて、ひとりぼっちでないことがいいと。

     クリスマスの奇跡がここからはじまります。つよく願うことと、それがかなう日なのですから。

     キャサリン・ランデルは『オオカミよ森へ』(原田勝訳 小峰書店)で骨太の動物物語を書いている作家。本書では、少年の強い気持ちを丁寧に描いています。

     エミリー・サットンの絵は、華やかで瀟洒にクリスマスの雰囲気を見事に描き、どのページも美しいのひとこと。思わず何度か絵をなでてしまったほどです。

     テオのクリスマスの願いごとがどのようにかなうのでしょう。

     ラストのゴージャスさは、すごーい!と感嘆しました。

     さあ、みなさまの願い事もかないますように。
     メリークリスマス! 
     そしてすこし早いですがよいお年をお迎えください。

  • とうごうなりささんの『じょやのかね』

    ちいさなかがくのとも10月号で注目した、とうごうなりささん。
    ブログにも書きましたが、それ以来、とうごうさんのHPを追っかけています。

    新刊絵本が福音館書店から出ると知り、楽しみにしていました。

    『じょやのかね』
    お正月絵本です。

    ストーリーはお父さんと息子が2人で新しい年を迎えじょやの鐘をならしに行くのです。
    真夜中の話なので、お正月絵本としてはちょっと変わっていて黒一色の世界が描かれます。
    華やかな色合いのものが多いなか、おもしろいです。

    絵本を読みながら、お正月の12時を過ぎるひとときを思い出しました。
    真夜中、時計がすすんだだけで、新しい年。

    絵本の中の男の子は「あたらしいとしはどこにきたんだろう」と思います。

    ほんと、あたらしいとしはどこにくるんでしょう。

    とうごうさんのブログによると

    「夜の光景と、日本のお正月の厳かな雰囲気を表したくて、黒一色で摺った版画にした。版に使ったのは床材のビニールタイルだ。」

    確かに厳かな雰囲気がでています。
    黒の世界に新しい年の空気が満ちています。
    本のカバーも広げると一枚の絵になっていて、見ごたえあり。

    お正月にまた読み返そうと思っています。

  • 『灰色の地平線のかなたに』『凍てつく海のむこうに』//書評のメルマガ

    11/10日号で配信された「書評のメルマガ」では岩波書店の2冊について書きました。
    http://back.shohyoumaga.net/?eid=979068

    ———————————————————————-
    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
    ———————————————————————-
    77 知らないことを知る

     10月に入ってからの台風、被害にあわれた地域の方々にお見舞い申し上げます。

     毎年、いままでにない気象が起こり、各地で日常が突然奪われてしまう。
     さまざまな状況の中でできるだけ冷静に対処し、明るく過ごす事の大事さを思います。

     こういう時はじっくり本を読む。
     読んでいろいろ考える。

     今月はじっくり時間をかけて読む、長編作品をご紹介します。

     『灰色の地平線のかなたに』 
     『凍てつく海のむこうに』
     ルータ・セペティス作 野沢佳織 訳 岩波書店

     今年2017年カーネギー賞を受賞したのは『凍てつく海のむこうに』

     イギリスの図書館協会が年に1度、児童・ヤングアダルト向けのすぐれた作品に贈る賞です。

     ルータ・セペティスの作品は2012年に『灰色の地平線のかなたに』が翻訳れています。
     2冊続けて読んでみました。

     『灰色の地平線のかなたに』

     第二次世界大戦中のリトアニアで、15歳のリナはソ連の秘密警察につかまりシベリアの強制労働収容所に送られてしまいます。父親は別の場所に連れていかれ、母親とリナ、弟のヨーナスの3人は、集団農場(コルホーズ)で働かされることになりました。つらい長旅のあと、厳しい農作業の労働を強いられる中、リナはいつか父親と再会し、画家を再び目指せることを未来に描き、現実を耐え抜きます。

     文字を読みながら映像をみているかのような描写に、息をつめて読んでいる自分がいました。

     過酷な環境の中、自分を守ることで精一杯になりがちな場においてリナの母親が常に他者に対しての思いやりをもっている姿も心を揺さぶられました。
     
     作者、ルータ・セペティスは歴史上であまり語られていなかったできごとを物語にして差し出します。

     ナチスのユダヤ人虐殺は多く語られてきている一方、同時期にスターリンが率いるソ連がバルト諸国のみならず自国の市民も逮捕し、シベリアに追放してきたことはそれほど知られておらず、これに光をあてて書いたのが本作です。

     生き延びたいという強い気持ちをもつリナの生き方に圧倒され、ここまで追い詰める戦争の罪深さを忘れてはならないと強く思いました。

     続けて
     『凍てつく海のむこうに』を読みました。

     リナの従兄弟ヨアーナが主人公です。

     『灰色の~』でもヨアーナについて語られることはあっても、本人は登場していません。ヨアーナもまた、リナと同じように強い少女でした。

     第二次世界大戦末期、ソ連軍の侵攻がはじまるなか、ナチス・ドイツ政府は孤立した東プロイセンから、バルト海を経由して住民を避難させる「ハンニバル作戦」をとります。

     その史実を背景に、作者は海運史上最大の惨事とよばれる〈ヴィルヘルム・グストロフ〉号のことをヨアーナ含む4人の若者たちの視点でフィクションを紡ぎました。

     大人がしている戦争に巻き込まれるこどもたちが、どんな思いを抱いていたのか、物語を読むことで、私たちは想像し、そうでない未来をつくっていかなくてはと意識するようになるのでは。

     知らなくてはいけないことを知ること。
     意識していないと、知っている世界はごく狭いものになってしまう。
     知ろうと意識すること、
     物語の世界は、それをみせてくれます。

     2冊あわせて6センチ近い厚みをもつ物語は、読むのにちょっとひるんでしまうかもしれませんが、読み始めるとあっというまに歴史の世界へ誘います。

     ぜひ読んでください。

  • ゆきのひのおくりもの

    すずき出版より『ゆきのひのおくりもの』が復刊されました! うれしいな♪

    このレトロ感あふるる感じの表紙は、一定数の気持ちを即座にわしづかみにしているはず。
    手元に届いたものは1週間で増刷がかかった2刷りめです。

    日本に紹介された最初は2003年。いまから14年前ですね。
    パロル舎は、残念ながらいまはない出版社ですが、この絵本シリーズを立ち上げるなど絵本出版に意欲的でした。

    原書は「ペール・カストール」シリーズの1冊で、1931年にポール・フォーシェにより創刊されたもの。
    まだ子どもの本がほとんど存在しなかった時代に、教育のため、文章、絵とものに最高に質のいい本を安い値段で子どもたちに提供として立ち上がったシリーズです。(訳者ふしみみさをさんによる説明より)

    このあたり、福音館の「こどものとも」シリーズに通じるものを感じます。
    「こどものとも」もロングセラーが多いですが、
    このシリーズもまたフランスのみならず世界中で何世代にもわたって読み継がれているロングセラーです。

    パロル舎版も新版のすずき出版、どちらもすてきです。

    好奇心より比べてみますと、違いは版型の大きさ、すずき出版の方がちょっぴり縦長。
    紙質はすずき出版さんの方は光沢があり、パロル舎さんの方はマットな感じです。

    訳者はどちらも同じふしみみさをさん。
    訳文はすずき出版ではよりブラッシュアップされています。

    さて物語は
    雪がしんしんふっているなか、こうさぎはおなかがすいて、食べ物を探しに雪の中を歩きます。
    そこで見つけたのがにんじん2本。
    1本を友人のこうまくんにもっていきます。
    こうまくんもまた外で別の食べ物をみつけ家に帰ってきたときにんじんをみて、今度は……。

    やさしい気持ちがリレーのようにつながっていくお話。
    ゲルダ・ミューラーの動物を描くタッチは写実的でも、デフォルメも擬人化もなく、それでいて、どの動物の目も気持ちを雄弁に語っていて親しみを感じます。

    これからの冬の季節、あったかい部屋で読むのにぴったりの絵本です。