Month: August 2022

『台湾の少年』 『世界 時空の歴史大図鑑』 『おはなしのたねをまくと』

131 歴史を知る 『台湾の少年』  游 珮芸 ・周 見信 作 倉本 知明 訳 岩波書店  1930年、台湾に生まれた蔡焜霖(さいこんりん)さんの生涯を描いたグラフィック・ノベル。  蔡焜霖さんが生まれた1930年というのは、日本統治時代です。 1895年から1945年までの50年間、台湾では日本による統治がなされていました。  やわらかい黒の線画で描かれる冒頭はのどかで、日本の童謡をうたう焜霖さんも描かれています。日本統治時代、焜霖さんは、家では台湾語、学校では日本語を習います。  焜霖さんはすくすく成長し、図書館の蔵書からは好奇心を刺激され、本好きになっていきます。  1945年の終戦で、日本統治時代も終わります。焜霖さんは学徒兵として徴用されていましたが、終戦後は学生に戻りました。  この時代背景について本書を訳した倉本さんの解説を少し引用します。 「日本統治時代が終わると、国民党とともに大陸から渡ってきた外省人と、元々台湾で暮らしていた本省人との間には様々な軋轢や衝突が生まれます。(中略) 1949年、国共内戦に敗れた中華民国政府が台湾に撤退してくると、蒋介石ら国民党の指導者は、戒厳令を敷いた反体制派を徹底的に取り締まることで自らの政権の地盤を固めていきました。白色テロと呼ばれた公権力による政治弾圧において、多くの無実の人々が逮捕、監禁、拷問された挙句、死刑判決を受けることになります」  焜霖さんは学校を卒業後、就職した役場で仕事をしているときに呼び出され、高校2年生のときに短い間参加した読書会のことで「反乱組織へ参加し、反徒たちのためにビラを撒いた」という罪状で、10年の懲役判決を受けるのです。  もちろん、罪状を素直に認めたわけではありません。けれど、厳しい拷問の取り調べを受け、でっち上げの罪状の自白書にサインをしてしまうのです。  20歳からの10年。  それが2巻で描かれます。 2巻では背景全体に黒のトーンがかかり、重苦しい時間を感じます。  焜霖さんは、一千名あまりの政治犯と共に、緑島の収容所に送られ、過酷な労働を課せられます。思想教育も受けます。  焜霖さんは課せられた仕事を必死でこなし、自分を保つ努力を怠りません。  島にきて8年目、家族にあてた手紙の一節には胸を打たれます。  「山に登って鎌を振るうぼくは青空に向かって、広野に向かって、崖下に広がる青い海に向かって大声で歌っている。原始的なリズムと労働は分かちがたいもので、ぼくは仕事の間、最も誠実で感動的な境地にふけっているんだ」  2巻の最後に広がる暗闇には言葉がみつかりませんが、早く3巻に登場する焜霖さんに会いたいです。   次にご紹介するのは歴史を知る図鑑です。  『世界 時空の歴史大図鑑』        マイオレッリ 文 マネア 絵 カプラーラ 解説                青柳正規 監修 山崎瑞花 訳 西村書店   子どもはもちろん、大人になってから歴史を知りたいと思うときに読むのにぴったりの一冊。  「はじめに」にこう書かれています。 「ある偉大な学者の言葉によれば、歴史とは、川の水のように流れる時間と空間、つまり時空のなかで生きる人間について考える科学です」  本書では川の流れに導かれながら、時空を俯瞰していきます。  宇宙の誕生から恐竜の時代、先史時代、古代から現代までの文明、2つの大きな戦争についてなどの他にテーマ別の歴史では、発明、絵画と彫刻、輸送、建築、スポーツ、文学、音楽がとりあげられています。  全ページに発色の美しいイラストがほどこされ、その時々のことがらをイメージしやすく、自分の気になるところから読み始めると、そこから興味が広がりそうです。  先に紹介した『台湾の少年』を読んだあとは、戦争のページを熟読しました。 「これまで」の歴史を学びながら、「いま」「これから」を考える良書です。   最後に絵本をご紹介します。  『おはなしのたねをまくと』 クラウディオ・ゴッベッティ 文 ディヤナ・ニコロヴァ 絵  いのうえ さあや 訳 山烋のえほん 発行・発売:工学図書  第28階いたばし国際絵本翻訳大賞(イタリア語部門)最優秀翻訳大賞受賞作  おはなし好きにはたまらない気持ちになる絵本です。  この世界にはないどこか。 知っているはずなのに、知らない名前の場所に住んでいるおじいさん。 おはなしを書き上げた紙を、おじいさんはたねをまくように、ある場所にうめました。そして水やりをして世話をします。  時間がたち、その紙は成長し、いっぽんの木になります。 葉っぱならぬ木にはえた紙にはおはなしがぎっしり書かれています。 さて、この紙はどんな旅をしていくでしょう。  物語は時間をかけて手元にやってくる、そのひとつの形をみるようで、読みながらずっと気持ちはワクワクしていました。  ひとりで読んでも、誰かに読んでもうれしくなる絵本、贈り物にもいいです。