sakana

  • 『灰色の地平線のかなたに』『凍てつく海のむこうに』//書評のメルマガ

    11/10日号で配信された「書評のメルマガ」では岩波書店の2冊について書きました。
    http://back.shohyoumaga.net/?eid=979068

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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    77 知らないことを知る

     10月に入ってからの台風、被害にあわれた地域の方々にお見舞い申し上げます。

     毎年、いままでにない気象が起こり、各地で日常が突然奪われてしまう。
     さまざまな状況の中でできるだけ冷静に対処し、明るく過ごす事の大事さを思います。

     こういう時はじっくり本を読む。
     読んでいろいろ考える。

     今月はじっくり時間をかけて読む、長編作品をご紹介します。

     『灰色の地平線のかなたに』 
     『凍てつく海のむこうに』
     ルータ・セペティス作 野沢佳織 訳 岩波書店

     今年2017年カーネギー賞を受賞したのは『凍てつく海のむこうに』

     イギリスの図書館協会が年に1度、児童・ヤングアダルト向けのすぐれた作品に贈る賞です。

     ルータ・セペティスの作品は2012年に『灰色の地平線のかなたに』が翻訳れています。
     2冊続けて読んでみました。

     『灰色の地平線のかなたに』

     第二次世界大戦中のリトアニアで、15歳のリナはソ連の秘密警察につかまりシベリアの強制労働収容所に送られてしまいます。父親は別の場所に連れていかれ、母親とリナ、弟のヨーナスの3人は、集団農場(コルホーズ)で働かされることになりました。つらい長旅のあと、厳しい農作業の労働を強いられる中、リナはいつか父親と再会し、画家を再び目指せることを未来に描き、現実を耐え抜きます。

     文字を読みながら映像をみているかのような描写に、息をつめて読んでいる自分がいました。

     過酷な環境の中、自分を守ることで精一杯になりがちな場においてリナの母親が常に他者に対しての思いやりをもっている姿も心を揺さぶられました。
     
     作者、ルータ・セペティスは歴史上であまり語られていなかったできごとを物語にして差し出します。

     ナチスのユダヤ人虐殺は多く語られてきている一方、同時期にスターリンが率いるソ連がバルト諸国のみならず自国の市民も逮捕し、シベリアに追放してきたことはそれほど知られておらず、これに光をあてて書いたのが本作です。

     生き延びたいという強い気持ちをもつリナの生き方に圧倒され、ここまで追い詰める戦争の罪深さを忘れてはならないと強く思いました。

     続けて
     『凍てつく海のむこうに』を読みました。

     リナの従兄弟ヨアーナが主人公です。

     『灰色の~』でもヨアーナについて語られることはあっても、本人は登場していません。ヨアーナもまた、リナと同じように強い少女でした。

     第二次世界大戦末期、ソ連軍の侵攻がはじまるなか、ナチス・ドイツ政府は孤立した東プロイセンから、バルト海を経由して住民を避難させる「ハンニバル作戦」をとります。

     その史実を背景に、作者は海運史上最大の惨事とよばれる〈ヴィルヘルム・グストロフ〉号のことをヨアーナ含む4人の若者たちの視点でフィクションを紡ぎました。

     大人がしている戦争に巻き込まれるこどもたちが、どんな思いを抱いていたのか、物語を読むことで、私たちは想像し、そうでない未来をつくっていかなくてはと意識するようになるのでは。

     知らなくてはいけないことを知ること。
     意識していないと、知っている世界はごく狭いものになってしまう。
     知ろうと意識すること、
     物語の世界は、それをみせてくれます。

     2冊あわせて6センチ近い厚みをもつ物語は、読むのにちょっとひるんでしまうかもしれませんが、読み始めるとあっというまに歴史の世界へ誘います。

     ぜひ読んでください。

  • ゆきのひのおくりもの

    すずき出版より『ゆきのひのおくりもの』が復刊されました! うれしいな♪

    このレトロ感あふるる感じの表紙は、一定数の気持ちを即座にわしづかみにしているはず。
    手元に届いたものは1週間で増刷がかかった2刷りめです。

    日本に紹介された最初は2003年。いまから14年前ですね。
    パロル舎は、残念ながらいまはない出版社ですが、この絵本シリーズを立ち上げるなど絵本出版に意欲的でした。

    原書は「ペール・カストール」シリーズの1冊で、1931年にポール・フォーシェにより創刊されたもの。
    まだ子どもの本がほとんど存在しなかった時代に、教育のため、文章、絵とものに最高に質のいい本を安い値段で子どもたちに提供として立ち上がったシリーズです。(訳者ふしみみさをさんによる説明より)

    このあたり、福音館の「こどものとも」シリーズに通じるものを感じます。
    「こどものとも」もロングセラーが多いですが、
    このシリーズもまたフランスのみならず世界中で何世代にもわたって読み継がれているロングセラーです。

    パロル舎版も新版のすずき出版、どちらもすてきです。

    好奇心より比べてみますと、違いは版型の大きさ、すずき出版の方がちょっぴり縦長。
    紙質はすずき出版さんの方は光沢があり、パロル舎さんの方はマットな感じです。

    訳者はどちらも同じふしみみさをさん。
    訳文はすずき出版ではよりブラッシュアップされています。

    さて物語は
    雪がしんしんふっているなか、こうさぎはおなかがすいて、食べ物を探しに雪の中を歩きます。
    そこで見つけたのがにんじん2本。
    1本を友人のこうまくんにもっていきます。
    こうまくんもまた外で別の食べ物をみつけ家に帰ってきたときにんじんをみて、今度は……。

    やさしい気持ちがリレーのようにつながっていくお話。
    ゲルダ・ミューラーの動物を描くタッチは写実的でも、デフォルメも擬人化もなく、それでいて、どの動物の目も気持ちを雄弁に語っていて親しみを感じます。

    これからの冬の季節、あったかい部屋で読むのにぴったりの絵本です。

  • 『サンドイッチをたべたの、だあれ?』『発明家になった女の子マッティ』『クリスマスを救った女の子』//書評のメルマガ

    遅くなりましたが10月に配信された「書評のメルマガ」ではやまねこ翻訳クラブ会員訳書3冊について書きました。
    http://back.shohyoumaga.net/?eid=979068

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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    76 WEB上のクラブ やまねこ翻訳クラブ20周年

    weB上で活動している、やまねこ翻訳クラブをご存知でしょうか。

    http://www.yamaneko.org/

    1997年に発足し、翻訳児童書を軸にWEB上で翻訳勉強会をしたり読書会をしたり、メールマガジンを発行したりするなどの活動をしているクラブです。

    私は産休時に、このクラブの存在を知り入会。
    ニフティのフォーラム時代から参加しています。
    地方にいても子どもが小さくても、自分の好きな時間にアクセスして大好きな本の話ができる場は夢のような場所でどっぷりはまりました(笑)。

    今年2017年、やまねこ翻訳クラブは20周年を迎えました。
    私自身、メールマガジン「月刊児童文学翻訳」の編集長も2年ほど務め、出版社、翻訳者の方々のインタビュー、企画をたてて記事を書くことなど、ただ翻訳児童書好きの(翻訳者志望ではない)私にも勉強になることばかりでした。

    いまは時間がなかなかとれず、会員らしいことができていないのですが、20周年記念に今回はやまねこ翻訳クラブ会員の訳書をご紹介します。

    一冊めは、
    翻訳者も出版社もやまねこ翻訳クラブ会員によるものです。
    絵本の帯には、やまねこ20周年のロゴと共に、会員による推薦文も掲載されいます。

    『サンドイッチをたべたの、だあれ?』
    ジュリア・サーコーン=ローチ 作 横山 和江 訳 エディション・エフ

    森にすむクマが、いいにおいに誘われて、人間が収穫した木イチゴが積まれているトラックに乗ってしまいます。たらふく食べてぐっすり眠って起きた場所は森ではなく、人間の住む街でした。

    クマにとっては初めてみるものばかりの街の中、歩き回って公園にたどりつき、ベンチにあったサンドイッチを発見。さてさて、サンドイッチをクマは食べたのでしょうか!?

    描かれるタッチはおてんとさまの陽射しを感じるようなあたたかさがあります。

    クマは結局どうするのかなと思って読んでいくと、へえ!と思うラストに、まさにタイトルどおりと納得です。このひねり具合は、にやりとしますよ。

    さあ、はたして食べたのは誰でしょう!?

    絵も文章もアメリカ、ニューヨーク在住のジュリア・サーコーン=ローチが描いています。学生時代はアニメーションを学び、その後絵本作家としてデビュー。本書は4作目にあたり、2016年絵本作家に贈られるエズラ・ジャック・キーツ賞の次点に選ばれています。

    訳者の横山和江さんは山形在住。読み物も絵本の訳書も出されていますが、目利きの横山さんが刊行されるものはどれも読ませます。やまねこ翻訳クラブ会員歴も長く、翻訳のほか、読み聞かせの活動もされています。

    刊行したエディション・エフは京都にあるひとり出版社。「手と心の記憶に残る本づくり」をされていて、HPの会社概要は一読の価値あり。

    http://editionf.jp/about/

    二冊めは、

    『発明家になった女の子マッティ』
    エミリー・アーノルド・マッカリー 作 宮坂 宏美 訳 光村教育図書

    ノンフィクション絵本です。
    19世紀末のアメリカで活躍した女性発明家、マーガレット・E・ナイトを描いたものです。

    マッティ(マーガレットの愛称)は、子どもの頃からの発明好きでした。
    2人のお兄さんのために、おもちゃや凧、そりをつくり、お母さんのためには、足をあたためる道具をつくりました。

    家は貧しく、マッティは小学校の教育しか受けていませんが、発明に必要な力量を備えていたので、働きながら最終的にはプロの発明家として、22の特許を取得し、90を超える独創的な発明を行ったそうです。

    作者は、聡明な彼女を繊細な線画で表現し、彼女の発明したものの図面も描いています。

    女性であることの偏見をはねのけ、発明家として自立していく姿は、子どもたちに、未来を切り開いていく具体的な力を見せてくれます。

    訳者の宮坂さんは、やまねこ翻訳クラブ創立メンバーのひとりです。マッティのように、とことん調べ物をし、やらなければならない事を的確に迅速にこなし、見事、翻訳家になりました。

    三冊めは、

    『クリスマスを救った女の子』
    マット・ヘイグ 文 クリス・モルド 絵 杉本 詠美訳 西村書店

    昨年のクリスマスにご紹介した『クリスマスとよばれた男の子』シリーズ第2弾です。

    杉本さんの訳文はとてもふくよかです。言葉がやわらかく、読みやすく、杉本さんが訳したものは物語の中にすっと入り込めます。なので、こういう魔法の話はぴったりかもしれません。

    さて、物語です。
    サンタクロース(ファーザー・クリスマス)が誕生して、人間界の子どもたちにプレゼントを配ってから1年がたち、またクリスマスの季節がやってきました。

    一番最初にサンタを信じた少女アメリアは絶対に叶えてほしいクリスマスの願い事をしてサンタクロースを待っていました。しかし、その年、サンタは誰のところにも来なかったのです。
    サンタに大変なことが起きてしまったために……。

    クリス・モルドの挿絵は甘くなく、厳しい現実やつらい出来事も、いじわるな人もリアルに描き、トロルやエルフまでもが絵空事ではない雰囲気を出しています。

    マット・ヘイグのクリスマス物語は、決して型にはまったものではなく、願うこと、望むこと、その気持ちが魔法を生む力になるというメッセージがまっすぐ伝わってきます。

    つらいことばかりが続くと、未来に対して前向きになるのがしんどくなりますが、アメリアやサンタクロースの逆境をはねのけていく姿から、願うことは魔法の力につながると思えてくるのです。

    「幸福。それに笑い。遊び。この三つは、人生をつくるのになくてはならないものだ」とサンタクロースはいいます。

    12月には少し早いですが、
    この三つを忘れずに、今年のクリスマスにはすてきな贈り物がみなさんに届きますように!

  • ちいさなかがくのとも/こどものとも 2017年10月号

    図書館でみた10月号(9月発売)のちいさなかがくのともとこどものともがどちらもとてもすてきでした。

    「きょうはたびびより」
    http://narisatogo.blogspot.jp/2017/08/blog-post_30.html

    今日は10月1日なので、あと数日で11月号に置き換わっているであろう棚での出会い。

    作家さんのプロフィールも興味を引かれました。

    東郷なりさ。(Ting) バードウォッチングと絵を描くのが好き。東京農工大地域生態システム学科を卒業後、ケンブリッジ・スクール・オブ・アートで、絵本や児童書の挿絵を学ぶ。 (本人HPより)

    今年地元の博物館で行われたワークショップで散歩し、野の花の観察、双眼鏡をもって鳥や蛙など生き物の観察の楽しさを知ったせいか、この絵本で描かれているヒヨドリのきれいな姿にうっとりしました。

    版元の福音館書店のサイトで少し中がみられます。
    https://www.fukuinkan.co.jp/blog/detail/?id=75

    絵を学ぶだけでなく、挿絵を学ぶという選択もあるのですね。
    この方の作品をもっとみたくなりました。

    こどものともはこちら。
    「にかいだてのバスにのって」

    ロンドンで絵を学ばれてロンドンに在住の絵本作家の作品。
    https://www.natsko.com/

    この絵本はコラージュがおもしろい。
    バスに乗っている人たちの顔がみんなコラージュされているんです。
    撮影会を開いて、顔だけ写真をコラージュし、それ以外は絵で描いている絵本。
    表情が写真なので、なんというか、リアルな感情がみえるようで、独特な雰囲気があります。

    http://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=5378

    福音館の月刊誌は、これから!の作家がいるので発掘する楽しさがあります。
    このお二人。私の中で要注目です♪

  • 『こどもってね』『エンリケタ、えほんをつくる』『ソフィー ちいさなレタスのはなし』//書評のメルマガ

    9月に配信された「書評のメルマガ」では3冊の本について書きました。
    http://back.shohyoumaga.net/?eid=979068

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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    75 こどもって

     毎年夏の終わりは突然だなと感じます。
     台所の蛇口から出てくる水が冷たく感じると秋のはじまり、 朝の霧が深くなると冬のはじまり、 秋は短い会津です。

     今回は「こども」をテーマにご紹介します。

     一冊目はひとり出版社ですばらしい絵本を次々出しすっかり知名度が高くなっているきじとら出版からの最新刊。

    『こどもってね』
     ベアトリーチェ・アレマーニャ みやがわ えりこ訳 きじとら出版

     絵も文も書いている作者はいま注目を集める絵本作家のひとり。本作は自ら「代表作」と呼ぶもので、一読して納得です。

     こどもってね、という平易な語りで哲学の側面をみせてくれる深淵な文章に描かれているこどもたちは、それぞれに個性的でやわらかな意志を感じます。

     大判の絵本、見開き片側にひとりずつ、こどもの表情が大きく描かれ、笑ったり、泣いたり、夢見ていたりして、こどもたちの気持ちが絵からも伝わってくるのです。

     ——
     こどもってね、ちいさな ひと。
     でも、ちいさいのは すこしのあいだ。
     いつのまにか しらないうちに おおきくなる。
     ——

     詩的な言葉で綴られる、こどもとは、の考察は、大人だからこそ響くものがあります。

     響くからこそ、大人として少々反省する気持ちも芽生えることも。

     毎日忙しく過ぎていると、リアルタイムにしっかりと目の前のこどもを意識することは時に難しく彼らの声に耳をすますのは簡単ではありません。

     でも、この絵本から聞こえるいろいろなこどもたちの声を聞き、表情をみていると楽しく幸せなこども時代を過ごせるよう、大人としてがんばろう!と背中を押された気分です。

     えいえいおー。
     

     2冊目はアルゼンチンの絵本。

     『エンリケタ、えほんをつくる』
     リニエルス 作 宇野和美 訳 ほるぷ出版

     アルゼンチンでは国民的人気マンガ家であるリニエルスの初邦訳絵本!

    「初」という言葉に弱い私、わくわくしながら読みました。
     
     主人公の少女、エンリケタはママからきれいな色鉛筆セットをプレゼントされ、さっそく物語を彩ります。

     そこから先はエンリケタの描くお話しと、エンリケタとねこのフェリーニのやりとりが同時進行します。

     リニエルスの描くエンリケタとフェリーニ。
     リニエルスが描いているエンリケタがつくるおはなしの絵。

     これらをタッチを変えて描き分けています。

     おはなしの世界をつくりあげていくときの過程を、エンリケタが絵本の中で実況中継してくれるのですが、これがとってもいい感じ。

     私も自分が小さかったとき、よく風邪をひいて学校を休み、布団の中に紙を持ちこんでおはなしをつくっていた時のことを思い出しました。フェリーニのように相談できる相手がいなかったので、ひとり何役もしながら、物語をつくって楽しんでいたのです。

     なので、エンリケタの描く世界がとっても近しく感じます。
     いろいろなハプニングがおきつつもラストはどう終わらせるか。
     
     これは現役のこどもが読んだらきっと楽しむでしょう。

     リニエルスの他の絵本も読みたくなってきました。

     3冊目にご紹介するのは、2009年に刊行されたフランスの絵本

     『ソフィー ちいさなレタスのはなし』
     イリヤ・グリーン  とき ありえ 訳 講談社

     オルガ、アナ、ガブルリエル、ソフィーはなかよし4人組。
     あるとき、4人は畑に種をうえてレタスをつくろうと計画します。

     4人はそれぞれの場所に種を植え、かたつむりにやられないようワナ(!)をつくり、自分たちの名前札も据え置きました。

     さて生育状況はといえば、なぜかソフィーのレタスだけは育ちません。
     そこで、ソフィーは考えたのです。
     まずはうそレタスをこしらえて……。

     この絵本はこどもはもちろん、大人が読んでも共感するところが多々あります。

     こどもの愛らしいところではなく、ブラックな面がいかんなく発揮され、嘘やダマし、心の狭さがキュートに描かれているのです。

     そしてこの心の狭さは末っ子に多いかも、しれません。

     なにせ、我が家の3人のこどもたちでも、一番共通点があったのは、ちびちゃんでしたから。

     それでも成長したら、この手の心の狭さはだいぶ解消されるのです。
     それが成長なのかもしれません(笑)。

     刊行年が少し前なので、ネットで検索しても在庫があるところが見つけられ
    ませんでしたが、そのときはぜひ図書館で探してみてください。

  • 『サルってさいこう!』『いのちは贈りもの ホロコーストを生きのびて』 『ファニー 13歳の指揮官』//書評のメルマガ

    8月に配信された「書評のメルマガ」では3冊の本について書きました。
    http://back.shohyoumaga.net/?eid=979068

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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    74 知ること

    東北も今年は遅い梅雨明けでした。
    猛暑、大雨、気候は厳しいです。
    被災された地域の方々がすこしでも健やかにこの夏を過ごせますように。

    今回は「知ること」をテーマに3冊おすすめします。
    一冊めはこの絵本です。

    『サルってさいこう!』
    オーウェン・デイビー 作 越智 典子 訳 偕成社

    テキストベースのメルマガでは絵の迫力を伝えきれないのがもどかしいですが、洒落たデザインの表紙は目をひくサルが何匹もいます。

    ※ということで、このブログでは作者オーウェン・デイビーさんのサイトをご紹介。
    http://www.owendavey.com/Mad-about-Monkeys
    このリンク先では、絵本え描かれているページが少し掲載されています。
    ぜひみてみてください。

    デフォルメされているサルですが、特徴はしっかりつかんでいるという、絵本を監修したサル専門家の中川教授のお墨付きです。

    現在、地球には260種のサルがいるといわれており、絵本では見開きからはじまり44種類のサルたちが登場します。

    そもそもサルとは何者かというところから、進化の過程、新世界ザル・旧世界ザルについて、生態、それぞれの特徴をコンパクトにセンスのいいイラストで説明しています。途中でクイズなどもあり、サルについての知識が定着しやすくなっているのも楽しい。

    イラストも文章も書いているオーウェン・デイビーはスマホゲームのイラストも描いているそうです。専門的なサルの生態についても、わかりやすく書いてあり、へえ!と思わされます。

    では、ぬきんでてすごいサルをご紹介しましょう。

    「ほえ声 一等賞」にはオスのホエザル。
    霊長類一の大声は、世界じゅうの動物の中でもトップクラスだそうです。
    このホエザルは、はるか5キロ先からも響き渡るとか。
    近くに暮らすホエザルへの縄張り宣言の大声。
    聞いてみたいものです。

    日本に暮らすニホンザルも紹介されています。
    なんと、人間をのぞくと、世界一北で暮らす霊長類!
    温泉に入ったり、イモをあらったりするサルも。
    雪国のニホンザルは、雪のボールをつくって持ち運んだり、投げたりもするそうで、それも楽しみのために! なんておもしろい。

    サルについていろいろ知ったあと、
    絵本で最後に書かれていることは、
    いまの時代はサルにとって住みにくくなっていること。
    熱帯雨林が切り倒され、破壊され、森が小さくなっているためです。

    だからこそサルの住みかを脅かすことのないよう、
    この絵本は「持続可能な森」からつくられた紙を使っています。

    サルのことを知り、森についても考える。
    自分たちにできることが促されています。

    次に「知ること」をテーマにご紹介する本は

    『いのちは贈りもの ホロコーストを生きのびて』
    フランシーヌ・クリストフ 著 河野万里子 訳 岩崎書店

    タイトルにあるように、ホロコーストを生きのびた著者が、自らの12歳の記憶している経験を綴ったものです。

    日記を元に書かれているそれは、簡潔な文体でついさらりと読めてしまえるほどです。しかし、あとから気持ちが文章に追いついてくると、苦い気持ちがあふれだします。

    6歳の時に父親が戦争捕虜となり、離ればなれになります。その後、母親と一緒にナチス・ドイツに連行され、厳しい日々が続きます。

    それでも人の気持ちはやわらかいと思ったエピソードがあります。

    収容所に収監された場所で、出会った人が赤ちゃんを産むシーンです。

    「わたしは興奮した。ついこのあいだまで、自分はカリフラワーのなかから生まれてきたと思っていたのだから。男の子はキャベツのなかから、女の子はバラの花から、そしてわたしみたいにちょっとおてんばな女の子は、カリフラワーから生まれる。そしてユダヤ人の赤ちゃんは、収容所で生まれるわけだ。まったく筋が通っている。」

    楽しくない場所でもいのちは生まれ、フランシーヌの心は動かされます。
    誰にとってもいのちは贈りもの。
    生まれてきた命に優劣があるはずもない、しかし狂った時代があったことは知り続けていかねばと、そのことを書いた本を読むたびに思うのです。

    続けて読んだ本書もホロコーストが描かれています。

    『ファニー 13歳の指揮官』
    ファニー・ベン=アミ
    ガリラ・ロンフェデル・アミット 編 伏見操訳 岩波書店

    第二次世界大戦中に、フランスとスイスで子ども時代を過ごした著者ファニーの実話。ファニーから聞いた話を編者のガリラ・ロンフェデル・アミットが書きおこしたものです。

    ナチスの手を逃れるために13歳の少女、ファニーが自分と妹、そして同じような子どもたちと力をあわせてスイスに渡るまでが臨場感をもって語られています。

    逃亡する旅の途中、リーダーの青年は突然離れてしまい、代わりに指揮官として11人の子どもたちの命を預かることになったファニー。
    ファニーは仲間達と一緒に生きのびるために、知恵をしぼり勇気をもってスイスに向かいます。

    ファニーは児童救済協会の子どもの家で3年間過ごしているのですが、この家での学びがファニーに生きのびる強さを与えています。

    そこでは、学校に通えないファニーたちに監督官の大人たちが芸術、文学、絵などを教えてくれました。

    監督官のひとりエテルはこういいます。

    「今みたいにたいへんな時代、教育の目的はひとりで生きていけるようにすることなの。だって、これから何があなたたちを待ちかまえているか、わからないからね」

    ところで、この物語にもファニーが偶然にも分娩にたちあうシーンがあり、『いのちは贈りもの』に通じるものを感じました。

    人間の赤ちゃんが生まれてくるところを見たファニーは興奮します。

    「人生で見たなかで、いちばんきれいなものだったよ……」

    編者であるイスラエルの作家ガリラ・ロンフェデル・アミットは、『心の国境をこえて』『ベルト』『ぼくによろしく』(さ・え・ら書房)など、とても読みごたえのある作品を書いています。

    本書の映画がこの夏公開されています。
    「少女ファニーと運命の旅」
    8/11(金)より、TOHOシマズシャンテほか全国ロードショー
    公式サイト http://shojo-fanny-movie.jp/

    ——-
    このメルマガ記事を書いたときはまだみていなかった映画ですが、
    8月20日に、この本を訳された伏見さんと版元の愛宕さんのトークショーに娘と一緒に上京した折、みてきました。
    http://www.kyobunkwan.co.jp/narnia/archives/weblog/13

    映画はすぐ眠ってしまう娘ですが、これはひきこまれたようで、最後は涙をこぼしていました。
    ファニーの強さには胸を打たれたといっていました。
    私は本を読んでからみたのですが、
    本を読んでいるときには、ファニーが13歳と頭でわかっていたにも関わらず、映画で少女ファニーをみて、13歳というのはまだまだ子どもなのだとあらためて実感した次第。
    こんなに小さいときの体験だったのかとふるえました。

    娘は東京からの帰りの電車で本を開き、
    泣きそうになるので時々本を閉じて気持ちを落ち着かせながら集中して読み終えていました。
    こんなに夢中になっていっきに読んだ本は初めてと自分でも驚いていた様子。
    映画の力も大きかったようです。

    原作本は映画が公開されることがきっかけで翻訳されることになったそうで、
    フランスと日本を行ったり来たりしながら仕事をしている伏見さんが
    日本にたまたま滞在しているタイミングでお願いすることになり、
    伏見さんが仕事を引き受ける基準として、紹介するに値するかどうかを見事クリアして私たちに本の形で読めるようになったのです。

    ぜひ映画とセットで原作本も読んでみてください。

  • 『イードのおくりもの』『どうぶつたちがねむるとき』『すごいね! みんなの通学路』//書評のメルマガ

    7月に配信された「書評のメルマガ」では3冊の本について書きました。
    http://www.shohyoumaga.net/

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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    73 贈り物

    誕生日や記念日など、贈り物をする機会が年に何回かあります。相手のこと
    を考えて喜ぶものを想像するのは、送る方にとっても楽しい時間です。

    『イードのおくりもの』
    ファウズィア・ギラ・ウィリアムズ 文
    プロイティ・ロイ え 前田君枝 訳 光村教育図書

    本書はトルコ民話をもとに書かれたインドの絵本の邦訳です。
    イードとは、ラマダン月(イスラーム暦第9月)が開けるお祝いのお祭り。
    巻末の訳者のことばによると、ラマダン月の断食明けのイードはたいへんもり
    あがり、日本のお正月そのものだそうです。
    また、日本にもイードを祝うイスラーム教徒の人たちがたくさん暮らしてい
    るそうです。

    さて物語は、くつやのイスマトさんが家族にイードの贈り物の買い物に出か
    けるところからはじまります。相手が喜びそうなものを見繕い、最後に自分の
    買い物もしたイスマトさん。でも、買ったズボンはゆび4本分長いのです。

    しかし、誰もがイードのお祭り準備で忙しく、イスマトさんのズボンをなお
    す時間のある人が見つけられません。そこでイスマトさんは……。

    愛情たっぷりの締めくくりに心があたたかくなりました。

    絵はイギリスのニック・シャラットさんの画風を思い起こす、ポップな楽し
    い雰囲気。色がきれいです。

    毎日の仕事や家事に追われているとなかなか相手が喜ぶことができないもの
    です。おだやかに過ごすことを心がけていても、疲れていると難しい。それで
    も、相手の喜ぶ顔を想像し行動するのは大事だとこの絵本を読んで思いました。

    贈り物にぴったりのおくりもの絵本です。

    『どうぶつたちがねむるとき』
    イジー・ドヴォジャーク 作 マリエ・シュトゥンプフォーヴァー 絵
    木村 有子 訳 偕成社

    次のご紹介する絵本はチェコの絵本です。

    我が家はみな、一日のうちで一番待ち望んでいるのは布団の中に入るときと
    いいます。つつがなく一日が終わり、お風呂でゆるみ、布団で眠る至福の時間。

    この絵本は、幼児向けのおやすみなさい絵本ではなく、様々な動物たちが、
    どんな睡眠をとるのかについての知識絵本です。

    ペリカン、ブダイ、マルハナバチ、ラッコ、アザラシ、シロクマ、
    フラミンゴ、ヤマネ、キリン、ネコ、ミドリニシキヘビ、キツネ、
    クジャク、ラクダ、イヌ、アマツバメ

    フロッタージュ(でこぼこした物の上に紙をおいてこする技法)を効果的に
    用いて描かれた動物たちは、独特で印象深く、なにより美しい。

    上記の中でいちばん眠る動物はわかりますか。
    私は初めて知りました。

    キリンは2時間くらいしか眠らないこともも初めて知りました。

    動物園に行って、実際に動物たちを観察したくなります。

    子どもはもちろん、大人にもおすすめの絵本。
    洒落て美しい装幀なので贈り物にぴったりです。

    最後にご紹介するのは、写真絵本。

    映画『世界の果ての通学路』をご存知ですか。
    偶然テレビで子どもたちと一緒に観た映画です。

    ケニア、アルゼンチン、モロッコ、インド、それぞれの厳しい通学路で学校
    に向かう子どもたち。
    4か国それぞれの過酷さにびっくりしました。

    ケニアでは野生動物がでるので襲撃にあわないよう
    アルゼンチンでは、石ころだらけの道を馬に乗って通い
    モロッコでは週初め、夜明けに起きて22kmの道を歩き週末に帰ってくる
    インドでは、オンボロ車イスに乗っている弟を兄弟たちでかついで一緒に通う。

    学ぶことが大事だとわかっているから、このような厳しい通学を日々してい
    る、その姿に子どもと一緒に感嘆しました。

    今年高校生になった娘の英語の教科書には、この映画の話がのっていて、す
    ぐにあの映画だ!とわかった娘が嬉しそうに教えてくれました。

    『すごいね! みんなの通学路』
    文 ローズマリー・マカーニー 訳 西田 佳子 西村書店

    西村書店刊行の新シリーズ「世界に生きる子どもたち」第一弾の絵本。
    これもドンピシャリ、映画と同じように厳しい通学路で学校に通う子どもた
    ちがうつされています。

    地形の厳しさだけでなく、自然災害などでも通学を困難にさせる子どもたち。
    日本の子どももいます。

    どの子も学校に向かって歩いています。
    いろいろな子どもたちがいる。笑顔だけでない、危ない道なので緊張した顔、
    厳しい顔。

    巻頭には日本語版限定で、ノーベル平和賞受賞のマララさんの写真も掲載さ
    れています。「すべての子どもたちに教育を受ける権利を」とマララさんは訴
    え、レバノンに自身の基金で女学校をつくっています。

    若いマララさんを見習って大人もまた子どもの未来をつくっていきましょう。
    そんな話を読んだ人としたくなりました。

    たくさんの子どもたちと大人に贈りたい絵本です。

  • 『ジュディ・モードのビッグな夏休み』

    『ジュディ・モードのビッグな夏休み』
    ジュディ・モードとなかまたち★10

    メーガン・マクドナルド&キャシー・ウォー 作
    ピーター・レイノルズ 絵 宮坂宏美訳 小峰書店

    ジュディ・モードとなかまたち4年ぶりの新刊。
    1巻が出たのは2004年なので、13年前(2017年現在)。
    新刊の表紙をみてJKの娘っこが「なつかしい! うちにたくさんあるよね、おもしろかったやつだ」と声をあげていました。

    そう、ジュディの本は軽快でおもしろい!

    暑い夏の日に届いたこの本を、思わず一気読みしました。

    サイコーに楽しい夏休みにするためにいろいろ計画をたてたジュディでしたが、なかまたちの内2人は既に予定が入っていることがわかります。その上、両親も出かけることになり、休みの間、ジュディたちをみてくれるのは、赤ちゃん以来会ったことのない、パールおばさん(お父さんの妹)。

    スリルのあることにチャレンジしてポイントを競いあい、夏休みを楽しもうとするジュディ。一緒にはいられない仲間達もポイント申告しあいます。ジュディはなかなかポイントをためることに成功しません。
    パールおばさんは世界を旅する芸術家なので、会ったら意気投合し、ポイント集めにも協力してくれるのですが、それでもなかなかうまくいかず……。

    それでもジュディはサイコーの夏休みにするべく楽しむ術を探しまくります。

    読んでいて私もこの夏は楽しまねばと思ってしまうほど、ジュディからパワーをもらいました。

    そういえば、JKの娘っこも、夏休みにしたいことで「花火をみたい」「彼氏が欲しい」「浴衣をきたい」などなど、できそうなことも、できなさそうなこもごちゃまぜにいつも願っています。大人より思春期には夏休みは大事かも。

    ただジュディのように、サイコーにするための努力はあまりしていないかな(笑)。すぐネガティブに「私はもうダメ・・・」と思っている様子。ジュディを見習ってほしい、とちらりと思ってしまう、すっかり大人で母の私です。

    さて本に戻ります。

    ずっとジュディの物語を訳しているのは宮坂宏美さん。
    低学年向けでユーモアある本を訳すのには定評があります。
    平易ですっきりした訳文は物語をとことん楽しませてくれます。

    ぜひこの夏に読んでみてください。
    そしておもしろかったら既刊も手にとってみてくださいね。

            

  • 『甲虫のはなし』/『子どものための美術史 世界の偉大な絵画と彫刻』//書評のメルマガ

    「書評のメルマガ」をご存知ですか。
    http://www.shohyoumaga.net/
    私は2010年1月から書かせていただき、今年で7年になります。
    こちらでも紹介していきます。

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    ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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    72 観察の楽しさ

     大人になってからは初めてともいえる写生会を体験してきました。
     絵は好きなのですが、描いたことはほとんどないので、学べればと思って参加したものの、具体的な指導はなく、ただひたすら野の花や樹木を見て描いてきました。まとまった時間じっくり観察してみると、いままで見えていなかっ
    た細かなところまで見えてくるようになり、自分の眼が成長を遂げた気分を味わいました。

     それ以来、自分の視点が確かに変化し周りの野の花だけでなく、虫や鳥もいままでになく視界に入ってくるようになったのです。楽しくて、歩いていると常にきょろきょろしています。家のまわりは田んぼだらけで自然がたっぷりな
    のです。

     さて、今回は虫が活発になる季節にぴったりの絵本。

    『甲虫のはなし』
     ダイアナ・アストン文/シルビア・ロング絵/千葉 茂樹訳/ほるぷ出版

     ほるぷ出版の「あたたかく美しい絵で身近な科学を紹介するシリーズ」の一冊です。このシリーズはどれも読んでほしい!のですが、ここでは新刊をご紹介します。

     甲虫とは、6本のあしをもつ昆虫のなかでも、とくにかたいまえばねをもつ虫のこと。

     見開きいっぱいに、のびやかな水彩画でカラフルな甲虫が描かれています。

     たまごの甲虫は葉っぱのうらにうみつけられ、
     たまごからかえると、なんども脱皮をくりかえしながら成長します。

     1週間くらいで成虫になるサカハチテントウ。

     メダマジンガサハムシ、アカヘリミドリタマムシのいろとりどりの美しさ。

     美しい甲虫は世界のあちこちで食用にもなっています。

     国連食糧農業機関(FAO)は2013年5月に「食用昆虫 食品と飼料の安全保障」という報告書をまとめ、昆虫食の利点を挙げており、

     この絵本でも
     インドではクワガタムシのチャツネ、パプアニューギニアでは幼虫のシチューなど、いろいろ紹介しています。(残念ながら料理の絵はありません)

     また、人間の食べるパンやドライフルーツ、中にはペットフードまで食べるありがたくない虫も紹介されています。

     恐竜が生きていた約3億年前から生息していたことが化石からわかっている甲虫。長い時を経ていまにいたっている虫たちを今年は観察してみようと思っています。

     シルビア・ロングの描く甲虫はとってもきれいなので、子どもだけでなく、虫好きの大人の方への贈り物にもおすすめです。

     これを機会に既刊絵本もぜひ。

        

     もう一冊ご紹介。


     『子どものための美術史 世界の偉大な絵画と彫刻』西村書店
      アレグザンダー 文/ハミルトン 絵/千足伸行 監訳/野沢香織 訳 

     タイトルどおり、美術を楽しむための入門本。
     絵をきれいに描ければなあと長年思っていましたが、絵をみることも大好きです。

     地方に住んでいるとなかなか本物をみる機会には恵まれませんが、こういう本があると、自分の好きな時間にじっくり絵を楽しめます。

     子どものための入門書は、実は大人にとっても便利な一冊です。説明が丁寧で、専門用語の羅列なくして、わかりやすい言葉で書いてあるので理解しやすいからです。

     本書ではヨーロッパとアメリカの画家が中心ですが、日本人ではひとりだけ葛飾北斎が紹介されています。

     見開きで1人の画家が紹介され、代表的な絵画1枚、どんな風に描かれているか細かな注釈がついています。

     葛飾北斎では〈富嶽三十六景〉より《神奈川沖浪裏》の絵が紹介。描かれている絵の、たとえば「小さいほうの浪は富士山と同じ形をしていること」など鑑賞の一助となることが添えられています。

     また、すべてではないですが、それぞれの画家の画法についての簡単なワークショップが紹介されているのも魅力です。

     アンリ・マティスのページでは、「はさみでかく」切り絵のしかたを、ルノワールのページでは「スクラッチアート」をというように実際に作品づくりをしたくなる工夫があります。

     実際に自分の手でアートをつくる体験をすると、本物のすばらしさをより理解でき、また鑑賞する楽しみも深まります。ぜひ実際に描いたりつくったりしてみてください。

     夏休みにはすこし早いかもしれませんが、自由研究の参考にもなるおすすめ本です。

  • 『レイミー・ナイチンゲール』6月に読んだ本

    twitter友から教えてもらったハッシュタグ#BOTM
    6月にあげたのはこの本です。

    主人公の少女レイミーは10歳。
    父親がかけおちをして家を出ていってしまい、
    その父親に帰ってきてもらう方法をレイミーは考えます。
    思いついたのが美少女コンテストで優勝して新聞にのること。
    新聞を読んだ父親はきっと帰ってきてくれると――。

    美少女コンテストで優勝すべく、バトントワリングを習いに行くレイミー。
    そこで2人の少女と出会います。
    3人の少女たちはそれぞれの抱えているもので
    自分のキャパを超えそうになると
    互いに助け合います。

    抱えているもの(問題)を解決するよう計画をたてる。
    合理的な考えです。

    計画どおりに事がすすまないのは、どこの世界にもあること。
    それでも、何かしらアクションを起こすことは、
    開いていないドアが開き、別の世界を見せてくれるのです。

    世界があたたかく広がっていることが伝わってくる物語。
    支えてくれる友だちっていいもんです。