Month: February 2022

山本まつよ先生のこと

126 心に残ること   今年は雪が多く、除雪しないと移動がままなりません。 使っていない筋肉を使うので、腰痛が頻発しています。  腰痛はつらいので、楽しい気持ちになりたくて絵本を読みます。 子ども3人育てているときに読んできた絵本を眺めていると、読んでいた時の子どもたちの様子が思い出されます。 子どもの本を選ぶとき、ひとつの指針は子ども文庫の会が発行している「子どもと本」でした。  はじめての子どもを出産し、病院のベッドにいるとき、「童話屋」(現在、書店は閉店)さんに連絡して毎月絵本を送ってもらうことにしました。はじめに届いた絵本は『おおきなかぶ』でした。佐藤忠良さんの絵や彫刻が大好きだったので、とても嬉しく、生まれたばかりの赤ちゃんに読んで聞かせたことを覚えています。  当時渋谷にあった「童話屋」さんに何度かうかがったこともあり、その時気になったのが「子どもと本」でした。なにやら小さい冊子に小さい文字が書かれている表紙で、難しそうにも感じました。「童話屋」の方に、その冊子が気になることをお伝えすると、いつかお勧めしようと思っていたんですといわれたので、毎月の絵本と一緒に、数冊ずつ入れてもらうことにしました。  その冊子には子どもの本に対する愛情がみっしりつまっていて、最初に読んだ時から夢中になりました。ここには大事なことが書かれているとわかりました。それからは、最新号と共に、バックナンバーを読むのが楽しくてしようがありませんでした。気になった本は、一緒に送ってもらうようにもしました。  3人目の子どもが生まれたとき、フルタイムの仕事を辞め、時間ができたので、念願の子ども文庫の会の初級セミナーに通うことにしました。 行き帰り半日ほどかかるので、その時間に読む本をたんまりスーツケースに入れて通いました。  セミナーに参加されている方に「日帰りなのに大きな荷物をかかえて来られるのね」といわれたとき、私がこたえる前に、山本まつよ先生は「だって、行き帰りの時間でたっぷり本が読めるものね」と代弁してくださり、わかってくださっていると嬉しくなりました。  セミナーが行われる部屋は通路ぎっしりに本が積まれていました。トイレにまでもです。本の背表紙をみながら、狭いトンネルのような通路を通り、セミナーの机に集まるときはいつもわくわくしました。  もっとも印象に残っているのは、アイルランド童話集「隊を組んで歩く妖精達」(イエイツ編 山宮允訳 岩波文庫)を山本先生が朗読してくださった時間です。「ティーグ・オケインと妖精達」は朗読すると30分以上かかるお話しです。 ゆっくり静かに読まれる語り口に引き込まれました。おおげさに誇張することもなく淡々と読まれる物語は、ひとりの若者が幸福な生き方をするまでのことがらが紡がれています。愉快に好き放題に暮らしていた若者ティーグ・オケインがひょんなことから妖精達と関わり合ったことで、生き方に変化をもたらすのです。  読んでくださったあと、とても幸福な気持ちを味わいました。ティーグ・オケインが感じた幸福が伝わってきたのです。山本先生の朗読は物語の深いところを余すことなく伝えてくれました。  私は自分が感じた気持ちを他の人にも伝えたいと思い、何人かの大人に同じように読んでみました。大人になってから人に本を読んでもらうなんてとはじめは少し怪訝そうにした方も、読み進めていき物語にうねりがみえてからは夢中になって聞いているのが伝わってきます。そして物語を最後まできいた後は、とても満足そうでした。  心の深いところで楽しいと感じられることほど幸福なことはありません。  山本先生はよく大きな石の指輪をされていました。きれいで見とれてしまい、「すてきな指輪ですね」というと、「こういうきれいな大きいのをつけていると子どもたちが喜ぶのよ」と嬉しそうに教えてくださいました。  先日、ある小中学生のアートワークショップのボランティアに参加しました。色水をつくるワークショップで、私も子どもたちと一緒に色水づくりを体験し、黄緑色をつくりました。すると、はじめてあう子どもたちでしたが「その色、いま着ているセーターによくあっているね。イメージカラーみたい」と言ってくれたのです。きれいな色のセーターを選んでよかったと思いました。そして山本先生の指輪のことを思い出していたのです。  2月に入って届いた168号の「子どもと本」で山本先生の訃報を知りました。 子ども文庫の会のHPでは昨年の訃報がすぐ出ていたようなのですが、ここ数年、家でパソコンをさわる時間がめっきり減ってしまい、全く知らず、いつものようにわくわくしながら封筒から冊子を取り出し、表紙を読んでびっくりしたのでした。  168号の「子どもと本」ではゆかりのある方々の追悼文が掲載され、ひとつ読むごとに、胸があつくなりました。  山本先生は多くのことを残してくださいました。 青木祥子さんが表紙に書かれていますように、山本先生にみせていただいた「本の中の人、動物、風景、雰囲気、言葉などなど――」は「それを朗読していたその声とともにわたしたちの心の中に残していった」のです。  2006年に刊行した山本先生の訳書に『ラーマーヤナ』(エリザベス・シンガー作 子ども文庫の会)があります。豊かな叙事詩であるこの本は、どの年代の子どもでも読めるように総ルビです。 読み終わったあとの楽しい気持ちに思わず山本先生に電話して感想をお伝えしました。先生も嬉しそうに応じてくださり、この本を手にするたびにその時のことを思い出します。 「子どもと本」はこれからも青木祥子さんが続けてくださいますので、変わらず「次の号」を楽しみに待つことができます。  私もこれまでと変わらず子どもの本を楽しみ、その楽しみを伝えていきたいと思います。 (林さかな)https://twitter.com/rumblefish