■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
119 季節はめぐる
年齢を重ねていくと、あたりまえのことに今までになくしみじみすることが増えました。一日は朝、昼、夜がかならずまわってくること、一年の季節も多少の変化はあっても、冬のあとには春がきて、夏がきて、秋がくること。季節のめぐりに、すごいなぁとしみじみするのです。
さて、これから暑い夏がやってきます。
夏の食べ物といえば、すいか。楽しい絵本が刊行されました。
『すいかのたね』(グレッグ・ピゾーリ作 みやさかひろみ訳 こぐま社)はすいかをおいしそうにかじるワニくんの表紙をみるだけで、テンションあがります。
すいかはビジュアル的(?)にも、夏のイメージ。まっかな果肉に黒い種のアクセント。しゃりしゃりとむしゃぶりついて食べる時間は至福です。
絵本に登場するワニくんは、子どもの頃からすいか好き。三食+デザートまですいかでOKなくらい。ところがある日、うっかりすいかの種をのみこんでしまうワニくん。種が体の中でどうなるのか心配でたまりません。
版画のような絵は、色のずれもいい雰囲気を出していて、線のにじみも味わいがあります。なにより、ポップで美しい。
読んでいたらすいかを食べたくなり、夏の暑さすら待ち遠しくなりました。
次にご紹介するのは、いつも心に深く染みこむ本をつくっているすずき出版の新刊です。
『海を見た日』
(M・G・ヘネシー作 杉田七重作 すずき出版)
作者はアメリカ、ロサンゼルスの里親制度がうまく機能するために、裁判所から任命されて活動する特別擁護者であり、LGBTQの若者を支援する団体の指導者でもあります。ご自身が直接見てきたことを、物語にしました。
ナヴェイア、ヴィク、クエンティン、マーラは、ミセス・Kの家で暮らす里子たちです。物語はナヴェイアたち4人の視点で交互に綴られ、それぞれの立場からみえてくる風景の違いに気づかされます。
養母ミセス・Kは夫に先立たれ、子どもをもたなかったことから、里子をひきとるのですが、自身の夫を亡くした喪失感からネグレクト気味です。
年長者のネヴェイアは、いくつかの里親を経験しているので、そんなミセス・Kでも、いままでよりはずっといいので、気に入られるよう、年下の子どもたちの世話を一生懸命します。
クエンティンは子どもたちの中では新入りです。自閉症のクエンティンは自分がママと離れてミセス・Kと暮らすことを理解できず、母親の元は行きたいと願っています。ヴィクはその願いを叶えようと、クエンティンと母親探しをすることにしました。そのことに気づいたマーラもついてきて、家に連れ戻すのが自分の役目と思ったナヴェイアも期せずして一緒に母親探しの旅に参加することに……。
自分の人生は自分で切り開いていかなくてはいけない、しかし、それをするにも子ども時代には子どもでいる時間をもってほしい。そうできないのは辛いことです。
ナヴェイアは同級生とのつきあいよりも、一緒に暮らす下の子たちの面倒をみることをいつも優先させます。ミセス・Kにも認めてもらいたい、家においておきたいと思ってもらいたいという強い気持ちがあるからです。
子どもたち4人の旅は、予定外のことばかりおきますが、ふだんのの生活か離れた場所に向かい、いつもはバラバラの方向を向いていた4人の心をひとつにまとまる時間をつくりだしました。それは、灰色みたいな時間の中にいると思っていたナヴェイアにも、明るい光の時間をもたらしました。
実際に色のついた世界をみるわけでもないのに、この比喩がとても共感できました。辛い立場にいる子どもたちがこの本と出会って、太陽の光を感じる時を味わってほしいと思います。
次はモンゴルの昔話をもとにした絵本です。
モンゴルの絵本作家、イチンノロブ・ガンバートルさんとバーサンスレン・ボロルマーさんコンビの絵本は大好きなので、新刊が読めてとてもうれしい!
『空とぶ馬と七人のきょうだい モンゴルの北斗七星のおはなし』
津田紀子 訳 廣済堂あかつき
昔、空に星はなく、夜は暗闇におおわれていたころのお話です。
モンゴルの草原では、王様が7人の美しい王女と暮らしていました。
その王女たちを、空からみつけた鳥の王ハンガリドはさらっていってしまいます。王様は嘆き悲しみ、助けるために、7人のきょうだいたちを向かわせます……。
美しい王女さまがさらわれ、助けに向かう7人のきょうだいたち。それぞれに得意なものをもっている彼らが、胸をすくような活躍をみせるのに、ラストはすこし意外。
見開きいっぱいに展開されるダイナミックな構図。迫力ある鳥の王とたたかう7人のゆたかな表情に見入ります。きれいな発色でどのページも躍動感がみなぎっています。
私は何年も前に一度だけゴビ砂漠に旅をしたことがあり、その時の夜空を思い出しました。モンゴルは私にとっても特別な場所です。
最後にご紹介するのは、とにかくおもしろい絵本!
『フンコロガシといしころ
ころころころころうみへいく』
クレール・シュヴァルツ 作 ふしみみさを 訳 クレヨンハウス
絵本ではいろいろなものが主人公になりますが、この絵本の主人公はいしころとフンコロガシ。
いや、いしころが主人公というのもありえなくはありません。
けれど、絵本を開いてみて、最初にいしころの家が紹介されていると、ぷぷぷっとふきだしてしまいました。予想をうわまわるユニークさなんです。
なのであまり説明を入れず、いしころがどうやってフンコロガシと一緒に海
へ向かうのか、情報を入れずに読んでみてください。
あまりにおもしろくて、もう子どもではない娘っこに読んできかせたら、彼女も大笑い。すごい発想だ!と感心していました。
さあ、ぜひあなたも。
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