「書評のメルマガ」をご存知ですか。
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私は2010年1月から書かせていただき、今年で7年になります。
こちらでも紹介していきます。
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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72 観察の楽しさ
大人になってからは初めてともいえる写生会を体験してきました。
絵は好きなのですが、描いたことはほとんどないので、学べればと思って参加したものの、具体的な指導はなく、ただひたすら野の花や樹木を見て描いてきました。まとまった時間じっくり観察してみると、いままで見えていなかっ
た細かなところまで見えてくるようになり、自分の眼が成長を遂げた気分を味わいました。
それ以来、自分の視点が確かに変化し周りの野の花だけでなく、虫や鳥もいままでになく視界に入ってくるようになったのです。楽しくて、歩いていると常にきょろきょろしています。家のまわりは田んぼだらけで自然がたっぷりな
のです。
さて、今回は虫が活発になる季節にぴったりの絵本。
『甲虫のはなし』
ダイアナ・アストン文/シルビア・ロング絵/千葉 茂樹訳/ほるぷ出版
ほるぷ出版の「あたたかく美しい絵で身近な科学を紹介するシリーズ」の一冊です。このシリーズはどれも読んでほしい!のですが、ここでは新刊をご紹介します。
甲虫とは、6本のあしをもつ昆虫のなかでも、とくにかたいまえばねをもつ虫のこと。
見開きいっぱいに、のびやかな水彩画でカラフルな甲虫が描かれています。
たまごの甲虫は葉っぱのうらにうみつけられ、
たまごからかえると、なんども脱皮をくりかえしながら成長します。
1週間くらいで成虫になるサカハチテントウ。
メダマジンガサハムシ、アカヘリミドリタマムシのいろとりどりの美しさ。
美しい甲虫は世界のあちこちで食用にもなっています。
国連食糧農業機関(FAO)は2013年5月に「食用昆虫 食品と飼料の安全保障」という報告書をまとめ、昆虫食の利点を挙げており、
この絵本でも
インドではクワガタムシのチャツネ、パプアニューギニアでは幼虫のシチューなど、いろいろ紹介しています。(残念ながら料理の絵はありません)
また、人間の食べるパンやドライフルーツ、中にはペットフードまで食べるありがたくない虫も紹介されています。
恐竜が生きていた約3億年前から生息していたことが化石からわかっている甲虫。長い時を経ていまにいたっている虫たちを今年は観察してみようと思っています。
シルビア・ロングの描く甲虫はとってもきれいなので、子どもだけでなく、虫好きの大人の方への贈り物にもおすすめです。
これを機会に既刊絵本もぜひ。
もう一冊ご紹介。
『子どものための美術史 世界の偉大な絵画と彫刻』西村書店
アレグザンダー 文/ハミルトン 絵/千足伸行 監訳/野沢香織 訳
タイトルどおり、美術を楽しむための入門本。
絵をきれいに描ければなあと長年思っていましたが、絵をみることも大好きです。
地方に住んでいるとなかなか本物をみる機会には恵まれませんが、こういう本があると、自分の好きな時間にじっくり絵を楽しめます。
子どものための入門書は、実は大人にとっても便利な一冊です。説明が丁寧で、専門用語の羅列なくして、わかりやすい言葉で書いてあるので理解しやすいからです。
本書ではヨーロッパとアメリカの画家が中心ですが、日本人ではひとりだけ葛飾北斎が紹介されています。
見開きで1人の画家が紹介され、代表的な絵画1枚、どんな風に描かれているか細かな注釈がついています。
葛飾北斎では〈富嶽三十六景〉より《神奈川沖浪裏》の絵が紹介。描かれている絵の、たとえば「小さいほうの浪は富士山と同じ形をしていること」など鑑賞の一助となることが添えられています。
また、すべてではないですが、それぞれの画家の画法についての簡単なワークショップが紹介されているのも魅力です。
アンリ・マティスのページでは、「はさみでかく」切り絵のしかたを、ルノワールのページでは「スクラッチアート」をというように実際に作品づくりをしたくなる工夫があります。
実際に自分の手でアートをつくる体験をすると、本物のすばらしさをより理解でき、また鑑賞する楽しみも深まります。ぜひ実際に描いたりつくったりしてみてください。
夏休みにはすこし早いかもしれませんが、自由研究の参考にもなるおすすめ本です。