レビュー

  • 『きのう、何食べた?』24巻

     2026年2月1日の今日、24巻を購入した。
     発売日は昨年の6月。ぜんぜん気づいていなかった。
     
     きっかけは昨日、ネットで、1月下旬に発売された雑誌でこの漫画の連載が200回目を迎えたことを読んだこと。
     出かけた帰りに書店に寄って購入した。
     新しいのがどの巻なのかいつもわからなくなり、書店で閉じられているビニールをはずしてもらって確認する。やはり持っていない巻だった。

     帰宅して、お風呂の準備をしながら読み始める。
     夢中になって、お湯をあふれさせてしまう。やれやれ。

     しかし、しかたない。

     いつものようにほのぼのと料理を楽しむばかりではなかったのだ。

     最後のエピソードには、シロさんの家族に変化があったことが描かれている。
     そして、親の深い愛情が伝わる描写がある。

     読んでいたら涙がとまらなくなり、お風呂のことを忘れてしまった。

     娘も、きっと読んだら泣くだろうと思った。

     つい私が泣いた話を伝えてしまったら、彼女は「ぜったい泣かないで読むぞ」と思ったらしいが、号泣していた。

     2人で泣いた。

     親の愛ってやつは、だ。

     娘はまだ子どもを持ってはいないけれど、「親の愛ってこうだよね」と言っていた。
     私もそう思う。

     日々の生活には、食と愛があるんだよなと、この漫画を読むたびに思う。
     そして、おいしいものを食べたくなる。
     明日は何を食べようか。

  • 『デモクラシーのいろは』森絵都(角川書店)

     毎日新聞の書評に惹かれた。なにより作者は森絵都だ。児童文学から出発し、いまや大人向けの小説でも定評がある。それでも、平易な言葉で深い洞察を描き出すスタイルは、どちらのジャンルでも変わらない。

     読み始めは、「デモクラシー」や「戦争」といった単語に、重苦しい物語ではないかと少し身構えてしまった。けれど、その予測はいい意味で裏切られた。この作者が、単に重いだけの話を書くわけがないのだ。

     舞台は終戦直後。日本に民主主義を根付かせるため、GHQは日系二世のリュウ・サクラギに白羽の矢を立てる。彼は元華族の邸宅に、18〜20歳ほどの女性4人を住まわせ、わずか半年で彼女たちを「民主主義を伝える教師」へと育てる任務を負う。

     軍国主義から民主主義へ。「デモクラシーのいろは」を、彼女たちはどう吸収し、どう伝えていくのか。

     実験に参加した女性たちは衣食住を保障され、次第に顔色もよくなっていく。それでも、なかには自らの食を削ってまで、何かに打ち込む者もいた。

     紆余曲折を経て、少しずつ同じ道を歩み始めたかに見えた彼女たちだが、その先には思わぬ落とし穴が待ち受けている。

     とりわけ、和室(日本間)を教室にしようと考えたクニが、コスモスを四輪、コップに挿した場面には落涙した。見たこともない「新しい世界」を必死に手探りし、ひねり出したその行動に胸を突かれたのだ。

     終盤の展開には驚かされるが、着地は見事。児童文学の名手らしい、太陽を仰ぎ見るような光のある結末だった。

  • 【書籍レビュー】『ソース焼きそばの謎』大衆食の代表である焼きそばは何故ソース味なのか/塩崎省吾・ハヤカワ新書

     たいていの人が食べたことのある焼きそばに、どんな謎があるのか、表紙のおいしそうな焼きそばにつられて読んでみました。本書は早川書房の新たなレーベル「ハヤカワ新書」ラインナップの一冊です。

     著者は、ブログ「焼きそば名店探訪録」管理人。本業はITエンジニア。ブログを読んでみたのですが、そこには全国47都道府県をまわったときに食べた焼きそば記録がぎっしり。私の地元のお店も入っていて、さすがの選択眼に信頼がおけます。

     東日本大震災で東北地域の太平洋側にあった焼きそば店も多くが店を畳んでしまったとき、著者は貴重な食文化が失われることに危機感を覚え、ブログを開設したそうです。食べれば食べるほど、焼きそばに対する興味が深まり、疑問もわき、焼きそばはいったいどこで、どのようにつくられるようになったのかを深堀していくのです。

     本書を読んで初めて知りましたが、焼きそばは戦後に誕生したという話が主流だったとか。ところが、昭和11年に刊行された書籍『素人でも必ず失敗しない露店商売開業案内』に紹介されている露店のひとつに「焼きそば屋」が入っており、戦前に誕生したということを裏付けます。(書名の素人でも必ず失敗しない~は、胡散臭そうでありながら、いいことが書いてありそうな吸引力があり、読んでみたくなります)

     ふだん、何気なくリピートして食べている焼きそばの歴史について知っていくのは、なかなかにスリリング。著者はミステリを多く刊行している早川書房から書籍を刊行するので、ミステリ仕立てになることを意識したそうで、その効果が出て、先へ先へと読み進められます。

     焼きそばが全国で食べられるようになるまでに、流通において東武鉄道、社会情勢では関税自主権の回復がカギとなっているのですが、食文化から国の戦略まで広がっていく調査の展開は、とてもおもしろい。はっきりわからないことは、自分の想像だと書きつつも、焼きそばの普及には「明治四十年頃に国内産の良質な小麦粉が安価で安定的に出回るようになり、大衆向けの飲食店でも気軽に利用できるようになったのは事実」という言葉には説得力があります。裏付ける丹念の調査には、巻末の参考文献一覧が数十ページにも及ぶことからもうかがえます。

     それにしても、内容は濃く、ぎゅうっとつまっているにも関わらず、文章にとっつきにくさはなく、平易で読みやすいおかげで、平日仕事で疲れた頭にも抵抗感がありません。単行本ではなく、新書というのが、値段とともに気軽に手に取りやすくなっています。

     ちなみに今回の紙の書籍になる前に、電子書籍で『焼きそばの歴史』(上下)を刊行しており、その評判のよさからハヤカワ新書の一冊に。本書は上巻にあたるので、売れ行きが好調であれば、きっと下巻も紙の書籍になりそうです。

     好きが高じて書かれた熱量ある文章は人をひきつけます。気軽に読めてためになる、何より「好き」の伝播は心地よい。ぜひ下巻も紙の書籍になりますように。

    【ソース焼きそばの謎】
    出版社:早川書房
    レーベル:ハヤカワ新書
    価格:1,100 円(税込)
    ISBN:9784153400061
    刊行日:2023/07/19
    著者:塩崎 省吾
    公式サイト:新書創刊の舞台裏『ソース焼きそばの謎』 (Hayakawa Books & Magazines)

  • 『シートン動物記 傑作選』(角川文庫 越前敏弥訳)

    子どものころ『シートン動物記』を読んだ人なら、あの時の気持ちを思い出したくて手に取るかもしれない。けれど、いい意味で期待は裏切られる。抒情は一切排され、人間と動物の対立、相容れない関係がこれほど太く描かれていることに驚く。緊張感は濃く、短い作品をひとつ読むだけでも、次を開く前に深呼吸が要るほどだ。「スプリングフィールドのキツネ」に描かれる親の情ゆえのラストの行動には絶句した。ハードボイルド好きにも刺さる一冊だ。

  • 『タトゥーママ』ジャクリーン・ウィルソン作 小竹由美子訳

    『タトゥーママ』
     ジャクリーン・ウィルソン 作 ニック・シャラット 絵
     小竹由美子 訳 岩波少年文庫

     最初に刊行されたのは2004年、偕成社からでした。
     ニック・シャラットが描くタトゥーママは、美しいけれど、どこか頼りなげに見えます。体のあちこちにあるタトゥーは、まるで何かから自分を守ってくれるお守りのようにも感じられました。

     あらすじはこうです。
     マリゴールドの33歳の誕生日。娘のスターとドルは母親を祝うために一生懸命がんばります。けれど、そのかいもなく、マリゴールドは誕生日におかしくなってしまいます。

     情緒不安定な母親をドルは必死に支えようとしますが、スターはもっと「普通の母親らしさ」を求め、母との関係はうまくいきません。

     マリゴールドは娘たちを大切に思ってはいるものの、自分のさみしさや思い通りにならない現実を、お酒やタトゥーに頼ることで埋めようとし、自分優先の生活に流されてしまいます。

     さらに、スターの父親であるミッキーへの未練も断ち切れず、あるコンサートで再会。スターは、自分の父親が実在し、しかも魅力的な大人であることに夢中になります。一方、ドルは疎外感を抱き、姉の喜びを共有できません。

     やがてスターはミッキーと暮らす道を選びますが……。

     作者ジャクリーン・ウィルソンは、軽快な筆致で深刻な社会問題を背景にした物語を描きます。
     私が日本で最初に刊行された『みそっかすなんていわせない』を読んだとき、シングルマザーを描く日本の作品では往々にして情緒的で湿っぽくなりがちな中、ユーモアを交えた語り口に「こういう作品を待っていた」とうれしく思ったことを、今も鮮明に覚えています。

     とはいえ、『タトゥーママ』の母マリゴールドを見ていると、子どもが背負う重さは痛いほど伝わってきます。どんなに願っても、つらい出来事があると感情を抑えきれず、子どもを置いて夜通し出かけてしまう。スターもドルも、どれほどさみしく、怖い思いをしたことでしょう。それでも、二人は母親が大好きなのです。

     努力だけでは埋められない部分があり、治療や社会の支えが不可欠なときもあります。不足を補える社会が望まれます。

     いまの日本ではようやく「ヤングケアラー」という言葉が定着し、少しずつ支援が広がり始めています。そんな今だからこそ、『タトゥーママ』は、支えを必要としている子どもたちの手に届いてほしい。岩波少年文庫という手に取りやすい形で復刊されたことが、とても心強く感じられます。

  • 『ランドリーの迷子たち』シャネル・ミラー作 ないとうふみこ訳(ほるぷ出版)

    夏に読んでほしいYA小説。10歳になったばかりのマグノリアはニューヨークの夏に楽しみなんて存在しないと思っていました。
    両親はランドリーの仕事で忙しく、お金もなく、マグノリアをどこかに連れて行ってくれる計画もたててくれません。
    マグノリアの友達は犬のズボンくんだけ。そんなときにアイリスと出会います。ランドリーの忘れ物、片方だけの靴下の持ち主探しを2人ですることに。
    靴下を観察し(時には匂いまでかいで!)持ち主を推理し探し出すのですが、その間にいい感じの出会いがいろいろとあります。
    マグノリアにとっては思いもかけないキラキラ光る夏休み時間が訪れるのです。さぁ、どんな出会いがあったのか読んでみてください。

  • 『トットあした』(黒柳徹子)新潮社

    大ベストセラー『窓際のトットちゃん』で、自身の半生を記した黒柳徹子さんが、今度はいままでであった人たちの言葉を紡いで、自分の人生を振り返ります。
    出会った人たちは、私たちもよく知っている人ばかり。向田邦子さん、渥美清さん、沢村貞子さん。
    黒柳さんを励ました言葉は、読んでいる私も励ましてくれた。沢村貞子さんは、いまもその料理がNHKのテレビで番組として紹介されるほどの料理通。沢村さんからもらった言葉は「人間ってね、一生懸命やると、後悔しないものなのよ」
    この言葉はよくわかる。仕事では特にそうで、やれるだけやったことは、あとは野となれ山となれの気持ちになれるのだ。
    黒柳さんが沢村貞子さんに「どうして、そんなにお料理が上手くなったの?」と聞いたときのこたえは、おつれあいさんへの体を思ってのことと、戦前刑務所に入っていたとき、差し入れる新聞や雑誌はすべて検閲で切り取られ、自分の手元まできたのはお料理の記事くらいだったという。だから熱心に繰り返し読んで想像でお料理していたら、釈放された時にはいっぱしの料理上手になってたわよ、と。

  • 【書籍レビュー】われらの牧野富太郎!牧野本初心者にオススメするならこの本-いとうせいこう 監修/毎日新聞出版

    朝ドラ「らんまん」

    あと少しで最終回を迎える今期の朝ドラ「らんまん」。野の花好き、山歩き好きなら、なおのこと楽しめる朝ドラにすっかりはまっています。

    朝ドラをご覧になっていない方に、牧野富太郎氏を簡単にご紹介すると、小さいときから植物好き、独学で植物の知識を身につけ、高知から東京に上京した折に、東京大学理学部植物学教室に出入りを許されます。植物分類学の研究にいそしみ、日本植物分類学の基礎を築いた一人とされています。全国からの要望に応じて各地を巡り、植物を知ることの大切さを一般に広く伝え、植物知識の普及につとめたことで、たくさんの人から名を知られるようになった人物です。(高知県立牧野植物園プロフィール参考

    われらの牧野富太郎!

    朝ドラに限らずですが、ドラマ化されたら書店には関連書籍が並びます。牧野富太郎特集コーナーでも、自伝から図鑑、画集、小説など様々な本を目にするようになりました。

    ドラマをきっかけに本を探すとき、牧野富太郎博士自身を知りたいのか、植物を知りたいのか、どの本から読もうか迷ったときに、まずオススメしたいのが本書『われらの牧野富太郎!』です。

    「牧野マニア」である、いとうせいこう氏が全体の監修を行っており、カバーイラストはあの高野文子さん!(のびやかでやわらかな線で描く漫画はどれも最高!)

    植物色のグリーンでまとめられた本書をぺらりめくってみると、「雑草という名の草は無い」という言葉が迎えてくれ、牧野博士ヒストリーが語られます。次は、牧野博士がよく行っていた、植物採集。博士の故郷である佐川での植物採集が写真たっぷりで紹介されます。ここではプランツ・パーティと称して、自然さえあればどこでもできる催しです。牧野博士は「植物を学ぶのであえば、交流を広げなさい」と言ったそうです。たしかに、好きなものが同じ仲間たちと、自然を歩き、おいしいものを食べ、知らないことを知っていくのは、最高の娯楽ではありませんか。プランツ・パーティに参加している人たちの笑顔がそれを証明しています。

    朝ドラの脚本家である長田郁恵さんも登場し、いとうせいこうさんと「らんまん人生」を語りつくします。いままでの朝ドラの多くは、主人公が成長し、なにかを達成することが多いですが、「らんまん」では、周囲の人たちも深く描かれ、最初は悪役かと思った田邊教授にすら、心が動かされました。

    長田さんは「植物と人間を結びつけるということが、このドラマにおける出発点です」と語られます。「そこを出発点にして、次々に植物との出会いが人との出会いにつながっていく(中略)だから出会うことの積み重ねなんですよね。植物好きっていうと、どこかのんびりと平穏なイメージで捉えられがちですけれど、そうではなく、本来は積極的に出会いにこちらから行くことを繰り返すことだったんです」

    たしかに、ドラマでも主人公の槙野万太郎の出会うところには植物があります。人との出会いによって、多額の借金があるときも、手を差し伸べてくれる人と出会っているんですね。

    本書も、牧野博士だけでなく、現代の牧野植物園に関わる人たち、実際に牧野博士と交流のあった人、身内の方など、たくさんの人たちがうれしそうに牧野博士との出会いを教えてくれます。

    植物好きの人たちがつくっているからこそ伝わる「熱」があるからこそ、オススメです。

    【われらの牧野富太郎!】
    出版社:毎日新聞出版
    価格:2,420 円(税込)
    ISBN:978-4-620-32765-5
    刊行日:2023/3/13
    著者:いとうせいこう
    公式サイト:われらの牧野富太郎!