123 子どもを守る言葉 自分が決めるということ
作者は自分の子どもに「同意」を教えたくてつくった本をご紹介します。
『子どもを守る言葉 『同意』って何?
YES, NOは自分が決める!』
レイチェル・ブライアン 作 中井はるの 訳 集英社
何事も相手や周りの同意を得て進めていきましょう、なんていう言葉は社会
人にはなじみがありすぎて、そうすることに意識もしなくなっていました。
子どもの頃だと、大人のいうことは聞かなくちゃいけないという前提のもと、
顔色をうかがうことも、お行儀のひとつとすり込まれて育った子どもも一定数
はいたでしょう。
けれど、自分の「嫌」を伝えるということがとても大事だということが、少
しずつ世の中に浸透してきているように感じています。
この本では、自分だけでなく、相手のためにも自分の意志を伝えることがい
かに大切かということが8つの章立てで、イラストも多くつかって伝えてくれ
ています。
むりやりに相手から「いいよ」を引き出してもそれはYESではないこと。
YESといってしまっても、後から自分の本当の気持ちに気づいてNOということ。
なんとなくわかっていても、ちゃんと知っておくべきことが簡潔に書かれて
いて、子どもだけでなく大人にも読んでほしいと思いました。
巻末には、SNSでのトラブルから、具体的な暴力やイジメに対処するときの
相談窓口も掲載されており、かなりの実用書のつくりです。
『夢のビッグ・アイデア カマラ・ハリスの子ども時代』
ミーナ・ハリス 文 アナ・R・コンザレス 絵 増田ユリヤ訳 西村書店
アメリカ副大統領となったカマラ・ハリスとカマラの妹、マヤの子ども時代
の話を元に、彼女らの姪にあたるミーナ・ハリスが書いたお話です。
カマラとマヤが住んでいたマンションには中庭がありました。でも遊具はな
にもなく、姉妹は中庭が遊び場になればすてきじゃないかと考えます。
母親に相談すると家主さんに聞かなくちゃねといわれ、二人は家主さんにお
願いに行きますが、望んだ返事はもらえません。そこで、どうすれば遊び場が
つくれるか、よくよく考え、考えたことをひとつずつ行動にうつします。
会社や学校で与えられた課題をこなすかのように、二人は自分たちの望んだ
遊び場を得るために考え行動していく様子は、階段を一段ずつ上るように丁寧
です。
問題解決を決して大人の上から目線ではなく、自分たちにできるところから
ゴリ押しせずに進めていく姿は、大人の私が読んでも学ぶところがあります。
何をどうしたら問題解決するのかよくわからないときの実用絵本でもありま
す。ぜひ周りの子どもたちに読んでみてください。
『エヴィーのひみつと消えた動物たち』
マット・ヘイグ 作 宮坂宏美 訳 ゆうこ絵 ほるぷ出版
このメルマガでも「クリスマスは世界を救う」シリーズなどでご紹介した作
家マット・ヘイグの作品です。
「クリスマスは世界を救う」は息子の疑問に答えて書かれ、今回は娘のリクエ
ストによるものとのこと。自分の子どもたちのリクエストで物語を紡げるのは
親としても作家としても最高なことですね。
娘さんのリクエストは動物と、動物が大好きな女の子の話です。
主人公はエヴィー。動物が大好きなだけでなく、特別な力ももっています。
けれど、その力のことは決して人に知られてはいけないと父親に厳命されて
いました。母親はエヴィーが小さいときに亡くなっているのは、その力が原因
でもあるようです。
使ってはいけない、知られてはいけない力は、問題が起きるときの原因にな
りがちですが、エヴィーもまた、予想だにしていなかった大きな事件にまきこ
まれていくのです。
たくさんの動物たちの生態も紹介されるので、そこにも興味を引かれつつ、
エヴィーがまきこまれる冒険のゴールも気になり、休憩することなくいっきに
読みました。
冒険のハラハラだけでなく、動物や人間が命でつながっている存在だという
大きなテーマも胸をうちました。動物たちのイラストもとてもすてきで印象に
残ります。
『アリスとふたりのおかしな冒険』
ナターシャ・ファラント作 ないとうふみこ訳 佐竹美穂 絵 徳間書店
主人公は11歳のアリス・ミスルスウェイト。アリスが7歳のときに母親が亡
くなってからは、父親と伯母が一緒に暮らしてアリスのことを見守っています。
アリスは、母親が亡くなって以来、屋敷にこもりがちになっているので、心
配した伯母の提案により、思いきって屋敷をはなれ寄宿学校に入ることになり
ました。
環境が変わったことで、アリスには、ジェシー、ファーガスというおもしろ
い友人ができます。そのクラスメートの男の子たちと共に、学校生活になじみ
はじめているときに、父親から手紙がきっかけで3人の冒険がはじまります。
佐竹美穂さんは、物語にとけこむような精緻なイラストを展開し、読んでい
ると、アリスやジェシー、ファーガスらが、本から出てきて目の前で会話して
いるようなリアリティを覚えました。
子どもたち3人の行動の原動力には、それぞれの家庭の背景が関わってきて
います。特にアリスと父親との関係は胸が苦しくなるものがあり、近い存在の
家族だかこそ生じてしまう、めんどうな気持ちには、なんともいえないものが
あります。そんな気持ちの整理を助けてくれたのは、物語ることでした。アリ
スの語る物語の力がどういうものなのかは、ぜひ読んで感じてください。
最後にご紹介するのは、感染症について理解を深めることができるシリーズ
第1巻です。
『感染症と人類の歴史 第1巻 移動と広がり』
池田光穂 監修 おおつかのりこ 文 合田洋介 絵 文研出版
コロナ禍の社会になってから、私たちは感染症について以前よりずっと意識
するようになってきているのではないでしょうか。
感染症とよばれる病気は、歴史の中で何度も登場しています。それらについ
て、イラストを多用し、九尾のキツネを案内役として登場させ、疑問点やポイ
ントをキツネ目線(?)でわかりやすく伝えてくれているのが本書です。
紀元前7000年頃にはじまった歴史の理解を深めるために、ページ見開き上部
に時空列車を走らせ、そのレール上で、どのあたりの「時空」にいるか一目で
わかるようになっているのもうれしい工夫です。
知らないことは不安につながります。私たちは新型コロナウィルスによって
この先どうなるのだろうという不安を感じずにはいられませんでした。ワクチ
ン接種が進み、少しずつ落ち着いてきているものの、感染症について、いまい
ちど整理して理解することは大事だと感じます。
ぜひじっくり読んでみてください。