• 『変化球男子』『明日のランチはきみと』『サイド・トラック  走るのニガテなぼくのランニング日記』『シロクマが空からやってきた』『クリスマスのおかいもの』 『ゴッホの星空 フィンセントはねむれない』『ねむりどり』『シルクロードのあかい空』

    12/10日号で配信された「書評のメルマガ」では『変化球男子』『明日のランチはきみと』『サイド・トラック  走るのニガテなぼくのランニング日記』『シロクマが空からやってきた』『クリスマスのおかいもの』 『ゴッホの星空 フィンセントはねむれない』『ねむりどり』『シルクロードのあかい空』をご紹介しました。
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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    90 豊かで複雑な雑多な世界

     いよいよ今年最後のメルマガ記事になります。
     みなさんにとって2018年はどんな一年だったでしょうか。
     もう来月は新しい年!

     今年をしめくくる本としてどれを紹介しようかと読んでいたら、どれもこれ
    もアタリばかりでうれしくなったので、できる限りご紹介します!

     トップバッターはこちら。

     『変化球男子』
     M・G・ヘネシー 作 杉田七重 訳 すずき出版

     おもしろいタイトルに惹かれて読み始めたら、ものすごい吸引力!
     ロサンゼルスの中学校に通う男子、シェーンが主人公。野球部で活躍し、ジョシュという大親友もいて、学校生活をエンジョイしています。
     思春期まっただなかのシェーンには悩みもあり、それはなかなか人にはいえないもので、親友にも秘密にしています。
     さて、その秘密とは――。

     シェーンの悩みとは、女の子の身体なのに、心は男の子ということ。離婚している両親のうち一緒に暮らしている母親は理解しているのですが、父親は手術を受けて身体も男の子になりたいシェーンの気持ちをまるごと受け入れるこ
    とができません。悩みを軸に、家族、親との関係、友情などたくさんのことが語られていて、シェーンの悩みはどう着地するのか。このテーマ、悩んでいる日本の子どもたちにも届いてほしい本です。

     『明日のランチはきみと』
     サラ・ウィークス/ギーター・ヴァラダラージャン 作
     久保陽子訳 フレーベル館

     アメリカ人作家、サラ・ウィークスと、インド人でアメリカ在住の小学校教師、ギーター・ヴァラダラージャンの2人で執筆した作品です。
     主人公のラビはインドからアメリカに引っ越してきた小学5年生。インドでは優秀だったので、アメリカでも勉強に遅れをとることはないと思っていたのですが、インド式計算もクラスの先生には受け入れてもらえず、いままで優等
    生のスタンスでいたがゆえに、落ちこぼれのレッテルを貼られてしまうギャップに苦しみます。
     もう一人の主人公はジョー。「聴覚情報処理障害」という聴く能力に問題があり、自分に自信がもてず学校では消極的です。
     
     物語はこの2人のシチュエーションが交互に語られます。お互いのバックグラウンドはかなり違うのですが、少しずつ打ち解けていき、一週間も過ぎると2人はぐっと近しくなっていきます。

     文化の違う国に転校するハードルの高さ、それを超える大変さがユーモアも交えて書かれていて読後感が爽やかです。

     『サイド・トラック
      走るのニガテなぼくのランニング日記』
     ダイアナ・ハーモン・アシャー作 武富博子訳 評論社

     主人公の少年フリードマンは「注意欠陥障害」を抱えています。運動音痴にも関わらず、新しくできた陸上部に入り、クロスカントリー競走に挑戦することに。

     スポーツ物語とくれば、中心にすえられるのは、スポーツ得意な人物が多いですが、今回はそうではありません。サブタイトルにあるように、走るのニガテなぼくのランニング日記なのです。

     登場する人物で魅力的なのは、フリードマンを支えるのは79歳のおじいちゃん。高齢者住宅〈ひだまりの里〉にいたのだが、ある事がきっかけでフリードマンの家で同居することになるのです。フリードマンのよき理解者であるおじ
    いちゃんは、クロスカントリーに挑むことを誰よりも応援します。

     そしてもう一人、転校生の女子ヘザーも、フリードマンのよき友だちになり、2人の友情も物語の柱です。

     最初は望まなかったクロスカントリー走、フリードマンはどんな風に走るのか、本書でぜひみてください。

     『シロクマが空からやってきた』
     マリア・ファラー 作 ダニエル・リエリー 絵 杉本詠美 訳
     あかね書房

     シロクマシリーズ第二弾。とはいえ、前巻を読んでいなくても気にしなくて大丈夫です。

     主人公ルビーの母親は、父親と離婚して以来、仕事も手につかず、幼い弟の世話もルビーに任せることが多くなっていました。ルビーは必死で母と弟を支えますが、そうはいってもまだ子どもなのです。

     そんなルビーの前に、シロクマがあらわれます。たくさん食べる(つまり、食費もかかる)体の大きなシロクマを住んでいるマンションョンに連れていくわけにはいきません。けれど、なりゆきでマンションの下の階に住んでいるモ
    レスビーさんの助けもあり、シロクマとの生活がはじまります。

     言葉は発しないシロクマですが存在感と行動力はあります。ルビーも次第にシロクマと打ち解けていき、母親の問題も解決に向かっていきます。

     ものいわず寄り添ってくれる(静かにではないですが)シロクマの存在感が伝わってきて、ルビーの心がほぐれていくのにほっとします。親が病気になった時、子どもは大人の役目も担わされることがあります。そんな子どもたちの
    ことはヤングケアラー(若い介護者)と呼ばれ、日本にも少なくない子どもたちが同じ立場にいます。

     物語のあったかさと子どもの問題をやんわりしっかり伝えてくれる好著です。

     さて、12月といえばクリスマス!
     贈り物におすすめの絵本、
     ストレートにクリスマスを楽しめる絵本をご紹介します。

     まずはこちらから。

     『クリスマスのおかいもの』
     ルー・ピーコック ぶん ヘレン・スティーヴンズ え こみや ゆう やく
     ほるぷ出版

     ペン画に水性の色をのせた、あたたかい雰囲気のクリスマス絵本。

     男の子のノアはママと赤ちゃんの妹メイの3人でクリスマスプレゼントの買い出しに出かけます。

     ママは小さい子ども2人と一緒なので、ノアたちに目をくばりながら、プレゼントの買い物に集中していきます。ノアは大事なオリバー(ゾウのぬいぐるみ)と一緒にメイと遊んで待っています。

     買い物が終わり、一息ついたとき、ノアは気づくのです。オリバーがいない! 大変! 買い物の次はオリバー探し……。

     オリバーの存在の大事さをママがしっかり受けとめているからこそのラスト。
    クリスマスの幸福感に満ちています。

     贈り物絵本でおすすめはこちらの3冊。

     『ゴッホの星空 フィンセントはねむれない』
     バーブ・ローゼンストック 文 メアリー・グランプレ え 
     なかがわちひろ 訳 ほるぷ出版

     この絵本では、画家になるまえのゴッホが描かれます。子どもの頃から、夜中に何度も目を覚ましていたこと、夜でも嵐でもひとりで散歩に出かけていたことを、私はこの絵本で初めて知りました。

     その時に感じた心持ちが後に夜空を描くときに塗り込められたのでしょうか。
     ゴッホの絵といえば、ひまわりもすぐ思いつきますが、夜空の絵も強い印象を残します。我が家の高校生の娘っこにゴッホの絵で何がすぐ思いつく?と聞いたところ、星空が独特だよね、とこたえてくれました。

     夜なかなか眠れなかったゴッホが、画家になり、「色彩をつかって夜の闇をえがくこと」を自身の課題とし、独特な夜空を描いていく過程を本書でじっくり楽しめます。

     『ねむりどり』
     イザベル・シムレール 作 河野万里子 訳 フレーベル館

     『シルクロードのあかい空』
     イザベル・シムレール 文・絵 石津ちひろ訳 岩波書店

     シムレールの絵本は、とにかく強いインプレッションを読み手に与えてくれます。

     ひっかいたような細い線で幾重にも色を重ね、その繊細さの重なりがハッとさせる美しさにつながっているのがシムレールの絵。

     『ねむりどり』では羽毛のふわふわさが、紙の上からもリアルに感じられ、ついつい手がのびて紙の上からなでてしまいます。

     『シルクロードのあかい空』では山裾にしずむまっかな夕陽の明るさとともに、強い目力をもつ子どもも印象に残ります。

     贈り物にもぴったりですし、
     直接手にとって時間をかけてみて欲しい絵本です。

  • 『ルイーズ・ブルジョワ 糸とクモの彫刻家』『せん』『オレゴンの旅』

    11/10日号で配信された「書評のメルマガ」では『ルイーズ・ブルジョワ 糸とクモの彫刻家』『せん』『オレゴンの旅』の3冊をご紹介しました。
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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    89 芸術の贈り物

     『ルイーズ・ブルジョワ 糸とクモの彫刻家』
      エイミー・ノヴェスキー 文 イザベル・アルスノー 絵
      河野万里子 訳 西村書店

     イラストレーター、イザベル・アルスノーの作品をひとめみたときから、これは追いかけて読みたい絵本作家だと注目してきました。グラフィック・ノベル『ジェーンとキツネとわたし』も2015年にメルマガで紹介しています。

     今回の絵本は彫刻家ルイーズ・ブルジョワの生涯を描いたもので、エイミー・ノヴェスキーが文章を書いています。

     芸術家の評伝と絵本はとても相性がよく、ルイーズの芸術の本質が別のアーティストによって違う色彩で輝き、印象づけられます。

     母親はタペストリーの修復を仕事としており、ルイーズは12歳になると、母親の仕事をおぼえはじめ、修復の線や下絵を描くようになります。修復が必要なタペストリーのすその部分だったので、必然的にすその部分――人の足を描くのが上手になったそうです。

     母と一緒に修復の作業をしたことは、ルイーズの原点となり、大学では数学を専攻したにもかかわらず、母親が亡くなったあとは、修復する――つなぎあわせ、完全なかたちにもどす――ことを仕事にしていきます。

     しかし、母の死はルイーズの未来を変えました。

     絵を描き、織物を織っても、母に会いたい気持ちはおさまらず、彫刻でそれはそれは大きなクモをつくるようになります。
     ブロンズや鉄など様々な素材でクモをつくり、題を「ママン(おかあさん)」とつけました。

     32歳のときにタペストリーの個展をひらき、6年後に初の彫刻作品を発表。71歳のときに、ニューヨーク近代美術館(MOMA)で開催した回顧展でとうとう世界的に認められたのです。

     ルイーズは子ども時代の思い出が、創作におけるインスピレーションの源と語っており、なぜ「クモ」を題材にしているかも絵本で紹介されています。

     アートを強く感じる本書は子どもにも大人にも刺激を受ける一冊としておすすめです。

     『せん』
      スージー・リー 岩波書店

     そぎ落とされたシンプルな線で描かれた絵本。
     スージー・リーは、デッサンの線から豊かな物語を絵で語りかける作家です。

     赤い帽子をかぶった少女はスケートでリンクに美しい線をつけていきます。

     見開きの白いページで少女はすべるのですが、あら、スケートリンクだと思っていたのは紙??と疑問符がよぎる、少しトリッキーな展開のあとは「せん」のもたらす妙味に唸らされるのです。

     サイレントムービーのように言葉なく「せん」のみで描く少女のスケート世界の豊かさに、みているだけで満足感がこみあげます。

     最後にご紹介するのは、うれしい復刊絵本。

     『オレゴンの旅』
      ラスカル 文 ルイ・ジョス 絵 山田兼士 訳 らんか社

     セーラー出版で刊行されていた『オレゴンの旅』が復刊です。
     (ご存知と思いますが、らんか社は2013年にセーラー出版から名前が変更になった版元です)

     星のサーカス団でデュークはオレゴンという名のクマと友だちになります。
     オレゴンはデュークに大きな森に連れていってほしいとお願いします。

     デュークはクマのオレゴンが口をきけることに驚くものの、願いをかなえるべく、ふたりでサーカス団を離れることに同意します。

     デュークはピエロでした。そしてピエロの恰好のまま、オレゴンと旅をします。

     ヒッチハイクをしたとき、運転手のスパイクはデュークになぜ赤いハナつけおしろいをぬっているのかたずねます。

     「顔にくっついてとれないんだ。小人(こびと)やってるのも楽じゃないんだよ…」 
     「じゃあね、世界一でかい国で黒人やってるのは、楽だと思うかい?」

     どのページもタブローのような完成度で、
     少しもの悲しさをただよわせる旅の空気感がリアルです。

     オレゴンとの約束を果たしたあとのデュークがとてもかっこいいので、見てほしい。

     10代の本棚におすすめしたいとらんか社さんからのメッセージなので、我が家の高校生の娘っこと一緒に読んだところ、

     「かっこいいー!」

     オレゴンの旅の絵本が放つメッセージをひとりの高校生には伝わったようです。

  • 『ジャーニー 国境をこえて』『ソフィーのやさいばたけ』『わたしたちだけのときは』

    10/10日号で配信された「書評のメルマガ」では『ジャーニー 国境をこえて』『ソフィーのやさいばたけ』『わたしたちだけのときは』の3冊をご紹介しました。
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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    88 移動する、その先にあるもの

     『ジャーニー 国境をこえて』
     フランチェスカ・サンナ 作
     青山 真知子 訳
     きじとら出版

     描かれているのは、
     どこの国かを特定せずに、
     戦争がきっかけで、自分の国から「安心してくらせる」よその国へ旅に出る親子。

     夏になると家族そろって海を楽しんでいた暮らしは、戦争でかきけされ、めちゃくちゃにされました。

     デフォルメされた中間色の絵の中で、戦争の暗い影だけは濃い黒でぬられ、その色をもってして残酷さが際立ちます。

     黒い影の手から離れるために、親子を含め多くの人がいままでの暮らしを後ろに残して、本当は望まない長い長い旅に出なくてはならない状況を絵が訴えます。

     絵本では「安心してくらせる」よその国にたどりつくところは描いていません。たどりつこうと動いている進行形がそこにあるだけです。

     帯の言葉を書いているのは、自分の国を離れて8歳のときに日本にきた女優のサヘル・ローズさん。
     育ての親と2人で来日してからも生活はすぐに軌道にのらず、きびしい生活が長く続いたそうです。

     サヘル・ローズさんが帯に書かれた言葉には体験の重みを感じます。

     

      「ただいま」といえる故郷はありますか?
       戦争が奪うのは命だけじゃない、笑顔も居場所も奪った。
       それでも彼らは、そして私も生きようとしている。

     絵本を刊行したきじとら出版では、本書を題材にして人権を学べるように、ワークシートをHPで公開していますのでぜひ下記を参照ください。

     

    http://kijitora.co.jp/
     「本のご紹介」>「ジャーニー 国境をこえて」からダウンロード

     次にご紹介するのは、自分たちの土地で野菜を育てる絵本です。

     『ソフィーのやさいばたけ』
     ゲルダ・ミューラー 作 ふしみ みさを 訳  BL出版

     オランダ生まれ、現在はパリで生活しているゲルダ・ミューラー。彼女の描く自然に私はとても惹かれます。花や野菜についている土がリアルに感じるからです。

     87歳の絵本作家が描いたのは、夏休みに田舎の祖父母宅に遊びに行ったソフィーです。ソフィーは祖父から、畑道具と、自分の好きなものを植えていい畑をもらいます。

     虫がいるおかげで、花は実をつけることを、ソフィーは祖母に絵をかいてもらいながら教えてもらいます。
     
     お日様の下にある畑だけでなく、夜空の下でも育っている野菜、夏からはじまり、秋、冬、春と季節がめぐる様子、
     
     作者ゲルダ・ミュラーは、ソフィーの祖父母のように、私たち読者に野菜の育ちみせてくれます。

     キャベツ、エンダイブ、ズッキーニ、ケール、パセリ、トマト、
     セイヨウミツバチ、クマバチ、オニグモ、ヨトウガ、かたつむり。

     生き物がたくさんいる畑の豊かさが絵本に満ちています。

     最後に紹介する絵本にもおばあちゃんが登場します。

     『わたしたちだけのときは』
      デイヴィッド・アレキサンダー・ロバートソン 文
      ジュリー・フレット 絵 横山和江 訳 岩波書店

     遊びにきた孫娘が祖母にいろいろ質問します。

     「ねえ、どうしてそんなにきれいないろの、ふくをきてるの?」
     「どうして、かみの毛をながくのばしているの?」

     「それはね……」

     子どもの頃は自分の好きな服が着られず、みな同じ服を着なければいけなかったこと等、先住民族の同化政策を、孫娘にとどく言葉で語ります。

     それは、どれほど同化政策を押しつけても、心は自由と幸せを求めていた祖母の言葉でした。

     深みのある色合いで、時代に抵抗することの厳しさを超えて、自由にくらせるいまを生きている祖父母たちが描かれ、余韻が長く残りました。

     『ジャーニー 国境をこえて』の親子が、ソフィーや『わたしたちだけのときは』の祖父母や孫娘のように安心してくらせる所にいつか落ち着けますように。

  • 『おとうさんとぼく』新装版

    9/10日号で配信された「書評のメルマガ」では『おとうさんとぼく』新装版をご紹介しました。
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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    87 日常と非日常

     豪雨、台風、酷暑、そして地震。立て続けに日本のあちこちを襲う災害、被災地のみなさまに心からお見舞いを申し上げます。これからの復興に向けて、心身共に疲れがでてくると思います。休めるひとときが少しでも長くあります
    ように。

     大きな災害がおきると、当事者ではなくても何かできることはないだろうか、こんな事が起きるなんてと心を寄せる人は何かしら共に傷ついていると思います。

     今年2月に地元の博物館で「語りがたきものに触れて」というクロストークイベントに参加しました。そのとき、久保田翠さん(認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ理事長)が、東日本大震災で傷つかなかった人がいるの
    でしょうかと話をされ、ああ、そうだと深く納得しました。

     私は震災から数年にわたって、本を以前のように読めなくなりました。心にすっと入らなくなり、読むのに時間もかかるようになりました。

     なので、今回はどの本について書こうかいろいろ悩みました。
     思いついたのがこの本です。

     このメルマガでは8年前にも一度ご紹介したe.o.プラウエンのマンガが、今年、岩波書店から新装版で刊行されました。

     『おとうさんとぼく』e.o.プラウエン 岩波少年文庫

     1985年に2冊組で刊行されたものを、内容を一部変更し1冊の形になっています。

     言葉のないコママンガです。
     おとうさんとぼくの2人の何気ない日常が描かれ、言葉がなくてもやりとりの意味はよくわかるものばかりで、読んでいるとクスクス笑いがこぼれます。

     おとうさんはぼくが大好きで、ぼくもおとうさんが大好き。
     仲良しのときもあればケンカするときもある。

     ぼくが読んでいた本をおとうさんが背中ごしに読み、そのうち夢中になったおとうさんが、本を手によみはじめ、いつしか、ぼくがおとうさんの背中ごしに本を読んでいます。立場が逆転してしまうほど、夢中になるおとうさんはまるで子どものようです。

     夏休みをスペシャルなものにしようと、眠っているぼくをどこかに連れ出すおとうさんも、何より自分が楽しみたいのではとそのワクワクぶりが伝わってきます。

     どのエピソードも、ユーモアたっぷり、愛情たっぷり。
     
     いつ読み返しても夢中になれる、大好きなこの本を高校生の時以来、30年以上何度も読んできました。心がざわついたときに読むとすっと落ち着けます。

     新装版にも上田真而子さんの解説が掲載され、それに加え、エーリヒ・ケストナーによるプラウエンについた書いたエッセイも入りました。どちらの文章もこのマンガが書かれた背景について深く考えさせられます。

     プラウエンはナチスの時代に生きた作家です。
     上田さんの解説にはこう書かれています。

    「世の中が刻々ナチスのかぎ十字とかっ色の制服にぬりつぶされていったあの暗い時代に、いっときにしろ、自然に、自由に、心の底から笑えるものに出会ったよろこびを、いまも回顧する年配のドイツ人が少なくありません。『おとうさんとぼく』は全体主義の中で人間性をおしつぶされていた1人1人が、ほんとうの人間に出会えてほっと一息つけるオアシスでした」

     プラウエンの『おとうさんとぼく』が私にとって特別な本になったのは、上田さんの文章があったからでもあるのです。
     その上田さんも昨年暮れに逝去され、さみしい限りですが、翻訳された本や解説を書かれたを本を含め、これからも読み継がれていくことでしょう。

  • 『わたしのくらし 世界のくらし 地球にくらす7人の子どもたちのある1日』『すいかのプール』『おやすみなさい トマトちゃん』『この計画はひみつです』

    8/10日号で配信された「書評のメルマガ」では『わたしのくらし 世界のくらし 地球にくらす7人の子どもたちのある1日』『すいかのプール』『おやすみなさい トマトちゃん』 『この計画はひみつです』の4冊をご紹介しました。
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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    86 空は高く青く、夜空には星がまたたく

    酷暑が続き、各地で最高気温を記録しています。
    豪雨被害の被災地ではまだまだ生活再建に時間がかかり本当に大変ですが、休めるときは少しでもゆっくりできますように。

    さて、夏休みの季節になり、涼しい部屋で本を読む時間をもてているでしょうか。
    最初にご紹介する絵本は、7つの国、それぞれで暮らす子どもたちが描かれています。

    『わたしのくらし 世界のくらし
    地球にくらす7人の子どもたちのある1日』
    マット・ラマス 作・絵 おおつかのりこ 訳 汐文社

    イタリア・日本、イラン、インド、ペルー、ウガンダ、ロシア、これら7つの国に住んでいる子どもたちの様子が見開きいっぱいに紹介されます。

    子どもたちの表情、学校に着ていく服、授業の様子、学校の先生、名前の書き方、放課後の過ごし方――。

    見開きに複数の国の子どもが紹介されているので、様子の違いがひとめでわかります。どんな洋服を着ているのか、どんな遊びをするのか、食べ物はどういうものを食べているのか。丁寧に描かれた絵から、その先にある生活のリアルさが感じられます。

    作者のマット・ラマスさんは、この子どもたちが、その国や文化の代表だとはいえませんと説明を加えています。代表ではなくても、自分たちの国以外の生活をみることは、世界を広げてくれます。違っているところ、似ているとこ
    ろ、知るのは楽しい読書体験です。
    それに鳩や猫、馬なども描かれているのですが、動物は各国ほとんど同じです。私は鳩が食べ物をついばむ小さなシーンが大好きです。どのシーンも、何が描かれているのか観察し、発見があります。

    巻末には用語集もあり、例えば、ごはんのページに登場する料理がどんなものか教えてくれるので、食べたことがなくてもイメージがわきます。

    そしてなにより私がこの絵本でハッとしたのは7つの国の子どもたちの共通点です。互いの国で同じにみえるものがあることに、あらためて感動し近しさを感じます。
    ぜひみてみてください。

    次にご紹介するのはいまの季節にぴったりの絵本。

    『すいかのプール』
    アンニョン・タル 作 斎藤真理子 訳 岩波書店

    今年は韓国文学がにぎやかで、翻訳者の斎藤さんのお名前をよく見かけます。
    絵本にも活躍の場が広がっていて、うれしいかぎり。

    本文を引用します。

     「まなつのお日さま あっつあつ。
    すいかはすっかり じゅくしてます。

    すいかのプールの プールびらきです。」

    すいかプールの管理人さんでしょうか。大きな麦わら帽子をかぶった白髪のおじさまが、すいかプールをチェックします。

     「うーむ、きもちいい

    プールびらきを知った子どもたちは、走ってプールに向かいます。

    たっ たっ たっ たっ たっ たっ」

    足音が聞こえてきそうです。

    この足音にはじまり、絵本には音がいっぱい登場します。
    すいかプールに入る音、ちゃぽーん。
    さっく さっく さっく さっく
    足でぴちゃぴちゃすれば、すいかジュースもたまります。

    子どもだけでなく、妙齢の大人も楽しんでいるのに、ニヤニヤします。
    暑いですからね。

    プールのまわりの出店も味があります。

    夜になり、最後の子どもが帰ると、すいかプールも店じまい。

    絵本の中に入りこみたくなる、引き込み力抜群のお話です。
    夏の間にぜひ読んでください。

    続いて、こちらもいまの季節にぴったりの絵本。

    『おやすみなさい トマトちゃん』
    エリーザ・マッツォーリ 文
    クリスティーナ・ペティ 絵
    ほし あや 訳 きじとら出版

    今年の東京都板橋区いたばしボローニャ子ども絵本館主催、
    いたばし国際絵本翻訳大賞〈イタリア語部門〉受賞作品です。

    きじとら出版では、翻訳受賞作の絵本を刊行しており、本作は今年受賞したものです。

    表紙で大泣きしているのは、主人公のアニータ。
    トマトが大嫌いでいつも残しているので、とうとうおかあさんはトマトを食べ終わるまで、トマトと一緒に部屋にいるようアニータに言いました。

    アニータはいつか気が変わって呼んでくれると、楽観的にかまえていましたが、なかなかそうならず、おなかはすくばかり。

    他にすることもないので、トマトを相手におかあさんごっこをはじめます。
    アニータはおかあさん役。
    あやして、遊ばせて、寝かしつけて、そして……。

    トマトはリアルな写真がコラージュされ、思わず指でさわってみたくなるほど赤くてピカピカきれいです。

    アニータがおかあさんごっこで、トマトちゃんと近くで過ごしているうちに芽生えてくる感情にふふふと笑いがこみ上げてきます。

    赤くておいしそうなトマトちゃん。
    どこでねんねしているかな。

    さて、今号最後にご紹介する骨太絵本はこちらです。

    『この計画はひみつです』
    ジョナ・ウィンター 文 ジャネット・ウィンター 絵
    さくまゆみこ 訳 すずき出版

    ジャネット・ウィンターは、伝記や実際にあったことを描いた作品を多くつくっている絵本作家です。文章を書いているのは、息子。ノンフィクション絵本を手がけています。

    この2人が描いたのは、核です。

    1943年3月、アメリカ合衆国政府は、科学者を集めて、ひみつの計画をスタートさせました。科学者たちが作り出したものは、最初の「原子爆弾」です。1945年7月16日、ニューメキシコ州南部の砂漠で、最初の核実験が行われたのです。

    ジャネット・ウィンターの絵は、マットな色調とやわらかな線で描き、率直にできごとを伝えてくれます。

    世界で最初に行われた核実験の影響は、2018年現在も続いており、アメリカ政府は2014年になって、その当時住んでいた人たちの健康調査をはじめました。70年過ぎてからです。

    私は最初にこの絵本を読み間違えていました。この実験の後に日本に2度核爆弾投下されることについて書いているのかと勘違いしたのです。

    しかし、この絵本を読んだ2週間後、ノーマ・フィールドさん(※)の学習会に参加する機会を得て、このトリニティ実験について詳しく知ることができ、絵本をあらためて読み直しました。

    大人がした愚かな行為を、子どもにわかるように絵本の形で伝えていることは意義があると思います。強い印象を残す、実験後のキノコ雲の絵、そしてラストのページの意味することを、これからも大人は伝えていかなくてはいけないのです。

    絵本の著者あとがきと、訳者あとがきも読みごたえがあります。

    知らなくてはいけないことが描かれている大事な絵本です。

    (※)ノーマ・フィールド
    日本で生まれ、米国シカゴ大学で日本文学を教えてきた。
    原爆投下や原発事故の「被ばく者」に寄り添いながら、日本社会に発言を続けている。(2016年4月26日朝日新聞の紹介文より)
    http://digital.asahi.com/articles/ASHD66560HD6PTIL00P.html

  • 『山の上の火』『アンデルセンのおはなし』

    7/10日号で配信された「書評のメルマガ」では『山の上の火』『アンデルセンのおはなし』の2冊をご紹介しました。
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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    85 普遍的な物語の効能

     各地の水害で避難にあわれたみなさまの日常が、一日も早くもどってきますように。孤立されている方々が無事救助され、食べ物や日常に不足なものがなくなりますように。

     一年の中でおだやかに過ごせる季節が少なくなっているような感覚です。
     地震があり、豪雨があり、土砂災害があり。

     ざわざわする心持ちのとき、
     なにを読めるだろうかと考えました。

     そんなとき、
     フェイスブックで、京都の子どもの本の店「きんだあらんど」さんが、『山の上の火』というエチオピアのおはなしを紹介されていたのを読み、久しぶりに再読したところ、なんともいえない落ち着いた気持ちになりました。

     「きんだあらんど」Facebookページ
     

     アルハという若者がご主人様と賭けをします。
     スルタ山のてっぺんに一晩中、裸で突っ立っていられるかどうかです。
     アルハは賭けを引き受けてから心細くなり、ものしりじいさんに相談しました。じいさんは、スルタ山の谷を隔てたところにある岩の上で火をもやすので、それをみて山に立ち続けることを提言しました。

     直接あたためない火でも、その火を燃やし続けてくれるじいさんの気持ちはアルハを一晩山の上で立たせる力の源になりました。
     
     その後の話は一筋縄ではいかないのですが、しめくくりはとてもよいものでした。

     この話を読んだあと、アンデルセンを読みたくなりました。

     岩波文庫や福音館文庫でも、アンデルセン童話集は刊行されていますが、この5月にのら書店からアーディゾーニが選んだアンデルセン作品が出たのです。

     『アンデルセンのおはなし』
     スティーブン・コリン /英語訳
     エドワード・アーディゾーニ/選・絵 江國香織訳 のら書店

     たくさんのアンデルセンの物語から、14編を選び絵をつけたのが、エドワード・アーディゾーニ。1979年に亡くなっている、イギリスの画家です。『チムとゆうかんなせんちょう』(福音館書店)のシリーズ絵本等の他、児童文学の挿絵も描いています。

     アーディゾーニの描く子どもは、その心情が浮かび上がってくるかのような繊細なタッチで、見入ってしまう魅力があります。

     既訳のアンデルセン作品は、大塚雄三さん(福音館文庫)も、大畑末吉さん(岩波文庫)も、簡潔ですっきりしたものですが、江國香織さんの訳文は、情景が目に見えるようで、また、すっきりした読みやすい文章は、声に出して読むとより楽しめます。

     14編をいくつか音読していると、高校生の娘もいつのまにか聞いていたほど、よく知っている話でも、ぐぃっと物語世界に引き込まれます。

     2つの話をご紹介します。

     「しっかりしたスズの兵隊」

     25人いるスズの兵隊の内、1本足の兵隊がいました。
     彼は、片足を上げて踊っている小さな女の人(紙でできています)も自分と同じように1本足だと思い、心を寄せます。同じ家のおもちゃには、びっくり箱に入った小鬼がいました。小鬼はスズの兵隊に冷たい言葉を放ちます。小鬼のしわざなのか、スズの兵隊は、家から出てしまい、紆余曲折を経て、また同じ家に戻るのですが、残酷な運命が待っていました……。

     スズの兵隊の実直な様子や、小鬼の意地悪さ、踊り子の可憐さがまっすぐに伝わり、兵隊が運命に翻弄されラストを迎えるまでずっとハラハラします。

     短い話ですが、スズの兵隊に流れる人生の時間はとても濃密です。

     「皇帝の新しい服」は「はだかの王様」というタイトルでよく知られている話です。

     衣装に目のない皇帝が、すばらしい衣装という言葉にひかれて、ペテン師にだまされてしまう話です。
     
     その役職にふさわしくない者にはみえないすばらしい衣装。皇帝より先に、チェックした側近たちもみな、役職にふさわしい事を示すために、みえない衣装をほめちぎります。

     衣装をつけたつもりで大行列する皇帝に、ひとりの子どもがぴしゃりと言います。「皇帝は何も着ていないよ!」

     この子どものひとことは、いまの私には響きました。

     はだかの王様を滑稽だと思っていたときもありましたが、いい大人になってから読むと、周りの目を気にすることをより理解できるようになったからです。

     普遍的だからこそ、このお話はいまも読み継がれるのでしょう。

     まずは、ひとつふたつ、読んでみてください。

  • 「絵で読む子どもと祭り」「しりとり」『ちょうちょのために ドアをあけよう』

    6/10日号で配信された「書評のメルマガ」では「絵で読む子どもと祭り」「しりとり」『ちょうちょのために ドアをあけよう』をご紹介しました。
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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    84 微細に描かれた絵本の楽しみ

     福音館の月刊誌絵本のひとつ「たくさんのふしぎ」が今月号で400号を迎えます。節目の絵本は、大好きな西村繁男さんによるものです。

     「絵で読む子どもと祭り」西村繁男 作
     月刊たくさんのふしぎ 2018年7月号(第400号)福音館書店

     2014年から4年かけて取材された、子どもが参加している地域のお祭りを9つ紹介されています。
     
     西村繁男さんの絵本といえば、たくさんの人と共に周りの様子も微細に描かれているのが特徴です。

     本書は「絵で読む」とタイトルにあるように、絵の読みごたえがたっぷりです。お祭りの見所を双眼鏡でみるかのように、ところどころズームアップもされています。

     当初、西村さんは、祭りの絵本を提案されたとき、ご自身が子どもの時に経験がなく、その後も積極的に参加したことがないので、祭りを執り行う人たちの思いや情熱を描けるか自信がなかったそうです。

     しかし、いままでのように、たくさんの人々を観察し祭りの現場をみて人を描いていけば絵本にできるのではと、時間をかけてできあがったのが本書です。

     春から始まり冬にかけて、9つの場所でのお祭りはたくさんの人が登場しています。

     視界に入るものをくまなく描き出した、その世界はにぎやか。子どもたち、観客、ただ通り過ぎる人も含め、様々な人が絵本の中にいっぱいです。

     中でも印象に残ったのは3つのお祭り。

     11月第3日曜日 神奈川県川崎市で開催されるのは「さくらもとプンムルノリ」。

     日本や朝鮮半島、中国、東南アジア、南米などにルーツをもつ子どもが参加するお祭りで、プンムルノリというのは、韓国・朝鮮の伝統的な踊りです。1990年から商店街の祭りで踊りが披露されるようになり、踊りと楽器の練習は1年を通して行われています。

     踊りの横では、各国の食べ物が出店されている様子もみえ、美味しそうな料理にも見入ってしまいます。

     2月9日から11日にかけて行われるのは高知県吾川郡仁淀川町の「秋葉まつり」

     過疎化でこの集落では30年以上子どもが住んでいないそうです。200年以上続いているお祭りを絶やさないために、近くの小学生が参加し、祭りをもりあげています。

     「神楽」「太刀踊り」「鳥毛ひねり」の披露にはたくさんの観客が集まっていて壮観です。

     2月中旬に行われるのは、福島県福島市と双葉郡浪江町の「安波祭(あんばまつり」
     
     もともとは福島県浪江町でおこなわれてきた豊作と豊漁を祈るお祭りですが、2011年の東日本大震災で、浪江町の住民は避難生活を余儀なくされました。福島市でおこなわれた、子どもたちによる「田植え踊り」の後ろには、仮設住宅が連なっています。

     昨年2017年の夏には、震災から6年ぶりに、浪江町の神社があった場所で、「田植え踊り」が奉納されたそうで、その時の様子も描かれています。
     
     お祭りは少子化、震災など、その時々によって乗りこえていかなければ続かない現状もあらわしているのです。

     それでも、いつの時も大人たちは子どものお祭りが続いていくよう尽力しています。

     ハレの日の象徴ともいえるお祭りがこれからも長く続いていきますように。

     さて、2冊目も福音館の「こどものとも」。こちらは先月の6月号です。

     「しりとり」安野光雅 さく/え
     月刊こどものとも 2018年6月号 福音館書店

     安野さんもまた、繊細な絵を描かれる方で、代表作でもある「旅の絵本」シリーズでは、世界各地、ひとつの国を舞台に、昔話など、物語のモチーフが随所に描かれ、それらを探しながら風景を楽しめるもので、私も子どもの頃から愛読しています。(新作はスイスを舞台にしたもので、今月15日に刊行です!)

     その安野さんがどんな「しりとり」を描いたのか。

     しりとりは、
     あいす→すずめ→めだか、というように最後の音で次の単語をつないでいく言葉遊び。「ん」がでたらおしまいです。
     
     安野さんの「しりとり」は、見開きに10数種類ほどの絵が描かれ、その中から好きな絵で自分のしりとりをはじめます。

     いちまいめは、さる きびだんご しるこ こあら けんびきょう 等々。

     たとえば、「さる」を選んでみます。
     「る」が次の単語のはじまりです。

     次の見開きのページに描かれている絵から「る」ではじまるものを見つけ出します。「る」は、るーれっと。

     そうやって、自分で次の言葉を選びながら最後のページにたどりつきます。そこで「ん」のつく言葉で終わるとおしまい。
     もし、最後が「ん」以外であれば、最初のページにもどって、しりとりは続くのです。

     ぬすびとはぎ、じんちょうげなどの可愛い花や、わまわし、みちしるべ、ちょうちんなど、ふだんの生活ではあまり見かけないものなど、どの絵もやさしいタッチで心ひかれるものがあります。

     子どもと一緒でも、大人が一人で遊んでも、おもしろい。

     我が家の小さい子どもたちが大きくなり、定期的な月刊誌が届かなくなってからは書店や図書館でチェックし、気になったものはいまも購入しています。

     今回ご紹介した2冊も購入して何度も読み返しています。
     最近では気に入ったものは複数冊購入して、あの人なら気に入りそうという方に贈っています。

     月刊誌は児童書を手厚くおいている書店ですとバックナンバーもおいていますし、単品の注文は書店でも受け付けています。

     最後にご紹介するのも絵本です。
     
     『ちょうちょのために ドアをあけよう』
     ルース・クラウス 文 モーリス・センダック 絵 木坂涼 訳 岩波書店

     大人の手のひらくらいの大きさの絵本に、世界を楽しく生きるために覚えておくといいことがつまっています。子ども視点で子どものための便利帖みたいなのですが、けっこう大人にも響きます。

     たとえば、

     「おおごえで うたう うたを
     ひとつくらい おぼえておくと いいよ
     ぎゃーって さけびたくなる ひの ために」

     「そんなに つかれたって いうなら
     つかれを ポイって すてちゃえば いいのよ」

     詩人、木坂さんの言葉は、同じく詩人であるルース・クラウスの言葉をぴったりに伝えてくれます。

     センダックの絵は、細いペン画で子どもたちのユーモアさや可愛さを余すことなく描いています。

     最初から順に読んだあとは、好きなページを開いて声に出して読んでみるのもおすすめです。

  • 『13歳からの絵本ガイド YAのための100冊』『いっしょにおいでよ』『ぼくはアイスクリーム博士』『サーカスくまさん』『もりのたんじょうびパーティ』//書評のメルマガ

    5/10日号で配信された「書評のメルマガ」では『13歳からの絵本ガイド』を読んで印象に残った絵本2冊と、『いっしょにおいでよ』、もりのこ絵本4冊シリーズの内の2冊『サーカスくまさん』『もりのたんじょうびパーティ』をご紹介しました。
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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    83 絵本の広くて深い世界

     自分のよく知らないことを調べるにはガイドブックがもっとも近道。
     もちろん、自分の勘だけで見つける楽しみもありですが、ガイドされることで深いところにたどりつけるんです。

     『13歳からの絵本ガイド YAのための100冊』
                金原瑞人/ひこ・田中 監修 西村書店

     本書のガイドさんは編集者、書店員、翻訳者、評論家、作家の14人。
     タイトルに13歳からとあえて掲げているように、小さいこどもが読む絵本とはまた違う切り口で紹介しています。

     知らなかった絵本で読みたくなったナンバー1はこちら。

     『天女銭湯』
     作 ペク・ヒナ 訳 長谷川義史 ブロンズ新社

     粘土細工の人形で天女さんを造形し、銭湯で出会う少女と天女さんとのやりとりが描かれています。

     天女さんと少女の表情が独特でパワフルも感じられ、これは買って読まねばと思ってます。

     そして既に読んでいた絵本で私もすすめたくなった絵本は2冊。

     『レ・ミゼラブル ファンティーヌとコゼット』
     原作 ビクトル・ユゴー 再話 リュック・ルフォール
     絵 ジェラール・デュボワ 訳 河野万里子 小峰書店

     長編の原作を再話したもので、文章もかなり多い絵本です。
     原作の魅力を活かしつつ、絵と共に重厚な仕上がりで、これは本当におすすめ。

     『宮澤賢治 「旭川。」より』
     文・画 あべ弘士 BL出版

     恥ずかしながら、この絵本で知った詩「旭川。」
     「旭川で暮らす絵本作家が、この詩を絵本化したのも必然と言えるでしょう」の紹介文に納得。道産子の私は、旭山動物園であべさんの絵を初めて見て以来この画家のファンなのです。
     詩とともに、あべさんの絵に深いところにつれていってもらえました。

     どの絵本も中高校生が読んだらどんなふうに感じるのか楽しみなものばかり。
     学校の図書室にぜひおいてもらいたいガイドブックです。

     さて、引き続き私からも絵本をご紹介していきます。

     『いっしょにおいでよ』
     ホリー・M・マギー 文 パスカル・ルメートル 絵 
     ながかがちひろ 訳 廣済堂あかつき

     ながかわちひろさんの訳者あとがきによると、
     この絵本は「自由なくらしを手放さないこと、外国のたべものや文化を楽し
     むことも、テロやヘイトスピーチへの意思表示」と思った作者と画家の2人
     がつくりました。

     おんなのこはテレビでニュースをみてこわくなります。
     たくさんの人たちがにらみ合い怒りをみせている。
     この国から出て行けと怒鳴っている。

     お父さんにたずねます「こんなのっていやだ、どうしたらいいの?」と。
     「いっしょにおいで」とお父さんはおんなのこと外出します。

     おんなのこはお母さんにもたずねます。
     お母さんとも外出しました。

     両親と外出して感じたことで、
     今度はおんなのこはひとりで出かけます。
     途中で友だちのおとこのこといっしょになります。

     「いっしょにおいでよ」

     そんな一言で、勇気を出してみる。行動してみる。
     世界をよくしていくには、最初の一歩を踏み出すこと。

     平易な言葉で、自分のくらしを手放さないためにどうするかが伝わってきます。

     絵本のなかにいるおんなのこは、時に、私たち読み手を見つめていて、その目をみていると、自分も襟を正す気持ちになりました。

     メッセージ力を実現させているのは、翻訳者なかがわさんの力でもあります。
     http://chihiro-nn.jugem.jp/?eid=25

     ブログには、この絵本を訳されることについて興味深いことも書かれていますので、ぜひぜひ読んでみてください。

     次にご紹介するのは、これから暑くなる季節に食べたくなるアイスクリーム
     のワクワクする絵本。

     『ぼくはアイスクリーム博士』
     ピーター・シス さく たなか あきこ やく 西村書店

     絵本のうれしいところは、文章とともに豊富な絵のおかげで知りたいことがわかりやすく理解できる点にあると思います。

     本書はアイスクリームの起源、どんなふうにつくるのか、様々な国のアイスクリームの歴史などが、主人公のジョー少年の視点から描かれます。

     ジョー少年はおじいちゃんから、どんな夏休みを過ごしているのか手紙をもらいました。
     
     ジョーの夏休みはこんな感じです。
     アイスクリームの本を読み、ピスタチオなど知らない言葉を覚え、
     アイスクリームを使って計算問題を解いてみたり、
     アイスクリームでアメリカや中国などの歴史も勉強したりします。

     つまり大好きなアイスクリーム三昧の夏なのです。
     カラフルなアイスクリームがどのページにも登場し、私自身、初めて知ることがいろいろありました。

     5月9日はアイスクリームの日だということも教えてもらい、
     肌寒い日ではあったのですが、マンゴープリン~ココナッツミルク仕立て~のアイスを食べました。おいしい!

     今年の夏はこの絵本を読みながら、いろんなアイスを食べようと思っています。

     最後にご紹介する絵本は、小さなお子さんにぴったりの小さな絵本。

     「もりのこえほん」シリーズとして全4冊の内2冊をご紹介します。

     『サーカスくまさん』
     『もりのたんじょうびパーティ』
     エリザベス・イワノフスキー 作 ふしみみさを 訳 岩波書店

     シリーズの原書は1944年にベルギーで刊行され、シリーズ名はフランス語で「心配なく お気軽に」という意味。

     絵本の説明によると、刊行時は戦時のため、紙を手に入れるのが難しく、壁紙の試し刷り用の紙を使い、絵本サイズも小さくしたそうです。

     原画はグワッシュ(不透明な水彩絵絵具)を用い5つの色で絵本の登場人物たちを色鮮やかに描いています。

     『サーカスくまさん』では、タイトルにあるように、くまさんがサーカスですごい技とおちゃめなところをみせてくれます。

     『もりのたんじょうびパーティ』では、森の生き物たちのダンスやパレードなど楽しい出し物がいろいろでてきます。

     小さいお子さんとの読み聞かせだけでなく、デザイン性の高い絵本ですのでじっくり鑑賞する楽しみもあり、贈り物にもいいですね。楽しみは様々。

     ぜひ手にとってみてください。

  • 『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ』『パンツ・プロジェクト』//書評のメルマガ

    4/10日号で配信された「書評のメルマガ」ではエマ・ゴンザレスさんのスピーチを聞いたことがきっかけで、声をあげることについての本2冊をご紹介しました。
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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    82 声をあげること

     アメリカのフロリダ高校でまたも銃による悲しい事件がおき、
     当事者である高校生たちが声をあげ、大規模なデモ行進をしたことはネット動画でも多くとりあげられました。

     中でも、エマ・ゴンザレスさんの沈黙も含んだスピーチは、動画をみた多くの人の心を動かしたのは間違いないでしょう。
     私はこの動画を高校生の娘と一緒にみました。

     彼女はスピーチの英語を理解する前に、
     ゴンザレスさんの言葉のもつ力を受け取り、
     いつのまにか涙を流しながら聞いていました。
     そしてそれ以来、ツイッターでフォローし、銃規制の必要性を強く感じるようになっています。

     言葉が届くということを目の当たりにした後に読んだ、
     当事者が声をあげることについて、2冊の本をご紹介します。

     『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ』
     アンジー・トーマス作 服部理佳 訳 岩崎書店

     本書は昨年2017年アメリカで話題になった社会派YA。
     デビュー作にして、世界30か国で刊行されている作品です。

     主人公は治安が悪くギャングもはびこる街に暮らす、女子高校生スター。
     ある日、パーティから一緒に帰った幼なじみのカリルが、白人警官に呼びとめられ、スターの目の前で射殺されてしまいます。
     目撃者はスターただひとり。

     最初は事実はひとつなのだから、自分が証言しなくても警官は裁かれると思っていたスターでした。しかし、事実とは異なる報道が重なり、スターは、いまはもう口を開けないカリルの為に、無実を証言する決意をするのです。

     元ラッパーである作者は大学で創作を学び、在学中から本作を執筆したそうです。タイトルも伝説のラッパーであるトゥパックの言葉からとられており、彼も銃で命を落としています。

     ザ・ヘイト・ユー・ギヴについてカリルはスターにこう説明します。

    「The Hate U、UはアルファベットのU、Give Little Infants Fucks Everybody、
     頭文字を取って、T-H-U-G L-I-F-Eだよ。つまり、おれたちがガキのころ社会に植えつけられた憎しみが、やがて噴きだして、社会に復讐するって意味だ」

     その話を聞いた後、スターとカリルは警官に呼びとめられたのでした。

     スターは12歳のとき両親から、警官に呼びとめられたときにはどうすればいいかということについて教えられました。白人警官に対して黒人がとらなくてはいけない態度についてです。

     「いいか、スター。とにかく連中のいわれたとおりにするんだ。手は見えるところに出しておけ。いきなり動いたりするんじゃないぞ。むこうから話しかけられないかぎり、口は開くな」

     警察を怖がるよう教えるのではなく、うまくたちまわる術です。

     カリルはいきなり動いた為に撃たれました。ただカリルは撃たれるような事は何もしていません。

     事件後、カリルは撃たれて当然であるように報道され続けました。
     事実とは違う報道がされるには、複雑な背景もあります。
     カリルはヤクの売人をしていたこともあり、偏見にもさらされ、スターの証言もヤクにからんだギャングからの脅かしもありました。

     果敢に立ち向かい声をあげるスターはまだ16歳。両親、親戚(伯父は白人警官のひとりでもあります)そしてボーイフレンド、親しい友人はしっかりと支えます。

     作者のリアリティある描写は、社会を変えていこうとする若い世代の強さを伝えてきます。

     本作は白人と黒人という人種対立だけでなく、黒人どうしでもギャングの抗争で殺し合いが起こることも含め社会の複雑さを詳細に描き出しています。

     スターの両親の人間性も生々しく、ケンカをしたときに、ヤケをおこした、父親が浮気をしその結果、スターには異母兄がいることも、それを受け入れている母親も、なぜ父親を許し一緒にいるかを説得力をもって教えてくれます。

     ずっしりと重たい話ではあるのですが、嫌いな人とはどうつきあっていくかなど、人生のライフハックもさりげなくもりこまれていて、細部まで読みごたえがありました。

     映画化も決定されているそうですが、撮影が終わった後に、スターのボーイフレンドという重要な役柄の俳優が降板になり(その理由が過去に人種問題を助長させるようなジョークをYouTubeにあげていたのがわかり炎上した為)ようやく最近違う俳優で撮り直しが決まったようです。日本でも公開されたらぜひ見てみたいです。

     『パンツ・プロジェクト』
     キャット・クラーク作 三辺律子 訳 あすなろ書房

     こちらは、中学校に入学したリヴが服装規定によりスカートをはかなくてはいけないことに、強い違和感をもち、パンツでも通学できるように「パンツ・プロジェクト」を友人らと立ち上げる物語。

     そう、本書もまた自分の違和感を声に出し、学校を変えていこうとする話です。

     リヴは最初は簡単にできることだと思っていました。
     周りの中学ではパンツでもいいところはあるし、スカートにこだわる理由はないと思っていたからです。

     しかし、なぜパンツじゃなきゃいけないの?という声もあがりました。
     校長先生にも話をしましたが、将来的に考えるとして緊急の課題にはならないとすぐの検討はしてくれません。

     前回のメルマガでご紹介した『いろいろいろんなかぞくのほん』(メアリ・ホフマン文/ロス・アスクィス絵/杉本 詠美訳/少年新聞社)に出てきた家族のように、リヴにはお母さんが2人います。

     パンツをはきたいリヴは自分のセクシュアリティについても考えるところがあり、お母さんが2人いる家の子はパンツをはきたがるわけ?とはいわれたくないことと、母親のひとりが既に心配事を抱えていたこともあり、親には秘密でプロジェクトをすすめます。

     自分らしくいられる服装を自分で選ぶリヴの行動は、読んでいてすがすがしく、ごく当たり前の行動に思えました。けれど、声をあげるには自然体だけではなく、やはり勇気が必要です。

     いろいろな人がいることについて、100%理解しなくても、受け入れていく心の柔らかさを意識させられました。

     まずは気負わず読んで欲しい。
     フリーペーパー「BOOKMARK」の装丁もしているオザワミカさんが描いたシャープな装画は手に取りたくなるかっこよさがあります。
     

     さて、最後に、
     この2冊に登場した彼らの声が、彼らのゴールにたどりついたら、10代ならではの、ただ楽しむ時間もつくって欲しいと願います。

  • 「ミューレン 岩波少年文庫」『青い月の石』『ポケットの中の天使』『いろいろいろんなかぞくのほん』//書評のメルマガ

    3/10日号で配信された「書評のメルマガ」では初めて雑誌をとりあげ、それに関連した本、ファンタジー、多様性の絵本について書きました。
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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    81 考える先にあるもの

     小冊子「ミューレン」をご存知ですか。

     小さい文字ぎっしりの記事とセンスある写真たっぷりの読みごたえある冊子です。

     最新号 vol.22 (2018 January)の特集は「岩波少年文庫」

     児童書好きにも話題になっています。

     編集人である若菜晃子さん選の岩波少年文庫10冊にはじまり、冒険の世界、百年前の暮らし、世界をまわろう、生きものの気持ちとカテゴリ分けも魅力的で、選ばれた本もディープ。
     私も手にしたことのないものも多く、読んでみたい本だらけです。

     石井桃子さんによる「『岩波少年文庫』創刊のころ」のインタビュー記事は、初出「図書」(1980年)のもので、『石井桃子のことば』(新潮社 とんぼの本)にも掲載されたもの。
     『石井桃子のことば』は編集人の若菜さんも執筆に関わっている本で、こちらも読みごたえあります。「ミューレン」にもぜひこの本を併せてご覧下さいとすすめていますので、ぜひぜひ。

     「岩波少年文庫の今」では、岩波書店児童書編集長の愛宕さんのインタビュー記事が掲載されています。
     現在の少年文庫の書目はどのような前提で選んでいるのか、新訳に変えていくことについて、装丁についてなど、「今」の少年文庫についてのお話はとても興味深いです。

     「ミューレン」サイト
     http://www.murren612.com/

     さて、愛宕さんがインタビューでおすすめの少年文庫の一冊にあげられていたのは、オランダの作家トンケ・ドラフト『王への手紙』(西村由美訳)です。

     ドラフトさんの作品を初めて読んだときは、そのおもしろさにびっくりしたものです。評価のかたまった作家作品が多い少年文庫の中で、初めて紹介される作家の名前は強烈にインプットされました。

     しかしそれもそのはず、訳者西村さんのあとがきを読めば納得でした。

     『王への手紙』の初版刊行は1962年。表紙絵も挿絵も作者自身が描き、翌年には、現在の「金の石筆賞」の前身にあたる賞に選ばれ、それ以来のロングセラー本、オランダのこどもたちに長く読まれていた本だったのです。

     そのドラフトさんの最新訳書、岩波少年文庫の『青い月の石』(西村由美訳)を今回ご紹介いたします。

     主人公ヨーストは森で魔法が使えるという噂があるおばあちゃんと2人暮らし。ひょんなことから、イアン王子と出会い、一緒に地下世界の王であるマホッヘルチェと対峙することになります。
     マホッツヘルチェの元に行くまでもが一筋縄ではいかず、たどりついたら、今度は難問をつきつけられ、クリアした後にも、更に難しい局面にたたされることになります。
     ヨーストと共に冒険するのは、現実世界ではヨーストをいじめていたヤン、どんなときもヨーストを支える幼なじみフリーチェです。

     それぞれの人物造形がしっかりしていて、どんな場所で困難なことに立ち向かうのかがテンポよく描かれ、物語に吸引力があります。対立、協力、葛藤、難しい相手との対峙など、どの場面にも心を動かされます。

     挿絵もドラフトさんが描いていて、物語をいっそう引き立てます。
     小学校中学年くらいから楽しめる冒険物語、こどもはもちろん、大人の方にもオススメです。

     さて次にご紹介するのは、イギリスの作家デイヴィッド・アーモンド『ポケットのなかの天使』(山田順子訳 東京創元社)です。

     カーネギー賞・ウィットブレッド賞を受賞した『肩胛骨は翼のなごり』の邦訳で知られるようになった作者アーモンドですが、今回の作品は心あたたまるファンタジー。

     バスの運転手をしているバートは、定年間近でその日を待ちわびながら仕事をしていました。ところがある日、バートのポケットに天使が入っていたのです。いったいこの天使は誰なんだろうと思いながら、バートは自宅に連れ
     帰り、妻のベティに紹介します。ベティも大喜びで、こどもには教育が必要と自分の勤務先である学校に、天使を連れて行きます。すぐさま生徒たちに受け入れられ、大人気になりますが、黒ずくめの男が若者が天使に目をつけ……。

     アンジェリーノと名付けられた天使の男の子がとてもかわいいのです。しょっちゅう、おならをするも愛嬌。黒ずくめの若者が何かしでかすのではないかとハラハラするのですが、物語に流れている優しさの心地よさがたまりま
     せん。日常におきるファンタジーにしっかりとリアリティをもたらせている作者の筆致はさすがの腕前。松本圭以子さんの装画・挿絵も素敵です。

     このメルマガ1月10日配信号で紹介したパディントンの作者マイケル・ボンドさんが書いたモルモットのお話、『オルガとボリスとなかまたち』にも出てきた料理「あなのなかのヒキガエル」。それが本書にも出てきています。
     イギリスで長く親しまれている料理だからですね。

     最後にご紹介するのは絵本です。

     『いろいろいろんなかぞくのほん』
     メアリ・ホフマン ぶん ロス・アスクィス え すぎもと えみ やく 少年新聞社

     家族の形は、お父さんとお母さん、そしてこどもたちという組み合わせがいわゆる普通といわれていますが、世の中にはいろいろな家族があること、少しずつ浸透していっていますよね。

     この絵本はそれをわかりやすく描いています。

     家族の形にはじまり、住むところ、学校、仕事、休みの日の過ごし方、食べ物など、様々なカテゴリで家族の姿をみせていきます。

     お父さんだけの家もあれば、
     お母さんだけの家もある、
     そのどちらもいなく、祖父母と暮らすこどももいれば、
     お母さんがふたりとこども、
     お父さんがふたりとこども、
     養子や里子と暮らす家族もいます。

     意識してみると、どんな家族にも個性があり、いろいろです。
     どのページもたっぷりの絵がそれを表現していて、素敵なのは、家族も流動的だということが書かれているところ。
     
     確かに、時間の経過と共に変わることもあります。
     その時それぞれの家族を、この絵本で読んでみませんか。

     いまの自分がみえてきます。