9月に配信された「書評のメルマガ」では3冊の本について書きました。
http://back.shohyoumaga.net/?eid=979068
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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75 こどもって
毎年夏の終わりは突然だなと感じます。
台所の蛇口から出てくる水が冷たく感じると秋のはじまり、 朝の霧が深くなると冬のはじまり、 秋は短い会津です。
今回は「こども」をテーマにご紹介します。
一冊目はひとり出版社ですばらしい絵本を次々出しすっかり知名度が高くなっているきじとら出版からの最新刊。
『こどもってね』
ベアトリーチェ・アレマーニャ みやがわ えりこ訳 きじとら出版
絵も文も書いている作者はいま注目を集める絵本作家のひとり。本作は自ら「代表作」と呼ぶもので、一読して納得です。
こどもってね、という平易な語りで哲学の側面をみせてくれる深淵な文章に描かれているこどもたちは、それぞれに個性的でやわらかな意志を感じます。
大判の絵本、見開き片側にひとりずつ、こどもの表情が大きく描かれ、笑ったり、泣いたり、夢見ていたりして、こどもたちの気持ちが絵からも伝わってくるのです。
——
こどもってね、ちいさな ひと。
でも、ちいさいのは すこしのあいだ。
いつのまにか しらないうちに おおきくなる。
——
詩的な言葉で綴られる、こどもとは、の考察は、大人だからこそ響くものがあります。
響くからこそ、大人として少々反省する気持ちも芽生えることも。
毎日忙しく過ぎていると、リアルタイムにしっかりと目の前のこどもを意識することは時に難しく彼らの声に耳をすますのは簡単ではありません。
でも、この絵本から聞こえるいろいろなこどもたちの声を聞き、表情をみていると楽しく幸せなこども時代を過ごせるよう、大人としてがんばろう!と背中を押された気分です。
えいえいおー。
2冊目はアルゼンチンの絵本。
『エンリケタ、えほんをつくる』
リニエルス 作 宇野和美 訳 ほるぷ出版
アルゼンチンでは国民的人気マンガ家であるリニエルスの初邦訳絵本!
「初」という言葉に弱い私、わくわくしながら読みました。
主人公の少女、エンリケタはママからきれいな色鉛筆セットをプレゼントされ、さっそく物語を彩ります。
そこから先はエンリケタの描くお話しと、エンリケタとねこのフェリーニのやりとりが同時進行します。
リニエルスの描くエンリケタとフェリーニ。
リニエルスが描いているエンリケタがつくるおはなしの絵。
これらをタッチを変えて描き分けています。
おはなしの世界をつくりあげていくときの過程を、エンリケタが絵本の中で実況中継してくれるのですが、これがとってもいい感じ。
私も自分が小さかったとき、よく風邪をひいて学校を休み、布団の中に紙を持ちこんでおはなしをつくっていた時のことを思い出しました。フェリーニのように相談できる相手がいなかったので、ひとり何役もしながら、物語をつくって楽しんでいたのです。
なので、エンリケタの描く世界がとっても近しく感じます。
いろいろなハプニングがおきつつもラストはどう終わらせるか。
これは現役のこどもが読んだらきっと楽しむでしょう。
リニエルスの他の絵本も読みたくなってきました。
3冊目にご紹介するのは、2009年に刊行されたフランスの絵本
『ソフィー ちいさなレタスのはなし』
イリヤ・グリーン とき ありえ 訳 講談社
オルガ、アナ、ガブルリエル、ソフィーはなかよし4人組。
あるとき、4人は畑に種をうえてレタスをつくろうと計画します。
4人はそれぞれの場所に種を植え、かたつむりにやられないようワナ(!)をつくり、自分たちの名前札も据え置きました。
さて生育状況はといえば、なぜかソフィーのレタスだけは育ちません。
そこで、ソフィーは考えたのです。
まずはうそレタスをこしらえて……。
この絵本はこどもはもちろん、大人が読んでも共感するところが多々あります。
こどもの愛らしいところではなく、ブラックな面がいかんなく発揮され、嘘やダマし、心の狭さがキュートに描かれているのです。
そしてこの心の狭さは末っ子に多いかも、しれません。
なにせ、我が家の3人のこどもたちでも、一番共通点があったのは、ちびちゃんでしたから。
それでも成長したら、この手の心の狭さはだいぶ解消されるのです。
それが成長なのかもしれません(笑)。
刊行年が少し前なので、ネットで検索しても在庫があるところが見つけられ
ませんでしたが、そのときはぜひ図書館で探してみてください。