3/10日号で配信された「書評のメルマガ」では『バレエシューズ』『わたしは女の子だから 世界を変える夢をあきらめない子どもたち』をご紹介しました。
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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93 生活と物語と現実と
美しい本が刊行されました。
『バレエシューズ』
ノエル・ストレトフィールド 朽木祥 訳 金子恵 画 福音館書店
1936年にイギリスで刊行されベストレセラーになった物語で、日本で紹介されたのは1957年。訳者の朽木さんも少女時代に愛読していたそうです。
瀟洒な表紙を開いて読み始めると、あっという間に1930年代のロンドンにタイムスリップしたかのように入り込みました。
学者のマシューがひょんなことから、身寄りのない赤ちゃんを3人続けて引き取ることになります。マシューは気まぐれ(?)に期間を決めないで家をあけることがままるため、姉妹を育てたのはマシューの親戚のシルヴィアとシルヴィアの乳母であるナナでした。
マシューは大叔父マシュー(Great Uncle Matthew)の頭文字でGUM(ガム)と呼ばれています。生活はガムがみており、長い旅に出ている間はきちんとお金はおいていきました。けれど今までにない長期間の不在にシルヴィアたちの生活は苦しくなっていきます。
その頃には成長した姉妹が家計を助けるべく舞台芸術学校に入学。また、空き部屋に下宿人をおくことにし、結果、とてもいい人たちが住むことになり、姉妹の支えにもなってくれるのです。
さて、この物語は細部の描写がとても深く、3姉妹がくったくなく毎日を過ごす様子から、いつかは自分の名前を歴史に残そうという野心をみせてくれるなど、彼女たちの動向に目が離せません。ポーリィン、ペトローヴァ、ポゥジーは、大きい順から、舞台芸術学校で学び、自立し生活の糧を得るのですが、どの公演でいくらもらえるかという具体的な数字がかなり出てきますので、家計簿をみながら姉妹らの生計を応援しているような気持ちにもなりました。
かといって貧困が描かれるわけではなく、生きていく上での山有り谷有りが、子どもの視線で描かれ、女優として成功しつつあるポーリィンの奢りや、才能があっても、見た目で判断される社会の厳しさも見せてくれます。周りの大人たちが、子どもたちを支える姿もすてきで、子どもも大人も、読むと前を向いて生きていく活力をもらえる物語、古典の底力を感じます。
『わたしは女の子だから
世界を変える夢をあきらめない子どもたち』
文:ローズマリー・マカーニー ジェン・オールバー
国際NGO プラン・インターナショナル
訳:西田佳子
西村書店
帯に6つのマークが印字されているのを、高校生の娘がみて、これ学校で見た!と教えてくれました。
2030年に向けて世界が合意した「持続可能な開発目標」がそれです。
本書にあてはまるものは、この5つでした。
1 貧困をなくそう
4 質のいい教育をみんなに
5 ジェンダー平等を実現しよう
6 安全なトイレを世界中に
10 人や国の不平等をなくそう
タイトルにある「Because I am a Girl」「わたしは女の子だから……」は、女の子を取りまくリスクから護り、彼女たちが生きる力を発揮できる世界をめざして、国際NGOプラン・インターナショナルが展開しているグローバルキャンペーン名からきています。
少女8人は、自分らが経験した奴隷(カムラリ)、早婚、貧困などについて語ります。写真も豊富に掲載され、意志の強い目力を感じる彼女らの体験は、過酷で、学ぶ権利、教育も奪われている中で、自分たちが生き延びるために必要なものを取得するために、努力している姿を見せてくれます。
西村書店はいままでも“世界の今を知る写真絵本”を刊行し、私達読者に、知らない世界をみせてくれました。
本書は絵本より文章量があり、情報も多く、だからこそ、少女達の強さがより伝わってきます。教育を受け、職業訓練を受け、未来を切り開いていくのに何が必要かを読者に教えてくれます。
日本の多くの少年少女たちに読んでほしいです。
そして、“世界の今を知る写真絵本”『私はどこで生きていけばいいの?』『すごいね! みんなの通学路』も手にとってほしい。
目の前のことにいっぱいいっぱいの時期だからこそ、視野をぐいっと広げてくれるはずです。