『レモンの図書室』

まぶしい檸檬の表紙に惹かれて読みました。

カリプソのママは5年前ガンで急逝してしまいました。
パパはそれ以来、カリプソにこういうようになります。
おまえは強い心をもっているじゃないか、泣かずにすむよう強い心をもっているはずだと。

10歳になったカリプソに、パパは変わらず同じことをいいます。
「自分のいちばんの友だちは自分だ」
「他人はいらない」
つまり人にたよってはだめだと。

カリプソは素直にそれを受け止めます。
本を読むのが大好きで、
ママの部屋だったところを自分の図書室にしてもらい、本に囲まれて過ごすのです。

学校でも遊びにちっとものらないカリプソはいつもひとり。
でもメイが転校してきて変わりました。
メイも本好きなので、2人は意気投合。
大好きな本の話をいつもできる相手がみつかったのです。
メイの家に遊びに行くようにもなり、メイのお母さんにもかわいがってもらいます。

ひとりじゃなくなった世界を知るようになったカリプソは、
自分のパパをいままでと違った目でみることができるようになり……。

カリプソが生き生きするようになるのと反対に、
パパは押し込めていた妻を失った悲しみで、カリプソを世話することが難しくなっていき、
代わりにカリプソがパパを支えようとします。

10歳の子どもに大人が本来すべきことをしなくてはいけない状況を想像すると重たい気持ちになりながら読んでいきました。

本書はイギリスの児童書ですが、
カリプソの苦しみに気づいた大人が
〈大人の世話する子どもの会〉にカリプソを連れていってくれます。

そんな会があるのですね。
訳者あとがきによると、
「病気や障害を持つ家族の介護や看病をする子どもや若者が、ここ数年注目を浴びています」とのことで、若い人たちが介護することから「ヤングケアラー(若い介護者)」と呼ばれているそうです。

子どもが子ども時代を得られず大人になることは、いつかどこかでひずみがくるように思います。
そのひずみを小さくするには、こういう会は助けになるかもしれません。

本は力になることはもちろんですが、
生身の力も子どもには必要。

大人も病気や障害をもつことはある、その状況はなくせないのだから、
周りの大人にできることを意識したい。
この本が必要な子どもに届きますように。

重たいことばかりを書いてしまいましたが、
カリプソとメイが心から楽しんで読書している描写は、とっても楽しいです。
巻末には読書案内として、物語にでてきた本の一覧もあります。
未訳の本はこれから日本語で読めるといいな。