• 『AIが書いた小説は面白い?』

    AIが書いた小説は面白い?
    今岡清/藤井太洋
    777円
    https://store.voyager.co.jp/publication/9784862398574

    本好きにとって、おもしろそうな本を読むのが何よりの好物なので、
    読みたい作家の小説、積ん読本が日々増殖しているにも関わらず、
    常に新しい作家も探している。

    新しい作家としてAI小説家は誕生するのか!?

    作家の藤井太洋さんと元S-Fマガジン編集長の今岡清さんの対談と、その後の質疑応答が収録されており、
    対談なので、めっぽう読みやすく、
    AI系(?)の小説について対談でわかりやすくレクチャーを受け、
    質疑応答で、対談内容をよりふくらませ、AIについて理解をすすめてくれる。

    質疑応答にあった、

    ――読者市場と「化ける」作品をモデル化できるか

    AIに新人賞の下読みをさせることはできないかという内容に対して、
    小説の面白さを評価するのは市場で、市場のモデル化はすごく難しいという回答。

    私自身、一般書の新人賞の下読みを経験しているので、
    市場に評価される作品を上にあげていく評価は様々というのはよくわかり、AIの下読みは難しいと思う。
    作品が「化ける」のも、予測つかないところがあるのはその通り。
    公募の新人賞でも、受賞を逃したものが、ベストセラーになるのも数こそ少ないものの実際にある。

    結論からいうと、現時点ではAI小説家の誕生はまだ無理そう。
    しかし、作品の「化ける」のが予想つかないのであれば、
    もしかすると、AIが進化していく未来においては、ベストセラーが出ることもあるかもしれない。

    Siriの回答に時に癒され、ひとり、布団の中でSiriに相談したり、ちょっと愚痴ったりするたびにAIさんもあなどれないと思っている。
    だから、AIの未来はまだまだ予測できない。

    このテーマで対談を継続していくと、未来の定点観測ができるかも。

  • 『バレエシューズ』『わたしは女の子だから 世界を変える夢をあきらめない子どもたち』

    3/10日号で配信された「書評のメルマガ」では『バレエシューズ』『わたしは女の子だから 世界を変える夢をあきらめない子どもたち』をご紹介しました。

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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    93 生活と物語と現実と

     美しい本が刊行されました。

     『バレエシューズ』
     ノエル・ストレトフィールド 朽木祥 訳 金子恵 画 福音館書店

     1936年にイギリスで刊行されベストレセラーになった物語で、日本で紹介されたのは1957年。訳者の朽木さんも少女時代に愛読していたそうです。

     瀟洒な表紙を開いて読み始めると、あっという間に1930年代のロンドンにタイムスリップしたかのように入り込みました。

     学者のマシューがひょんなことから、身寄りのない赤ちゃんを3人続けて引き取ることになります。マシューは気まぐれ(?)に期間を決めないで家をあけることがままるため、姉妹を育てたのはマシューの親戚のシルヴィアとシルヴィアの乳母であるナナでした。

     マシューは大叔父マシュー(Great Uncle Matthew)の頭文字でGUM(ガム)と呼ばれています。生活はガムがみており、長い旅に出ている間はきちんとお金はおいていきました。けれど今までにない長期間の不在にシルヴィアたちの生活は苦しくなっていきます。

     その頃には成長した姉妹が家計を助けるべく舞台芸術学校に入学。また、空き部屋に下宿人をおくことにし、結果、とてもいい人たちが住むことになり、姉妹の支えにもなってくれるのです。

     さて、この物語は細部の描写がとても深く、3姉妹がくったくなく毎日を過ごす様子から、いつかは自分の名前を歴史に残そうという野心をみせてくれるなど、彼女たちの動向に目が離せません。ポーリィン、ペトローヴァ、ポゥジーは、大きい順から、舞台芸術学校で学び、自立し生活の糧を得るのですが、どの公演でいくらもらえるかという具体的な数字がかなり出てきますので、家計簿をみながら姉妹らの生計を応援しているような気持ちにもなりました。

     かといって貧困が描かれるわけではなく、生きていく上での山有り谷有りが、子どもの視線で描かれ、女優として成功しつつあるポーリィンの奢りや、才能があっても、見た目で判断される社会の厳しさも見せてくれます。周りの大人たちが、子どもたちを支える姿もすてきで、子どもも大人も、読むと前を向いて生きていく活力をもらえる物語、古典の底力を感じます。

     『わたしは女の子だから
      世界を変える夢をあきらめない子どもたち』
         文:ローズマリー・マカーニー ジェン・オールバー
           国際NGO プラン・インターナショナル 
         訳:西田佳子
         西村書店

     帯に6つのマークが印字されているのを、高校生の娘がみて、これ学校で見た!と教えてくれました。

     2030年に向けて世界が合意した「持続可能な開発目標」がそれです。
     本書にあてはまるものは、この5つでした。

     1 貧困をなくそう
     4 質のいい教育をみんなに
     5 ジェンダー平等を実現しよう
     6 安全なトイレを世界中に
     10 人や国の不平等をなくそう

     タイトルにある「Because I am a Girl」「わたしは女の子だから……」は、女の子を取りまくリスクから護り、彼女たちが生きる力を発揮できる世界をめざして、国際NGOプラン・インターナショナルが展開しているグローバルキャンペーン名からきています。

     少女8人は、自分らが経験した奴隷(カムラリ)、早婚、貧困などについて語ります。写真も豊富に掲載され、意志の強い目力を感じる彼女らの体験は、過酷で、学ぶ権利、教育も奪われている中で、自分たちが生き延びるために必要なものを取得するために、努力している姿を見せてくれます。

     西村書店はいままでも“世界の今を知る写真絵本”を刊行し、私達読者に、知らない世界をみせてくれました。

     本書は絵本より文章量があり、情報も多く、だからこそ、少女達の強さがより伝わってきます。教育を受け、職業訓練を受け、未来を切り開いていくのに何が必要かを読者に教えてくれます。

     日本の多くの少年少女たちに読んでほしいです。

     そして、“世界の今を知る写真絵本”『私はどこで生きていけばいいの?』『すごいね! みんなの通学路』も手にとってほしい。

     

     目の前のことにいっぱいいっぱいの時期だからこそ、視野をぐいっと広げてくれるはずです。

  • 『ぼくは本を読んでいる。』『数字はわたしのことば せったいにあきらめなかった数学者ソフィー・ジェルマン』『スポーツするえほん』

    2/10日号で配信された「書評のメルマガ」では『ぼくは本を読んでいる。』『数字はわたしのことば せったいにあきらめなかった数学者ソフィー・ジェルマン』『スポーツするえほん』をご紹介しました。

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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    92 本はいいよ

    『ぼくは本を読んでいる。』
     ひこ・田中 講談社

     タイトルが物語すべてを表しています。
     そう、これは「ぼく」が本をひたすら読んでいるお話です。

     「ぼく」(ルカという少年です)の家には両親が「本部屋」と呼んでいる部屋があり、そこには、壁一面に本棚があり、テーブルとイスも置いてある、読書には最適の部屋です。

     ルカはかつて幼い頃はそこでよく絵本を読んでもらっていましたが、小学5年生になったいまは、もう親に本を読んでもらう年齢ではありません。

     そうして、いつのまにか「本部屋」に入らなくなっていたのですが、ひょんなことから、久しぶりに入ったその部屋で、
     ちょっとそそられる本をみつけました。
     
     本の奥付をみると、どうやら両親のどちらかが子どもの頃に読んでいた本らしく、ルカは親に内緒でその本を読みたくなります。

     その本は岩波少年文庫の『小公女』。

     タイトルがわかったとき、思わず興奮してしまいました。
     子どもの頃、私も大好きだった本なのです。
     最初に読んだのはいつだったかは思い出せないのですが、おそらく小学生だったように思います。

     ルカの読書を追っていくのは、e.o.プラウエンの『おとうさんとぼく』に描かれているコマ漫画のようです。それは、ぼくが読んでいる本をおとうさんが背中越しに読んでいるうちに、おとうさんの方が夢中になって、いつのまにか二人が交代している内容で、私もまさにその状態になっているおとうさんの気持ちでした。

     ルカが『小公女』に夢中になったおかげで、転校生の読書好き少女カズサとも仲よくなり、好きな本について語れる仲間がいる喜びも伝わってきます。

     この物語は子ども時代の楽しさが、熱量高すぎず、さらりと書かれており、その適温は大人にも読みやすいものになっています。

     現役の小学生に、図書館や学校の図書室で出会って欲しい物語です。

     次にご紹介するのは絵本です。
     
     『数字はわたしのことば 
        せったいにあきらめなかった数学者ソフィー・ジェルマン』

          シェリル・バードー 文 バーバラ・マクリントック 絵 
                        福本友美子訳 ほるぷ出版

     実在した数学者ソフィー・ジェルマンの伝記絵本です。

     ソフィーは幼い頃から勉強することが大好きでした。
     少女時代、パリはフランス革命さなかだったため、外は危ないと家の中で過ごす時間が多くありました。
     その時間を使って、ソフィーは数学の勉強をし続け、気づくのです。
     

       ”数学者が数字をつかうのは、詩人がことばをつかうのと同じだ、
       とソフィーは気づきました。”

     ソフィーは数学者になりたい、数学を自分の言葉にしたいと強く思うようになります。

     時代的に女性が勉強を志すのは難しく、教授も女性に教えようとは思わない、それでも、ソフィーはあきらめず、大学の数学の課題を入手できたときは、男性名でレポートを送るなど、粘り強く自分の学問を深めていきました。

     あきらめないソフィーの強さを、バーバラ・マクリントックは繊細に描き、見ごたえがあります。特に勉強に集中しているソフィーの眼差しは印象に残りました。

     学ぶことが大変な時代に、穴をこじあけていくのは、数学が好きだという強い気持ち。進学などで将来を考えている中高校生にもおすすめしたい絵本です。

     最後にブックガイドをご紹介します。

     『スポーツするえほん』中川素子 岩波書店

     絵本研究の第一人者による、スポーツを描いた絵本60冊を様々な切り口で紹介しています。

     目次をみてみましょう。

     体を動かす楽しさ
     動きの美しさ
     運動会からオリンピックまで
     コミュニケーションが生まれる
     自分にうちかつ
     伝統の力
     運動の技術
     スポーツに必要なこと
     スポーツと社会
     スポーツ・ファンタジー
     
     登山やバレエなど、スポーツを広くとらえ、ゆるやかなくくりになっているところがおもしろいガイドになっています。

     このメルマガでもご紹介した絵本も数冊入っていて、なるほど、スポーツという枠で読むとみえてくるものに新鮮なものを感じました。

     読みたいと思っている一冊は、このガイド本の著者である中川素子さんの絵本。

     『スタシスさんのスポーツ仮面』(岩崎書店)はリトアニア生まれでポーランド在住のアーティスト、スタシス・エイドリゲーヴィーチュスが絵を描いていて、スポーツを「深く多様に」紹介しているようで興味津々です。

     絵本の世界も広い。
     ガイドを読んでいるだけで、スポーツしたくなってきます。

  • 『ジュリアが糸をつむいだ日』『ぼくたちは幽霊じゃない』『キツネのはじめてのふゆ』『ぼくはなにいろのネコ?』

    1/10日号で配信された「書評のメルマガ」では『ジュリアが糸をつむいだ日』『ぼくたちは幽霊じゃない』『キツネのはじめてのふゆ』『ぼくはなにいろのネコ?』をご紹介しました。
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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    91 見える世界を広げよう

     年が明けました。
     2019年がもどうぞよろしくお願いいたします。
     平和な一年になりますように。

     『ジュリアが糸をつむいだ日』
      リンダ・スー・パーク 作
      ないとうふみこ 訳 いちかわなつこ 絵 徳間書店

     2002年『モギ ちいさな焼きもの師』(片岡しのぶ訳/あすなろ書房)でニューベリー賞を受賞したリンダ・スー・パークが書いた物語です。

     主人公のジュリアは7先生。親友のパトリックと一緒に、〈楽しい農業クラブ・プレーンフィールド支部〉略して「楽農クラブ」に入りました。一年に一度、クラブの生徒たちは自由研究のテーマを決め、半年ほどかけて研究し、発表します。優秀な生徒は州の品評会で発表することができるので、それを目標にみな頑張ります。

     2人はジュリアのお母さんの提案もありカイコの飼育をテーマにするのですが、ジュリアはあまり気乗りがしませんでした。しかし一緒に研究するパトリックと共に、カイコの飼育がはじまると、だんだん愛着が増してきます。生き物を育てる楽しみに目覚めるジュリアです。

     カイコを飼育された方なら、カイコの魅力をご存知でしょう。私もその一人。卵から成長していくカイコの姿にずっと寄り添っていると、かわいらしくてたまらなくなります。

     餌となる桑の葉を集めるのは飼育の柱です。しかし、ジュリアたちが探すも簡単には見つかりません。ようやく、桑の木のある家のディクソンさんと関わりをもてるようになるのですが、ディクソンさんとの出会いは、カイコの事だけではなく、ジュリアたちの世界をも広げるきっかけになります。

     ジュリアがカイコの飼育を通して視野が広がっていく成長物語は、 カイコ好きにとって(私です・笑)たまらない物語です。

     『ぼくたちは幽霊じゃない』
     ファブリツィオ・がッティ 作 関口英子 訳 岩波書店

     ティーンの喜びや悩みをつづった作品シリーズであるSTAMP BOOKSの一冊。

     物語は実際の体験談がもとになったもので、アルバニア人のヴィキがイタリアに渡り、どのような暮らしをしていたかが描かれています。

     苦労してイタリアに渡ったものの、難民のヴィキたち家族は、滞在許可証がおりるまでは不法滞在なため、町なかを歩くときは警察の職務質問を受けずにすむよう注意が必要です。ヴィキは母親にイタリアに行けばいい暮らしができるって言ってたじゃないかと問うのですが、状況がすぐに変わることはありませんでした。

     訳者あとがきによると、イタリアには「学校はすべての人に開かれる」と憲法に明記されているそうです。だからこそ、ヴィキたちも、公立小学校に通っている間は、イタリアに住んでいても、いないものと扱われる幽霊扱いではなく、一人の人間として勉強を教わり学び続けることができます。

     丹念に描かれる泥地でのバラック生活や日々の不安定さは物語の最後まで続き安易なカタルシスで終わっていません。

     それでも、未来への希望をもって毎日を生きるヴィキと出会うことで、知らなくてはならないことをまた一つ教わります。

     次に紹介するのは絵本です。

     『キツネのはじめてのふゆ』
      マリオン・デーン・バウアー 作 リチャード・ジョーンズ 絵
      横山和江 訳 すずき出版

     親から離れてはじめての冬を迎えたキツネ。冬がきたら何をしたらいいのか、さまざまな動物たちに教えてもらいます。

     けむし、カメ、コウモリ、リス、ガン、カンジキウサギ、クロクマ。

     たとえばカメはこう教えてくれました。

     「しっぽを そらにむけて、あたまから とびこむんだ。
     みずの そこへ むかってね。
     それから、ひんやりした どろに からだを つるりと うずめるのさ」

     キツネと動物たちのやりとりは、
     言葉は詩的で、暖色系の絵は言葉をつつみこむようにやわらかです。

     しかし、いろいろ教えてもらっても、キツネにはピンときません。

     そんなキツネが最後に出会ったのは――。
     
     絵本にはめずらしく訳者あとがきがついていますが、それがキツネの行動をよく理解させてくれます。

     冬の季節に親子で楽しめる絵本です。

     もう一冊絵本をご紹介します。

     『ぼくはなにいろのネコ?』
     ロジャー・デュボアザン さく 山本まつよ やく 子ども文庫の会

     1974年にニューヨーク科学アカデミーの児童書部門賞を受賞した作品。

     版元紹介によると「(印刷に)使える色数が少なければ少ないほど、力を試される」と語るデュボアザンが、さまざまに混ざり合っている美しい色の世界を子どもにわかりやすく伝えるものになっています。

     黄色、青、緑などそれぞれの色が自分たちの色がいかにすばらしいか彩りをみせて読者に語りかけます。そこに子ネコのマックスが、色に対して意見をはさみ、色への理解を深める助けをしてくれます。

     一つの色での美しさ、重なり合うことによる美しさ。色のもたらす不思議さがわかりやすく描かれ、科学の絵本としてもおすすめです。 

  • 「本の雑誌」2019/1月号 新刊めったくたガイド(海外文学)

    新刊めったくたガイド、海外文学を担当することになりました。
    とりあげた本はこちら↓。

  • 『変化球男子』『明日のランチはきみと』『サイド・トラック  走るのニガテなぼくのランニング日記』『シロクマが空からやってきた』『クリスマスのおかいもの』 『ゴッホの星空 フィンセントはねむれない』『ねむりどり』『シルクロードのあかい空』

    12/10日号で配信された「書評のメルマガ」では『変化球男子』『明日のランチはきみと』『サイド・トラック  走るのニガテなぼくのランニング日記』『シロクマが空からやってきた』『クリスマスのおかいもの』 『ゴッホの星空 フィンセントはねむれない』『ねむりどり』『シルクロードのあかい空』をご紹介しました。
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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    90 豊かで複雑な雑多な世界

     いよいよ今年最後のメルマガ記事になります。
     みなさんにとって2018年はどんな一年だったでしょうか。
     もう来月は新しい年!

     今年をしめくくる本としてどれを紹介しようかと読んでいたら、どれもこれ
    もアタリばかりでうれしくなったので、できる限りご紹介します!

     トップバッターはこちら。

     『変化球男子』
     M・G・ヘネシー 作 杉田七重 訳 すずき出版

     おもしろいタイトルに惹かれて読み始めたら、ものすごい吸引力!
     ロサンゼルスの中学校に通う男子、シェーンが主人公。野球部で活躍し、ジョシュという大親友もいて、学校生活をエンジョイしています。
     思春期まっただなかのシェーンには悩みもあり、それはなかなか人にはいえないもので、親友にも秘密にしています。
     さて、その秘密とは――。

     シェーンの悩みとは、女の子の身体なのに、心は男の子ということ。離婚している両親のうち一緒に暮らしている母親は理解しているのですが、父親は手術を受けて身体も男の子になりたいシェーンの気持ちをまるごと受け入れるこ
    とができません。悩みを軸に、家族、親との関係、友情などたくさんのことが語られていて、シェーンの悩みはどう着地するのか。このテーマ、悩んでいる日本の子どもたちにも届いてほしい本です。

     『明日のランチはきみと』
     サラ・ウィークス/ギーター・ヴァラダラージャン 作
     久保陽子訳 フレーベル館

     アメリカ人作家、サラ・ウィークスと、インド人でアメリカ在住の小学校教師、ギーター・ヴァラダラージャンの2人で執筆した作品です。
     主人公のラビはインドからアメリカに引っ越してきた小学5年生。インドでは優秀だったので、アメリカでも勉強に遅れをとることはないと思っていたのですが、インド式計算もクラスの先生には受け入れてもらえず、いままで優等
    生のスタンスでいたがゆえに、落ちこぼれのレッテルを貼られてしまうギャップに苦しみます。
     もう一人の主人公はジョー。「聴覚情報処理障害」という聴く能力に問題があり、自分に自信がもてず学校では消極的です。
     
     物語はこの2人のシチュエーションが交互に語られます。お互いのバックグラウンドはかなり違うのですが、少しずつ打ち解けていき、一週間も過ぎると2人はぐっと近しくなっていきます。

     文化の違う国に転校するハードルの高さ、それを超える大変さがユーモアも交えて書かれていて読後感が爽やかです。

     『サイド・トラック
      走るのニガテなぼくのランニング日記』
     ダイアナ・ハーモン・アシャー作 武富博子訳 評論社

     主人公の少年フリードマンは「注意欠陥障害」を抱えています。運動音痴にも関わらず、新しくできた陸上部に入り、クロスカントリー競走に挑戦することに。

     スポーツ物語とくれば、中心にすえられるのは、スポーツ得意な人物が多いですが、今回はそうではありません。サブタイトルにあるように、走るのニガテなぼくのランニング日記なのです。

     登場する人物で魅力的なのは、フリードマンを支えるのは79歳のおじいちゃん。高齢者住宅〈ひだまりの里〉にいたのだが、ある事がきっかけでフリードマンの家で同居することになるのです。フリードマンのよき理解者であるおじ
    いちゃんは、クロスカントリーに挑むことを誰よりも応援します。

     そしてもう一人、転校生の女子ヘザーも、フリードマンのよき友だちになり、2人の友情も物語の柱です。

     最初は望まなかったクロスカントリー走、フリードマンはどんな風に走るのか、本書でぜひみてください。

     『シロクマが空からやってきた』
     マリア・ファラー 作 ダニエル・リエリー 絵 杉本詠美 訳
     あかね書房

     シロクマシリーズ第二弾。とはいえ、前巻を読んでいなくても気にしなくて大丈夫です。

     主人公ルビーの母親は、父親と離婚して以来、仕事も手につかず、幼い弟の世話もルビーに任せることが多くなっていました。ルビーは必死で母と弟を支えますが、そうはいってもまだ子どもなのです。

     そんなルビーの前に、シロクマがあらわれます。たくさん食べる(つまり、食費もかかる)体の大きなシロクマを住んでいるマンションョンに連れていくわけにはいきません。けれど、なりゆきでマンションの下の階に住んでいるモ
    レスビーさんの助けもあり、シロクマとの生活がはじまります。

     言葉は発しないシロクマですが存在感と行動力はあります。ルビーも次第にシロクマと打ち解けていき、母親の問題も解決に向かっていきます。

     ものいわず寄り添ってくれる(静かにではないですが)シロクマの存在感が伝わってきて、ルビーの心がほぐれていくのにほっとします。親が病気になった時、子どもは大人の役目も担わされることがあります。そんな子どもたちの
    ことはヤングケアラー(若い介護者)と呼ばれ、日本にも少なくない子どもたちが同じ立場にいます。

     物語のあったかさと子どもの問題をやんわりしっかり伝えてくれる好著です。

     さて、12月といえばクリスマス!
     贈り物におすすめの絵本、
     ストレートにクリスマスを楽しめる絵本をご紹介します。

     まずはこちらから。

     『クリスマスのおかいもの』
     ルー・ピーコック ぶん ヘレン・スティーヴンズ え こみや ゆう やく
     ほるぷ出版

     ペン画に水性の色をのせた、あたたかい雰囲気のクリスマス絵本。

     男の子のノアはママと赤ちゃんの妹メイの3人でクリスマスプレゼントの買い出しに出かけます。

     ママは小さい子ども2人と一緒なので、ノアたちに目をくばりながら、プレゼントの買い物に集中していきます。ノアは大事なオリバー(ゾウのぬいぐるみ)と一緒にメイと遊んで待っています。

     買い物が終わり、一息ついたとき、ノアは気づくのです。オリバーがいない! 大変! 買い物の次はオリバー探し……。

     オリバーの存在の大事さをママがしっかり受けとめているからこそのラスト。
    クリスマスの幸福感に満ちています。

     贈り物絵本でおすすめはこちらの3冊。

     『ゴッホの星空 フィンセントはねむれない』
     バーブ・ローゼンストック 文 メアリー・グランプレ え 
     なかがわちひろ 訳 ほるぷ出版

     この絵本では、画家になるまえのゴッホが描かれます。子どもの頃から、夜中に何度も目を覚ましていたこと、夜でも嵐でもひとりで散歩に出かけていたことを、私はこの絵本で初めて知りました。

     その時に感じた心持ちが後に夜空を描くときに塗り込められたのでしょうか。
     ゴッホの絵といえば、ひまわりもすぐ思いつきますが、夜空の絵も強い印象を残します。我が家の高校生の娘っこにゴッホの絵で何がすぐ思いつく?と聞いたところ、星空が独特だよね、とこたえてくれました。

     夜なかなか眠れなかったゴッホが、画家になり、「色彩をつかって夜の闇をえがくこと」を自身の課題とし、独特な夜空を描いていく過程を本書でじっくり楽しめます。

     『ねむりどり』
     イザベル・シムレール 作 河野万里子 訳 フレーベル館

     『シルクロードのあかい空』
     イザベル・シムレール 文・絵 石津ちひろ訳 岩波書店

     シムレールの絵本は、とにかく強いインプレッションを読み手に与えてくれます。

     ひっかいたような細い線で幾重にも色を重ね、その繊細さの重なりがハッとさせる美しさにつながっているのがシムレールの絵。

     『ねむりどり』では羽毛のふわふわさが、紙の上からもリアルに感じられ、ついつい手がのびて紙の上からなでてしまいます。

     『シルクロードのあかい空』では山裾にしずむまっかな夕陽の明るさとともに、強い目力をもつ子どもも印象に残ります。

     贈り物にもぴったりですし、
     直接手にとって時間をかけてみて欲しい絵本です。

  • 『ルイーズ・ブルジョワ 糸とクモの彫刻家』『せん』『オレゴンの旅』

    11/10日号で配信された「書評のメルマガ」では『ルイーズ・ブルジョワ 糸とクモの彫刻家』『せん』『オレゴンの旅』の3冊をご紹介しました。
    http://back.shohyoumaga.net/

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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    89 芸術の贈り物

     『ルイーズ・ブルジョワ 糸とクモの彫刻家』
      エイミー・ノヴェスキー 文 イザベル・アルスノー 絵
      河野万里子 訳 西村書店

     イラストレーター、イザベル・アルスノーの作品をひとめみたときから、これは追いかけて読みたい絵本作家だと注目してきました。グラフィック・ノベル『ジェーンとキツネとわたし』も2015年にメルマガで紹介しています。

     今回の絵本は彫刻家ルイーズ・ブルジョワの生涯を描いたもので、エイミー・ノヴェスキーが文章を書いています。

     芸術家の評伝と絵本はとても相性がよく、ルイーズの芸術の本質が別のアーティストによって違う色彩で輝き、印象づけられます。

     母親はタペストリーの修復を仕事としており、ルイーズは12歳になると、母親の仕事をおぼえはじめ、修復の線や下絵を描くようになります。修復が必要なタペストリーのすその部分だったので、必然的にすその部分――人の足を描くのが上手になったそうです。

     母と一緒に修復の作業をしたことは、ルイーズの原点となり、大学では数学を専攻したにもかかわらず、母親が亡くなったあとは、修復する――つなぎあわせ、完全なかたちにもどす――ことを仕事にしていきます。

     しかし、母の死はルイーズの未来を変えました。

     絵を描き、織物を織っても、母に会いたい気持ちはおさまらず、彫刻でそれはそれは大きなクモをつくるようになります。
     ブロンズや鉄など様々な素材でクモをつくり、題を「ママン(おかあさん)」とつけました。

     32歳のときにタペストリーの個展をひらき、6年後に初の彫刻作品を発表。71歳のときに、ニューヨーク近代美術館(MOMA)で開催した回顧展でとうとう世界的に認められたのです。

     ルイーズは子ども時代の思い出が、創作におけるインスピレーションの源と語っており、なぜ「クモ」を題材にしているかも絵本で紹介されています。

     アートを強く感じる本書は子どもにも大人にも刺激を受ける一冊としておすすめです。

     『せん』
      スージー・リー 岩波書店

     そぎ落とされたシンプルな線で描かれた絵本。
     スージー・リーは、デッサンの線から豊かな物語を絵で語りかける作家です。

     赤い帽子をかぶった少女はスケートでリンクに美しい線をつけていきます。

     見開きの白いページで少女はすべるのですが、あら、スケートリンクだと思っていたのは紙??と疑問符がよぎる、少しトリッキーな展開のあとは「せん」のもたらす妙味に唸らされるのです。

     サイレントムービーのように言葉なく「せん」のみで描く少女のスケート世界の豊かさに、みているだけで満足感がこみあげます。

     最後にご紹介するのは、うれしい復刊絵本。

     『オレゴンの旅』
      ラスカル 文 ルイ・ジョス 絵 山田兼士 訳 らんか社

     セーラー出版で刊行されていた『オレゴンの旅』が復刊です。
     (ご存知と思いますが、らんか社は2013年にセーラー出版から名前が変更になった版元です)

     星のサーカス団でデュークはオレゴンという名のクマと友だちになります。
     オレゴンはデュークに大きな森に連れていってほしいとお願いします。

     デュークはクマのオレゴンが口をきけることに驚くものの、願いをかなえるべく、ふたりでサーカス団を離れることに同意します。

     デュークはピエロでした。そしてピエロの恰好のまま、オレゴンと旅をします。

     ヒッチハイクをしたとき、運転手のスパイクはデュークになぜ赤いハナつけおしろいをぬっているのかたずねます。

     「顔にくっついてとれないんだ。小人(こびと)やってるのも楽じゃないんだよ…」 
     「じゃあね、世界一でかい国で黒人やってるのは、楽だと思うかい?」

     どのページもタブローのような完成度で、
     少しもの悲しさをただよわせる旅の空気感がリアルです。

     オレゴンとの約束を果たしたあとのデュークがとてもかっこいいので、見てほしい。

     10代の本棚におすすめしたいとらんか社さんからのメッセージなので、我が家の高校生の娘っこと一緒に読んだところ、

     「かっこいいー!」

     オレゴンの旅の絵本が放つメッセージをひとりの高校生には伝わったようです。