鈴木結生

  • 人にはどれほどの本がいるか


    鈴木結生
    朝日新聞出版

     これは本好きにはたまらない。
     仕事を引退したときに、息子たちからもらった九官鳥にポケタと名付け、トルストイの箴言集『文読む月日』を1日ひとつ読み聞かせ、ポケタも時にそれをそらんじる。
     自分が死んだあと、遺された蔵書をどうするか考えているうちに、アルバイトを雇って、蔵書の目録づくりをはじめる。できあがった目録を見ると、何やらもう一度読んでみようと思って手にとる本の内容をすっかり覚えていないことに気づく。

     そうなのだ。数千冊を読んできても、それらはずっと残っていない。
     読んでいない本とて、何冊もある。
     それでも、いつ本を手放せばいいのか決められない。
     覚えているものなど、ごく少数で、残される家族にとってはいい迷惑だろう。
     そして、誰かにもらってもらうとしても、それもまたあまり喜ばれないことはわかっている。
     本はしょせん持ち主だけが愛でるもの。
     この本は図書館で借りたのだけど、手元に置いておきたくなっている。
     手元にきても決して読むことはないのだろうが。

  • ゲーテはすべてを言った

    鈴木 結生 朝日新聞社

    芥川賞受賞作。kindleで読了。

    予想だにしなかったおもしろさ。ゲーテは詩を読んだことのあるものの、それ以外の知識はなく、アカデミックな小説など読めるのだろうかと思っていたのだが、読み始めるとつるっと一気読み。

    大学教授一家のアカデミックさが鼻につくこともなく、それぞれの人柄の良さと、数珠繋ぎの人間関係の妙がおもしろく楽しい。

    我が家の子どもたち3人とも名言好きで、畳の部屋の壁にはいまも落書きが残っている。

    本書の主人公である大学教授の娘(大学生)が、父親に名言について語っている言葉を引用。

    「(モンテーニュの時代から)名言を言うとその言葉の力を身につけることができる、と考えられていたらしい。それは今でも続いているでしょ。だから、人々は名言をお土産のマグカップに焼き付け、文房具に刷り込み、壁に落書きする、(以下略)」

    確かに家の壁にも落書きが残っているとあらためて思う次第。