• 『シロクマが家にやってきた!』

    『シロクマが家にやってきた!』
    マリア・ファラー 作
    ダニエル・リエリー 絵
    杉本 詠実 訳
    白水 あかね 装丁
    あかね書房

    海外文学のおもしろさを伝えてくれる「BOOKMARK」という小冊子をご存知でしょうか。
    2018年1月現在、最新号は10号ですが、その前の9号の特集が装丁でした。「顔が好き♡」というタイトルも秀逸で、確かに装丁は本の「顔」ですね。

    ご紹介する本書『シロクマが家にやってきた!』も「顔」がすてきです。
    人柄(いや、クマ柄でしょうか)のよさそうな顔と、クマを見上げる少年のいい感じが伝わってくる表紙。
    そして、周りにはさかながいっぱい。
    なにせ、わたくしのハンドル名がさかななものですから、特にさかなが描かれているものは無条件に惹かれます。
    とはいえ、ここに描かれているさかなは、かわいがられる対象ではないのですが、それはさておき。

    主人公アーサーには障害のあるリアムという弟がいます。
    両親は毎日の生活の中でリアムを優先にことをすすめるので、アーサーは不満がつのりリアムを邪険にしてしまいます。
    アーサーがテレビでサッカーゲームを見たかった日、リアムがパニックをおこした為テレビはおあずけ。アーサーはつもっていた不満を爆発させ家を飛び出そうとするのですが、家の前になんとシロクマが……。

    シロクマの名前はミスターP。

    ミスターPは言葉を発しませんが、アーサーやリアムと身振りや手振り、アイコンタクトなどで交流していきます。
    なにもいわずぎゅっとされるのは、とても気持ちがいいものです。
    ミスターPが家族の一員のようになり、リアムともいい関係をつくり、
    リアムが落ち着くことで、自然とアーサーとも波風たたくなっていきました。

    家族の間がうまくいっていないとき、
    誰か第三者が介入することで、風通しがよくなることがあります。
    何かつまっていたものがとれると、
    そこから先はもう第三者がいなくても、風は通っていくのでしょう。

    挿絵もいっぱいある本書は、小学校中学年から楽しめます。

    読んでいて、マーク・ベロニカの絵本『ラチとらいおん』を思い出しました。

    1965年初版のこの絵本は、よわむしのラチがどこからかやってきが小さな赤いライオンと出会うことで、少しずつつよくなっていくお話。最高の友だちができるとどんなに力になれるか、勇気をもらえる絵本です。

    アーサーとミスターPの友情もすてきです。ぜひ読んでみてください。

  • 『モルモット オルガの物語』『オルガとボリスとなかまたち』『バイバイわたしのおうち』//書評のメルマガ

    1/10日号で配信された「書評のメルマガ」ではユーモアたっぷりの本について書きました。
    http://back.shohyoumaga.net/?eid=979078

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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    79 共に生活する楽しみ

     2018年が始まりました。
     年末年始のハレの日が過ぎ、日常が戻っているころでしょうか。
     

     さて今年最初にご紹介するのはシリーズ2作。
    『モルモット オルガの物語』
    『オルガとボリスとなかまたち』

     マイケル・ボンド 作 おおつかのりこ 訳 いたやさとし 絵 PHP研究所

     

     作者は「くまのパディントン」シリーズを書かれたマイケル・ボンドさん。
    さみしいことに昨年亡くなられ、日本語に訳された本はみていただくことは叶わなかったそうです。

     本書は娘のカレンさんが飼っていたモルモットをモデルに、空想力ゆたかなオルガが愉快に動き回る物語。

     表紙のモルモットたちの愛らしさにまず惹かれ、
     一巻目の冒頭からこれはおもしろそうだとわかりました。
     
     ――オルガ・ダ・ポルがはまちがいなく、とくべつなモルモットです。

     とくべつなモルモットの話!

     オルガは自分の名前を飼い主のカレンにどのように伝えたか。
     ネコのノエルとはどのようにわかりあったか。
     空想が紡ぐめくるめくお話。
     などなど
     
     オルガの躍動感が読み手に伝わってきて、ワクワクというか、次は何をするのかなという楽しみが読んでいる間中続きます。

     おおつかさんの翻訳は言葉がやわらかく、詩的で、物語にとてもあっています。オルガやまわりの友だちの言葉は時に深淵で哲学的でもあり、大人が読んでも、はっとします。

     私の好きな言葉は、ハリネズミのファンジオによるもの。

     ファンジオはオルガに自分な好きな場所“天国が原”の話をし、オルガもその場所に行きたくなります。なんとか、囲いから抜け出し、ファンジオと出かけます。しかし、“天国が原”はオルガにとってはよくわからない場所でした。

     そんなオルガにファンジオはこういいます。

    「美は、みるものの目にやどる。おいらのまどからは、すてきな場所にしかみえないけどな」

     うんうん、ファンジオのいうこと、よくわかります。

     小学校低学年から楽しめる物語。
     周りのお子さんにすすめてみてください。
     動物好きだとなお喜ばれるでしょう。

     訳者おおつかさんによる、オルガのブログもぜひ。
     作中に出てくる料理、その名も”あなのなかのヒキガエル”もブログで紹介され、つくりたくなりました。
     

     「もっと もっと モルモット オルガ」
     https://olga-da-polga.muragon.com/

     もう一冊はうれしい復刊児童書

    『バイバイわたしのおうち』
     ジャクリーン・ウィルソン 作 ニック・シャラット 絵 小竹由美子 訳
     童話館出版

     本書は2000年に偕成社より刊行されていたものの復刊。翻訳は全面的に見直されています。

     刊行された当時読んでいたので、久しぶりの再読です。
     ジャクリーン・ウィルソンさんの作品は1995年に翻訳家の小竹さんが訳された『みそっかすなんていわせない』(偕成社)を皮切りに、日本でもファンが広がりました。イギリスで大人気の作家、ジャクリーン・ウィルソンは複雑な家庭環境下の子どもの気持ちをよくすいとっていて、なんでわかるの?と聞きたくなるほどリアルです。

     私自身、中学のときに両親の離婚を経験していますが、まわりの友だちには相談できず本にずいぶん救われました。

     ひこ・田中さんの『お引越』や今江祥智さんの『優しさごっこ』がそうでしたが、ウィルソンさんの本を初めて読んだときは、もっと早く読みたかった!とくやしく思ったほどです。

     さて、この物語のいちばんの魅力は語り口が湿っぽくないところです。
     親の離婚は子どもにとっては不幸なことが多いですが、だからって暗く重たく書く必要はなく、からりと悲しさやしんどさを語ってほしいのです。

     『バイバイわたしのおうち』はパパとママとアンディーの3人で桑の木のある一軒家で暮らしていたのが、両親の離婚によって、1週間事に双方の家を行ったり来たりする暮らしを強いられるようになった物語。

     両親の仲が破綻していても、子どもとの関係は破綻していないのだから、アンディーにとっては、どうにかやり直せないか、また一人っ子に戻りたいと願うのはとっても理解できます。

     双方ともに異母兄弟がいて、落ち着く場所がなく、ストレスをため続けるアンディー。そんなアンディーの親友はシルバニア・ファミリーのうさぎ人形、ラディッシュ。

     ラディッシュのおかげで、アンディーはもう一つの居場所も得ることができるので、そのあたりはぜひ本を手にとって読んでみてください。

     子どもの選択肢は少ないゆえに、逃げ場がなかなか見つからない。家、学校以外の居場所は大事です。

     アンディーにラディッシュがいてよかった。

     ニック・シャラットのイラストも物語にぴったり。子どもも大人も表情がいい、仕草がいい。みんな憎めない人物に描いています。

     ウィルソンさんの物語を必要とする子どもたちにこの本が届きますように。
     大人も読んで広めましょう!

     それでは、今年もよろしくお願いいたします。

  • 『口ひげが世界をすくう?!』『しずかにあみものさせとくれ-!』『テオのふしぎなクリスマス』//書評のメルマガ

    12/10日号で配信された「書評のメルマガ」ではユーモアたっぷりの本について書きました。
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    78 ユーモアは明日の活力

     12月になりました。
     今年も残りわずか。あと何冊読めるかなと思っているとき、最高におもしろい本を読みました!

     『口ひげが世界をすくう?!』
    ザラ・ミヒャエラ・オルロフスキー作
    ミヒャエル・ローハー絵 若松宣子訳
    岩波書店

     ヨーヨーの大好きなおばあちゃんが亡くなってしまいました。おじいちゃんはとても悲しみ、出かけることもなく、新聞ばかり読んでいます。しかし、ヨーヨーの心配をよそに、なんと、おじいちゃんは「ひげの世界チャンピオン」になる準備をはじめたのです。

     ヨーヨーはおじいちゃんを応援し、ひげコンテストのアシスタントとして、大会にも一緒に行き、おじいちゃんをしっかり支えます。

     イラストたっぷり、ルビつきなので、小学校低学年から楽しめます。

     世界ひげ大会に出るためにひげの手入れに必要な道具は見開きいっぱいに描かれ、興味をそそられました。各章にもひげがマークになっており、遊び心があちこちにちりばめられてます。

     さあ、どんなひげでおじいちゃんは大会に挑むのでしょうか!

     そのひげは、それはそれは素晴らしくキュート!
     とにかく見て!としか言えません。

     ひげが鍵となる物語なので、本書には複数種類の帯が用意されており、版元
    サイトで全種類みることができますので、ぜひ。

     https://www.iwanami.co.jp/book/b325123.html

     ユーモアいっぱいの本書は、年末の忙しさでつかれているときに心をほぐしてくれます。ぜひ手にとってください。

     『しずかにあみものさせとくれー!』
    ベラ・ブロスゴル さく おびか ゆうこ 訳 ほるぷ出版
     2017年コールデコット賞オナー作品。


     
     大勢の孫に囲まれてくらすおばあさん。冬がくるまえに編み物仕事をしたいにも関わらず、子どもたちがにぎやかで、集中させてもらえません。そこで、静かに編み物をできる場所を求めて家を出ることにしました――。

     あちこちさまよいながら、求めていた場所は意外なところ。そこで一仕事したおばあさんは次にどうするか。

     作者ベラ・ブロスゴルはロシアのモスクワ生まれ。5歳のときにアメリカに移住。2011年にコミック作家としてデビュー。本書は著者のはじめての絵本作品。

     コミカルにリズムよく、画面の空白づかいがとてもおもしろい作品。

     旅路の最後まで、どうぞお楽しみにください。

     それでは、今年最後にご紹介する絵本は、時季にちなんでクリスマス絵本。

    『テオのふしぎなクリスマス』
    キャサリン・ランデル 文 エミリー・サットン 絵
    越智典子 訳 ゴブリン書房

     テオはクリスマスをとても楽しみにしている男の子。でも、おとうさんもおかあさんも仕事でいそがしく、クリスマスイブでも、早く帰ってくるからねと言いつつ、後のことはベビーシッターさんまかせ。
     テオは願います。
     心臓のすみからすみまで、ぜんぶをこめて、ひとりぼっちでないことがいいと。

     クリスマスの奇跡がここからはじまります。つよく願うことと、それがかなう日なのですから。

     キャサリン・ランデルは『オオカミよ森へ』(原田勝訳 小峰書店)で骨太の動物物語を書いている作家。本書では、少年の強い気持ちを丁寧に描いています。

     エミリー・サットンの絵は、華やかで瀟洒にクリスマスの雰囲気を見事に描き、どのページも美しいのひとこと。思わず何度か絵をなでてしまったほどです。

     テオのクリスマスの願いごとがどのようにかなうのでしょう。

     ラストのゴージャスさは、すごーい!と感嘆しました。

     さあ、みなさまの願い事もかないますように。
     メリークリスマス! 
     そしてすこし早いですがよいお年をお迎えください。

  • とうごうなりささんの『じょやのかね』

    ちいさなかがくのとも10月号で注目した、とうごうなりささん。
    ブログにも書きましたが、それ以来、とうごうさんのHPを追っかけています。

    新刊絵本が福音館書店から出ると知り、楽しみにしていました。

    『じょやのかね』
    お正月絵本です。

    ストーリーはお父さんと息子が2人で新しい年を迎えじょやの鐘をならしに行くのです。
    真夜中の話なので、お正月絵本としてはちょっと変わっていて黒一色の世界が描かれます。
    華やかな色合いのものが多いなか、おもしろいです。

    絵本を読みながら、お正月の12時を過ぎるひとときを思い出しました。
    真夜中、時計がすすんだだけで、新しい年。

    絵本の中の男の子は「あたらしいとしはどこにきたんだろう」と思います。

    ほんと、あたらしいとしはどこにくるんでしょう。

    とうごうさんのブログによると

    「夜の光景と、日本のお正月の厳かな雰囲気を表したくて、黒一色で摺った版画にした。版に使ったのは床材のビニールタイルだ。」

    確かに厳かな雰囲気がでています。
    黒の世界に新しい年の空気が満ちています。
    本のカバーも広げると一枚の絵になっていて、見ごたえあり。

    お正月にまた読み返そうと思っています。

  • 『灰色の地平線のかなたに』『凍てつく海のむこうに』//書評のメルマガ

    11/10日号で配信された「書評のメルマガ」では岩波書店の2冊について書きました。
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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    77 知らないことを知る

     10月に入ってからの台風、被害にあわれた地域の方々にお見舞い申し上げます。

     毎年、いままでにない気象が起こり、各地で日常が突然奪われてしまう。
     さまざまな状況の中でできるだけ冷静に対処し、明るく過ごす事の大事さを思います。

     こういう時はじっくり本を読む。
     読んでいろいろ考える。

     今月はじっくり時間をかけて読む、長編作品をご紹介します。

     『灰色の地平線のかなたに』 
     『凍てつく海のむこうに』
     ルータ・セペティス作 野沢佳織 訳 岩波書店

     今年2017年カーネギー賞を受賞したのは『凍てつく海のむこうに』

     イギリスの図書館協会が年に1度、児童・ヤングアダルト向けのすぐれた作品に贈る賞です。

     ルータ・セペティスの作品は2012年に『灰色の地平線のかなたに』が翻訳れています。
     2冊続けて読んでみました。

     『灰色の地平線のかなたに』

     第二次世界大戦中のリトアニアで、15歳のリナはソ連の秘密警察につかまりシベリアの強制労働収容所に送られてしまいます。父親は別の場所に連れていかれ、母親とリナ、弟のヨーナスの3人は、集団農場(コルホーズ)で働かされることになりました。つらい長旅のあと、厳しい農作業の労働を強いられる中、リナはいつか父親と再会し、画家を再び目指せることを未来に描き、現実を耐え抜きます。

     文字を読みながら映像をみているかのような描写に、息をつめて読んでいる自分がいました。

     過酷な環境の中、自分を守ることで精一杯になりがちな場においてリナの母親が常に他者に対しての思いやりをもっている姿も心を揺さぶられました。
     
     作者、ルータ・セペティスは歴史上であまり語られていなかったできごとを物語にして差し出します。

     ナチスのユダヤ人虐殺は多く語られてきている一方、同時期にスターリンが率いるソ連がバルト諸国のみならず自国の市民も逮捕し、シベリアに追放してきたことはそれほど知られておらず、これに光をあてて書いたのが本作です。

     生き延びたいという強い気持ちをもつリナの生き方に圧倒され、ここまで追い詰める戦争の罪深さを忘れてはならないと強く思いました。

     続けて
     『凍てつく海のむこうに』を読みました。

     リナの従兄弟ヨアーナが主人公です。

     『灰色の~』でもヨアーナについて語られることはあっても、本人は登場していません。ヨアーナもまた、リナと同じように強い少女でした。

     第二次世界大戦末期、ソ連軍の侵攻がはじまるなか、ナチス・ドイツ政府は孤立した東プロイセンから、バルト海を経由して住民を避難させる「ハンニバル作戦」をとります。

     その史実を背景に、作者は海運史上最大の惨事とよばれる〈ヴィルヘルム・グストロフ〉号のことをヨアーナ含む4人の若者たちの視点でフィクションを紡ぎました。

     大人がしている戦争に巻き込まれるこどもたちが、どんな思いを抱いていたのか、物語を読むことで、私たちは想像し、そうでない未来をつくっていかなくてはと意識するようになるのでは。

     知らなくてはいけないことを知ること。
     意識していないと、知っている世界はごく狭いものになってしまう。
     知ろうと意識すること、
     物語の世界は、それをみせてくれます。

     2冊あわせて6センチ近い厚みをもつ物語は、読むのにちょっとひるんでしまうかもしれませんが、読み始めるとあっというまに歴史の世界へ誘います。

     ぜひ読んでください。

  • ゆきのひのおくりもの

    すずき出版より『ゆきのひのおくりもの』が復刊されました! うれしいな♪

    このレトロ感あふるる感じの表紙は、一定数の気持ちを即座にわしづかみにしているはず。
    手元に届いたものは1週間で増刷がかかった2刷りめです。

    日本に紹介された最初は2003年。いまから14年前ですね。
    パロル舎は、残念ながらいまはない出版社ですが、この絵本シリーズを立ち上げるなど絵本出版に意欲的でした。

    原書は「ペール・カストール」シリーズの1冊で、1931年にポール・フォーシェにより創刊されたもの。
    まだ子どもの本がほとんど存在しなかった時代に、教育のため、文章、絵とものに最高に質のいい本を安い値段で子どもたちに提供として立ち上がったシリーズです。(訳者ふしみみさをさんによる説明より)

    このあたり、福音館の「こどものとも」シリーズに通じるものを感じます。
    「こどものとも」もロングセラーが多いですが、
    このシリーズもまたフランスのみならず世界中で何世代にもわたって読み継がれているロングセラーです。

    パロル舎版も新版のすずき出版、どちらもすてきです。

    好奇心より比べてみますと、違いは版型の大きさ、すずき出版の方がちょっぴり縦長。
    紙質はすずき出版さんの方は光沢があり、パロル舎さんの方はマットな感じです。

    訳者はどちらも同じふしみみさをさん。
    訳文はすずき出版ではよりブラッシュアップされています。

    さて物語は
    雪がしんしんふっているなか、こうさぎはおなかがすいて、食べ物を探しに雪の中を歩きます。
    そこで見つけたのがにんじん2本。
    1本を友人のこうまくんにもっていきます。
    こうまくんもまた外で別の食べ物をみつけ家に帰ってきたときにんじんをみて、今度は……。

    やさしい気持ちがリレーのようにつながっていくお話。
    ゲルダ・ミューラーの動物を描くタッチは写実的でも、デフォルメも擬人化もなく、それでいて、どの動物の目も気持ちを雄弁に語っていて親しみを感じます。

    これからの冬の季節、あったかい部屋で読むのにぴったりの絵本です。

  • 『サンドイッチをたべたの、だあれ?』『発明家になった女の子マッティ』『クリスマスを救った女の子』//書評のメルマガ

    遅くなりましたが10月に配信された「書評のメルマガ」ではやまねこ翻訳クラブ会員訳書3冊について書きました。
    http://back.shohyoumaga.net/?eid=979068

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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    76 WEB上のクラブ やまねこ翻訳クラブ20周年

    weB上で活動している、やまねこ翻訳クラブをご存知でしょうか。

    http://www.yamaneko.org/

    1997年に発足し、翻訳児童書を軸にWEB上で翻訳勉強会をしたり読書会をしたり、メールマガジンを発行したりするなどの活動をしているクラブです。

    私は産休時に、このクラブの存在を知り入会。
    ニフティのフォーラム時代から参加しています。
    地方にいても子どもが小さくても、自分の好きな時間にアクセスして大好きな本の話ができる場は夢のような場所でどっぷりはまりました(笑)。

    今年2017年、やまねこ翻訳クラブは20周年を迎えました。
    私自身、メールマガジン「月刊児童文学翻訳」の編集長も2年ほど務め、出版社、翻訳者の方々のインタビュー、企画をたてて記事を書くことなど、ただ翻訳児童書好きの(翻訳者志望ではない)私にも勉強になることばかりでした。

    いまは時間がなかなかとれず、会員らしいことができていないのですが、20周年記念に今回はやまねこ翻訳クラブ会員の訳書をご紹介します。

    一冊めは、
    翻訳者も出版社もやまねこ翻訳クラブ会員によるものです。
    絵本の帯には、やまねこ20周年のロゴと共に、会員による推薦文も掲載されいます。

    『サンドイッチをたべたの、だあれ?』
    ジュリア・サーコーン=ローチ 作 横山 和江 訳 エディション・エフ

    森にすむクマが、いいにおいに誘われて、人間が収穫した木イチゴが積まれているトラックに乗ってしまいます。たらふく食べてぐっすり眠って起きた場所は森ではなく、人間の住む街でした。

    クマにとっては初めてみるものばかりの街の中、歩き回って公園にたどりつき、ベンチにあったサンドイッチを発見。さてさて、サンドイッチをクマは食べたのでしょうか!?

    描かれるタッチはおてんとさまの陽射しを感じるようなあたたかさがあります。

    クマは結局どうするのかなと思って読んでいくと、へえ!と思うラストに、まさにタイトルどおりと納得です。このひねり具合は、にやりとしますよ。

    さあ、はたして食べたのは誰でしょう!?

    絵も文章もアメリカ、ニューヨーク在住のジュリア・サーコーン=ローチが描いています。学生時代はアニメーションを学び、その後絵本作家としてデビュー。本書は4作目にあたり、2016年絵本作家に贈られるエズラ・ジャック・キーツ賞の次点に選ばれています。

    訳者の横山和江さんは山形在住。読み物も絵本の訳書も出されていますが、目利きの横山さんが刊行されるものはどれも読ませます。やまねこ翻訳クラブ会員歴も長く、翻訳のほか、読み聞かせの活動もされています。

    刊行したエディション・エフは京都にあるひとり出版社。「手と心の記憶に残る本づくり」をされていて、HPの会社概要は一読の価値あり。

    http://editionf.jp/about/

    二冊めは、

    『発明家になった女の子マッティ』
    エミリー・アーノルド・マッカリー 作 宮坂 宏美 訳 光村教育図書

    ノンフィクション絵本です。
    19世紀末のアメリカで活躍した女性発明家、マーガレット・E・ナイトを描いたものです。

    マッティ(マーガレットの愛称)は、子どもの頃からの発明好きでした。
    2人のお兄さんのために、おもちゃや凧、そりをつくり、お母さんのためには、足をあたためる道具をつくりました。

    家は貧しく、マッティは小学校の教育しか受けていませんが、発明に必要な力量を備えていたので、働きながら最終的にはプロの発明家として、22の特許を取得し、90を超える独創的な発明を行ったそうです。

    作者は、聡明な彼女を繊細な線画で表現し、彼女の発明したものの図面も描いています。

    女性であることの偏見をはねのけ、発明家として自立していく姿は、子どもたちに、未来を切り開いていく具体的な力を見せてくれます。

    訳者の宮坂さんは、やまねこ翻訳クラブ創立メンバーのひとりです。マッティのように、とことん調べ物をし、やらなければならない事を的確に迅速にこなし、見事、翻訳家になりました。

    三冊めは、

    『クリスマスを救った女の子』
    マット・ヘイグ 文 クリス・モルド 絵 杉本 詠美訳 西村書店

    昨年のクリスマスにご紹介した『クリスマスとよばれた男の子』シリーズ第2弾です。

    杉本さんの訳文はとてもふくよかです。言葉がやわらかく、読みやすく、杉本さんが訳したものは物語の中にすっと入り込めます。なので、こういう魔法の話はぴったりかもしれません。

    さて、物語です。
    サンタクロース(ファーザー・クリスマス)が誕生して、人間界の子どもたちにプレゼントを配ってから1年がたち、またクリスマスの季節がやってきました。

    一番最初にサンタを信じた少女アメリアは絶対に叶えてほしいクリスマスの願い事をしてサンタクロースを待っていました。しかし、その年、サンタは誰のところにも来なかったのです。
    サンタに大変なことが起きてしまったために……。

    クリス・モルドの挿絵は甘くなく、厳しい現実やつらい出来事も、いじわるな人もリアルに描き、トロルやエルフまでもが絵空事ではない雰囲気を出しています。

    マット・ヘイグのクリスマス物語は、決して型にはまったものではなく、願うこと、望むこと、その気持ちが魔法を生む力になるというメッセージがまっすぐ伝わってきます。

    つらいことばかりが続くと、未来に対して前向きになるのがしんどくなりますが、アメリアやサンタクロースの逆境をはねのけていく姿から、願うことは魔法の力につながると思えてくるのです。

    「幸福。それに笑い。遊び。この三つは、人生をつくるのになくてはならないものだ」とサンタクロースはいいます。

    12月には少し早いですが、
    この三つを忘れずに、今年のクリスマスにはすてきな贈り物がみなさんに届きますように!

  • ちいさなかがくのとも/こどものとも 2017年10月号

    図書館でみた10月号(9月発売)のちいさなかがくのともとこどものともがどちらもとてもすてきでした。

    「きょうはたびびより」
    http://narisatogo.blogspot.jp/2017/08/blog-post_30.html

    今日は10月1日なので、あと数日で11月号に置き換わっているであろう棚での出会い。

    作家さんのプロフィールも興味を引かれました。

    東郷なりさ。(Ting) バードウォッチングと絵を描くのが好き。東京農工大地域生態システム学科を卒業後、ケンブリッジ・スクール・オブ・アートで、絵本や児童書の挿絵を学ぶ。 (本人HPより)

    今年地元の博物館で行われたワークショップで散歩し、野の花の観察、双眼鏡をもって鳥や蛙など生き物の観察の楽しさを知ったせいか、この絵本で描かれているヒヨドリのきれいな姿にうっとりしました。

    版元の福音館書店のサイトで少し中がみられます。
    https://www.fukuinkan.co.jp/blog/detail/?id=75

    絵を学ぶだけでなく、挿絵を学ぶという選択もあるのですね。
    この方の作品をもっとみたくなりました。

    こどものともはこちら。
    「にかいだてのバスにのって」

    ロンドンで絵を学ばれてロンドンに在住の絵本作家の作品。
    https://www.natsko.com/

    この絵本はコラージュがおもしろい。
    バスに乗っている人たちの顔がみんなコラージュされているんです。
    撮影会を開いて、顔だけ写真をコラージュし、それ以外は絵で描いている絵本。
    表情が写真なので、なんというか、リアルな感情がみえるようで、独特な雰囲気があります。

    http://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=5378

    福音館の月刊誌は、これから!の作家がいるので発掘する楽しさがあります。
    このお二人。私の中で要注目です♪

  • 『こどもってね』『エンリケタ、えほんをつくる』『ソフィー ちいさなレタスのはなし』//書評のメルマガ

    9月に配信された「書評のメルマガ」では3冊の本について書きました。
    http://back.shohyoumaga.net/?eid=979068

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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    75 こどもって

     毎年夏の終わりは突然だなと感じます。
     台所の蛇口から出てくる水が冷たく感じると秋のはじまり、 朝の霧が深くなると冬のはじまり、 秋は短い会津です。

     今回は「こども」をテーマにご紹介します。

     一冊目はひとり出版社ですばらしい絵本を次々出しすっかり知名度が高くなっているきじとら出版からの最新刊。

    『こどもってね』
     ベアトリーチェ・アレマーニャ みやがわ えりこ訳 きじとら出版

     絵も文も書いている作者はいま注目を集める絵本作家のひとり。本作は自ら「代表作」と呼ぶもので、一読して納得です。

     こどもってね、という平易な語りで哲学の側面をみせてくれる深淵な文章に描かれているこどもたちは、それぞれに個性的でやわらかな意志を感じます。

     大判の絵本、見開き片側にひとりずつ、こどもの表情が大きく描かれ、笑ったり、泣いたり、夢見ていたりして、こどもたちの気持ちが絵からも伝わってくるのです。

     ——
     こどもってね、ちいさな ひと。
     でも、ちいさいのは すこしのあいだ。
     いつのまにか しらないうちに おおきくなる。
     ——

     詩的な言葉で綴られる、こどもとは、の考察は、大人だからこそ響くものがあります。

     響くからこそ、大人として少々反省する気持ちも芽生えることも。

     毎日忙しく過ぎていると、リアルタイムにしっかりと目の前のこどもを意識することは時に難しく彼らの声に耳をすますのは簡単ではありません。

     でも、この絵本から聞こえるいろいろなこどもたちの声を聞き、表情をみていると楽しく幸せなこども時代を過ごせるよう、大人としてがんばろう!と背中を押された気分です。

     えいえいおー。
     

     2冊目はアルゼンチンの絵本。

     『エンリケタ、えほんをつくる』
     リニエルス 作 宇野和美 訳 ほるぷ出版

     アルゼンチンでは国民的人気マンガ家であるリニエルスの初邦訳絵本!

    「初」という言葉に弱い私、わくわくしながら読みました。
     
     主人公の少女、エンリケタはママからきれいな色鉛筆セットをプレゼントされ、さっそく物語を彩ります。

     そこから先はエンリケタの描くお話しと、エンリケタとねこのフェリーニのやりとりが同時進行します。

     リニエルスの描くエンリケタとフェリーニ。
     リニエルスが描いているエンリケタがつくるおはなしの絵。

     これらをタッチを変えて描き分けています。

     おはなしの世界をつくりあげていくときの過程を、エンリケタが絵本の中で実況中継してくれるのですが、これがとってもいい感じ。

     私も自分が小さかったとき、よく風邪をひいて学校を休み、布団の中に紙を持ちこんでおはなしをつくっていた時のことを思い出しました。フェリーニのように相談できる相手がいなかったので、ひとり何役もしながら、物語をつくって楽しんでいたのです。

     なので、エンリケタの描く世界がとっても近しく感じます。
     いろいろなハプニングがおきつつもラストはどう終わらせるか。
     
     これは現役のこどもが読んだらきっと楽しむでしょう。

     リニエルスの他の絵本も読みたくなってきました。

     3冊目にご紹介するのは、2009年に刊行されたフランスの絵本

     『ソフィー ちいさなレタスのはなし』
     イリヤ・グリーン  とき ありえ 訳 講談社

     オルガ、アナ、ガブルリエル、ソフィーはなかよし4人組。
     あるとき、4人は畑に種をうえてレタスをつくろうと計画します。

     4人はそれぞれの場所に種を植え、かたつむりにやられないようワナ(!)をつくり、自分たちの名前札も据え置きました。

     さて生育状況はといえば、なぜかソフィーのレタスだけは育ちません。
     そこで、ソフィーは考えたのです。
     まずはうそレタスをこしらえて……。

     この絵本はこどもはもちろん、大人が読んでも共感するところが多々あります。

     こどもの愛らしいところではなく、ブラックな面がいかんなく発揮され、嘘やダマし、心の狭さがキュートに描かれているのです。

     そしてこの心の狭さは末っ子に多いかも、しれません。

     なにせ、我が家の3人のこどもたちでも、一番共通点があったのは、ちびちゃんでしたから。

     それでも成長したら、この手の心の狭さはだいぶ解消されるのです。
     それが成長なのかもしれません(笑)。

     刊行年が少し前なので、ネットで検索しても在庫があるところが見つけられ
    ませんでしたが、そのときはぜひ図書館で探してみてください。

  • 『サルってさいこう!』『いのちは贈りもの ホロコーストを生きのびて』 『ファニー 13歳の指揮官』//書評のメルマガ

    8月に配信された「書評のメルマガ」では3冊の本について書きました。
    http://back.shohyoumaga.net/?eid=979068

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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    74 知ること

    東北も今年は遅い梅雨明けでした。
    猛暑、大雨、気候は厳しいです。
    被災された地域の方々がすこしでも健やかにこの夏を過ごせますように。

    今回は「知ること」をテーマに3冊おすすめします。
    一冊めはこの絵本です。

    『サルってさいこう!』
    オーウェン・デイビー 作 越智 典子 訳 偕成社

    テキストベースのメルマガでは絵の迫力を伝えきれないのがもどかしいですが、洒落たデザインの表紙は目をひくサルが何匹もいます。

    ※ということで、このブログでは作者オーウェン・デイビーさんのサイトをご紹介。
    http://www.owendavey.com/Mad-about-Monkeys
    このリンク先では、絵本え描かれているページが少し掲載されています。
    ぜひみてみてください。

    デフォルメされているサルですが、特徴はしっかりつかんでいるという、絵本を監修したサル専門家の中川教授のお墨付きです。

    現在、地球には260種のサルがいるといわれており、絵本では見開きからはじまり44種類のサルたちが登場します。

    そもそもサルとは何者かというところから、進化の過程、新世界ザル・旧世界ザルについて、生態、それぞれの特徴をコンパクトにセンスのいいイラストで説明しています。途中でクイズなどもあり、サルについての知識が定着しやすくなっているのも楽しい。

    イラストも文章も書いているオーウェン・デイビーはスマホゲームのイラストも描いているそうです。専門的なサルの生態についても、わかりやすく書いてあり、へえ!と思わされます。

    では、ぬきんでてすごいサルをご紹介しましょう。

    「ほえ声 一等賞」にはオスのホエザル。
    霊長類一の大声は、世界じゅうの動物の中でもトップクラスだそうです。
    このホエザルは、はるか5キロ先からも響き渡るとか。
    近くに暮らすホエザルへの縄張り宣言の大声。
    聞いてみたいものです。

    日本に暮らすニホンザルも紹介されています。
    なんと、人間をのぞくと、世界一北で暮らす霊長類!
    温泉に入ったり、イモをあらったりするサルも。
    雪国のニホンザルは、雪のボールをつくって持ち運んだり、投げたりもするそうで、それも楽しみのために! なんておもしろい。

    サルについていろいろ知ったあと、
    絵本で最後に書かれていることは、
    いまの時代はサルにとって住みにくくなっていること。
    熱帯雨林が切り倒され、破壊され、森が小さくなっているためです。

    だからこそサルの住みかを脅かすことのないよう、
    この絵本は「持続可能な森」からつくられた紙を使っています。

    サルのことを知り、森についても考える。
    自分たちにできることが促されています。

    次に「知ること」をテーマにご紹介する本は

    『いのちは贈りもの ホロコーストを生きのびて』
    フランシーヌ・クリストフ 著 河野万里子 訳 岩崎書店

    タイトルにあるように、ホロコーストを生きのびた著者が、自らの12歳の記憶している経験を綴ったものです。

    日記を元に書かれているそれは、簡潔な文体でついさらりと読めてしまえるほどです。しかし、あとから気持ちが文章に追いついてくると、苦い気持ちがあふれだします。

    6歳の時に父親が戦争捕虜となり、離ればなれになります。その後、母親と一緒にナチス・ドイツに連行され、厳しい日々が続きます。

    それでも人の気持ちはやわらかいと思ったエピソードがあります。

    収容所に収監された場所で、出会った人が赤ちゃんを産むシーンです。

    「わたしは興奮した。ついこのあいだまで、自分はカリフラワーのなかから生まれてきたと思っていたのだから。男の子はキャベツのなかから、女の子はバラの花から、そしてわたしみたいにちょっとおてんばな女の子は、カリフラワーから生まれる。そしてユダヤ人の赤ちゃんは、収容所で生まれるわけだ。まったく筋が通っている。」

    楽しくない場所でもいのちは生まれ、フランシーヌの心は動かされます。
    誰にとってもいのちは贈りもの。
    生まれてきた命に優劣があるはずもない、しかし狂った時代があったことは知り続けていかねばと、そのことを書いた本を読むたびに思うのです。

    続けて読んだ本書もホロコーストが描かれています。

    『ファニー 13歳の指揮官』
    ファニー・ベン=アミ
    ガリラ・ロンフェデル・アミット 編 伏見操訳 岩波書店

    第二次世界大戦中に、フランスとスイスで子ども時代を過ごした著者ファニーの実話。ファニーから聞いた話を編者のガリラ・ロンフェデル・アミットが書きおこしたものです。

    ナチスの手を逃れるために13歳の少女、ファニーが自分と妹、そして同じような子どもたちと力をあわせてスイスに渡るまでが臨場感をもって語られています。

    逃亡する旅の途中、リーダーの青年は突然離れてしまい、代わりに指揮官として11人の子どもたちの命を預かることになったファニー。
    ファニーは仲間達と一緒に生きのびるために、知恵をしぼり勇気をもってスイスに向かいます。

    ファニーは児童救済協会の子どもの家で3年間過ごしているのですが、この家での学びがファニーに生きのびる強さを与えています。

    そこでは、学校に通えないファニーたちに監督官の大人たちが芸術、文学、絵などを教えてくれました。

    監督官のひとりエテルはこういいます。

    「今みたいにたいへんな時代、教育の目的はひとりで生きていけるようにすることなの。だって、これから何があなたたちを待ちかまえているか、わからないからね」

    ところで、この物語にもファニーが偶然にも分娩にたちあうシーンがあり、『いのちは贈りもの』に通じるものを感じました。

    人間の赤ちゃんが生まれてくるところを見たファニーは興奮します。

    「人生で見たなかで、いちばんきれいなものだったよ……」

    編者であるイスラエルの作家ガリラ・ロンフェデル・アミットは、『心の国境をこえて』『ベルト』『ぼくによろしく』(さ・え・ら書房)など、とても読みごたえのある作品を書いています。

    本書の映画がこの夏公開されています。
    「少女ファニーと運命の旅」
    8/11(金)より、TOHOシマズシャンテほか全国ロードショー
    公式サイト http://shojo-fanny-movie.jp/

    ——-
    このメルマガ記事を書いたときはまだみていなかった映画ですが、
    8月20日に、この本を訳された伏見さんと版元の愛宕さんのトークショーに娘と一緒に上京した折、みてきました。
    http://www.kyobunkwan.co.jp/narnia/archives/weblog/13

    映画はすぐ眠ってしまう娘ですが、これはひきこまれたようで、最後は涙をこぼしていました。
    ファニーの強さには胸を打たれたといっていました。
    私は本を読んでからみたのですが、
    本を読んでいるときには、ファニーが13歳と頭でわかっていたにも関わらず、映画で少女ファニーをみて、13歳というのはまだまだ子どもなのだとあらためて実感した次第。
    こんなに小さいときの体験だったのかとふるえました。

    娘は東京からの帰りの電車で本を開き、
    泣きそうになるので時々本を閉じて気持ちを落ち着かせながら集中して読み終えていました。
    こんなに夢中になっていっきに読んだ本は初めてと自分でも驚いていた様子。
    映画の力も大きかったようです。

    原作本は映画が公開されることがきっかけで翻訳されることになったそうで、
    フランスと日本を行ったり来たりしながら仕事をしている伏見さんが
    日本にたまたま滞在しているタイミングでお願いすることになり、
    伏見さんが仕事を引き受ける基準として、紹介するに値するかどうかを見事クリアして私たちに本の形で読めるようになったのです。

    ぜひ映画とセットで原作本も読んでみてください。