2/10日号で配信された「書評のメルマガ」ではユーモアたっぷりの本について書きました。 http://back.shohyoumaga.net/ ———————————————————————- ■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな ———————————————————————- 80 カラフルな色の世界 今年は各地で雪のニュースが続いています。 日常生活が可能な限り早くもどりますように。 早くもどすために尽力くださっている方々に感謝します。 会津でも白い空、白い地面の世界が例年以上に長いです。気温も低くあまりとけないからでしょうか。色のある世界が恋しくなります。 なので今回はカラフルな色を楽しむ絵本を中心にご紹介します。 『クレヨンで描いたおいしい魚図鑑』 加藤 休ミ 晶文社 『きょうのごはん』『おさなかないちば』など、既においしい食べ物を描いた絵本をつくってきた加藤さんですが、今回は鮭の塩焼き、焼きたらこ、金目鯛の煮付けなどなど、料理となった魚たちの図鑑です。 クレヨン、クレパスで描かれている魚たちの美味しそうなことったらありません。「シズル感」たっぷりです。小学校の図工で使っていたクレヨンでこれだけ美味しい絵が描けるなんてすごい。 また図鑑なので魚の知識ももりこまれています。系統樹として魚料理の種類を「仲間」としているものでは、太陽と塩の時代、しょうゆ時代、冷蔵庫時代と、それぞれの時代の魚料理が分けられていて興味をひきます。 およそ1800年前の邪馬台国では、なんと既に干物と塩焼き、汁ものがあったそうで、初めて知りました。いたみやすい魚を日持ちさせるための知恵はずいぶん前からあったのですね。 描かれている魚料理は17種類。ししゃもの一夜干しは本当にリアルで、紙の上から何度もさわってしまいました。金目鯛の煮付けは、特においしい目の玉あたりをクローズアップしていて、食欲をそそります。 親バカ(?)ですが、魚料理が大好きで魚の食べ方がものすごくきれい(つまりほとんど残さない)な高校生の娘も、この絵本をみて「おなかすくね、魚食べたくなるね、目の玉おいしいんだよね」とうっとり眺めていました。 クレヨンでおいしく描かれた魚料理は一見の価値があります。ぜひ。 『ネルソンせんせいがきえちゃった!』 ハリー・アラード 文 ジェイムズ・マーシャル 絵 もりうちすみこ訳 朔北社 書影をネットでみた瞬間、「これはおもしろい絵本!」とアンテナにひっかかりました。 もちろんその時はまだ中身をまったく知りません。 ただ表紙に描かれた子ども達の教室の雰囲気にひかれたのです。 ネルソン先生の生徒たちは、いつもしゃべったり、動いたり、うるさくしてばかり。先生の注意など聞く耳を持ちません。とうとう先生は学校に来なくなりました。それでも生徒たちは、これ幸いとばかりに遊ぼうとするのですが、代わりにきたスワンプ先生の怖さに震えます。そこでネルソン先生にもどってきてもらおうと策を練りはじめるのですが……。 子どもたちの表情は小悪魔のようだったり、天使のようだったり、どちらもかわいく、気持ちが素直に表情にでているのが楽しめます。 子どもたちに読み聞かせすれば、やさしいネルソン先生ときびしいスワンプ先生の対応を楽しんでくれるに違いありません。 本書は1977年にアメリカで刊行され、いまもロングセラーを続けているそうです。ユーモアな文章と洒落た雰囲気の絵は飽きのこない何度も読みたくなる魅力があります。 『ごちそうの木 タンザニアのむかしばなし』 ジョン・キラカ 作 さくま ゆみこ 訳 西村書店 タンザニアの南西に住むフィパという人たちに伝わる昔話を、画家のキラカさんが語り部を見つけて聞き取りをしたものです。 昔々、日照りが長く続き作物がとれない時期がありました。動物たちは腹ぺこです。乾いた大地に不思議な木が一本生えていました。その木はおいしそうな実がいっぱいなっています。しかし、ゆすってもたたいても実はとれません。どうやったら実がとれるのか、からだの大きなゾウとスイギュウが賢いカメに相談に行くと……。 訳者さくまさんのあとがきによると、アフリカにはまだ農業が天気に左右されているため、日照りで飢える人もでる地域があるそうです。この昔話にでてくる「ごちそうの木」は日照りの時にあってほしい願いのようなものなのでしょうか。 キラカさんの絵は、濃くはっきりした色調が鮮やかなポップアート。白い雪の日が続いているときに、この絵本を開くと、うれしい気持ちになれます。 実をとるための動物たちの試行錯誤も愉快で、おいしい実の味を想像しながら読みました。 訳者のさくまさんは「アフリカ子どもの本プロジェクト」の活動をされており、この絵本もそのプロジェクトが関わっています。 サイトはこちら http://africa-kodomo.com/ このプロジェクトは3つの目的があり、 1)アフリカに設立したドリーム・ライブラリー(現在2館)を継続的に支える。 2)識字や楽しみのための本を必要としているアフリカの子どもたちがいれば、そこに本を届ける。 3)日本の子どもたちに、アフリカの文化やアフリカの子どもたちのことを伝える。 『ごちそうの木』の作者キラカさんが昨年来日したときも、このプロジェクトで講演会やワークショップを開催されました。 それでは最後にご紹介する本も目をひく表紙です。 『マルコとパパ ダウン症にあるむすことぼくのスケッチブック』 グスティ 作 宇野和美 訳 偕成社 作者グスティはアルゼンチン出身のイラストレーター。ダウン症のある息子マルコとの日々をスケッチしたものが本書です。 グスティはマルコが生まれてきたとき、最初はダウン症であることを、「こんなのうけいれられない」と率直に表明し、その時の困惑ぶりを描きます。母親のアンヌはなんのこだわりもなく受け入れたことも、女性から学ぶことがたくさんあると、アンヌとのやりとりを細かく書いています。 「いいんだ! この子はこのままで!」 マルコをマルコのまま受け入れたグスティの描く絵は、子どもへの愛しさがたっぷりです。ペンでざっくり描いたもの、水彩で色をのせたもの、詳細に描写されたもの、家族の生活が目の前で繰り広げられ、読んでいるとどんどんマルコが身近にいるように感じられてきます。 マルコにはテオというお兄さんもいるのですが、テオもマルコを「せかいいちのおとうと」とかわいがります。父親のグスティはテオから学んだことも多いのです。 遊びや学校生活、日常生活をしやするための手術も描かれ、それらは障害のある子どもとの暮らし――「受け入れる」とはを見せてくれます。 さて、様々な本には最後に作者による謝辞が書かれています。…