124 心を軽くする、ぐるぐる動かす コロナ禍でリアルに人と話すのは家族がメインになっていき、SNSやLINEなどツールはいろいろ増えているけれど、本を読むということも、物語と会話するようなものに思えています。 とはいえ、様々な制限が解かれてきているので、直接のやりとりも増えてきているのはうれしいことです。 『きょうはだめでもあしたはきっと』 ルチア・スクデーリ さく なかむら りり やく 春陽堂書店・山烋 第27回いたばし国際絵本翻訳大賞イタリア語部門最優秀翻訳大賞受賞作絵本。 タイトルがすてきです。 きょうはだめでもあしたはきっと、このタイトルを読んだだけで体の中から元気玉が飛び出してきそうではありませんか。 さて、どんなお話かというと。 砂漠にあらわれた見慣れない生きもの。 あなたはだれ?と問われると、生きもの自身は羽があるので鳥だと自覚しているのですが、素直に鳥と答えられない。羽はあっても飛べないからです。 謎の生きものは周りから鳥だと思ってほしいものの、飛べないことは知られたくない。鳥らしくないことをなかなかいえないでいる姿がユーモラスに描かれます。 迎えるラストでは、地面の上で生きものたちがあれやこれやと交わり、天のお空ももりあがりに一役かうのですが、どんな風なのかは読んでのお楽しみ。 1回目より、2回目、3回目の方が心に入ってきます。 ぜひぜひ何回も読んでみてください。 『もりにきたのは』 サンドラ・ディークマン 作 牟禮あゆみ 訳 春陽堂書店・山烋 先に紹介した絵本はイタリア語部門の最優秀翻訳大賞受賞作で、こちらは英語部門の大賞受賞作。 鮮やかな発色で描かれる動物たちが目を引きます。 イタリア語部門とおもしろい共通点があり、今度は森に見慣れない白い生きものがやってきたのです。最初に見つけたのはカラス。 白い生きものの鋭い目つきが怖くて、森の動物たちは近づけません。 大きな白い生きものは、森の中を歩きまわって、葉っぱ集めをしています。 どうして葉っぱを集めているのでしょう。 森にやってきたこと、葉っぱを集めること、理由がわかってくると、鋭い目から見えているであろうものに思いを馳せました。 森の美しさを描きながら、海も感じさせる絵本です。 『ぼくの! わたしの! いや、おれの!』 アヌスカ・アレプス さく ふしみ みさを やく BL出版 5月に刊行された『くさをたべすぎたロバくん』の作者による新作絵本。 とはいえ、原書としては、本書がデビュー絵本。 日本での刊行は後になっています。 アレプスの絵は、すこーしレオ・レオニの雰囲気があります。 くりっとした動物の目に表情が豊かで、何かおもしろいことが起きそうな雰囲気がページをめくる楽しみを誘います。 お話はくだもの大好きなゾウたちが、木の高いところにあるくだものをとるために四苦八苦し、最終的にどうしたでしょう、というもの。 やわらかい中間色で描かれたジャングルの中で、ゾウたちが心地よさそうにしているのをみるのは、みているこちらも安らぎます。彼らのくだものに対する食い意地も愛らしい。 おいしいものを食べるのは幸福ですから、ゾウたちが幸せそうなのもさもあらん。 ゾウたちのように、おいしいくだものを食べたくなってきます。 最後にご紹介するのは、マット・ヘイグの読み物。 ここのところ、マット・ヘイグの作品を読み続けているのですが、読むたびに、運動後に体がほぐれたような心地よさがあり、追っかけファンになっています。 『ほんとうの友だちさがし』 マット・ヘイグ 文 クリス・モルド 絵 杉本詠実 訳 西村書店 アーダには妖精の友だちがいます。ほんとうのことしか言えない特別な妖精と一緒にいることは、自分らしくいられることなのでとても幸せでした。 ところが、学校に通い始めると、アーダのふつうが、周りのふつうではなくなり、妖精といることもからかいの対象になってしまいます。 妖精とだけいればいいのかしら。それはそれで幸せ。 でも、アーダは人間の友だちも欲しくなり……。 自分の子どもたちをみても、いつも友だちを求めていました。それもただの友だちではなく「ほんとうの」友だちを。いったい何が「ほんとうの」なのでしょう。 たくさんの友だちがいることはハッピーなことなのか。少し深いテーマを、マット・ヘイグは子どもの心に届く言葉でまっすぐ差し出します。 そして、クリス・モルドのユニークでキュートな絵は、アーダや妖精への親しみを湧かせます。 読後感は、やっぱり友だちっていいなってこと。 マット・ヘイグの物語には「ほんとうの」ことが書かれています。 (林さかな)https://twitter.com/rumblefish