『タトゥーママ』
ジャクリーン・ウィルソン 作 ニック・シャラット 絵
小竹由美子 訳 岩波少年文庫
最初に刊行されたのは2004年、偕成社からでした。
ニック・シャラットが描くタトゥーママは、美しいけれど、どこか頼りなげに見えます。体のあちこちにあるタトゥーは、まるで何かから自分を守ってくれるお守りのようにも感じられました。
あらすじはこうです。
マリゴールドの33歳の誕生日。娘のスターとドルは母親を祝うために一生懸命がんばります。けれど、そのかいもなく、マリゴールドは誕生日におかしくなってしまいます。
情緒不安定な母親をドルは必死に支えようとしますが、スターはもっと「普通の母親らしさ」を求め、母との関係はうまくいきません。
マリゴールドは娘たちを大切に思ってはいるものの、自分のさみしさや思い通りにならない現実を、お酒やタトゥーに頼ることで埋めようとし、自分優先の生活に流されてしまいます。
さらに、スターの父親であるミッキーへの未練も断ち切れず、あるコンサートで再会。スターは、自分の父親が実在し、しかも魅力的な大人であることに夢中になります。一方、ドルは疎外感を抱き、姉の喜びを共有できません。
やがてスターはミッキーと暮らす道を選びますが……。
作者ジャクリーン・ウィルソンは、軽快な筆致で深刻な社会問題を背景にした物語を描きます。
私が日本で最初に刊行された『みそっかすなんていわせない』を読んだとき、シングルマザーを描く日本の作品では往々にして情緒的で湿っぽくなりがちな中、ユーモアを交えた語り口に「こういう作品を待っていた」とうれしく思ったことを、今も鮮明に覚えています。
とはいえ、『タトゥーママ』の母マリゴールドを見ていると、子どもが背負う重さは痛いほど伝わってきます。どんなに願っても、つらい出来事があると感情を抑えきれず、子どもを置いて夜通し出かけてしまう。スターもドルも、どれほどさみしく、怖い思いをしたことでしょう。それでも、二人は母親が大好きなのです。
努力だけでは埋められない部分があり、治療や社会の支えが不可欠なときもあります。不足を補える社会が望まれます。
いまの日本ではようやく「ヤングケアラー」という言葉が定着し、少しずつ支援が広がり始めています。そんな今だからこそ、『タトゥーママ』は、支えを必要としている子どもたちの手に届いてほしい。岩波少年文庫という手に取りやすい形で復刊されたことが、とても心強く感じられます。