8/10日号で配信された「書評のメルマガ」では『わたしのくらし 世界のくらし 地球にくらす7人の子どもたちのある1日』『すいかのプール』『おやすみなさい トマトちゃん』 『この計画はひみつです』の4冊をご紹介しました。
http://back.shohyoumaga.net/
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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86 空は高く青く、夜空には星がまたたく
酷暑が続き、各地で最高気温を記録しています。
豪雨被害の被災地ではまだまだ生活再建に時間がかかり本当に大変ですが、休めるときは少しでもゆっくりできますように。
さて、夏休みの季節になり、涼しい部屋で本を読む時間をもてているでしょうか。
最初にご紹介する絵本は、7つの国、それぞれで暮らす子どもたちが描かれています。
『わたしのくらし 世界のくらし
地球にくらす7人の子どもたちのある1日』
マット・ラマス 作・絵 おおつかのりこ 訳 汐文社
イタリア・日本、イラン、インド、ペルー、ウガンダ、ロシア、これら7つの国に住んでいる子どもたちの様子が見開きいっぱいに紹介されます。
子どもたちの表情、学校に着ていく服、授業の様子、学校の先生、名前の書き方、放課後の過ごし方――。
見開きに複数の国の子どもが紹介されているので、様子の違いがひとめでわかります。どんな洋服を着ているのか、どんな遊びをするのか、食べ物はどういうものを食べているのか。丁寧に描かれた絵から、その先にある生活のリアルさが感じられます。
作者のマット・ラマスさんは、この子どもたちが、その国や文化の代表だとはいえませんと説明を加えています。代表ではなくても、自分たちの国以外の生活をみることは、世界を広げてくれます。違っているところ、似ているとこ
ろ、知るのは楽しい読書体験です。
それに鳩や猫、馬なども描かれているのですが、動物は各国ほとんど同じです。私は鳩が食べ物をついばむ小さなシーンが大好きです。どのシーンも、何が描かれているのか観察し、発見があります。
巻末には用語集もあり、例えば、ごはんのページに登場する料理がどんなものか教えてくれるので、食べたことがなくてもイメージがわきます。
そしてなにより私がこの絵本でハッとしたのは7つの国の子どもたちの共通点です。互いの国で同じにみえるものがあることに、あらためて感動し近しさを感じます。
ぜひみてみてください。
次にご紹介するのはいまの季節にぴったりの絵本。
『すいかのプール』
アンニョン・タル 作 斎藤真理子 訳 岩波書店
今年は韓国文学がにぎやかで、翻訳者の斎藤さんのお名前をよく見かけます。
絵本にも活躍の場が広がっていて、うれしいかぎり。
本文を引用します。
「まなつのお日さま あっつあつ。
すいかはすっかり じゅくしてます。すいかのプールの プールびらきです。」
すいかプールの管理人さんでしょうか。大きな麦わら帽子をかぶった白髪のおじさまが、すいかプールをチェックします。
「うーむ、きもちいい
プールびらきを知った子どもたちは、走ってプールに向かいます。
たっ たっ たっ たっ たっ たっ」
足音が聞こえてきそうです。
この足音にはじまり、絵本には音がいっぱい登場します。
すいかプールに入る音、ちゃぽーん。
さっく さっく さっく さっく
足でぴちゃぴちゃすれば、すいかジュースもたまります。
子どもだけでなく、妙齢の大人も楽しんでいるのに、ニヤニヤします。
暑いですからね。
プールのまわりの出店も味があります。
夜になり、最後の子どもが帰ると、すいかプールも店じまい。
絵本の中に入りこみたくなる、引き込み力抜群のお話です。
夏の間にぜひ読んでください。
続いて、こちらもいまの季節にぴったりの絵本。
『おやすみなさい トマトちゃん』
エリーザ・マッツォーリ 文
クリスティーナ・ペティ 絵
ほし あや 訳 きじとら出版
今年の東京都板橋区いたばしボローニャ子ども絵本館主催、
いたばし国際絵本翻訳大賞〈イタリア語部門〉受賞作品です。
きじとら出版では、翻訳受賞作の絵本を刊行しており、本作は今年受賞したものです。
表紙で大泣きしているのは、主人公のアニータ。
トマトが大嫌いでいつも残しているので、とうとうおかあさんはトマトを食べ終わるまで、トマトと一緒に部屋にいるようアニータに言いました。
アニータはいつか気が変わって呼んでくれると、楽観的にかまえていましたが、なかなかそうならず、おなかはすくばかり。
他にすることもないので、トマトを相手におかあさんごっこをはじめます。
アニータはおかあさん役。
あやして、遊ばせて、寝かしつけて、そして……。
トマトはリアルな写真がコラージュされ、思わず指でさわってみたくなるほど赤くてピカピカきれいです。
アニータがおかあさんごっこで、トマトちゃんと近くで過ごしているうちに芽生えてくる感情にふふふと笑いがこみ上げてきます。
赤くておいしそうなトマトちゃん。
どこでねんねしているかな。
さて、今号最後にご紹介する骨太絵本はこちらです。
『この計画はひみつです』
ジョナ・ウィンター 文 ジャネット・ウィンター 絵
さくまゆみこ 訳 すずき出版
ジャネット・ウィンターは、伝記や実際にあったことを描いた作品を多くつくっている絵本作家です。文章を書いているのは、息子。ノンフィクション絵本を手がけています。
この2人が描いたのは、核です。
1943年3月、アメリカ合衆国政府は、科学者を集めて、ひみつの計画をスタートさせました。科学者たちが作り出したものは、最初の「原子爆弾」です。1945年7月16日、ニューメキシコ州南部の砂漠で、最初の核実験が行われたのです。
ジャネット・ウィンターの絵は、マットな色調とやわらかな線で描き、率直にできごとを伝えてくれます。
世界で最初に行われた核実験の影響は、2018年現在も続いており、アメリカ政府は2014年になって、その当時住んでいた人たちの健康調査をはじめました。70年過ぎてからです。
私は最初にこの絵本を読み間違えていました。この実験の後に日本に2度核爆弾投下されることについて書いているのかと勘違いしたのです。
しかし、この絵本を読んだ2週間後、ノーマ・フィールドさん(※)の学習会に参加する機会を得て、このトリニティ実験について詳しく知ることができ、絵本をあらためて読み直しました。
大人がした愚かな行為を、子どもにわかるように絵本の形で伝えていることは意義があると思います。強い印象を残す、実験後のキノコ雲の絵、そしてラストのページの意味することを、これからも大人は伝えていかなくてはいけないのです。
絵本の著者あとがきと、訳者あとがきも読みごたえがあります。
知らなくてはいけないことが描かれている大事な絵本です。
(※)ノーマ・フィールド
日本で生まれ、米国シカゴ大学で日本文学を教えてきた。
原爆投下や原発事故の「被ばく者」に寄り添いながら、日本社会に発言を続けている。(2016年4月26日朝日新聞の紹介文より)
http://digital.asahi.com/articles/ASHD66560HD6PTIL00P.html