『シートン動物記 傑作選』(角川文庫 越前敏弥訳)

子どものころ『シートン動物記』を読んだ人なら、あの時の気持ちを思い出したくて手に取るかもしれない。けれど、いい意味で期待は裏切られる。抒情は一切排され、人間と動物の対立、相容れない関係がこれほど太く描かれていることに驚く。緊張感は濃く、短い作品をひとつ読むだけでも、次を開く前に深呼吸が要るほどだ。「スプリングフィールドのキツネ」に描かれる親の情ゆえのラストの行動には絶句した。ハードボイルド好きにも刺さる一冊だ。

1967年北海道生まれ。子どもの本を子どもの頃から大人のいまも読んでもろもろ書いています。翻訳小説も好き。