『ガラスの犬』他

ガラスの犬

■「いろんなひとに届けたい こどもの本」

120 楽しみの深掘り

 土石流による被害で亡くなられた方に心から哀悼の意を表します。
 そして、避難されている方がすこしでも早く心おちつく生活に戻れることを祈ります。

 最初にご紹介するのは、心が軽やかになるとってもおもしろい短編集です。
「オズの魔法使い」シリーズを書いたフランク・ボームが書いたもので、本国ではオズに次ぐ人気本なのもうなずけます。
 あまりのおもしろさに、何度も声に出して笑ってしまったほど。
 
『ガラスの犬』
 フランク・ボーム 作 津森優子訳 坂口友佳子 絵 岩波少年文庫

 8つの短編がおさめまれ、そのどれもに、オズのように想像もつかない突拍子もない設定がまぎこれみ、奇想天外な展開のあとはもっともらしい教訓でしめくくられるのですが、この教訓がまた笑いを誘います。

 私のお気に入りは表題作。
 腕ききの魔術師が隣に住むガラス職人に、とある理由から桃色のガラスの犬を発注します。お金のない魔術師は物々交換として魔法の薬で支払いました。
 ガラス職人はその魔法の薬を条件に、町一番のお嬢様に結婚を申込みます。
魔法の薬で重い病気をなおしてもらったお嬢様ですが、ガラス職人の見た目が気に入らず、あることを要求し……。

 短い話ですが、最後の展開には唖然。
 嫌みのない毒気に笑ってしまい、クセになりそうです。
 ガラス職人とお嬢様については読んだ人と感想を語り合いたい。
 ぜひ。

 次は自然科学の恰好の入門写真絵本。
 生物専門書、自然科学書を出版している文一総合出版から初の児童書。
 出版社の特色が活かされた「森の小さな生きもの紀行シリーズ」です。

 『あなたのあしもと コケの森』
 鵜沢美穂子 文 荒井文彦 写真 (森の小さな生きもの紀行(3))

 最近、湿原や少し標高のあるところを歩いているので、コケをあちらこちらで見かけます。わが家の日陰にもあるくらい、身近なコケ。それだけよくみるものなのでどんなものなのか知りたくなります。

 見開きからたくさんの情報が書かれ、コケの体のつくりと名前がイラストでわかりやすく整理されています。

 コケと名前のついているものでも、コケではないものがあるということも、わかります。
 コケは1)陸上植物、2)胞子で増える、3)維管束をもたないという3つの条件でそうでない生きものと分けられます。

 約4億年前に地球に生まれたコケ。
 現在では世界に約2万種、日本に約1,900種が知られているそうです。

 豊富な写真を眺めていると、コケワールドの奥深さにハマっていきます。

 子どもから大人までコケについて知る入門書にはぴったりな本書、巻末には索引もつけられ、レファレンスとして使いやすいつくりになっています。

 シリーズはこの他に、きのこ、粘菌と全部で3冊刊行されています。
『森の小さな生きもの紀行シリーズ』に登場する生きものは、花をつけずに胞子で増えていくものです。
 トレッキングする大人にもおすすめのシリーズです。

 月刊たくさんのふしぎ(福音館書店)の7月号もおもしろかったです。

 「釣って食べて調べる深海魚」
 平坂 寛 文 キッチンミノル 写真 長嶋祐成 絵

 海面から200メートルより深い海、それが深海。
 太陽の光が届かない深海に生きている魚について調べたのが本書です。

 日本は世界で一番「深海に近い国」だということをご存知でしょうか。
 深海まで数日かかる国もあるなかで、岸から数十分ほど船を走らせれば深海にたどりつけるのが日本なのです。
 
 読んでいくと知らないことばかり。

 ノドグロは美味しい魚で私も好きなのですが、この魚は名前のとおり、ノドの奥が真っ黒だということは初めて知りました。
 ノドグロらのエサとなる深海生物にはホタルイカやサクラエビは光をはなつものが多いが、これだと光で自分らの存在を他に知らしめてしまう。大きな魚に食べられないよう、ノドやお腹の内側を黒ぬりにすることで、光をさえぎり自分の身を守っているのだという。なるほど。

 深海魚はおどろおどろしい顔をしているものも多いけれど、こうやって生態を知っていくと、特徴的な顔つきの理由もわかりおもしろいです。

 月刊誌は書店で1冊から注文することも可能です。
 ぜひ手にとってみてください。

 最後にご紹介するのも絵本です。

 『ビアトリクス・ポターの物語 
  キノコの研究からピーターラビットの世界へ』西村書店
 リンゼイ・H・メトカーフ 文 ジュニ・ウー 絵 長友恵子 訳

 今年2021年はビアトリクス・ポター生誕155周年。
 ピーター・ラビットの絵本はもちろんのこと、作者であるポターについても絵本や伝記などでその生い立ちは知られるようになってきています。

 本書では、キノコにも魅せられというところに光をあてて描かれています。

 するどい観察眼をもったポターはキノコに魅せられ、観察し、スライスして
顕微鏡でのぞき、描きます。
 当時出会った郵便屋のチャールズ・マッキントッシュさんは、ポターのよき理解者であり、学びの相談相手でした。
 ポターはキノコを描くだけでなく、胞子がどうやったら発芽するか、昼も夜も研究に打ち込みます。
 しかし、時代はポターの研究には追いついておらず、女性が研究した論文は発表しても、真剣にはとりあってはくれませんでした。

 後にピーター・ラビットの絵を描いてくポターですが、その前にこれほど打ち込んだものがあったことに心動かされます。

 絵本の巻末にはポターがキノコ研究していたことをもう少し詳しくまとめた文章と年譜が掲載されるとともに、参考文献があげられています。

 私はこの絵本を読みながら参考にしたのは下記のもので、現役の園芸家が書いたものとしてとてもおもしろかったです。
 『ビアトリクス・ポターが愛した庭とその人生 
   ピーター・ラビットの絵本の風景』
 マルタ・マクドウェル 著 宮木陽子 訳 西村書店

 そういえば、先月末から『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』の映画が公開されていますね。映画館のない町に住んでいるので、配信サービスをゆっく
り待つことにします。

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(林さかな)
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