とうごうなりささんの『じょやのかね』

ちいさなかがくのとも10月号で注目した、とうごうなりささん。
ブログにも書きましたが、それ以来、とうごうさんのHPを追っかけています。

新刊絵本が福音館書店から出ると知り、楽しみにしていました。

『じょやのかね』
お正月絵本です。

ストーリーはお父さんと息子が2人で新しい年を迎えじょやの鐘をならしに行くのです。
真夜中の話なので、お正月絵本としてはちょっと変わっていて黒一色の世界が描かれます。
華やかな色合いのものが多いなか、おもしろいです。

絵本を読みながら、お正月の12時を過ぎるひとときを思い出しました。
真夜中、時計がすすんだだけで、新しい年。

絵本の中の男の子は「あたらしいとしはどこにきたんだろう」と思います。

ほんと、あたらしいとしはどこにくるんでしょう。

とうごうさんのブログによると

「夜の光景と、日本のお正月の厳かな雰囲気を表したくて、黒一色で摺った版画にした。版に使ったのは床材のビニールタイルだ。」

確かに厳かな雰囲気がでています。
黒の世界に新しい年の空気が満ちています。
本のカバーも広げると一枚の絵になっていて、見ごたえあり。

お正月にまた読み返そうと思っています。

『灰色の地平線のかなたに』『凍てつく海のむこうに』//書評のメルマガ

11/10日号で配信された「書評のメルマガ」では岩波書店の2冊について書きました。
http://back.shohyoumaga.net/?eid=979068

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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77 知らないことを知る

 10月に入ってからの台風、被害にあわれた地域の方々にお見舞い申し上げます。

 毎年、いままでにない気象が起こり、各地で日常が突然奪われてしまう。
 さまざまな状況の中でできるだけ冷静に対処し、明るく過ごす事の大事さを思います。

 こういう時はじっくり本を読む。
 読んでいろいろ考える。

 今月はじっくり時間をかけて読む、長編作品をご紹介します。

 『灰色の地平線のかなたに』 
 『凍てつく海のむこうに』
 ルータ・セペティス作 野沢佳織 訳 岩波書店

 今年2017年カーネギー賞を受賞したのは『凍てつく海のむこうに』

 イギリスの図書館協会が年に1度、児童・ヤングアダルト向けのすぐれた作品に贈る賞です。

 ルータ・セペティスの作品は2012年に『灰色の地平線のかなたに』が翻訳れています。
 2冊続けて読んでみました。

 『灰色の地平線のかなたに』

 第二次世界大戦中のリトアニアで、15歳のリナはソ連の秘密警察につかまりシベリアの強制労働収容所に送られてしまいます。父親は別の場所に連れていかれ、母親とリナ、弟のヨーナスの3人は、集団農場(コルホーズ)で働かされることになりました。つらい長旅のあと、厳しい農作業の労働を強いられる中、リナはいつか父親と再会し、画家を再び目指せることを未来に描き、現実を耐え抜きます。

 文字を読みながら映像をみているかのような描写に、息をつめて読んでいる自分がいました。

 過酷な環境の中、自分を守ることで精一杯になりがちな場においてリナの母親が常に他者に対しての思いやりをもっている姿も心を揺さぶられました。
 
 作者、ルータ・セペティスは歴史上であまり語られていなかったできごとを物語にして差し出します。

 ナチスのユダヤ人虐殺は多く語られてきている一方、同時期にスターリンが率いるソ連がバルト諸国のみならず自国の市民も逮捕し、シベリアに追放してきたことはそれほど知られておらず、これに光をあてて書いたのが本作です。

 生き延びたいという強い気持ちをもつリナの生き方に圧倒され、ここまで追い詰める戦争の罪深さを忘れてはならないと強く思いました。

 続けて
 『凍てつく海のむこうに』を読みました。

 リナの従兄弟ヨアーナが主人公です。

 『灰色の~』でもヨアーナについて語られることはあっても、本人は登場していません。ヨアーナもまた、リナと同じように強い少女でした。

 第二次世界大戦末期、ソ連軍の侵攻がはじまるなか、ナチス・ドイツ政府は孤立した東プロイセンから、バルト海を経由して住民を避難させる「ハンニバル作戦」をとります。

 その史実を背景に、作者は海運史上最大の惨事とよばれる〈ヴィルヘルム・グストロフ〉号のことをヨアーナ含む4人の若者たちの視点でフィクションを紡ぎました。

 大人がしている戦争に巻き込まれるこどもたちが、どんな思いを抱いていたのか、物語を読むことで、私たちは想像し、そうでない未来をつくっていかなくてはと意識するようになるのでは。

 知らなくてはいけないことを知ること。
 意識していないと、知っている世界はごく狭いものになってしまう。
 知ろうと意識すること、
 物語の世界は、それをみせてくれます。

 2冊あわせて6センチ近い厚みをもつ物語は、読むのにちょっとひるんでしまうかもしれませんが、読み始めるとあっというまに歴史の世界へ誘います。

 ぜひ読んでください。

ゆきのひのおくりもの

すずき出版より『ゆきのひのおくりもの』が復刊されました! うれしいな♪

このレトロ感あふるる感じの表紙は、一定数の気持ちを即座にわしづかみにしているはず。
手元に届いたものは1週間で増刷がかかった2刷りめです。

日本に紹介された最初は2003年。いまから14年前ですね。
パロル舎は、残念ながらいまはない出版社ですが、この絵本シリーズを立ち上げるなど絵本出版に意欲的でした。

原書は「ペール・カストール」シリーズの1冊で、1931年にポール・フォーシェにより創刊されたもの。
まだ子どもの本がほとんど存在しなかった時代に、教育のため、文章、絵とものに最高に質のいい本を安い値段で子どもたちに提供として立ち上がったシリーズです。(訳者ふしみみさをさんによる説明より)

このあたり、福音館の「こどものとも」シリーズに通じるものを感じます。
「こどものとも」もロングセラーが多いですが、
このシリーズもまたフランスのみならず世界中で何世代にもわたって読み継がれているロングセラーです。

パロル舎版も新版のすずき出版、どちらもすてきです。

好奇心より比べてみますと、違いは版型の大きさ、すずき出版の方がちょっぴり縦長。
紙質はすずき出版さんの方は光沢があり、パロル舎さんの方はマットな感じです。

訳者はどちらも同じふしみみさをさん。
訳文はすずき出版ではよりブラッシュアップされています。

さて物語は
雪がしんしんふっているなか、こうさぎはおなかがすいて、食べ物を探しに雪の中を歩きます。
そこで見つけたのがにんじん2本。
1本を友人のこうまくんにもっていきます。
こうまくんもまた外で別の食べ物をみつけ家に帰ってきたときにんじんをみて、今度は……。

やさしい気持ちがリレーのようにつながっていくお話。
ゲルダ・ミューラーの動物を描くタッチは写実的でも、デフォルメも擬人化もなく、それでいて、どの動物の目も気持ちを雄弁に語っていて親しみを感じます。

これからの冬の季節、あったかい部屋で読むのにぴったりの絵本です。

『サンドイッチをたべたの、だあれ?』『発明家になった女の子マッティ』『クリスマスを救った女の子』//書評のメルマガ

遅くなりましたが10月に配信された「書評のメルマガ」ではやまねこ翻訳クラブ会員訳書3冊について書きました。
http://back.shohyoumaga.net/?eid=979068

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■「いろんなひとに届けたい こどもの本」/林さかな
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76 WEB上のクラブ やまねこ翻訳クラブ20周年

weB上で活動している、やまねこ翻訳クラブをご存知でしょうか。

http://www.yamaneko.org/

1997年に発足し、翻訳児童書を軸にWEB上で翻訳勉強会をしたり読書会をしたり、メールマガジンを発行したりするなどの活動をしているクラブです。

私は産休時に、このクラブの存在を知り入会。
ニフティのフォーラム時代から参加しています。
地方にいても子どもが小さくても、自分の好きな時間にアクセスして大好きな本の話ができる場は夢のような場所でどっぷりはまりました(笑)。

今年2017年、やまねこ翻訳クラブは20周年を迎えました。
私自身、メールマガジン「月刊児童文学翻訳」の編集長も2年ほど務め、出版社、翻訳者の方々のインタビュー、企画をたてて記事を書くことなど、ただ翻訳児童書好きの(翻訳者志望ではない)私にも勉強になることばかりでした。

いまは時間がなかなかとれず、会員らしいことができていないのですが、20周年記念に今回はやまねこ翻訳クラブ会員の訳書をご紹介します。

一冊めは、
翻訳者も出版社もやまねこ翻訳クラブ会員によるものです。
絵本の帯には、やまねこ20周年のロゴと共に、会員による推薦文も掲載されいます。

『サンドイッチをたべたの、だあれ?』
ジュリア・サーコーン=ローチ 作 横山 和江 訳 エディション・エフ

森にすむクマが、いいにおいに誘われて、人間が収穫した木イチゴが積まれているトラックに乗ってしまいます。たらふく食べてぐっすり眠って起きた場所は森ではなく、人間の住む街でした。

クマにとっては初めてみるものばかりの街の中、歩き回って公園にたどりつき、ベンチにあったサンドイッチを発見。さてさて、サンドイッチをクマは食べたのでしょうか!?

描かれるタッチはおてんとさまの陽射しを感じるようなあたたかさがあります。

クマは結局どうするのかなと思って読んでいくと、へえ!と思うラストに、まさにタイトルどおりと納得です。このひねり具合は、にやりとしますよ。

さあ、はたして食べたのは誰でしょう!?

絵も文章もアメリカ、ニューヨーク在住のジュリア・サーコーン=ローチが描いています。学生時代はアニメーションを学び、その後絵本作家としてデビュー。本書は4作目にあたり、2016年絵本作家に贈られるエズラ・ジャック・キーツ賞の次点に選ばれています。

訳者の横山和江さんは山形在住。読み物も絵本の訳書も出されていますが、目利きの横山さんが刊行されるものはどれも読ませます。やまねこ翻訳クラブ会員歴も長く、翻訳のほか、読み聞かせの活動もされています。

刊行したエディション・エフは京都にあるひとり出版社。「手と心の記憶に残る本づくり」をされていて、HPの会社概要は一読の価値あり。

http://editionf.jp/about/

二冊めは、

『発明家になった女の子マッティ』
エミリー・アーノルド・マッカリー 作 宮坂 宏美 訳 光村教育図書

ノンフィクション絵本です。
19世紀末のアメリカで活躍した女性発明家、マーガレット・E・ナイトを描いたものです。

マッティ(マーガレットの愛称)は、子どもの頃からの発明好きでした。
2人のお兄さんのために、おもちゃや凧、そりをつくり、お母さんのためには、足をあたためる道具をつくりました。

家は貧しく、マッティは小学校の教育しか受けていませんが、発明に必要な力量を備えていたので、働きながら最終的にはプロの発明家として、22の特許を取得し、90を超える独創的な発明を行ったそうです。

作者は、聡明な彼女を繊細な線画で表現し、彼女の発明したものの図面も描いています。

女性であることの偏見をはねのけ、発明家として自立していく姿は、子どもたちに、未来を切り開いていく具体的な力を見せてくれます。

訳者の宮坂さんは、やまねこ翻訳クラブ創立メンバーのひとりです。マッティのように、とことん調べ物をし、やらなければならない事を的確に迅速にこなし、見事、翻訳家になりました。

三冊めは、

『クリスマスを救った女の子』
マット・ヘイグ 文 クリス・モルド 絵 杉本 詠美訳 西村書店

昨年のクリスマスにご紹介した『クリスマスとよばれた男の子』シリーズ第2弾です。

杉本さんの訳文はとてもふくよかです。言葉がやわらかく、読みやすく、杉本さんが訳したものは物語の中にすっと入り込めます。なので、こういう魔法の話はぴったりかもしれません。

さて、物語です。
サンタクロース(ファーザー・クリスマス)が誕生して、人間界の子どもたちにプレゼントを配ってから1年がたち、またクリスマスの季節がやってきました。

一番最初にサンタを信じた少女アメリアは絶対に叶えてほしいクリスマスの願い事をしてサンタクロースを待っていました。しかし、その年、サンタは誰のところにも来なかったのです。
サンタに大変なことが起きてしまったために……。

クリス・モルドの挿絵は甘くなく、厳しい現実やつらい出来事も、いじわるな人もリアルに描き、トロルやエルフまでもが絵空事ではない雰囲気を出しています。

マット・ヘイグのクリスマス物語は、決して型にはまったものではなく、願うこと、望むこと、その気持ちが魔法を生む力になるというメッセージがまっすぐ伝わってきます。

つらいことばかりが続くと、未来に対して前向きになるのがしんどくなりますが、アメリアやサンタクロースの逆境をはねのけていく姿から、願うことは魔法の力につながると思えてくるのです。

「幸福。それに笑い。遊び。この三つは、人生をつくるのになくてはならないものだ」とサンタクロースはいいます。

12月には少し早いですが、
この三つを忘れずに、今年のクリスマスにはすてきな贈り物がみなさんに届きますように!