たいていの人が食べたことのある焼きそばに、どんな謎があるのか、表紙のおいしそうな焼きそばにつられて読んでみました。本書は早川書房の新たなレーベル「ハヤカワ新書」ラインナップの一冊です。
著者は、ブログ「焼きそば名店探訪録」管理人。本業はITエンジニア。ブログを読んでみたのですが、そこには全国47都道府県をまわったときに食べた焼きそば記録がぎっしり。私の地元のお店も入っていて、さすがの選択眼に信頼がおけます。
東日本大震災で東北地域の太平洋側にあった焼きそば店も多くが店を畳んでしまったとき、著者は貴重な食文化が失われることに危機感を覚え、ブログを開設したそうです。食べれば食べるほど、焼きそばに対する興味が深まり、疑問もわき、焼きそばはいったいどこで、どのようにつくられるようになったのかを深堀していくのです。
本書を読んで初めて知りましたが、焼きそばは戦後に誕生したという話が主流だったとか。ところが、昭和11年に刊行された書籍『素人でも必ず失敗しない露店商売開業案内』に紹介されている露店のひとつに「焼きそば屋」が入っており、戦前に誕生したということを裏付けます。(書名の素人でも必ず失敗しない~は、胡散臭そうでありながら、いいことが書いてありそうな吸引力があり、読んでみたくなります)
ふだん、何気なくリピートして食べている焼きそばの歴史について知っていくのは、なかなかにスリリング。著者はミステリを多く刊行している早川書房から書籍を刊行するので、ミステリ仕立てになることを意識したそうで、その効果が出て、先へ先へと読み進められます。
焼きそばが全国で食べられるようになるまでに、流通において東武鉄道、社会情勢では関税自主権の回復がカギとなっているのですが、食文化から国の戦略まで広がっていく調査の展開は、とてもおもしろい。はっきりわからないことは、自分の想像だと書きつつも、焼きそばの普及には「明治四十年頃に国内産の良質な小麦粉が安価で安定的に出回るようになり、大衆向けの飲食店でも気軽に利用できるようになったのは事実」という言葉には説得力があります。裏付ける丹念の調査には、巻末の参考文献一覧が数十ページにも及ぶことからもうかがえます。
それにしても、内容は濃く、ぎゅうっとつまっているにも関わらず、文章にとっつきにくさはなく、平易で読みやすいおかげで、平日仕事で疲れた頭にも抵抗感がありません。単行本ではなく、新書というのが、値段とともに気軽に手に取りやすくなっています。
ちなみに今回の紙の書籍になる前に、電子書籍で『焼きそばの歴史』(上下)を刊行しており、その評判のよさからハヤカワ新書の一冊に。本書は上巻にあたるので、売れ行きが好調であれば、きっと下巻も紙の書籍になりそうです。
好きが高じて書かれた熱量ある文章は人をひきつけます。気軽に読めてためになる、何より「好き」の伝播は心地よい。ぜひ下巻も紙の書籍になりますように。
【ソース焼きそばの謎】
出版社:早川書房
レーベル:ハヤカワ新書
価格:1,100 円(税込)
ISBN:9784153400061
刊行日:2023/07/19
著者:塩崎 省吾
公式サイト:新書創刊の舞台裏『ソース焼きそばの謎』 (Hayakawa Books & Magazines)