Category: 書評のメルマガ「いろんなひとに届けたいこどもの本」

『13枚のピンぼけ写真』他

128 心をいつくしむ  今年の冬は例年にくらべて雪がとても多かったのですが、あたたかくなってくると、いつのまにか雪もとけていました。 あんなに雪があったのにね、と会う人ごとに雪解けと桜の季節到来の話題をしているこの頃です。  あたたかい春はうれしい季節ですが、まだまだコロナ禍で、戦争のつらい状況が日々のニュースで報じられ気持ちがなかなか晴れません。  手にした本も戦争の本ですが、いま読んだからこその気持ちの動きがありました。  『13枚のピンぼけ写真』    キアラ・カルミナーティ作 関口英子訳 古山拓絵 岩波書店   第一次世界大戦時の北イタリアが舞台の物語。 戦争のはじまりは、まだ現実がどんなものになっていくのかわからない子どもたちにとって、心浮かれるひとつの話題――オーストラリアからイタリアに戻れるかもしれない――というものでした。  訳者あとがきによると、「この時代イタリアの貧しい村々からは、大ぜいの人たちがおもにドイツやオーストラリアへ出稼ぎ行っていた」ので、子どもたちはイタリアに戻りたい気持ちを抱えていたのです。  主人公の13歳の少女イオランダは、はじめは喜んでいたイタリア行きも、父や兄は戦場へ、母とも離ればなれになってしまい、妹のマファルダと2人で、「アデーレおばさん」を頼ることになり、いままで既に亡くなっていたと思っていた祖母の存在を知り、探しにいくことになっていきます。  戦時の空襲時の描写もあり、日々新聞で報じられるウクライナとロシアの攻防が重なり、いままで読んでいた戦争の物語より、ずっとリアルに感じました。 とはいえ、作者の巧みな比喩は、戦闘場面をつよく打ち出さず、戦争の恐ろしさを訴え、読んでいるものに平和の尊さを教えてくれるのです。  さて、次にご紹介する本は、久しぶりに読んだアンデルセン。 絵本作家、松村真依子さんの絵がついた函入り本。 本が函に入っているだけで嬉しくなるのは私だけでしょうか。  月のまなざしで語られる作品にぴったりの夜色の函。 とりだすと、月が語った様々な物語のモチーフが彩りよく縁取られた表紙が出てきます。  『絵のない絵本』  ハンス・クリスチャン・アンデルセン作 大畑末吉 訳 松村真依子絵  岩波書店  アンデルセンの物語を読んだことのある人は多いでしょう。 絵本にもなっていますし、複数の翻訳で出ているので読み比べも楽しいです。 本書は、長年親しまれてきた大畑末吉さんの訳です。  まずしい画家の若者が、友だちもいない町に住み、ひとり窓から夜空を眺めていると、月と友だちになり、若者に話しを聞かせてくれることになりました。  文章と絵がとけあっていて、声に出して読むと心地よい。  第2夜で語られる、小さな女の子がめんどり小屋でひなたちを追いかけまわす理由が語られるところは、心の深いところに届きました。  短い話のなかに、少女の心持ち、それをきちんと受け止めたお父さんの姿に深い余韻が残ります。  本書がはじめて刊行されたのは1839年のクリスマス。アンデルセンが34歳の時です。その時は第二十夜まで発表され、後に書かれた短編がまとめられ、第三十三夜まで読める形になりました。  アンデルセンの書く物語が長く読まれているのは、不思議な世界を舞台にしていても、描かれているものが普遍的な人の心の美しさ、悲しさ、さみしさなどを深く描いているからではないでしょうか。  自身の生涯も貧しい暮らしのなか、父親が集めたたくさんの古典の本を愛読し、学校へは行かず、その時々に読んでいた物語や劇をドラマに仕立て、人形芝居の舞台や人形の衣装も自分の手でつくっていたそうです。シェイクスピアの劇に魅せられ、自分も劇作家になりたいと夢見ていた。その後、デンマークの首都コペンハーゲンへ行き、奨励金で学校に通います。教育を受けた後に、フェアリーテイルズを書き、だんだんと作品が認められ名声を得ていきました。  アンデルセンの物語は絵本になっているものも多いですが、絵で表現できるものを多彩に含んでいるのでしょう。 本書の松村さんの絵も、静かでやわらかく美しい雰囲気が物語にぴったりです。  それでは最後にご紹介するのは絵本です。  『わたしのかぞく みんなのかぞく』 サラ ・オリアリーさく チィン・レンえ おおつかのりこ訳 あかね書房  多様性という言葉をここ数年よく目にしたり耳にしたりします。 このメルマガでも、多様性を軸にした本を紹介してきました。  本書もいろんな家族を紹介している一冊。 みんなの家族を、のびやかな線画にあたたかみのある水彩画で描いています。  学校の先生が生徒に呼びかけます。 「じぶんの かぞくの とっておきの はなしを みんなに きかせてね」と。  そう聞かれて、子どもたちそれぞれが、自分の家族を思いうかべます。  いつまでもラブラブな両親を、 たくさんの養子きょうだいのいる家族を、 父親の家、母親の家を1週間毎に暮らすことを、  どの子も、自分の家族をまるごと大好きで大事にしていることが伝わってきまます。自分の家族を紹介しあうことで、別の家族を知り、それぞれの形があることもわかります。  シンプルなテキストに、豊かな絵で「いろんな」を表現し、「とっておきの家族」がそこかしこにいるのがとてもステキ。  この絵本を読みながら、自分の家族のとっておきを考えてみませんか。 (林さかな)https://twitter.com/rumblefish

『ぼくはただ、物語を書きたかった』他

127 物語ることは希望   シリアに生まれ、ドイツに亡命し児童文学作家として活躍しているラフィク・シャミの本が2月に西村書店から刊行されました。  『ぼくはただ、物語を書きたかった』                       松永美穂訳 西村書店  物語ることは、常に人間的な希望と結びついている――。  母、父、きょうだいたちに二度と会えない、暮らした土地に二度と足を踏み入れない――シャミは一九七一年三月十九日(金)に、いままでのすべてを失い引き替えに物語る自由を獲得しました。  本書は物語ではなく、亡命するまでと亡命後のことをかいた自伝的エッセイ集です。  人が自分の生まれたものを自分の意志で失うことの重みが、「亡命とは」で始まる文章が繰り返されるたびにせまってきます。  先日、11年目の3月11日を前に「ふくしまを書く」という題目で福島在住の詩人、和合亮一さんと福島県郡山出身の作家、古川日出男さんの対談が福島県立博物館主催のもとオンラインにて開催されました。  対談の中で、古川さんは故郷、郡山を長い間封印していたという話をされたのですが、シャミの言葉を読みながらあらためて古川さんの言葉について考えました。本書にも故郷がよく登場します。  本書での故郷について語る言葉はこういうものです。  —(引用)— 故郷って、なんだろう? シンプルに響くのに、これほど意味を一つに絞れない単語というのも珍しい。 ————–  複数の作家の言葉を用いて、シャミは「故郷」についての自分なりの概念を深く掘り下げます。  古川さんは、いまの自分があるのは、生まれてからが全てじゃない。それまでの先祖からの長い時間を経ていまの自分があるのだと語られました。  私自身、自分がどこからはじまっているのかについて、考えなかったわけではないけれど、古川さんの話は新鮮に腑に落ち、自分の中での故郷について思いをめぐらしているタイミングで、シャミのいう故郷という言葉が自分に入ってきました。  愛おしく思う、過ぎ去った時間、それに密接につながる土地である故郷。 そんな場所に戻れないというのはどう表現したらいいのでしょう。  しかし、シャミは物語ることで、故郷にたびたび帰ります。「ぼくは小説によって、ダマスカスに戻ろうとしているのだ。そして、語ることによってのみ、ぼくはあの町を去らず、あの町もぼくから去らなかった、と感じることができる。」と。  シャミは文学作品を書きたいだけでなく、口頭でも伝えたいと考え、好きな作品を、手で書くこと、試しに読んだ作品が気に入ると、徹底的に読み込み、暗唱することを実践しました。 「物語ることは、常に人間的な希望と結びついている。物語る人間は、希望を抱いている。」  そう語るシャミはよく一つの場面を思い浮かべるそうです。それは、賢いおばあさんが暗闇をこわがる子どもにお話しを聞かせ、子どもは安心して眠るという場面。  子どもは語られる物語を聞いて、暗闇の怖さがなくなり、安心を得ることができた、それは物語の力が子どもの心に届き寄り添ったからなのでしょう。  震災以降、絆、希望という言葉が自分に素直に入らなくなっていましたが、本書でシャミのいう希望はすっと心に入りました。その感覚は、なにか安心を得たことに近いものでした。  さて、もう一冊、気持ちがやわらかくなる本をご紹介します。 『けんかのたね』  ラッセル・ホーバン 作 小宮 由 訳 大野八生 絵 岩波書店  絵本から読み物を読み始める、低学年向けの本。  どのページにも絵はたっぷり。大野さんのやわらかくのびやかな線で表情豊かに登場人物や犬、猫らの表情が描かれ、見ているだけで、やさしい気持ちになります。  はじまりは、お父さんがくたびれはてて家に帰ってきたところから。 ようやく家でくつろげると思っていたのに、家の中は4人の子どもたちも、一緒に暮らしている犬と猫もケンカしていて大騒ぎ。  いったい原因はなんでしょう。 それぞれの言い訳を聞いていて、最初はこれが原因と思ったものも、実は少し違う理由があった様子がわかってきます。  小さなできごとが、どんどんふくらんで大きなできごとになっていくのが、あたたかな眼差しで語られるので、気持ちがほぐされる心地よさを感じました。  ぜひ読んでみてください。  (林さかな)https://twitter.com/rumblefish

山本まつよ先生のこと

126 心に残ること   今年は雪が多く、除雪しないと移動がままなりません。 使っていない筋肉を使うので、腰痛が頻発しています。  腰痛はつらいので、楽しい気持ちになりたくて絵本を読みます。 子ども3人育てているときに読んできた絵本を眺めていると、読んでいた時の子どもたちの様子が思い出されます。 子どもの本を選ぶとき、ひとつの指針は子ども文庫の会が発行している「子どもと本」でした。  はじめての子どもを出産し、病院のベッドにいるとき、「童話屋」(現在、書店は閉店)さんに連絡して毎月絵本を送ってもらうことにしました。はじめに届いた絵本は『おおきなかぶ』でした。佐藤忠良さんの絵や彫刻が大好きだったので、とても嬉しく、生まれたばかりの赤ちゃんに読んで聞かせたことを覚えています。  当時渋谷にあった「童話屋」さんに何度かうかがったこともあり、その時気になったのが「子どもと本」でした。なにやら小さい冊子に小さい文字が書かれている表紙で、難しそうにも感じました。「童話屋」の方に、その冊子が気になることをお伝えすると、いつかお勧めしようと思っていたんですといわれたので、毎月の絵本と一緒に、数冊ずつ入れてもらうことにしました。  その冊子には子どもの本に対する愛情がみっしりつまっていて、最初に読んだ時から夢中になりました。ここには大事なことが書かれているとわかりました。それからは、最新号と共に、バックナンバーを読むのが楽しくてしようがありませんでした。気になった本は、一緒に送ってもらうようにもしました。  3人目の子どもが生まれたとき、フルタイムの仕事を辞め、時間ができたので、念願の子ども文庫の会の初級セミナーに通うことにしました。 行き帰り半日ほどかかるので、その時間に読む本をたんまりスーツケースに入れて通いました。  セミナーに参加されている方に「日帰りなのに大きな荷物をかかえて来られるのね」といわれたとき、私がこたえる前に、山本まつよ先生は「だって、行き帰りの時間でたっぷり本が読めるものね」と代弁してくださり、わかってくださっていると嬉しくなりました。  セミナーが行われる部屋は通路ぎっしりに本が積まれていました。トイレにまでもです。本の背表紙をみながら、狭いトンネルのような通路を通り、セミナーの机に集まるときはいつもわくわくしました。  もっとも印象に残っているのは、アイルランド童話集「隊を組んで歩く妖精達」(イエイツ編 山宮允訳 岩波文庫)を山本先生が朗読してくださった時間です。「ティーグ・オケインと妖精達」は朗読すると30分以上かかるお話しです。 ゆっくり静かに読まれる語り口に引き込まれました。おおげさに誇張することもなく淡々と読まれる物語は、ひとりの若者が幸福な生き方をするまでのことがらが紡がれています。愉快に好き放題に暮らしていた若者ティーグ・オケインがひょんなことから妖精達と関わり合ったことで、生き方に変化をもたらすのです。  読んでくださったあと、とても幸福な気持ちを味わいました。ティーグ・オケインが感じた幸福が伝わってきたのです。山本先生の朗読は物語の深いところを余すことなく伝えてくれました。  私は自分が感じた気持ちを他の人にも伝えたいと思い、何人かの大人に同じように読んでみました。大人になってから人に本を読んでもらうなんてとはじめは少し怪訝そうにした方も、読み進めていき物語にうねりがみえてからは夢中になって聞いているのが伝わってきます。そして物語を最後まできいた後は、とても満足そうでした。  心の深いところで楽しいと感じられることほど幸福なことはありません。  山本先生はよく大きな石の指輪をされていました。きれいで見とれてしまい、「すてきな指輪ですね」というと、「こういうきれいな大きいのをつけていると子どもたちが喜ぶのよ」と嬉しそうに教えてくださいました。  先日、ある小中学生のアートワークショップのボランティアに参加しました。色水をつくるワークショップで、私も子どもたちと一緒に色水づくりを体験し、黄緑色をつくりました。すると、はじめてあう子どもたちでしたが「その色、いま着ているセーターによくあっているね。イメージカラーみたい」と言ってくれたのです。きれいな色のセーターを選んでよかったと思いました。そして山本先生の指輪のことを思い出していたのです。  2月に入って届いた168号の「子どもと本」で山本先生の訃報を知りました。 子ども文庫の会のHPでは昨年の訃報がすぐ出ていたようなのですが、ここ数年、家でパソコンをさわる時間がめっきり減ってしまい、全く知らず、いつものようにわくわくしながら封筒から冊子を取り出し、表紙を読んでびっくりしたのでした。  168号の「子どもと本」ではゆかりのある方々の追悼文が掲載され、ひとつ読むごとに、胸があつくなりました。  山本先生は多くのことを残してくださいました。 青木祥子さんが表紙に書かれていますように、山本先生にみせていただいた「本の中の人、動物、風景、雰囲気、言葉などなど――」は「それを朗読していたその声とともにわたしたちの心の中に残していった」のです。  2006年に刊行した山本先生の訳書に『ラーマーヤナ』(エリザベス・シンガー作 子ども文庫の会)があります。豊かな叙事詩であるこの本は、どの年代の子どもでも読めるように総ルビです。 読み終わったあとの楽しい気持ちに思わず山本先生に電話して感想をお伝えしました。先生も嬉しそうに応じてくださり、この本を手にするたびにその時のことを思い出します。 「子どもと本」はこれからも青木祥子さんが続けてくださいますので、変わらず「次の号」を楽しみに待つことができます。  私もこれまでと変わらず子どもの本を楽しみ、その楽しみを伝えていきたいと思います。 (林さかな)https://twitter.com/rumblefish

『みんな みんな すてきな からだ』他

125 自分を大事にする   2022年。年が明けました。 本年もどうぞよろしくお願いいたします。  1月10日は成人の日。 感染症がじわりじわりと広がっている中ではありますが、 新成人のみなさま、おめでとうございます。 しんどいことも楽しいこともひっくるめて、おもしろい未来を体験できますように。  さて、最初に紹介する絵本はこちら。  『みんな みんな すてきな からだ』 タイラー・フェーダー さく すぎもとえみ 訳 汐文社  表紙には女性、男性、赤ちゃんと、いろんな年代の人が水着姿で描かれています。 どの表情もエネルギーを感じられ、体はあざがあったり、まだらだったり、体毛がたっぷりあったり、それぞれ多様です。  表題の「みんなみんなすてきなからだ」は、自分や他人のからだを尊重する社会をめざす合い言葉」と解説にあります。 お互いに尊重しあう社会って、とってもすてきだと思いませんか。  ページを繰ると、どのページにもいろんな「みんな」がいます。  モデルのような美しい体にあこがれることもあるけれど、自分はそうじゃないと否定しなくてもいいのですものね。 でもでも、映像でみえてくる美しさについつい惹かれて、それに近づきたくなる欲求がでることもあります。ただ、それはいまの自分を少しだけ残念に思うことにもなるので、そんな時はまずは自分を丸ごと受け止めるのも大事。  小さい人も大人もこの絵本を読んで、自分も他人もみんなすてきな体をもっていることに、あらためて気づけるのではないでしょうか。  からだつながりで次に紹介するのは 『中絶がわかる本』(ロビン・スティーブンソン 塚原久美 訳 福田和子 解説  北原みのり 監修 アジュマブックス)  小さいこどもから、ティーン向けににフィクション、ノンフィクションを書いている作家によるもので、本書はノンフィクション。カナダ、ブリティッシュコロンビア州における最高の児童文学賞も受賞しているティーンエイジャー向けの性教育と人権の本です。  こちらも、先に紹介した絵本のように、表紙の女性達の眼差しが印象的です。  日本において、避妊の知識、性と生殖の権利(リプロダクティブ・ライツ)については、まだ広がりが弱いのかもしれません。若い人たちも、なかなか自分達の性について語るタイミングも見つからないのかもしれません。  そういう時、本はひとりで読めるので知識を得るにはとてもいいツールです。  自分の身体についての権利を知るということは、自分の自由につながります。性教育? 人権? なんだか難しそうと感じる方もいらっしゃるでしょうか。読むと、これは自由について書かれているのだと腑に落ちると思います。  中絶についての歴史にはじまり、先人たちが獲得してきた人権について、女性だけでなく、男性にも知って欲しい。 権利はだまって自分についてくるものではなく、闘って得てきた歴史があるのですから、それは知りたいことです。  読了後、まずは一緒に暮らしている娘にすすめました。  以前ご紹介した感染症と人類の歴史全3巻の残り2巻も刊行されました。  『感染症と人類の歴史 治療と歴史』 『感染症と人類の歴史 公衆衛生』  池田光穂 監修 おおつかのりこ 文 合田洋介 絵 文研出版  今回も本の中で、読者に歴史などを案内してくれるのは、九尾のキツネ。 時空をとびまわり、各地のいろいろな時代へと誘ってくれます。  歴史を知ることは、いまを知ること。 感染症に必要以上に恐れをもたず、知識をもってするべき行動をとれるようにすることです。研究を重ねて治療法を獲得してきた道を知り、その道のりに興味をもつことは、未来につながるように思います。  「治療と歴史」では、原始時代からはじまります。体の具合が悪いときに、痛む場所に手をあててなでたり、おしたり、そういうところから、今度は、食べると具合をよくする植物を見つけたり、動物の血や角、石、貝殻などの中に体にいいことを学んでいったそうです。  平安時代、日本でもっとも古い医学書といわれている『医心方』に書かれている治療法も興味をひきました。 例えば養生法(健康法)。「朝おきたとき、つべこべいってはいけない」 なるほど、これは今でもつかえそうです。  一読している間、そうなんだ、そうなんだといま治療できている感染症について、先人の方々による科学の力にあらためて感じ入りました。  「公衆衛生」では、人が生きていくために大事な健康的なくらしについて書かれています。  ひとりひとり個人だけではなく、社会全体が健康になることを目指す。そのしくみが「公衆衛生」です。  それでも基本はひとりひとりの行動。 コロナの拡大をみていても、それは十分納得できます。  巻末には「感染症」と子どもの本も22冊紹介されています。 感染症がテーマになっている本だけではなく、物語の時代背景として感染症が描かれているものもあります。 『アンネの日記』が紹介されているのは、アンネの死は、衛生状態の悪い強制収容所で発生したチフスによるものだからです。  最後に現在最新刊が刊行されている福音館書店の「こどものとも」2月号をご紹介します。  「オトシブミのふむふむくん」 おのりえん 文 秋山あゆ子 絵  お正月の楽しみである年賀状も年々売上がさがっていると聞きますが、1度にたくさんの賀状を書くのは大変でも、懐かしい人からもらえる一文添えの葉書はうれしいものです。  1992年に創刊された月刊誌「おおきなポケット」(2011年に休刊)で「虫づくし」を連載していた秋山あゆ子さん。その連載をもとに、おのりえんさんが物語を紡ぎます。  手紙のすきなオトシブミのふむふむくんが書いた手紙が、同じく手紙のすきなオトシブミのふみふみさんに届きました。ふたりの文通がはじまります。  細かく書かれた虫たちの年中行事の愛おしさがたまりません。 宝物の一冊になりました。  (林さかな)https://twitter.com/rumblefish

『いなばのしろうさぎ』他

125 とびきりきれいなもの   きれいな絵本が届きました。 岩崎書店「日本の神話えほん」シリーズの『いなばのしろうさぎ』です。  ふしみみさをさんが文章を書き、ポール・コックスさんが絵を描いているシリーズ絵本。  ポール・コックスさんは、現在板橋区立美術館で展覧会も開催されています。コロナ禍になって以来、とんと東京が外国なみに遠くなってしまいました。  それはさておき、絵本です。  ポール・コックスさんのファンにとって、新作絵本が出るたびに驚かされる斬新な表現はたまらないものがあると思います。  今回もそうでした。  日本的な「和」の雰囲気をもちつつ、無国籍の空気もまとっている。 近しさと遠さの融合があるんです。  表紙に描かれている、しろうさぎの目をみてください。「ほら、早くページを繰りなさいよ」といっている目。  開いてからは、すっかり古事記ワールドに入りこみます。 どのページも赤の色が印象的におかれ、 ダイナミックな構図で絵と文章が両輪で動いています。  ふしみさんは、古事記を読み込み、神様達の人間臭さを感じ取り、破天荒さと原始的な部分に惹きこまれていったそうです。  ポールさんの古事記リサーチも念入りでした。俵屋宗達、北斎など、ポールさんが敬愛する日本の画家たちの作品を大量に模写し、テクニックを試し、日本の古い服装を丁寧にスケッチし、そういうものを全て自分におとしこんだ上で描いた絵なのです。  おふたりの真摯な仕事の結果としてできあがった絵本は、すばらしい芸術作品となり、小さい子どもも、大人も心から楽しめるものになっています。  そういえば、子どもが小さい時に読んだ『古事記物語』(原書房)があったなと本棚を探して、久しぶりに、鈴木三重吉のものを取り出しました。  その本には、長男が小学3年生の時に読んだ感想文がはさまれていました。 学校に提出したものではなさそうで、読んだあとに、A4のコピー用紙に書いたようです。紹介させてください。  『古事記物語』ぜんぶ  この物語には、“きぼう””わらい””歌”があります。神たちは、もともと人間でした。「女神の死」というのが一ばん大人の話にそくりでした。さい後のが“神”が生まれておもしろうだと思いました。そしていろいろな神がみがいろいろなことをして日本ができたと思いました。 「天の岩屋」それもおもしろいです。この話は天照大神と二番めの弟さまの月読命と言う話です。つまりこのお話しは災いが一どきに起こってきます。さい後は、そのまま下界へおいでになります。という話です。 「八俣の大蛇」というだいじゃの話です。この話は、須佐之男命は大空から追いおろされて、出雲の国の肥の河の河上の鳥髪というところにいくお話しです。さいごのところは、大国主神、またの名を大穴牟遅神とおっしゃるりっぱな神さまがお生まれになったという話です。 このお話しは、大人の話みたいでした。 さいしょのお話しはたいくつだっただけで、だんだんおもしろくなってきました。  鈴木三重吉が大正時代に再話した本書は、子どもが読むには難しい言葉もああるのですが、全ルビだったので読めたのでしょうね。大人の話を読んでいるような気持ちになったのがうれしかったみたいです。  さて、現代の物語もご紹介いたします。  『マイロのスケッチブック』鈴木出版 マット・デ・ラ・ペーニャ作 クリスチャン・ロビンソン 絵  石津ちひろ 役  『おばあちゃんとバスにのって』(鈴木出版)でニューベリー賞、コールデコット賞オナーを受賞しています。その後に鈴木出版から刊行されている『カルメラのねがい』も同コンビ。本書はコンビ第3作目にあたります。  マイロはスケッチブックをもって、お姉ちゃんと一緒に電車に乗ります。 電車に乗っている人たちの生活を想像しながら、マイロは絵を描きます。 描くたびにお姉ちゃんに見てもらおうとするのですが、しっかりは見てもらえません。マイロたちはどこへ向かっているのでしょう。  出かけることは、嬉しいことでもあり緊張することでもあり、その気持ちを落ち着かせるためにもマイロは絵を描いているようです。  マイロは描きながら、自分はどう見られているのかなとも考えます。 人はどうしたって、見かけではわからないことばかり。 どんな生活をしているのか、どんな家族がいるのか。  最後のページまで読むと、マイロたちがどこへ誰に会いにいったかがわかり、ふたりの緊張の理由がみえてきます。  『タフィー』(サラ・クロッサン 作 三辺律子 訳 岩波書店)も緊張感ある物語です。  岩波書店のスタンプ・ブックシリーズ。 サラ・クロッサンは散文詩で物語を紡ぎます。  父親からの暴力を、なんとかしのげば、本当は自分を大事にしてくれる、だって娘なのだからと思うアリソン。  しかし暴力は痛く辛く、体も心も蝕まれます。 アリソンは逃げます。 まだ学生でお金すらもっていないアリソンはどこに安寧の場所があるのでしょう。  最後まで緊張は続きますが、光もあります。 読んでください。  — 今回が2021年最後の記事になります。 いつも辛抱強く待ってくださる原口さんに感謝いたします。  みなさま、1年間読んでくださりありがとうございます。 来年もどうぞよろしくお願いいたします。  (林さかな)https://twitter.com/rumblefish

『きょうはだめでもあしたはきっと』他

124 心を軽くする、ぐるぐる動かす  コロナ禍でリアルに人と話すのは家族がメインになっていき、SNSやLINEなどツールはいろいろ増えているけれど、本を読むということも、物語と会話するようなものに思えています。 とはいえ、様々な制限が解かれてきているので、直接のやりとりも増えてきているのはうれしいことです。 『きょうはだめでもあしたはきっと』 ルチア・スクデーリ さく なかむら りり やく 春陽堂書店・山烋  第27回いたばし国際絵本翻訳大賞イタリア語部門最優秀翻訳大賞受賞作絵本。  タイトルがすてきです。 きょうはだめでもあしたはきっと、このタイトルを読んだだけで体の中から元気玉が飛び出してきそうではありませんか。  さて、どんなお話かというと。  砂漠にあらわれた見慣れない生きもの。 あなたはだれ?と問われると、生きもの自身は羽があるので鳥だと自覚しているのですが、素直に鳥と答えられない。羽はあっても飛べないからです。  謎の生きものは周りから鳥だと思ってほしいものの、飛べないことは知られたくない。鳥らしくないことをなかなかいえないでいる姿がユーモラスに描かれます。  迎えるラストでは、地面の上で生きものたちがあれやこれやと交わり、天のお空ももりあがりに一役かうのですが、どんな風なのかは読んでのお楽しみ。  1回目より、2回目、3回目の方が心に入ってきます。 ぜひぜひ何回も読んでみてください。 『もりにきたのは』 サンドラ・ディークマン 作 牟禮あゆみ 訳 春陽堂書店・山烋  先に紹介した絵本はイタリア語部門の最優秀翻訳大賞受賞作で、こちらは英語部門の大賞受賞作。  鮮やかな発色で描かれる動物たちが目を引きます。 イタリア語部門とおもしろい共通点があり、今度は森に見慣れない白い生きものがやってきたのです。最初に見つけたのはカラス。  白い生きものの鋭い目つきが怖くて、森の動物たちは近づけません。 大きな白い生きものは、森の中を歩きまわって、葉っぱ集めをしています。 どうして葉っぱを集めているのでしょう。  森にやってきたこと、葉っぱを集めること、理由がわかってくると、鋭い目から見えているであろうものに思いを馳せました。  森の美しさを描きながら、海も感じさせる絵本です。  『ぼくの! わたしの! いや、おれの!』 アヌスカ・アレプス さく ふしみ みさを やく BL出版  5月に刊行された『くさをたべすぎたロバくん』の作者による新作絵本。 とはいえ、原書としては、本書がデビュー絵本。 日本での刊行は後になっています。  アレプスの絵は、すこーしレオ・レオニの雰囲気があります。 くりっとした動物の目に表情が豊かで、何かおもしろいことが起きそうな雰囲気がページをめくる楽しみを誘います。  お話はくだもの大好きなゾウたちが、木の高いところにあるくだものをとるために四苦八苦し、最終的にどうしたでしょう、というもの。  やわらかい中間色で描かれたジャングルの中で、ゾウたちが心地よさそうにしているのをみるのは、みているこちらも安らぎます。彼らのくだものに対する食い意地も愛らしい。  おいしいものを食べるのは幸福ですから、ゾウたちが幸せそうなのもさもあらん。  ゾウたちのように、おいしいくだものを食べたくなってきます。  最後にご紹介するのは、マット・ヘイグの読み物。 ここのところ、マット・ヘイグの作品を読み続けているのですが、読むたびに、運動後に体がほぐれたような心地よさがあり、追っかけファンになっています。  『ほんとうの友だちさがし』 マット・ヘイグ 文 クリス・モルド 絵 杉本詠実 訳 西村書店  アーダには妖精の友だちがいます。ほんとうのことしか言えない特別な妖精と一緒にいることは、自分らしくいられることなのでとても幸せでした。  ところが、学校に通い始めると、アーダのふつうが、周りのふつうではなくなり、妖精といることもからかいの対象になってしまいます。  妖精とだけいればいいのかしら。それはそれで幸せ。 でも、アーダは人間の友だちも欲しくなり……。  自分の子どもたちをみても、いつも友だちを求めていました。それもただの友だちではなく「ほんとうの」友だちを。いったい何が「ほんとうの」なのでしょう。  たくさんの友だちがいることはハッピーなことなのか。少し深いテーマを、マット・ヘイグは子どもの心に届く言葉でまっすぐ差し出します。  そして、クリス・モルドのユニークでキュートな絵は、アーダや妖精への親しみを湧かせます。  読後感は、やっぱり友だちっていいなってこと。 マット・ヘイグの物語には「ほんとうの」ことが書かれています。 (林さかな)https://twitter.com/rumblefish

『子どもを守る言葉 『同意』って何? YES, NOは自分が決める!』他

123 子どもを守る言葉 自分が決めるということ  作者は自分の子どもに「同意」を教えたくてつくった本をご紹介します。  『子どもを守る言葉 『同意』って何?  YES, NOは自分が決める!』         レイチェル・ブライアン 作 中井はるの 訳 集英社  何事も相手や周りの同意を得て進めていきましょう、なんていう言葉は社会人にはなじみがありすぎて、そうすることに意識もしなくなっていました。  子どもの頃だと、大人のいうことは聞かなくちゃいけないという前提のもと、顔色をうかがうことも、お行儀のひとつとすり込まれて育った子どもも一定数はいたでしょう。  けれど、自分の「嫌」を伝えるということがとても大事だということが、少しずつ世の中に浸透してきているように感じています。  この本では、自分だけでなく、相手のためにも自分の意志を伝えることがいかに大切かということが8つの章立てで、イラストも多くつかって伝えてくれています。  むりやりに相手から「いいよ」を引き出してもそれはYESではないこと。 YESといってしまっても、後から自分の本当の気持ちに気づいてNOということ。  なんとなくわかっていても、ちゃんと知っておくべきことが簡潔に書かれていて、子どもだけでなく大人にも読んでほしいと思いました。  巻末には、SNSでのトラブルから、具体的な暴力やイジメに対処するときの相談窓口も掲載されており、かなりの実用書のつくりです。  『夢のビッグ・アイデア カマラ・ハリスの子ども時代』 ミーナ・ハリス 文 アナ・R・コンザレス 絵 増田ユリヤ訳 西村書店  アメリカ副大統領となったカマラ・ハリスとカマラの妹、マヤの子ども時代の話を元に、彼女らの姪にあたるミーナ・ハリスが書いたお話です。  カマラとマヤが住んでいたマンションには中庭がありました。でも遊具はなにもなく、姉妹は中庭が遊び場になればすてきじゃないかと考えます。  母親に相談すると家主さんに聞かなくちゃねといわれ、二人は家主さんにお願いに行きますが、望んだ返事はもらえません。そこで、どうすれば遊び場がつくれるか、よくよく考え、考えたことをひとつずつ行動にうつします。  会社や学校で与えられた課題をこなすかのように、二人は自分たちの望んだ遊び場を得るために考え行動していく様子は、階段を一段ずつ上るように丁寧です。  問題解決を決して大人の上から目線ではなく、自分たちにできるところからゴリ押しせずに進めていく姿は、大人の私が読んでも学ぶところがあります。 何をどうしたら問題解決するのかよくわからないときの実用絵本でもあります。ぜひ周りの子どもたちに読んでみてください。 『エヴィーのひみつと消えた動物たち』      マット・ヘイグ 作 宮坂宏美 訳 ゆうこ絵 ほるぷ出版  このメルマガでも「クリスマスは世界を救う」シリーズなどでご紹介した作家マット・ヘイグの作品です。 「クリスマスは世界を救う」は息子の疑問に答えて書かれ、今回は娘のリクエストによるものとのこと。自分の子どもたちのリクエストで物語を紡げるのは親としても作家としても最高なことですね。  娘さんのリクエストは動物と、動物が大好きな女の子の話です。  主人公はエヴィー。動物が大好きなだけでなく、特別な力ももっています。  けれど、その力のことは決して人に知られてはいけないと父親に厳命されていました。母親はエヴィーが小さいときに亡くなっているのは、その力が原因でもあるようです。  使ってはいけない、知られてはいけない力は、問題が起きるときの原因になりがちですが、エヴィーもまた、予想だにしていなかった大きな事件にまきこまれていくのです。  たくさんの動物たちの生態も紹介されるので、そこにも興味を引かれつつ、エヴィーがまきこまれる冒険のゴールも気になり、休憩することなくいっきに読みました。  冒険のハラハラだけでなく、動物や人間が命でつながっている存在だという大きなテーマも胸をうちました。動物たちのイラストもとてもすてきで印象に残ります。  『アリスとふたりのおかしな冒険』 ナターシャ・ファラント作 ないとうふみこ訳 佐竹美穂 絵 徳間書店  主人公は11歳のアリス・ミスルスウェイト。アリスが7歳のときに母親が亡くなってからは、父親と伯母が一緒に暮らしてアリスのことを見守っています。  アリスは、母親が亡くなって以来、屋敷にこもりがちになっているので、心配した伯母の提案により、思いきって屋敷をはなれ寄宿学校に入ることになりました。  環境が変わったことで、アリスには、ジェシー、ファーガスというおもしろい友人ができます。そのクラスメートの男の子たちと共に、学校生活になじみはじめているときに、父親から手紙がきっかけで3人の冒険がはじまります。  佐竹美穂さんは、物語にとけこむような精緻なイラストを展開し、読んでいると、アリスやジェシー、ファーガスらが、本から出てきて目の前で会話しているようなリアリティを覚えました。  子どもたち3人の行動の原動力には、それぞれの家庭の背景が関わってきています。特にアリスと父親との関係は胸が苦しくなるものがあり、近い存在の家族だかこそ生じてしまう、めんどうな気持ちには、なんともいえないものがあります。そんな気持ちの整理を助けてくれたのは、物語ることでした。アリスの語る物語の力がどういうものなのかは、ぜひ読んで感じてください。  最後にご紹介するのは、感染症について理解を深めることができるシリーズ第1巻です。  『感染症と人類の歴史 第1巻 移動と広がり』     池田光穂 監修 おおつかのりこ 文 合田洋介 絵 文研出版  コロナ禍の社会になってから、私たちは感染症について以前よりずっと意識するようになってきているのではないでしょうか。  感染症とよばれる病気は、歴史の中で何度も登場しています。それらについて、イラストを多用し、九尾のキツネを案内役として登場させ、疑問点やポイントをキツネ目線(?)でわかりやすく伝えてくれているのが本書です。  紀元前7000年頃にはじまった歴史の理解を深めるために、ページ見開き上部に時空列車を走らせ、そのレール上で、どのあたりの「時空」にいるか一目でわかるようになっているのもうれしい工夫です。  知らないことは不安につながります。私たちは新型コロナウィルスによってこの先どうなるのだろうという不安を感じずにはいられませんでした。ワクチン接種が進み、少しずつ落ち着いてきているものの、感染症について、いまいちど整理して理解することは大事だと感じます。  ぜひじっくり読んでみてください。 (林さかな)https://twitter.com/rumblefish

『星天の兄弟』

122 大人の役割をまっとうする  本を夢中になって読むのはいい時間を過ごしている事。 本を読むのも体力気力が必要なので、加齢に伴い以前より夢中になることが少なくなってきているので、読んでいる間中ドキドキして展開に胸躍らせる時間は心からいいものでした。 『星天の兄弟』 菅野雪虫 東京創元社  書き下ろしの長篇ファンタジー作品。 2005年に『ソニンと燕になった王子』で第46回講談社児童文学新人賞を受賞、翌年に『天山の巫女ソニン1 黄金の燕』と改題して刊行。それ以来、ずっと注目している作家の新作です。  アジアを思わせるある王国の小さな村に、学者家族が住んでいました。父親は大変高潔な人物で、権力からも距離をもつことを意識し、慎ましく生活を送っていました。最初に結婚した妻は病気で早くに亡くなり、息子と2人で暮らしていたのですが、いい縁があり、再婚した妻との間にも男の子が生まれ、2人の息子と4人で暮らしていました。 ところが、気をつけていたにも関わらず、政治のいざこざに否応なく巻き込まれてしまい、無実の罪で父親は牢に繋がれてしまいます。小さな村ゆえ、本当はどうだったのかという事実よりも、罪人になったということが大きなこととなり、罪人の家族となった子どもたちは、ずっと後ろ指をさされることになります。  2人の息子、海石(ヘソク)と海蓮(ヘリョン)は6歳違い。賢く華のある2人はとても仲の良い兄弟でしたが、父親が罪人となってしまってから、その関係性が変わっていきます。  一行一行で物語がぐいぐい動き、ヘソクとヘリョンが魅力的に成長していくまぶしさと共に、父親はどうなるのだろうという不穏が並行し、先の展開に、目を離せません。  学者だった父親は塾を開いていて、たくさんの子弟が訪れ賑やかにすごしていたのですが、牢に入ってしまうと、それまで仲よくしていた近所の人たちが手のひらを返すような態度をとる様は、読んでいて辛くなります。  兄のヘソクは当時十二歳。弟や母を助けていこうと必死です。  誰かひとりだけが背負ってしまうのは重すぎても、家族の中で長男という立場のヘソクは、自分にできることを強く意識します。けれど、その重圧は十二歳の子どもが耐え続けるのは難しすぎました。  ヤングケアラーという言葉を思い出しました。名称がつくことで、ここ最近新聞などでもとりあげられるようになり、本来は大人がする仕事や家事を、担う大人が不在故、子どもが背負っている現状です。ヘソクもそうなっていました。  心をやられないためには、家族から離れることも大事。賢いヘソクがどこまで見越していたのか、彼のとる行動は後になればなるほど納得できます。  そしてヘリョン。 ヘリョンはヘソク以上に人間力を感じます。もちろん比較する必要はないのですが、2人だけの兄弟が6歳違いという年齢差で、それぞれの見えるものが違うということろも、作者は細かく描きます。  兄は家に降ってきた厄災を受け止め母親と弟を支え、後に様々な尽力で家に戻ることができた父親も受け止めます。けれど、ヘリョンは父親を丸ごと受け止めることはできませんでした。知的で周りに慕われていた時の父親を、ヘリョンは知らないからです。厳しい牢での生活ですっかり老いてしまい、心も疲れさせた父親に、昔の面影はありません。  兄弟2人とも、親思いで賢く見目麗しい。けれど、無理な我慢はし続けなかった。ある意味それは清々しく、それぞれに自分の進む道を切り開いていくところは、読んでいるものの気持ちも鼓舞させます。  苦しい展開になっても向日性を失わないのが2人の強さ。  辛く苦しいことを理由に闇に向かわせない 人間のもつ屈託のなさを丁寧に描きます。  うーん、それにしても1冊でまとめるにはもったいない話です。 本当は3人きょうだいにしたかったけれど、ページ数の関係で2人にしたと菅野さんがSNSで書かれていましたが、3人の話も読んでみたかった。  あとこの物語の魅力は大人がかっこいいこと。(嫌な大人もいますが) 私の推しは愛嬌(エギョン)。父親の教え子で成功した商人である斗靖(ドジョン)の家の使用人だったエギョンは、父親を助けて欲しいと願いに来た、ヘソクとヘリョンに好感をもち、後に、ドギョン家を出て、ヘソクたちの家に家政婦としてやってくるのです。それ以来、エギョンは2人をずっと支え続けます。  ヘリョンがあることを成し遂げるために、危険な戦いに関わることになった時もエギョンは側で支えてくれます。いよいよ厳しい時を迎えるとき、ヘリョンはエギョンに感謝の気持ちを伝えると、エギョンの返す言葉がこれです。 「そんなの、大人が子どもにする当たり前のことですよ。当たり前のことに、お礼はいりません」  そしてエギョンは自分の意志で戦いのある危険な場所に来たのだと、誰かに命令されたわけでないのだといいます。 (自分で生きる場所も死ぬ場所も選べるなんて幸せな女、そういませんよ)  そう心でいうエギョン。  自分ではどうすることもない運命を引き受けて生きるヘソクとヘリョンと共にエギョン他、かっこいい大人が何人も出てくるファンタジー。  たくさんの人に読まれる物語になりますように!  続編も希望します。 書評のメルマガ登録はこちら http://back.shohyoumaga.net/ (林さかな)https://twitter.com/rumblefish

『寺田寅彦と物理学』他

■「いろんなひとに届けたい こどもの本」 121 人生  立秋を過ぎました。 まだまだ暑いですが、すこしだけ過ごしやすく感じる時も出てきました。 とはいえ、先日打ち合わせで1時間半くらい水分をとらないでいたら、頭痛 がしてきて、急いでたっぷり水分をとり、痛みが和らぎました。 水分補給の大事さをあらためて感じた次第です。  さて今回最初にご紹介するのは、伝記です。  『寺田寅彦と物理学』 池内 了 著  玉川大学出版部  日本の伝記 知のパイオニアシリーズ第2回配本本。 (ちなみに一冊目は『岡倉天心と思想』(大久保喬樹著)です。)  本書のおもしろいところは、故人となっている寺田寅彦氏になりかわって、著者の池内氏が語るところです。なので主語は「わたし」。  物理学のパイオニアと知られていますが、「物理学」のみならず、関東大震災が起きたときは、その後の被害状況を詳しく調べ、人災に関連する問題点が多かったことを指摘するなど、人々の実際の生活に有益なことを調べ上げる仕事もされています。  また文学に造形が深いばかりでなく、音楽(バイオリンやチェロを弾く)や、油絵を描くなど、とにかく多才な人物です。  いったいどのような人生をおくられたのか、大人の方が興味をもつかもしれませんが、うれしいことに本書は小学高学年から中学生向けを想定して書かれているので送り仮名もつけられ、読者層を広くしています。  大人目線で読んで興味をもったのは「厄年」です。 神社に行くと、大きく書かれている「厄年」の年齢。大人のみならず、子どもにもあてはまる年代があります。  一般的にいいつたえられてきた「厄年」は人生の青年期、中年期、老年期の3つの時期にありますが、科学的根拠はないので、たんなる迷信といえば迷信かもとしつつ、生物の成長になぞらえ、老年期については若者から中年への人間の変態の時期という可能性があり、そのころにいだく精神的疲労と結びついているのではと推測しています。 たしかに、人間の成長期それぞれの年回りに「厄年」をおいて「人びとの生きざまにたいする警告をあたえている」のかもしれません。 「関東大震災」のくだりは、ぜひ読んでほしいところです。「天災は忘れた頃にやってくる」というのは、「経験の記憶」が弱くなると、人間は同じことを繰り返してしまう。それは「広い意味での”学問”が足りないため」、あるいは「その日暮らしの料簡で、それを気に掛けないため」ではないかと問いかけます。  子どもの本棚に伝記本があるのはいいものです。人生の先輩について書かれたものを読むと、直接会っていなくても本をとおして得られるものがあるはずです。  寺田寅彦氏に興味をもった大人の方には雑誌「窮理」をおすすめします。 https://kyuurisha.com/about_kyuuri/  物理系の科学者が中心になって書いた随筆や評論、歴史譚などを集めた、読 み物を主とした雑誌(年間不定期刊行)で、Kindleでも読むことができます。 (Kindle Unlimited対象本 2021年8月現在)  さぁ、次は愉快な本です 『森の王さま キング・クー』          アダム・ストーワー 作 宮坂宏美訳 小峰書店  イラストたっぷりの読み物で、途中すこしマンガ形式の箇所もあり、手にとると一気読みするおもしろさ満載です。  翻訳された宮坂さんは、児童書におけるイラストたっぷり本の第一人者といっても過言ではありません。宮坂さんが訳された小峰書店さんから出ているジュディ・モードとなかまたちシリーズも、ストーリーの骨格がしっかりしていて、イラストがキュート!春夏秋冬、季節を問わずおすすめです。  と、キング・クーに話を戻します。  表紙を飾っているのが主人公のキング・クーなのですが、男の子にみえませんか? ところが女の子なんです。それもひげもじゃの。 ひげもじゃの女の子がキングの名前で活躍するってそれだけでおもしろそうです。  いじめられっ子のベンが、ある日偶然に森の中にさまよいこみ、キング・クーに出会います。ふたりは協力していじめっ子に立ち向かうのですが、臭い匂いのするものを中心に、派手なたちまわりに目が離せません。とにかく匂ってきそうな攻撃力は、小さい子どもたちが好きそうです。  小学校低学年から楽しめる、心がすかっとする読み物、ぜひぜひ。  宇宙に民間人もお金さえあれば行けるようになってきていますが、この絵本は、お金はない宇宙好きなボーイ・ミーツ・ガール絵本です。  『おなじ星をみあげて』 ジャック・ゴールドステイン 作・絵 辻仁成 訳                       発行 山烋・春陽堂書店  3人の妹がいるヤコブは、毎日妹たちを公園につれていき、自分は好きな本読みに熱中しています。食料品店を営む父親は、ヤコブに店を継いでもらいたいと願っていますが、ヤコブの夢は宇宙飛行士。母親はヤコブの幸せを何より願っていますが、妹たちの世話をしている時は月の上にいるみたいにぼうっとして欲しくないと思っています。  いつものように妹たちと公園にいたヤコブは、赤いサンダルをはいたきれいな足の女の子に出会うのです。  ふたりは同じ本を公園で読んでいました、そう、宇宙の本です。  好きなものが同じということもあり、すぐさま仲よくなるふたり。 さて、彼らの未来は……。  繊細なペン画にのびやかな色合いの水彩がとてもきれいです。 ヤコブの宇宙に対するふかーい愛情、赤いサンダルのアイシャに惹かれていくところもニヤニヤしてしまいます。  空は世界につながっていて、夜空の星もそう。 近くにいない大事な人も同じ空の下にいるって考えるのは、なんだかうれしいことですね。  次ご紹介するのも絵本です。  『ねえ、きいてみて みんなそれぞれちがうから』 ソニア・ソトマイヨール 文 ラファエル・ロペス 絵 すぎもとえみ 訳  世の中は少しずつ変わっていきます。 悪いことも、良くあろうと変化していきます。  生きている時間が短い小さい人にとっては、世界もその分小さく、知らないことだらけです。そんな小さい人たちに「ねえ、きいてみて」とこの絵本は語りかけてくれます。  ソニアは友だちらと庭をつくろうとしています。 いろんな植物をうえながら、人もそれぞれ違うことを伝えます。  ソニアは糖尿病で、一日に数回、血糖値を自分で計り、自分でインスリンを注射しなくてはいけません。 ぜんそくのラファエルは、息が苦しくなると吸入器で薬を吸います。  自分でそうしようと思っているわけではないのに、体がかってに動いたり、声が出たりする、トゥレット症候群なのはジュリア。  いろんな人が、それぞれの違いを薬などに助けてもらい暮らしています。 初めて会う人が、たとえば自分で注射するなどしていると、その姿に不思議に思うことがあるかもしれません。自分のことを説明するのがいやな人もいるでしょう。  でもこの絵本は、知ることが大事ではと伝えています。 そこで「ねえ、きいてみて」なのです。  まずは知ることが理解の一歩。  長くなってきたのでここからは駆け足に紹介していきます。  『ねえ、きいてみて』の絵本を翻訳された杉本さんは、あかね書房から刊行されているシロクマシリーズも訳されています。最新作であり最終刊『シロクマが嵐をこえてきた!』(マリア・ファラー作 ダニエル・リエリー絵)は夏休みのできごと。今回のミスターP(シロクマ)は誰と出会うでしょう。どのお話でもミスターPの存在は子どもを守ってつよくしてくれます。  『サヨナラの前に、ギズモにさせてあげたい9のこと』(ベン・デイヴィス作 杉田七重訳 小学館)は、13歳のジョージが愛犬の高齢ギズモ(犬年齢14歳、人間でいえば78歳)にサヨナラする前に、最高の一生を送らせてあげたいとリストをつくります。リストにのせたことを実現させるために、ジョージはできることを精一杯します。両親の離婚、親友が自分から離れていったことなど、ジョージのまわりは、ギズモ以外でもいろいろ問題がおきています。けれど大好きなギズモのために動くジョージのすてきなこと! 登場人物みんな深く描かれていて、どの人のことも心に残ります。  岩波書店の新刊『くしゃみおじさん』(オルガ・カブラル作 小宮由訳 山村浩二訳)は絵本と物語の中間くらいの本。本の形状的には物語ですが、ユーモラスな絵が全ページたっぷり入っているので小学校低学年くらいから楽しめます。 物語はくしゃみおじさんが、特大のくしゃみをして出会う動物ばかりか人間の子どもたちにも迷惑なことを起こすというもの。くしゃみおじさんのくしゃみ、どんな力があるのでしょう。  最後はグラフィック・ノベル『THIS ONE SUMMER』(マリコ・タマキ作 ジリアン・タマキ絵 三辺律子訳 岩波書店)です。 夏休みにローズは毎年両親と湖岸の別荘地で過ごします。両親の仲はあることでぎくしゃくしていますが、別荘地で毎年一緒に夏を過ごす、一歳半年下のウィンディと過ごすことで、なんとかいつもの楽しさが戻ってきます。 思春期に入ったローズの繊細な気持ちが、映画をみているかのようなカットで語られていき、ひきこまれました。 最初にご紹介した寺田寅彦氏の本の中で、生物の成長になぞらえて、人間の生涯にも昆虫の変態のような不連続的な生理的変化があるのではと書かれています。まさにローズも少女から大人になる独特な時間の中にいます。 寺田氏は漫画についても「漫画は科学と同じく「真」をえがく、あるいは漫画には科学と同じく「普遍的要素」が見いだせなければならないといっています。グラフィック・ノベルもまた「真」を描き出しているからこそ、注目されてきているのかもしれません。 思春期の説明しにくい、なにもかもがごった煮でめんどくさいような気持ちが視覚化されています。ご一読ください。 書評のメルマガ登録はこちら http://back.shohyoumaga.net/ (林さかな)https://twitter.com/rumblefish

ガラスの犬

『ガラスの犬』他

■「いろんなひとに届けたい こどもの本」 120 楽しみの深掘り  土石流による被害で亡くなられた方に心から哀悼の意を表します。 そして、避難されている方がすこしでも早く心おちつく生活に戻れることを祈ります。  最初にご紹介するのは、心が軽やかになるとってもおもしろい短編集です。「オズの魔法使い」シリーズを書いたフランク・ボームが書いたもので、本国ではオズに次ぐ人気本なのもうなずけます。 あまりのおもしろさに、何度も声に出して笑ってしまったほど。 『ガラスの犬』 フランク・ボーム 作 津森優子訳 坂口友佳子 絵 岩波少年文庫  8つの短編がおさめまれ、そのどれもに、オズのように想像もつかない突拍子もない設定がまぎこれみ、奇想天外な展開のあとはもっともらしい教訓でしめくくられるのですが、この教訓がまた笑いを誘います。  私のお気に入りは表題作。 腕ききの魔術師が隣に住むガラス職人に、とある理由から桃色のガラスの犬を発注します。お金のない魔術師は物々交換として魔法の薬で支払いました。 ガラス職人はその魔法の薬を条件に、町一番のお嬢様に結婚を申込みます。魔法の薬で重い病気をなおしてもらったお嬢様ですが、ガラス職人の見た目が気に入らず、あることを要求し……。  短い話ですが、最後の展開には唖然。 嫌みのない毒気に笑ってしまい、クセになりそうです。 ガラス職人とお嬢様については読んだ人と感想を語り合いたい。 ぜひ。  次は自然科学の恰好の入門写真絵本。 生物専門書、自然科学書を出版している文一総合出版から初の児童書。 出版社の特色が活かされた「森の小さな生きもの紀行シリーズ」です。  『あなたのあしもと コケの森』 鵜沢美穂子 文 荒井文彦 写真 (森の小さな生きもの紀行(3))  最近、湿原や少し標高のあるところを歩いているので、コケをあちらこちらで見かけます。わが家の日陰にもあるくらい、身近なコケ。それだけよくみるものなのでどんなものなのか知りたくなります。  見開きからたくさんの情報が書かれ、コケの体のつくりと名前がイラストでわかりやすく整理されています。  コケと名前のついているものでも、コケではないものがあるということも、わかります。 コケは1)陸上植物、2)胞子で増える、3)維管束をもたないという3つの条件でそうでない生きものと分けられます。  約4億年前に地球に生まれたコケ。 現在では世界に約2万種、日本に約1,900種が知られているそうです。  豊富な写真を眺めていると、コケワールドの奥深さにハマっていきます。  子どもから大人までコケについて知る入門書にはぴったりな本書、巻末には索引もつけられ、レファレンスとして使いやすいつくりになっています。  シリーズはこの他に、きのこ、粘菌と全部で3冊刊行されています。『森の小さな生きもの紀行シリーズ』に登場する生きものは、花をつけずに胞子で増えていくものです。 トレッキングする大人にもおすすめのシリーズです。  月刊たくさんのふしぎ(福音館書店)の7月号もおもしろかったです。  「釣って食べて調べる深海魚」 平坂 寛 文 キッチンミノル 写真 長嶋祐成 絵  海面から200メートルより深い海、それが深海。 太陽の光が届かない深海に生きている魚について調べたのが本書です。  日本は世界で一番「深海に近い国」だということをご存知でしょうか。 深海まで数日かかる国もあるなかで、岸から数十分ほど船を走らせれば深海にたどりつけるのが日本なのです。  読んでいくと知らないことばかり。  ノドグロは美味しい魚で私も好きなのですが、この魚は名前のとおり、ノドの奥が真っ黒だということは初めて知りました。 ノドグロらのエサとなる深海生物にはホタルイカやサクラエビは光をはなつものが多いが、これだと光で自分らの存在を他に知らしめてしまう。大きな魚に食べられないよう、ノドやお腹の内側を黒ぬりにすることで、光をさえぎり自分の身を守っているのだという。なるほど。  深海魚はおどろおどろしい顔をしているものも多いけれど、こうやって生態を知っていくと、特徴的な顔つきの理由もわかりおもしろいです。  月刊誌は書店で1冊から注文することも可能です。 ぜひ手にとってみてください。  最後にご紹介するのも絵本です。  『ビアトリクス・ポターの物語   キノコの研究からピーターラビットの世界へ』西村書店 リンゼイ・H・メトカーフ 文 ジュニ・ウー 絵 長友恵子 訳  今年2021年はビアトリクス・ポター生誕155周年。 ピーター・ラビットの絵本はもちろんのこと、作者であるポターについても絵本や伝記などでその生い立ちは知られるようになってきています。  本書では、キノコにも魅せられというところに光をあてて描かれています。  するどい観察眼をもったポターはキノコに魅せられ、観察し、スライスして顕微鏡でのぞき、描きます。 当時出会った郵便屋のチャールズ・マッキントッシュさんは、ポターのよき理解者であり、学びの相談相手でした。 ポターはキノコを描くだけでなく、胞子がどうやったら発芽するか、昼も夜も研究に打ち込みます。 しかし、時代はポターの研究には追いついておらず、女性が研究した論文は発表しても、真剣にはとりあってはくれませんでした。  後にピーター・ラビットの絵を描いてくポターですが、その前にこれほど打ち込んだものがあったことに心動かされます。  絵本の巻末にはポターがキノコ研究していたことをもう少し詳しくまとめた文章と年譜が掲載されるとともに、参考文献があげられています。  私はこの絵本を読みながら参考にしたのは下記のもので、現役の園芸家が書いたものとしてとてもおもしろかったです。 『ビアトリクス・ポターが愛した庭とその人生    ピーター・ラビットの絵本の風景』 マルタ・マクドウェル 著 宮木陽子 訳 西村書店  そういえば、先月末から『ピーターラビット2/バーナバスの誘惑』の映画が公開されていますね。映画館のない町に住んでいるので、配信サービスをゆっくり待つことにします。 書評のメルマガ登録はこちら http://back.shohyoumaga.net/ (林さかな)https://twitter.com/rumblefish