『13枚のピンぼけ写真』他

128 心をいつくしむ

 今年の冬は例年にくらべて雪がとても多かったのですが、あたたかくなってくると、いつのまにか雪もとけていました。
 あんなに雪があったのにね、と会う人ごとに雪解けと桜の季節到来の話題をしているこの頃です。

 あたたかい春はうれしい季節ですが、まだまだコロナ禍で、戦争のつらい状況が日々のニュースで報じられ気持ちがなかなか晴れません。

 手にした本も戦争の本ですが、いま読んだからこその気持ちの動きがありました。

 『13枚のピンぼけ写真』
    キアラ・カルミナーティ作 関口英子訳 古山拓絵 岩波書店 

 第一次世界大戦時の北イタリアが舞台の物語。
 戦争のはじまりは、まだ現実がどんなものになっていくのかわからない子どもたちにとって、心浮かれるひとつの話題――オーストラリアからイタリアに戻れるかもしれない――というものでした。

 訳者あとがきによると、「この時代イタリアの貧しい村々からは、大ぜいの人たちがおもにドイツやオーストラリアへ出稼ぎ行っていた」ので、子どもたちはイタリアに戻りたい気持ちを抱えていたのです。

 主人公の13歳の少女イオランダは、はじめは喜んでいたイタリア行きも、父や兄は戦場へ、母とも離ればなれになってしまい、妹のマファルダと2人で、「アデーレおばさん」を頼ることになり、いままで既に亡くなっていたと思っていた祖母の存在を知り、探しにいくことになっていきます。

 戦時の空襲時の描写もあり、日々新聞で報じられるウクライナとロシアの攻防が重なり、いままで読んでいた戦争の物語より、ずっとリアルに感じました。
 とはいえ、作者の巧みな比喩は、戦闘場面をつよく打ち出さず、戦争の恐ろしさを訴え、読んでいるものに平和の尊さを教えてくれるのです。

 さて、次にご紹介する本は、久しぶりに読んだアンデルセン。
 絵本作家、松村真依子さんの絵がついた函入り本。
 本が函に入っているだけで嬉しくなるのは私だけでしょうか。
 
 月のまなざしで語られる作品にぴったりの夜色の函。
 とりだすと、月が語った様々な物語のモチーフが彩りよく縁取られた表紙が出てきます。

 『絵のない絵本』
  ハンス・クリスチャン・アンデルセン作 大畑末吉 訳 松村真依子絵
  岩波書店
 
 アンデルセンの物語を読んだことのある人は多いでしょう。
 絵本にもなっていますし、複数の翻訳で出ているので読み比べも楽しいです。
 本書は、長年親しまれてきた大畑末吉さんの訳です。

 まずしい画家の若者が、友だちもいない町に住み、ひとり窓から夜空を眺めていると、月と友だちになり、若者に話しを聞かせてくれることになりました。

 文章と絵がとけあっていて、声に出して読むと心地よい。

 第2夜で語られる、小さな女の子がめんどり小屋でひなたちを追いかけまわす理由が語られるところは、心の深いところに届きました。

 短い話のなかに、少女の心持ち、それをきちんと受け止めたお父さんの姿に深い余韻が残ります。

 本書がはじめて刊行されたのは1839年のクリスマス。アンデルセンが34歳の時です。その時は第二十夜まで発表され、後に書かれた短編がまとめられ、第三十三夜まで読める形になりました。

 アンデルセンの書く物語が長く読まれているのは、不思議な世界を舞台にしていても、描かれているものが普遍的な人の心の美しさ、悲しさ、さみしさなどを深く描いているからではないでしょうか。

 自身の生涯も貧しい暮らしのなか、父親が集めたたくさんの古典の本を愛読し、学校へは行かず、その時々に読んでいた物語や劇をドラマに仕立て、人形芝居の舞台や人形の衣装も自分の手でつくっていたそうです。シェイクスピアの劇に魅せられ、自分も劇作家になりたいと夢見ていた。その後、デンマークの首都コペンハーゲンへ行き、奨励金で学校に通います。教育を受けた後に、フェアリーテイルズを書き、だんだんと作品が認められ名声を得ていきました。

 アンデルセンの物語は絵本になっているものも多いですが、絵で表現できるものを多彩に含んでいるのでしょう。
 本書の松村さんの絵も、静かでやわらかく美しい雰囲気が物語にぴったりです。

 それでは最後にご紹介するのは絵本です。

 『わたしのかぞく みんなのかぞく』
 サラ ・オリアリーさく チィン・レンえ おおつかのりこ訳 あかね書房

 多様性という言葉をここ数年よく目にしたり耳にしたりします。
 このメルマガでも、多様性を軸にした本を紹介してきました。

 本書もいろんな家族を紹介している一冊。
 みんなの家族を、のびやかな線画にあたたかみのある水彩画で描いています。

 学校の先生が生徒に呼びかけます。
 「じぶんの かぞくの とっておきの はなしを みんなに きかせてね」と。

 そう聞かれて、子どもたちそれぞれが、自分の家族を思いうかべます。

 いつまでもラブラブな両親を、
 たくさんの養子きょうだいのいる家族を、
 父親の家、母親の家を1週間毎に暮らすことを、

 どの子も、自分の家族をまるごと大好きで大事にしていることが伝わってきまます。自分の家族を紹介しあうことで、別の家族を知り、それぞれの形があることもわかります。

 シンプルなテキストに、豊かな絵で「いろんな」を表現し、「とっておきの家族」がそこかしこにいるのがとてもステキ。

 この絵本を読みながら、自分の家族のとっておきを考えてみませんか。

(林さかな)
https://twitter.com/rumblefish