sakana

  • 私の名前はルーシー・バートン

    読み進めるほどに、自分に近づけてしまった。

    母との関係、
    夫との関係、
    そして、子ども。

    私自身が年齢を重ね、人生が進み、
    どれにも心当たりがあるのだ。

    自分の人生ですべてがパーフェクトでないがゆえに
    つい犯人捜しをしてしまう。

    あのとき、あんなことがおきなければ、
    こうしていれば、
    と。

    きりのないタラレバに
    からまれそうになる。

    主人公の名前、それは本のタイトルにあるルーシー・バートンほかならない。

    入院中、疎遠だった母が夫にたのまれてまとまった期間見舞いにきてくれる。
    ルーシーは自分が思った以上に母の見舞いを歓迎し、会話を楽しむ。

    長くなる入院生活で夫や子どもを恋しく思うが、
    結果的に、心を満たしてくれたのは母の見舞い。

    その後、家族に戻ったルーシーにも変化がおき……。

    この小説は時系列ではない。
    章立ては後半にいくにしたがって細かくなる。

    訳者あとがきにあるように、その細かくなった章立てはより小説の輪郭を際立たせる。

    ごろんとフライパンに鎮座したガーリック。

    彼の妻は料理が好きと書いたあとに書かれるいまの生活が私にはもっとも印象に残った。
    それはよくわかるからだ。
    私はそれを経験した。

    重たく語ってしまいがちの人生のよどみを
    軽やかに涼しげに書いた力量に羨望する。

  • オズのオズマ姫「asta* 2017年7月号」

    ポプラ社さんのストーリー&エッセイマガジン「asta*」
    肩の力をぬいてすいすい読める心地よい物語が連載されていて、毎月の楽しみです。

    人気作家さんによる「十歳までに読んだ本」も好きな連載。
    そこに『オズのオズマ姫』(ライマン・フランクボーム著、佐藤高子訳)を発見!
    寺地はるなさんは第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビューした1977年生まれの方が書かれています。8歳の頃に『オズの魔法使い』に出会って夢中になり、続編があることを知り、家事手伝いでお金を貯めて購入したのが『オズのオズマ姫』。

    オズシリーズはどの巻にも強烈なキャラクターが登場するのですが、この第3巻ではラングディア姫を寺地さんはあげています。
    ラングディア姫のコレクションはとびきり美人の首30個。そのラングディア姫がドロシーの顔をみて自分のコレクションの首のひとつと交換を申し出ます。それに対してドロシーの放った一言をいつか実際に使ってみたいと書かれていました。

    オズシリーズは数年前、復刊ドットコムさんで新訳として刊行した際、私は編集協力させてもらった思い入れの深いもの。寺地さんとちょうど10歳違いの私は16歳くらいのときに夢中になって読んだのです。

    なので、3巻のラングディア姫をあげられた寺地さんに親近感をもってしまいました。
    夢中になる気持ちがよくわかるんですもの。

    ドロシーの放った一言、たしかになかなかに強烈なのです。
    早川版、復刊ドットコム版、読み比べもおもしろい、かも。

  • 『楽しい川辺』4月5月に読んだ本

    twitter友から教えてもらったハッシュタグ#BOTM

    4月に教えてもらいアップした本がこちら『楽しい川辺』
    訳者杉田七重さんを信頼しているので、最新訳書を選出。
    西村書店の豪華愛蔵版(!)シリーズはクォリティが高く、どの本もおもしろいのです。

    『楽しい川辺』といえば動物ファンタジーでは有名作品。
    石井桃子さんの翻訳(こちらは『たのしい川べ』(岩波書店)で楽しんだ方も多いはず。
    私もそうなのですが、杉田さんの訳も期待をうらぎりません。

    物語冒頭にこまかく豊かに語られる自然描写は目に浮かぶようで、
    何度か読み返しながら読んだほど。

    4月から5月にかけて、近くのお城へ写生会で行ったのですが、
    野の花や木をじっくり1時間半くらい眺めていただけで、
    草木の美しさにノックアウトされてしまいました。

    そのタイミングでこの『楽しい川辺』を読んだのはとてもよかった。
    春の季節から描かれているのですが、
    読んでいると雪国に住んでいることもあり
    雪がとけ、ぺしゃんこになっていた草がたちあがる様子の美しさにほれぼれします。

    まさに、季節そのものが言葉になっているのです。

    ああ、幸福な読書時間。
    すてきに訳してくださり杉田さんに感謝するばかり。
    ありがとうございます。