2/10日号で配信された「書評のメルマガ」では『ぼくは本を読んでいる。』『数字はわたしのことば せったいにあきらめなかった数学者ソフィー・ジェルマン』『スポーツするえほん』をご紹介しました。
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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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92 本はいいよ
『ぼくは本を読んでいる。』
ひこ・田中 講談社
タイトルが物語すべてを表しています。
そう、これは「ぼく」が本をひたすら読んでいるお話です。
「ぼく」(ルカという少年です)の家には両親が「本部屋」と呼んでいる部屋があり、そこには、壁一面に本棚があり、テーブルとイスも置いてある、読書には最適の部屋です。
ルカはかつて幼い頃はそこでよく絵本を読んでもらっていましたが、小学5年生になったいまは、もう親に本を読んでもらう年齢ではありません。
そうして、いつのまにか「本部屋」に入らなくなっていたのですが、ひょんなことから、久しぶりに入ったその部屋で、
ちょっとそそられる本をみつけました。
本の奥付をみると、どうやら両親のどちらかが子どもの頃に読んでいた本らしく、ルカは親に内緒でその本を読みたくなります。
その本は岩波少年文庫の『小公女』。
タイトルがわかったとき、思わず興奮してしまいました。
子どもの頃、私も大好きだった本なのです。
最初に読んだのはいつだったかは思い出せないのですが、おそらく小学生だったように思います。
ルカの読書を追っていくのは、e.o.プラウエンの『おとうさんとぼく』に描かれているコマ漫画のようです。それは、ぼくが読んでいる本をおとうさんが背中越しに読んでいるうちに、おとうさんの方が夢中になって、いつのまにか二人が交代している内容で、私もまさにその状態になっているおとうさんの気持ちでした。
ルカが『小公女』に夢中になったおかげで、転校生の読書好き少女カズサとも仲よくなり、好きな本について語れる仲間がいる喜びも伝わってきます。
この物語は子ども時代の楽しさが、熱量高すぎず、さらりと書かれており、その適温は大人にも読みやすいものになっています。
現役の小学生に、図書館や学校の図書室で出会って欲しい物語です。
次にご紹介するのは絵本です。
『数字はわたしのことば
せったいにあきらめなかった数学者ソフィー・ジェルマン』
シェリル・バードー 文 バーバラ・マクリントック 絵
福本友美子訳 ほるぷ出版
実在した数学者ソフィー・ジェルマンの伝記絵本です。
ソフィーは幼い頃から勉強することが大好きでした。
少女時代、パリはフランス革命さなかだったため、外は危ないと家の中で過ごす時間が多くありました。
その時間を使って、ソフィーは数学の勉強をし続け、気づくのです。
”数学者が数字をつかうのは、詩人がことばをつかうのと同じだ、
とソフィーは気づきました。”
ソフィーは数学者になりたい、数学を自分の言葉にしたいと強く思うようになります。
時代的に女性が勉強を志すのは難しく、教授も女性に教えようとは思わない、それでも、ソフィーはあきらめず、大学の数学の課題を入手できたときは、男性名でレポートを送るなど、粘り強く自分の学問を深めていきました。
あきらめないソフィーの強さを、バーバラ・マクリントックは繊細に描き、見ごたえがあります。特に勉強に集中しているソフィーの眼差しは印象に残りました。
学ぶことが大変な時代に、穴をこじあけていくのは、数学が好きだという強い気持ち。進学などで将来を考えている中高校生にもおすすめしたい絵本です。
最後にブックガイドをご紹介します。
『スポーツするえほん』中川素子 岩波書店
絵本研究の第一人者による、スポーツを描いた絵本60冊を様々な切り口で紹介しています。
目次をみてみましょう。
体を動かす楽しさ
動きの美しさ
運動会からオリンピックまで
コミュニケーションが生まれる
自分にうちかつ
伝統の力
運動の技術
スポーツに必要なこと
スポーツと社会
スポーツ・ファンタジー
登山やバレエなど、スポーツを広くとらえ、ゆるやかなくくりになっているところがおもしろいガイドになっています。
このメルマガでもご紹介した絵本も数冊入っていて、なるほど、スポーツという枠で読むとみえてくるものに新鮮なものを感じました。
読みたいと思っている一冊は、このガイド本の著者である中川素子さんの絵本。
『スタシスさんのスポーツ仮面』(岩崎書店)はリトアニア生まれでポーランド在住のアーティスト、スタシス・エイドリゲーヴィーチュスが絵を描いていて、スポーツを「深く多様に」紹介しているようで興味津々です。
絵本の世界も広い。
ガイドを読んでいるだけで、スポーツしたくなってきます。