117 おもしろいこと、わくわくすること
今年は桜の開花がどこも早く、会津若松も記録史上最速の開花宣言がお城(鶴ヶ城)ででました。市長が桜開花の基準木となるところで開花した桜を指しているところが、例年新聞を飾ります。毎年同じことが繰り返されるわけですが、桜の開花という春の象徴は毎年繰り返されるからこそうれしいものです。
そんな桜の季節に刊行された幼年読み物『さくら村は大さわぎ』(朽木祥作 大社玲子絵/小学館)は、幸せに満ちた日々の生活が丁寧に描かれています。
舞台となるさくら村は、その名のとおり桜の木がいっぱいうわっています。こどもが生まれるとさくらの木を植えるやくそくがあるからなのです。
村でおこるできごとは、よいことばかりではなく、時にはわるいこともおこりますが、村の人たちの解決のしかたはいずれも心地よいもので、読後感はすこぶるいい気持ち。
新型コロナウィルスの影響で生活に制限が出て1年以上たち、いままでの日常とは違う時間が流れています。けれど、時にさくら村の本を読んで、さくら村に出かけた気分になるのは大人にとってもいいものです。
私の好きなエピソードはカワセミじいちゃんが、体調をくずして寝込んでいるとき、元気づけるためにカワセミを絵にかいて、じいちゃんの家の木(さくらんぼ)に糸でつりさげたところ。長いくちばしまで描かれているので、風にふかれてさくらんぼをつついてみえるところがとても好きです。その風景がみえるようで、とてもいいなあと思いました。
次の紹介するのは、BL出版から刊行されている世界のむかしばなし絵本シリーズの最新作です。
フランス・バスクのむかしばなし
『ヘビと船長』ふしみみさを・文 ポール・コックス・絵
「バスク」とは国ではなく、フランスとスペインにまたがる地方です。本書のむしばなしは、訳者あとがきによるとバスク地方に暮らしたイギリス人牧師ウェントワース・ウェブスターの再話をもとにしているそうです。
むかし、ひとりの船長が自分の船を手放すことになってしまい、海辺の村で細々と暮らしていました。そんな船長の楽しみは、散歩です。散歩の途中で、海辺に棲むヘビに毎日声をかけていました。
ある日、そのヘビが船長に頑丈な船をつくってくれといいだします。ヘビのいうとおりにして、船長は航海をはじめ……。
民話らしい余分な装飾のない文体と、それにぴったりな絵で展開される話はたいそうおもしろいです。描写もいたって率直。背中の皮がはがれるなど、痛々しい場面においても、絵も言葉もむだがないので、おどろおどろしくありません。
絵を描いたポール・コックスは、色数を七色に限定し、限られた色を繰り返すことで、本全体に独特のハーモニーをもたらせたそうです。また色版を重ね、そこにわざとずれを作り趣きを与えています。
一度読むとまたすぐ読み返したくなる、そんな魅力ある民話絵本です。
もう一冊、民話絵本をご紹介します。
玉川大学出版部より「世界のむかしのおはなし」シリーズが刊行されました。
1期では3冊刊行され、そのうちのオーストラリアのアボリジナルの昔話『色とどりの鳥』を読みました。再話はほそえさちえさん、絵はたけがみたえさんで。
むかしむかし、鳥たちはいまのような色とりどりではなく、真っ黒でした。
それがどうして今のような色になっていったのか。
カラスだけは昔と同じように黒いままなのか。
それは鳩が怪我をしたことからはじまりました。
動けなくなった鳩をまわりの鳥たちが看病します。
それでもなかなかよくならず、笑わせたり、踊りをみせたりしても、よくなりません。ところがインコが偶然あることをしたことで……。
インコが何をしたのか、どうして色とりどりの鳥になっていったのかは、ぜひ絵本でみてほしいです。
テンポよい語り口で展開される驚きのできごとを心から楽しみました。
力強い発色の絵も、お話にとてもよくあっています。
読んでいると、目をまるくして聞く子どもの顔が浮かぶようです。
まわりの子どもたちにぜひ読んでみてください。
このシリーズにこれからも注目!
さて次は読むと元気になる絵本。父の日の贈り物にもぴったりです。
『まってました』もとしたいづみ 文 石井聖岳 絵 講談社
赤いパンツをはいた黄色い髪の少年たろうが一人でいると、
次から次へと犬やカワウソやクマやかわうそたちがやってきます。
「なに、してるの?」と聞くとたろうのこたえは「まってるの」
さてさて、誰を何をまっているのか。
なにかをまつのは、ゆったりしているのが一番。
同じ問いと答えが繰り返され、たろうの周りには仲間がどんどん増えていきます。最後に来るのはだれなのか。
明るい黄色のタッチで描かれているので、お天気もよい一日のようです。
夕暮れに出会う最後の人、その人をまつ楽しみをたろうと一緒に味わえます。
次にご紹介するのは、まさにいま世界で起きているできごとが絵本で描からています。広い世界でなにかを同時に共有することはほとんどありません。しかし、新型コロナウィルスの影響は世界で同時のものです。
『いえのなかといえのそとで』
レウィン・ファム さく 横山和江やく 廣済堂あかつき
働いたり遊んだり学校に行ったりしていた人たちの多くが家の中で過ごすようになります。
けれど、医療関係者、警察、消防などの人たちは、いままで以上に外で働き続けています。
家の中と外、と2つの世界があるかのように線を引いたものをを描いているのではありません。どちらの世界にも同じまなざしで、いまの現実を詩的な言葉と絵で語りかけてきて、胸があつくなります。
ぜひ家族で読んでみてください。
次もいまの時代の絵本です。
『きみにもできる! よりよい世界のつくりかた』
ケイリー・スウィフト 文 リース・ジェフリーズ 絵 宮坂宏美訳
廣済堂あかつき
日々新聞やテレビのニュースで目にしたり耳にするようになったSDGs。
世界を変えるための17の目標のことです。
本書は、自分たちの住む世界がよりよい場所にするにはどうしたらいいのか、17の目標と照らし合わせて、考えている子どもたちへのガイドブックになっています。
世界を変えるといっても、自分以外のまわりの話ばかりではありません。
まず何より大事なのは自分です。
でも自分を大切にするって具体的にはどういうことでしょう。
しっかり睡眠をとること。
体にいいものを食べること。
等々、あたりまえだけれど、具体的に示してもらえると納得することばかり。
それに、まわりをよくするために自分ができることは、元気な自分でいることだということ気づけるのはすごくいいと思いませんか。
自分の次はコミュニティ、人類、最後に環境について、ひとつずつ具体的にどうしたらSDGsを達成していけるかが示されます。
読んでいると、大人の私も行動にうつして、SDGsの目標に近づいていこうと思いました。がんばります。
最後は、ページを開くとワクワクしかない『帆船軍艦』!
スティーブン・ビースティー 画/リチャード・プラット 文/宮坂宏美 訳
岩波書店から刊行されていた「輪切り図鑑シリーズ」を、判型を縮小し、翻訳者もあらたにした改訂版です。
あすなろ書房から刊行される「輪切り図鑑クロスセクション」シリーズは全5冊。現在2冊刊行され、残り3冊も5月以降2か月おきに出る予定です。
細密画の魅力がつまった本書は、1800年頃、世界最強と讃えられたイギリス海軍の帆船軍艦を輪切りにし、すみずみまでビジュアル化しています。
総勢800年の乗組員たちの日々の生活のすごさ!
長い航海中、健康でいることの難しさ。
人が多いのに、汚れをきちんととることも叶わず、湿気もよくなく、けがより病気で亡くなる人の方が多かったこと。
輪切りでみる船の中はどこも人だらけ。
コロナ禍のいま、これだけ不衛生だと病気になるのもすごくよくわかります。
食事も大変です。
ビスケットにはウジ虫がわき、とりのぞいて食べる方法はぜひ本で読んでみてください。それでも、完全にはとりきれず、うっかり食べることもあるようです。
大変な船の生活なのだけれど、緻密な絵を眺めていると時間を忘れます。
見飽きることのない図鑑本、ぜひ手元においてください。
(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish