『サルってさいこう!』『いのちは贈りもの ホロコーストを生きのびて』 『ファニー 13歳の指揮官』//書評のメルマガ

8月に配信された「書評のメルマガ」では3冊の本について書きました。
http://back.shohyoumaga.net/?eid=979068

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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74 知ること

東北も今年は遅い梅雨明けでした。
猛暑、大雨、気候は厳しいです。
被災された地域の方々がすこしでも健やかにこの夏を過ごせますように。

今回は「知ること」をテーマに3冊おすすめします。
一冊めはこの絵本です。

『サルってさいこう!』
オーウェン・デイビー 作 越智 典子 訳 偕成社

テキストベースのメルマガでは絵の迫力を伝えきれないのがもどかしいですが、洒落たデザインの表紙は目をひくサルが何匹もいます。

※ということで、このブログでは作者オーウェン・デイビーさんのサイトをご紹介。
http://www.owendavey.com/Mad-about-Monkeys
このリンク先では、絵本え描かれているページが少し掲載されています。
ぜひみてみてください。

デフォルメされているサルですが、特徴はしっかりつかんでいるという、絵本を監修したサル専門家の中川教授のお墨付きです。

現在、地球には260種のサルがいるといわれており、絵本では見開きからはじまり44種類のサルたちが登場します。

そもそもサルとは何者かというところから、進化の過程、新世界ザル・旧世界ザルについて、生態、それぞれの特徴をコンパクトにセンスのいいイラストで説明しています。途中でクイズなどもあり、サルについての知識が定着しやすくなっているのも楽しい。

イラストも文章も書いているオーウェン・デイビーはスマホゲームのイラストも描いているそうです。専門的なサルの生態についても、わかりやすく書いてあり、へえ!と思わされます。

では、ぬきんでてすごいサルをご紹介しましょう。

「ほえ声 一等賞」にはオスのホエザル。
霊長類一の大声は、世界じゅうの動物の中でもトップクラスだそうです。
このホエザルは、はるか5キロ先からも響き渡るとか。
近くに暮らすホエザルへの縄張り宣言の大声。
聞いてみたいものです。

日本に暮らすニホンザルも紹介されています。
なんと、人間をのぞくと、世界一北で暮らす霊長類!
温泉に入ったり、イモをあらったりするサルも。
雪国のニホンザルは、雪のボールをつくって持ち運んだり、投げたりもするそうで、それも楽しみのために! なんておもしろい。

サルについていろいろ知ったあと、
絵本で最後に書かれていることは、
いまの時代はサルにとって住みにくくなっていること。
熱帯雨林が切り倒され、破壊され、森が小さくなっているためです。

だからこそサルの住みかを脅かすことのないよう、
この絵本は「持続可能な森」からつくられた紙を使っています。

サルのことを知り、森についても考える。
自分たちにできることが促されています。

次に「知ること」をテーマにご紹介する本は

『いのちは贈りもの ホロコーストを生きのびて』
フランシーヌ・クリストフ 著 河野万里子 訳 岩崎書店

タイトルにあるように、ホロコーストを生きのびた著者が、自らの12歳の記憶している経験を綴ったものです。

日記を元に書かれているそれは、簡潔な文体でついさらりと読めてしまえるほどです。しかし、あとから気持ちが文章に追いついてくると、苦い気持ちがあふれだします。

6歳の時に父親が戦争捕虜となり、離ればなれになります。その後、母親と一緒にナチス・ドイツに連行され、厳しい日々が続きます。

それでも人の気持ちはやわらかいと思ったエピソードがあります。

収容所に収監された場所で、出会った人が赤ちゃんを産むシーンです。

「わたしは興奮した。ついこのあいだまで、自分はカリフラワーのなかから生まれてきたと思っていたのだから。男の子はキャベツのなかから、女の子はバラの花から、そしてわたしみたいにちょっとおてんばな女の子は、カリフラワーから生まれる。そしてユダヤ人の赤ちゃんは、収容所で生まれるわけだ。まったく筋が通っている。」

楽しくない場所でもいのちは生まれ、フランシーヌの心は動かされます。
誰にとってもいのちは贈りもの。
生まれてきた命に優劣があるはずもない、しかし狂った時代があったことは知り続けていかねばと、そのことを書いた本を読むたびに思うのです。

続けて読んだ本書もホロコーストが描かれています。

『ファニー 13歳の指揮官』
ファニー・ベン=アミ
ガリラ・ロンフェデル・アミット 編 伏見操訳 岩波書店

第二次世界大戦中に、フランスとスイスで子ども時代を過ごした著者ファニーの実話。ファニーから聞いた話を編者のガリラ・ロンフェデル・アミットが書きおこしたものです。

ナチスの手を逃れるために13歳の少女、ファニーが自分と妹、そして同じような子どもたちと力をあわせてスイスに渡るまでが臨場感をもって語られています。

逃亡する旅の途中、リーダーの青年は突然離れてしまい、代わりに指揮官として11人の子どもたちの命を預かることになったファニー。
ファニーは仲間達と一緒に生きのびるために、知恵をしぼり勇気をもってスイスに向かいます。

ファニーは児童救済協会の子どもの家で3年間過ごしているのですが、この家での学びがファニーに生きのびる強さを与えています。

そこでは、学校に通えないファニーたちに監督官の大人たちが芸術、文学、絵などを教えてくれました。

監督官のひとりエテルはこういいます。

「今みたいにたいへんな時代、教育の目的はひとりで生きていけるようにすることなの。だって、これから何があなたたちを待ちかまえているか、わからないからね」

ところで、この物語にもファニーが偶然にも分娩にたちあうシーンがあり、『いのちは贈りもの』に通じるものを感じました。

人間の赤ちゃんが生まれてくるところを見たファニーは興奮します。

「人生で見たなかで、いちばんきれいなものだったよ……」

編者であるイスラエルの作家ガリラ・ロンフェデル・アミットは、『心の国境をこえて』『ベルト』『ぼくによろしく』(さ・え・ら書房)など、とても読みごたえのある作品を書いています。

本書の映画がこの夏公開されています。
「少女ファニーと運命の旅」
8/11(金)より、TOHOシマズシャンテほか全国ロードショー
公式サイト http://shojo-fanny-movie.jp/

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このメルマガ記事を書いたときはまだみていなかった映画ですが、
8月20日に、この本を訳された伏見さんと版元の愛宕さんのトークショーに娘と一緒に上京した折、みてきました。
http://www.kyobunkwan.co.jp/narnia/archives/weblog/13

映画はすぐ眠ってしまう娘ですが、これはひきこまれたようで、最後は涙をこぼしていました。
ファニーの強さには胸を打たれたといっていました。
私は本を読んでからみたのですが、
本を読んでいるときには、ファニーが13歳と頭でわかっていたにも関わらず、映画で少女ファニーをみて、13歳というのはまだまだ子どもなのだとあらためて実感した次第。
こんなに小さいときの体験だったのかとふるえました。

娘は東京からの帰りの電車で本を開き、
泣きそうになるので時々本を閉じて気持ちを落ち着かせながら集中して読み終えていました。
こんなに夢中になっていっきに読んだ本は初めてと自分でも驚いていた様子。
映画の力も大きかったようです。

原作本は映画が公開されることがきっかけで翻訳されることになったそうで、
フランスと日本を行ったり来たりしながら仕事をしている伏見さんが
日本にたまたま滞在しているタイミングでお願いすることになり、
伏見さんが仕事を引き受ける基準として、紹介するに値するかどうかを見事クリアして私たちに本の形で読めるようになったのです。

ぜひ映画とセットで原作本も読んでみてください。