『サンドイッチをたべたの、だあれ?』『発明家になった女の子マッティ』『クリスマスを救った女の子』//書評のメルマガ

遅くなりましたが10月に配信された「書評のメルマガ」ではやまねこ翻訳クラブ会員訳書3冊について書きました。
http://back.shohyoumaga.net/?eid=979068

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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76 WEB上のクラブ やまねこ翻訳クラブ20周年

weB上で活動している、やまねこ翻訳クラブをご存知でしょうか。

http://www.yamaneko.org/

1997年に発足し、翻訳児童書を軸にWEB上で翻訳勉強会をしたり読書会をしたり、メールマガジンを発行したりするなどの活動をしているクラブです。

私は産休時に、このクラブの存在を知り入会。
ニフティのフォーラム時代から参加しています。
地方にいても子どもが小さくても、自分の好きな時間にアクセスして大好きな本の話ができる場は夢のような場所でどっぷりはまりました(笑)。

今年2017年、やまねこ翻訳クラブは20周年を迎えました。
私自身、メールマガジン「月刊児童文学翻訳」の編集長も2年ほど務め、出版社、翻訳者の方々のインタビュー、企画をたてて記事を書くことなど、ただ翻訳児童書好きの(翻訳者志望ではない)私にも勉強になることばかりでした。

いまは時間がなかなかとれず、会員らしいことができていないのですが、20周年記念に今回はやまねこ翻訳クラブ会員の訳書をご紹介します。

一冊めは、
翻訳者も出版社もやまねこ翻訳クラブ会員によるものです。
絵本の帯には、やまねこ20周年のロゴと共に、会員による推薦文も掲載されいます。

『サンドイッチをたべたの、だあれ?』
ジュリア・サーコーン=ローチ 作 横山 和江 訳 エディション・エフ

森にすむクマが、いいにおいに誘われて、人間が収穫した木イチゴが積まれているトラックに乗ってしまいます。たらふく食べてぐっすり眠って起きた場所は森ではなく、人間の住む街でした。

クマにとっては初めてみるものばかりの街の中、歩き回って公園にたどりつき、ベンチにあったサンドイッチを発見。さてさて、サンドイッチをクマは食べたのでしょうか!?

描かれるタッチはおてんとさまの陽射しを感じるようなあたたかさがあります。

クマは結局どうするのかなと思って読んでいくと、へえ!と思うラストに、まさにタイトルどおりと納得です。このひねり具合は、にやりとしますよ。

さあ、はたして食べたのは誰でしょう!?

絵も文章もアメリカ、ニューヨーク在住のジュリア・サーコーン=ローチが描いています。学生時代はアニメーションを学び、その後絵本作家としてデビュー。本書は4作目にあたり、2016年絵本作家に贈られるエズラ・ジャック・キーツ賞の次点に選ばれています。

訳者の横山和江さんは山形在住。読み物も絵本の訳書も出されていますが、目利きの横山さんが刊行されるものはどれも読ませます。やまねこ翻訳クラブ会員歴も長く、翻訳のほか、読み聞かせの活動もされています。

刊行したエディション・エフは京都にあるひとり出版社。「手と心の記憶に残る本づくり」をされていて、HPの会社概要は一読の価値あり。

http://editionf.jp/about/

二冊めは、

『発明家になった女の子マッティ』
エミリー・アーノルド・マッカリー 作 宮坂 宏美 訳 光村教育図書

ノンフィクション絵本です。
19世紀末のアメリカで活躍した女性発明家、マーガレット・E・ナイトを描いたものです。

マッティ(マーガレットの愛称)は、子どもの頃からの発明好きでした。
2人のお兄さんのために、おもちゃや凧、そりをつくり、お母さんのためには、足をあたためる道具をつくりました。

家は貧しく、マッティは小学校の教育しか受けていませんが、発明に必要な力量を備えていたので、働きながら最終的にはプロの発明家として、22の特許を取得し、90を超える独創的な発明を行ったそうです。

作者は、聡明な彼女を繊細な線画で表現し、彼女の発明したものの図面も描いています。

女性であることの偏見をはねのけ、発明家として自立していく姿は、子どもたちに、未来を切り開いていく具体的な力を見せてくれます。

訳者の宮坂さんは、やまねこ翻訳クラブ創立メンバーのひとりです。マッティのように、とことん調べ物をし、やらなければならない事を的確に迅速にこなし、見事、翻訳家になりました。

三冊めは、

『クリスマスを救った女の子』
マット・ヘイグ 文 クリス・モルド 絵 杉本 詠美訳 西村書店

昨年のクリスマスにご紹介した『クリスマスとよばれた男の子』シリーズ第2弾です。

杉本さんの訳文はとてもふくよかです。言葉がやわらかく、読みやすく、杉本さんが訳したものは物語の中にすっと入り込めます。なので、こういう魔法の話はぴったりかもしれません。

さて、物語です。
サンタクロース(ファーザー・クリスマス)が誕生して、人間界の子どもたちにプレゼントを配ってから1年がたち、またクリスマスの季節がやってきました。

一番最初にサンタを信じた少女アメリアは絶対に叶えてほしいクリスマスの願い事をしてサンタクロースを待っていました。しかし、その年、サンタは誰のところにも来なかったのです。
サンタに大変なことが起きてしまったために……。

クリス・モルドの挿絵は甘くなく、厳しい現実やつらい出来事も、いじわるな人もリアルに描き、トロルやエルフまでもが絵空事ではない雰囲気を出しています。

マット・ヘイグのクリスマス物語は、決して型にはまったものではなく、願うこと、望むこと、その気持ちが魔法を生む力になるというメッセージがまっすぐ伝わってきます。

つらいことばかりが続くと、未来に対して前向きになるのがしんどくなりますが、アメリアやサンタクロースの逆境をはねのけていく姿から、願うことは魔法の力につながると思えてくるのです。

「幸福。それに笑い。遊び。この三つは、人生をつくるのになくてはならないものだ」とサンタクロースはいいます。

12月には少し早いですが、
この三つを忘れずに、今年のクリスマスにはすてきな贈り物がみなさんに届きますように!