11/10日号で配信された「書評のメルマガ」では『ルイーズ・ブルジョワ 糸とクモの彫刻家』『せん』『オレゴンの旅』の3冊をご紹介しました。
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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89 芸術の贈り物
『ルイーズ・ブルジョワ 糸とクモの彫刻家』
エイミー・ノヴェスキー 文 イザベル・アルスノー 絵
河野万里子 訳 西村書店
イラストレーター、イザベル・アルスノーの作品をひとめみたときから、これは追いかけて読みたい絵本作家だと注目してきました。グラフィック・ノベル『ジェーンとキツネとわたし』も2015年にメルマガで紹介しています。
今回の絵本は彫刻家ルイーズ・ブルジョワの生涯を描いたもので、エイミー・ノヴェスキーが文章を書いています。
芸術家の評伝と絵本はとても相性がよく、ルイーズの芸術の本質が別のアーティストによって違う色彩で輝き、印象づけられます。
母親はタペストリーの修復を仕事としており、ルイーズは12歳になると、母親の仕事をおぼえはじめ、修復の線や下絵を描くようになります。修復が必要なタペストリーのすその部分だったので、必然的にすその部分――人の足を描くのが上手になったそうです。
母と一緒に修復の作業をしたことは、ルイーズの原点となり、大学では数学を専攻したにもかかわらず、母親が亡くなったあとは、修復する――つなぎあわせ、完全なかたちにもどす――ことを仕事にしていきます。
しかし、母の死はルイーズの未来を変えました。
絵を描き、織物を織っても、母に会いたい気持ちはおさまらず、彫刻でそれはそれは大きなクモをつくるようになります。
ブロンズや鉄など様々な素材でクモをつくり、題を「ママン(おかあさん)」とつけました。
32歳のときにタペストリーの個展をひらき、6年後に初の彫刻作品を発表。71歳のときに、ニューヨーク近代美術館(MOMA)で開催した回顧展でとうとう世界的に認められたのです。
ルイーズは子ども時代の思い出が、創作におけるインスピレーションの源と語っており、なぜ「クモ」を題材にしているかも絵本で紹介されています。
アートを強く感じる本書は子どもにも大人にも刺激を受ける一冊としておすすめです。
『せん』
スージー・リー 岩波書店
そぎ落とされたシンプルな線で描かれた絵本。
スージー・リーは、デッサンの線から豊かな物語を絵で語りかける作家です。
赤い帽子をかぶった少女はスケートでリンクに美しい線をつけていきます。
見開きの白いページで少女はすべるのですが、あら、スケートリンクだと思っていたのは紙??と疑問符がよぎる、少しトリッキーな展開のあとは「せん」のもたらす妙味に唸らされるのです。
サイレントムービーのように言葉なく「せん」のみで描く少女のスケート世界の豊かさに、みているだけで満足感がこみあげます。
最後にご紹介するのは、うれしい復刊絵本。
『オレゴンの旅』
ラスカル 文 ルイ・ジョス 絵 山田兼士 訳 らんか社
セーラー出版で刊行されていた『オレゴンの旅』が復刊です。
(ご存知と思いますが、らんか社は2013年にセーラー出版から名前が変更になった版元です)
星のサーカス団でデュークはオレゴンという名のクマと友だちになります。
オレゴンはデュークに大きな森に連れていってほしいとお願いします。
デュークはクマのオレゴンが口をきけることに驚くものの、願いをかなえるべく、ふたりでサーカス団を離れることに同意します。
デュークはピエロでした。そしてピエロの恰好のまま、オレゴンと旅をします。
ヒッチハイクをしたとき、運転手のスパイクはデュークになぜ赤いハナつけおしろいをぬっているのかたずねます。
「顔にくっついてとれないんだ。小人(こびと)やってるのも楽じゃないんだよ…」
「じゃあね、世界一でかい国で黒人やってるのは、楽だと思うかい?」
どのページもタブローのような完成度で、
少しもの悲しさをただよわせる旅の空気感がリアルです。
オレゴンとの約束を果たしたあとのデュークがとてもかっこいいので、見てほしい。
10代の本棚におすすめしたいとらんか社さんからのメッセージなので、我が家の高校生の娘っこと一緒に読んだところ、
「かっこいいー!」
オレゴンの旅の絵本が放つメッセージをひとりの高校生には伝わったようです。