『デモクラシーのいろは』森絵都(角川書店)

 毎日新聞の書評に惹かれた。なにより作者は森絵都だ。児童文学から出発し、いまや大人向けの小説でも定評がある。それでも、平易な言葉で深い洞察を描き出すスタイルは、どちらのジャンルでも変わらない。

 読み始めは、「デモクラシー」や「戦争」といった単語に、重苦しい物語ではないかと少し身構えてしまった。けれど、その予測はいい意味で裏切られた。この作者が、単に重いだけの話を書くわけがないのだ。

 舞台は終戦直後。日本に民主主義を根付かせるため、GHQは日系二世のリュウ・サクラギに白羽の矢を立てる。彼は元華族の邸宅に、18〜20歳ほどの女性4人を住まわせ、わずか半年で彼女たちを「民主主義を伝える教師」へと育てる任務を負う。

 軍国主義から民主主義へ。「デモクラシーのいろは」を、彼女たちはどう吸収し、どう伝えていくのか。

 実験に参加した女性たちは衣食住を保障され、次第に顔色もよくなっていく。それでも、なかには自らの食を削ってまで、何かに打ち込む者もいた。

 紆余曲折を経て、少しずつ同じ道を歩み始めたかに見えた彼女たちだが、その先には思わぬ落とし穴が待ち受けている。

 とりわけ、和室(日本間)を教室にしようと考えたクニが、コスモスを四輪、コップに挿した場面には落涙した。見たこともない「新しい世界」を必死に手探りし、ひねり出したその行動に胸を突かれたのだ。

 終盤の展開には驚かされるが、着地は見事。児童文学の名手らしい、太陽を仰ぎ見るような光のある結末だった。

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